ドラゴンボールAT 作:澄ましたガール大好きおじさん
おなじみの形態に遂にたどり着いたので初投稿です。
その異変にもっとも早く気がついたのは小籠包だった。
とてつもなく大きな気配。
それでいて静かで穏やかな…それでいて圧力を感じる静かなスピリット。
彼がこんな風に力を解放するのは珍しい、一年の修行で何か心境の変化でもあったのだろうか。
これからじっくり聞いてやると踏み出したその足は僅かな違和感を覚えてピタリと停止した。
よく感じてみる…その気配は普段の悟空のものではない。
スピリットにわずかながらの緊張を感じる。
これは…スーパーサイヤ人のものだ。
「…そう、来たか…孫悟空…!」
彼女の動きに対して他の面々も悟空たちが部屋から出てきたことを察する。
そして驚愕した。
無理もない。
精神と時の部屋に入ってから…まだ21時間…中では一年と経たずに部屋から出てきたのだ。
「か、カカロットの奴…何を考えてやがる…!」
その思考が読めないのはベジータだけではない。
天津飯にラディッツ…しかし神を取り込んだことで気の扱い、探知に一歩先を行ったピッコロはその意図を察した。
ーーーご、悟空のやつ…もう必要ないと言うわけか…!
かつ、かつ…と大理石が石を叩く音が少しずつ大きくなっていく。
中から現れるのが味方だとわかっているのにその形容し難い重圧に誰もが身構える。
「…おっす、…どうしたんだお前ェらそんな怖ェ顔して。」
実に脳天的な挨拶。
普段通りの孫悟空…しかしその頭髪は柔らかく逆立ち美しい金色の光を放っている。
その様子に誰もが息を呑んだ。
ーーー私の気功法を参考にでもしたのか…!…ううん、彼なら一人でもこの境地にたどり着いたでしょうね。
ごく自然体な様子からスピリットを全く解放していないのだろう。
だと言うのに…その気配はフリーザなど片手で捻り上げられるくらいの強さを身につけている。
明らかにこれまでとは強さの次元が異なるのがわかる。
…そんなことは問題じゃない。
問題は隣にキョトンと可愛らしく佇んでいる彼の息子だ。
この一年で大きく背を伸ばしたらしい。
そしてでかくなったのは体格だけではない。
ーーー今の私じゃ、逆立ちしたって勝てそうにないな。
静かでそれでいて充実したスピリット。
その総量は…父である孫悟空を大きく超えていた。
加えて、その奥に隠されたスピリット以上の何かすら感じ取れる。
それは大きなスピリットの奥深くに封じ込められている孫悟飯の潜在能力と言ってもいいだろう。
もう彼は、小籠包の庇護は必要ない。
それどころか彼が小籠包を庇護するが正しいだろう。
それほどまでに力の差は開いてしまった。
さて、そんなスーパー親子は呑気にポポの作ったご馳走をバリバリむしゃむしゃごくごくと一生止まることはないのではという勢いで飯をかっくらっている。
全員がその様子に驚き半分呆れ半分で眺めている中、ピッコロが静かに近づいた。
「小籠包、奴らをどうみる。」
「知りながら聞くの?まだセルの方が強い。今はね。」
「どういう意味だ。」
「師匠なんでしょ、心当たり、あるんじゃない?」
「……。」
仇敵からの意地の悪い問答。
それは悟飯がここ一番で見せる爆発力…。
幸いにもその切り札が発露することはごくわずかだったが…それでも彼の稽古をつけている最中、その兆候はあった。
「孫め…何を考えてやがる…!悟飯はまだ子供だぞ…!」
「それでも私達中では最強の戦士だよ。」
「ちッ…貴様に言われずともわかっている!」
血が滲むほど握られる拳。
その怒りは悟空でもましてや小籠包にでもなく…自分自身に向けられていた。
その姿は少し前の自分を彷彿とさせた。
ーーーなるほど、確かに情けないな、これ。
本来ならなんの言葉もかける必要もないのだが、不本意ながら宥められた借りがある。
「順番、変わってあげようか?」
「なんだと?」
「そんな腑抜けた状態で臨んでも無意味よ。誰かさんの心配してる場合?…セルが勝ったらこの地球は終わりなの。貴方の中の神はそんなことの為に同化したわけじゃないと思うけど?」
「……。」
ぎゅぅ…!と筋肉の軋む音が緩んでいく。
馴染んだ紫色の体液はあっという間に止血され、滴る間隔を遅くしていく。
焦燥感に満ちたその表情はすぐさまいつもの憎たらしいしたり顔へと変わっていった。
「お断りだ。天津飯…奴と白黒つけなければいかんのでな。」
「足元を掬われないようにね。…10年前の天下一武道会みたいに。」
「抜かせ、奴を叩きのめして…セルの奴をぶっ殺したら次は貴様だ。」
「天国に堕ちるのは貴方のほうよ、ちゃあんと遺言を残しておくことね。」
すっかり元の調子に戻った元魔族を見送ってため息をひとつ。
全く世話の焼ける仇敵だ。そんな呟きすらも億劫である。
さて、と…彼女はゆっくりと1年ぶりのまともなご馳走を平らげて満足そうに膨れたお腹をぽんぽんと叩く親子へと近づいた。
「すっかり追い抜かれちゃったね。」
「まあな」
自信に満ちた笑顔、あまりにも清々しくて今すぐにでも張り倒したくなる微笑みである。
余りにも能天気なその顔に少しばかり苛立った彼女は酷薄な笑みで彼を見下ろした。
「それで?
「いいや、とてもじゃねえが…セルには勝てそうもねえ。」
その言葉に神殿の空気は凍りついた。
痛々しい沈黙が二人の間に流れる。
大きく異形の瞳を見開きながら小籠包は声のトーンを一段下がるのを抑えられなかった。
「…ふざけてるの?」
「ふざけてなんかねぇさ、お前ェのいう通り、オラじゃセルには勝てねえ。」
「そう、貴方は終わりね、孫悟空。」
「今はオラじゃ勝てねェけど、いつか必ず超えて見せるさ。」
「…見損なったわ、そんな気概の奴は戦士でもなんでもない。」
「オラ戦士じゃねえ、武道家だ。」
怒りに細くなった瞳がパチリと瞬きする。
かつて自分がヤムチャに言った言葉だ。
彼はサイヤ人である前に、亀仙流の武道家、孫悟空なのである。
セルと戦うのは勿論地球を守る為ではあるが、大前提として、彼は自分の限界を極める為に戦っているのだ。
大きな大きなため息をつく。
もう返す言葉がなかった。
「そういえば、そうだったね。」
一瞬湧き上がった怒りの気配もそこそこに毒気を抜かれた鬼姫の情けない笑顔がそこにあった。
「あの、お父さん。…セルに勝てないだなんて嘘ですよね?」
互いの腹の内を理解しあった者同士の意味深な会話についていけず、まさかの「勝てない」という爆弾発言に隣りの少年は心底不安そうに揺れていた。
迂闊な発言…あるいは態と書かせていたのか、なんとかしろと刺さる小籠包の視線に悟空に刺さる。
「大ェ丈夫だ。なんとかなるさ。セルの言う武道大会までまだ10日あるんだからよ。」
「…そう、ですか。」
この場にいる誰もが頭を抱えたのは言うまでもない。
親子の間に入らないよう自重してたラディッツは遂に我慢ができなかった。
「か、カカロット…!と、10日しかないのだぞ!…もう一度部屋に入るというのか!?」
「いや、オラ達はもうやめとく。」
「な、なんだと!?」
唖然とするラディッツに、悟空はいそいそと普段の胴着に着替えていく。
しゅるしゅると布擦れの音だけが響く。
それを脇で眺めながら悟飯が不安そうに見上げてくる。
「しょ、小籠包さん…お父さんには何か作戦があるんでしょうか…。」
…さて、どうするべきか。
孫悟空の真意を伝えるのは簡単だ。
しかしそれは悟飯に責任を押し付けるのも同じである。
それは望むべくではない。
彼が望むのは、自分たちと肩を並べて共に戦う事なのだから。
「大丈夫、能天気なお父さんなんて放っておきなよ。私達がなんとかするから。」
「で、でも…!」
悟飯は聡い少年だ。
目の前の戦士が何かを隠している事を理解してるのだろう。
ならばと、彼女は禁じ手を切った。
視線を合わせて優しく頭を撫でてやる。
「じゃあ、もし私がセルにヤられたら、仇を取ってくれる?」
異形の瞳、その瞳孔を少しだけ細くして彼を見つめる。
当然彼女は師の仇を殺すつもりだ。
しかし絶対ではない。
セルを倒す…その意思を彼に託すつもりで見つめ続けた。
「…はい、わかりました!」
孫悟飯は戦士でも武道家でもない。
父親が少し強いだけのお勉強が大好きな優しい少年なのだ。
彼がその秘めたる力を解き放つにはそれ相応の「理由」が必要。
その楔を…彼女は打ちつけた。
聞いてられないと唾でも吐く勢いで彼女の背後から悪態が響いた。
「カカロット、これ以上あの部屋を使わんのならさっさと出ていけ。目障りだ。」
「あァ、お互い頑張ろうな。」
「ちっ…ムカつく野郎だ。さっさと失せろ。」
「なんだよベジータ、そうカリカリすんなって。」
「黙れ、貴様にはセルの野郎には絶対勝てん…!」
「だからそう言ってるじゃねえか。」
ベジータの罵詈雑言を柳のように交わしていく。
やがて相手にしてられんと舌打ちを打つと仇敵へ背を向け口を閉ざしてしまった。
…そうしてる間に悟飯は師匠からおニューの胴着…ピッコロ謹製…お揃いのマントまで付けた「かっこいい服」をプレゼントされていた。
それを見届けた悟空が息子の肩を叩いた。うちに帰ろう、と。
「じゃあな、9日後に会おうぜ!」
風のようにあっさりと去っていく孫親子。
天津飯は唖然となってそれを見送った。
「…しゃ、シャオ…どういうことか、わかるか?」
「あれは、スーパーサイヤ人の完成系だよ。」
「か、完成系…?」
「そう、いつもの悟空くんだったでしょ?スーパーサイヤ人は彼ですら凶暴性を増長させる変異だった。パワーは上がるけど、彼の枷でもあったの。」
「な、なるほど…あ、アイツらしいな。」
これから精神と時の部屋へ命懸けの修行を行うというのに、すっかり毒気を抜かれてしまった。
むしろ、彼にとっては緊張がほぐれてよかったのかもしれない。
行ってくるぞ、今度こそお前を超えてやる。
そんな言葉を投げる兄弟子をヒラヒラと見送る。
さて、隣に並ぶ相棒に視線を向けた。
「アレを目指したらいいんじゃない?」
「か、簡単にいいやがる…俺たちサイヤ人は元々気性が荒いんだぞ!」
「フリーザに比べたらそうでもないと思うけど。」
「比較対象がおかしいだろう!」
唾を飛ばして怒号をあげる相手に、うるさ…と半目になりながら耳を抑える様子は完全に夫婦漫才のそれだった。
そんなのを背景に次の戦士たちが神殿の奥へと向かっていく。
「俺様の邪魔をせんようにな。」
「言ってくれるぜ、俺も極めてやるぞ、気功法を…!」
気合い十分の二人だ、24時間後には良い成果を上げてくる…そんな気配をしっかりと感じ取れる様子だった。
神を取り込んだピッコロの背中をポポは静かに見送っていった。
あの二人のことだ、24時間ぴったりに出てくることだろう。
大きな伸びを一つして漸く暗い怒りの焔が多少落ちつかせた小籠包が口を開く。
「ラディッツ、帰ろ。」
「…セルがいつ襲ってくるかもしれんぞ。」
「心配性だなぁ…その気があるなら、もうここに来てるよ。」
「いいだろう、ピラフ達に会うのも最期かもしれんからな。」
「そういうこと。」
どうせ10日待たなければならないのだと、すっかりいつもの調子に戻った相棒に腹のそこでは安堵の溜息をつく。
「ベジータ、勝手に入るんじゃないぞ。」
「知るか、どこへなりと消えろ。」
どこか不機嫌のサイヤ人の王子。
その原因をなんとなく察する。
触らぬベジータになんとやらだ。
そんな風に相棒に視線を向ければもうすでに小籠包はそこにいなかった。
「お、お前!勝手に行くなと言ってるだろう!!!」
最後の最後まで騒がしく、ラディッツはバタバタと下界へ降りていった。
一人残されたベジータは苛立ちを隠さぬままに指先で二の腕を叩く。
ーーー…ち…!あの女には一体何が見えてやがる…!
自分には最後まで悟空と悟飯の力の底を測ることができなかった。
それを小籠包は見極めているというのだ。
加えて、自分には至ることができなかったスーパーサイヤ人の境地に悟空が到達したことも彼を苛立たせる要因の一つだった。
しかも、たった11ヶ月でだ。
早々にあの返信の無意味さを理解しなければこんな早く出ることはできないだろう。
ーーーカカロットの野郎なら…二ヶ月もあればあの変身に辿り着く。だとしても…たったの9ヶ月で…この俺を超えたというのか…!!
認めざるを得ない。
事実を受け入れようとしない己の惨めさと、下級戦士に遅れを取ったという屈辱。
おまけに今の悟空からは闘争本能をまるで感じない。
そんな奴に負けた屈辱が、ベジータを無限に苛立たせた。
もう一度、あの部屋に入って…今度こそ自分が全宇宙最強になって見せる。
陽が沈み、昇り、そして中空に到達するまでの間、ベジータはひたすらセルと戦っていた地を見つめ続けていた。
孫悟空
基本最大 12億
超1-4 600億
気をほとんど入れてない=>6億
精神と時の部屋から現れた悟空は文字通り次元の違う境地に到達していた。
ほとんど自然体でいながら帰ってきた宇宙の帝王(サイボーグ)など相手にならない強さだった。
小籠包をもってしても…「通常状態で気を解放してるなんて珍しい」と一瞬勘違いするほどに悟空の気配は平常時同然だったのだ。
あの荒々しいスピリットを完全に飲み込んで自分のモノにしたあの姿こそ、スーパーサイヤ人の完成系の一つなのだろう。
孫悟飯
基本最大 15億
超1-4 750億
気をほとんど入れてない=>7.5億
??? ????億
実は小籠包をもってして彼の力の底は測れていない。
精々が…悟空くんより強い?くらいの認識である。
何より彼の奥底から感じる底知れない「気配」が彼女にとっては度し難く、それがノイズになっているのだろう。
悟飯も完全に仕上がってるはずなのに、「何か」を感じさせるのだ。