欠損奴隷を治したら、俺を崇める宗狂団体が設立されてた   作:破滅

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03話 王家の宝物庫

 王座の後ろにある石像を動かすと、本当に階段が隠されていた。

 

 階段を下り、少し開けた場所に入るとランプのような照明器具に勝手に火が灯り、6畳間くらいの微妙な広さの空間が薄明りに照らされる。

 そこには、積み上げられた黄金のインゴットや宝石などの装飾品、金貨がパンパンに詰められた金貨袋や、特殊な効果がありそうな剣などが並べられている。

 

 正しく、宝物庫と言った風景だった。

 

「……本当にあったんだ」

 

 いや、別に疑っていたわけじゃないですけどね?

 

 地味に、さっきアストレア様は俺の心の声にも反応してたから、心の中で一応媚びておく。……天界に帰った今、流石に聞こえてないとは思いたいけど。

 

 俺は金貨袋を手に取って、中から金貨を掬い上げた。

 100円玉くらいのサイズ感なのに、見た目よりもずっと重い。

 

 お金はいくらあっても困らないから、ありったけ回収したいけど、重量的にそういうわけにもいかなそうだ。

 

 壁に並べられている剣を見比べ、一番格好良かったロングソードに触れてみる。

 

「いや、重っ!」

 

 刃渡り80cmの剣は、持った感じ10kgはある。

 帯剣して歩くだけでも大変そうだし、こんな重いもの振り回せる気がしない。

 回収するにしても、武器は短めの物が良いな。

 

 適当に物色していると、赤色の宝石がついた刃渡り30cmくらいの手頃なショートソードを見つける。絶対魔法の効果とか付いてる奴だ。これにしよう。

 

 ついでに良い感じのソードホルダーも見つける。

 

 俺は早速腰につけて、ショートソードを装着する。

 うん。格好良い感じになってるんじゃないか? 鏡がないから見れないけど。

 

 他にも槍とか斧とか強そうな武器がいくつかあるけど、持てる自信がないのでスルー。鎧や盾もあるけど、同じ理由でスルーだ。

 今持ってるショートソードだけで2~3kgはありそうで、もう一本持ちたいとも思えないので武器ではなく、宝石類や金貨と言った持ち運びやすそうなものを見ていくことにする。

 

 綺麗な宝石がはめ込まれたネックレスとか、イヤリング、腕輪などはただ綺麗で高価なだけでなく魔法が掛かってそうだから迂闊に装着するのを躊躇ってしまう。

 それに、これからこの城を出て街を歩いたりするとき、装飾品をジャラジャラと着けていたら怖い人たちに絡まれてしまう確率が上がるだろう。

 

 だから、良い感じの袋に入れて運びたい。

 

「良い感じの袋~……あ、良いの見っけ!」

 

 財布くらいのサイズの、皮のポーチを見つける。

 外から持ってみた感じは、何も入っていない。そう思ってポーチを持ち上げると、口のところからジャラジャラジャラジャラとジャックポットみたいに金貨が溢れ出した。

 

「うわっ!」

 

 何これ。びっくりして中身を見てみるけど、真っ暗で何も見えない。

 試しに手を突っ込んでみると、見た目からは想像できないほどに広く空間が広がっていた。

 

 ……これ、マジックポーチってやつじゃん!

 

 異世界ものだと必ず出てくる、四次元ポケットみたいなアイテム!

 これがあったら、重くて持っていけないと思っていたこの宝物庫の宝物全部持って行けるじゃん!!

 

 俺はさっき持ち運べないと断念した、一番格好いいロングソードをマジックポーチの中に入れてみる。

 

 ズシンッ、と、マジックポーチが一気に重くなった。30kgくらいある。

 

「重っ!」

 

 ……いや、こういうのって普通、中に入れたものの重さを無効化したりするもんじゃないの?

 

 と、内心文句を言っても重いものは重い。

 俺は再びロングソードを断念する。こんなの持ち運べない。

 

 この世界に来て、帰る家の宛てすらない俺は、この城を出た後それなりに歩き回らなければならないだろう。

 お金はいくらでも欲しいけど、大荷物過ぎてあるけなければ本末転倒だ。

 

 5kg以内には収めたいところだ。

 

 とりあえず魔法的な効果が期待できそうで、換金性の高そうな装飾品類を片っ端から回収して入れていく。

 それから、意味深に積み立てられている分厚い本も回収する。

 

 これは多分、魔導書的な奴だ。読めば自動で魔法を使えるようになるとか、そんな代物に違いない。

 折角異世界に来たのだから、できれば魔法というものは使ってみたい。

 一冊がかなり重かったので、上から2冊だけ回収する。

 

 ここまでで4kgくらいになっただろうか? 重い。

 

 積み上げられた金のインゴットは一つ一つが5kg以上ありそうだから却下だし、宝石や装飾品類は一通り回収した。

 ……なんか、呪いとか掛かってそうな不気味な奴はスルー。

 

 あとは、現金も幾分か欲しいから金貨も回収する。

 

 50枚ほど回収したところで、かなり重く感じてきたので切り上げる。

 50枚の金貨は両手で掬えるくらいの体積なのに、2kg弱ありそうに感じた。

 

 予定よりも少し重量をオーバーしたけど、まあ許容範囲だ。ソードホルダーにはポーチを下げられそうな場所があったので括りつけておく。

 

 ショートソードと合わせて10kgくらい。

 結構重いけど、我慢できないことはない。階段を一段上がる度に、大腿筋がピクピク震える。運動不足の社会人にはややハードな筋トレだった。

 

 隠し階段を上ってさっきの部屋に戻ると、退かした石像と隠し階段を取り囲むように騎士たちが立っていた。

 

 お、襲ってくるつもりか……?

 

 少し身構えるけど、騎士たちは武器を抜いてない。それどころか、俺が一歩進むと一歩下がる。

 更に進むと、ガシャンガシャンと音を立てながら騎士達が道を開け始めた。

 重そうな全身鎧を着た強そうな大男たちが怯えたように避けるのは、面白かった。

 

「ハハハッ」

 

 ……これが、アストレア様の加護。神の使徒になる、ということか。

 

 言いようのない快感がせり上がってくる。

 

 自分の中の箍みたいなものが壊れそうなのを感じた。

 

「(……俺、今、力に酔っちゃってるな)」

 

 心の中で言葉にして、それがストンと腑に落ちた。

 

 そうか俺、今、力に酔ってたんだ。

 

 まざまざと見せつけられたアストレア様の人知を超えた圧倒的な力。

 

 この国では凄まじい権力を持っていたのであろう禿げジジイの首を容赦なく切り落とし、王族であろう縦ロール姫の尊厳を踏みにじるように残酷に殺した。

 

 アストレア様は超越的な存在だった。

 

 そんなアストレア様が、俺を使徒と認め、その行動をアストレアの名の下に保証すると言ってくれた。

 

 そして今、騎士たちはアストレア様の使徒である俺に怯え、道を開けている。

 

 心強いと思う。気持ち良くないわけもない。自分が途轍もなく偉くなったような気さえしてくる。

 

 だけど、俺が偉くなったわけではない。俺が強くなったわけではない。

 

 俺はまだ、この世界で何かを成したわけではない。

 

 強大な力に溺れた者の末路は、どの物語でも決まっていた。

 

 アストレア様は、俺の行動の全てを女神アストレアの名の下に許すと言ってくれたけど、あまりにも横暴な行動はきっとアストレア様の印象を悪くする。

 ある日突然、許されなくなって、俺が縦ロール姫みたいに惨たらしく殺されてしまうとか笑い話にもならない。

 

 俺は品行方正で真面目な人間というわけでもないから、完全に自制するとか、一切調子に乗らないとかは絶対に出来ないだろうけど、人として最低限の一線だけは踏み越えないように生きていこうと、心に誓う。

 

「あの、金庫にはまだ武器とか1000枚以上の金貨とかありますので、良かったら貴方たちで分け合ってください。主君が亡くなって先立つものも必要でしょう?」

 

 騎士たちにぺこりと頭を下げると、騎士たちは、鎧を脱ぎ捨て、競うように宝物庫に押し入って行った。

 

 俺は、地面に転がっていた、スキルとかステータスを見るときに使った水晶を回収してから、この部屋を後にした。

 

 

                  ◇

 

 

 外に出ると、さっきまでいた建物が小城であったと解る。

 

 宮殿とか王城と言うにはややショボいように思えるが、屋敷にしては立派過ぎる。あの縦ロールは姫と呼ばれていたから王族とか貴族とかそんな感じの身分で、ここは王都のような首都ではないのかもしれない。

 

 なんてことを考えながら、適当にぷらぷらと街を歩いていた。

 

 目的はある。

 

 とりあえず、泊まれる宿を探したい。

 この世界とか、この国の情報も知りたい。

 今日中にってわけじゃないけど、この世界で生活していく方法も考えたい。

 

 ただ、そのためにどこに行けばいいのか、シンプルに地理が解らない。

 

 待ち行く人に道を尋ねたいが、勇気が湧かない。

 

 通りを歩いているのは、高そうな黒いスーツに身を包んだ赤髪の男性、綺麗なドレスに身を包んだ金髪の女性、数人の従者を引き連れて歩いている白髪の老人。

 城が近くにあるだけあって一等地なのか、身分の高そうな人間が歩いている。

 

 街行く人たちは、黒髪黒目の日本人顔が珍しいのか、それともポリエステル繊維のスーツが珍しいのか、注目を集めているような気がして落ち着かない。

 

 話しかけづらい。

 

 俺は、結局声を掛けられないまま歩き続ける。通りを歩きながら周りを見ていて、少しだけ気づいたことがある。

 

 この通りを歩いているのは、人間しかいない。

 

 猫耳の美少女とか、エルフ耳の美少女とかはいないのだろうか?

 異世界なんだし、人間以外の種族とかいて欲しいんだけど。人間とは文化が違うから住む場所を分けていて、ここにはいないとかなのだろうか?

 

 それとも、人間以外の種族はいない世界なのだろうか?

 

 ……俺が注目を浴びているのは、お上りさんみたいにキョロキョロとしていて挙動不審だから説あるな。

 

 とはいえ、未知の世界の情報を手に入れようと勝手に首が動いてしまう。

 

「うわっ……! ……あっ、いや……」

 

 そんな折に、俺は、猫耳の女の子を発見する。

 

 赤い髪と毛並みを持つその少女は、金属製の重そうな首輪だけ嵌められ、後ろの商店の柱に鎖でつながれていた。

 

 興味を持った俺は小走りで近くに行く。

 

 遠めだと露出の多いボロい服を着せられているのかと思っていたけど、近くで見て解る。この猫耳の女の子、全裸だ。服を着ていない。

 

 異世界に来て初めての亜人。猫耳の女の子は、胸と股をギリギリ隠せるくらいの大きさの板切れを持って全裸で立たされている。

 

 そして、猫耳の女の子が恥ずかしそうに持っている板切れにはこう書いてあった。

 

『ファリウス奴隷商店―若い女の高位亜人種奴隷を多く取り揃えております―』

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