ドラゴンボールAT 作:澄ましたガール大好きおじさん
いつも誤字訂正ありがとうございます。
私の無学さのフォロー大変助かります。
さて、そろそろ着地点が見えてきたような気がするので初投稿です。
ラディッツとベジータが二度目の精神と時の部屋を切り上げてきた。
…その表情から、修行の成果は芳しくなかったと言えるだろう。
奇しくも孫悟空の発言は的を得ていたことにサイヤ人の王子は歯噛みする。
これが今の己の限界、…そもそもたったの2年でここまでの急成長を遂げたことをそもそも喜ぶべきなのである。
だが彼は誇り高きサイヤ人の王子、生まれながらの超エリート。
そんな彼がライバルと認めた男に一歩も二歩も先んじられたことはベジータのプライドが許さなかった。
とはいえ、ここで闇雲な修行をするほどベジータは愚かでもない。
彼はおとなしくカプセルコーポレーションへと戻り、程よく休み、程よく鍛え、10日後のセルゲームに臨むことを選んだ。
たとえ勝てずとも戦って死ぬのならサイヤ人として本望である。*1
この選択すら、ライバルと全く同じであったことにベジータは知る由もない。
さて、ごきり、と指先を鳴らさんという勢いで二度目の精神と時の部屋に臨もうとする小籠包の出鼻を挫いたのは孫悟空である。
用件は…息子の誕生会への招待だ。
どうせセルゲームまでは暇なのだから、息子の誕生日に招待しろ。
そんなことを
さて、小籠包はただ
彼の息子に対する態度に思うところがあったのだ。
彼は変なところで計算高いのだが詰めが甘い。
息子に何も言わずに為せばなるなどと呑気な心構えを叩き直してやるとここに赴いたわけだ。
山へ芝刈りならぬ魚狩りに駆り出された悟空に、これ幸いにとその後に続く彼女を「お客様にんなことさせられねーだ!!」と、椅子に縛りつける勢いのチチには、旦那の放蕩ぶりを叩き直して見せるからチャンスをくれ。…概ねそんな言葉を突きつける。
チチが二つ返事でこれを頷いたのは言うまでもない。
方向性は違うが、息子への態度に腹を割って話すのだから、嘘は言っていない。…と若干の罪悪感に言い訳をつけながらが彼女は後に続いたのだった。
そうして、パオズ山の頂上まで舞空術であっという間に到着した2人。
頂上からこんこんと湧いている川の源流が生み出す大きな大きな川。
溢れた川はそのまま滝となって麓へと流れ出ている。
悟空の狙う川のヌシの魚影は簡単に見つかった。
「オラになんか話があんだろ?」
腕捲りをする前に、悟空は空中にて向き直った。
チチと何やらやりとりをしていたのは聞こえていたし、わざわざこんなところまで付いて来たのだ。何かを察していたようである。
「いい加減教えてよ、精神と時の部屋で何を見てきたのか。」
「なぁんだ、そのことか。」
「大事なことだよ、君は悟飯君をどうしたいの?」
「どうもしねえさ、オラが決めることじゃねえ。」
「セルゲームの切り札にしておいて?」
小籠包の異形の瞳が、スッ…と鋭くなる。
それを翡翠色に変化した穏やかな瞳が受け止める。
「お前も気づいてたんか。」
「悟飯君はね、戦士じゃない。たまたま父親が凄い武道家だっただけの、勉強が好きな男の子だよ。」
孫悟飯、この時10歳…肉体年齢で言えば11歳。
孫悟空がパオズ山をブルマとともに飛び出した年齢より幼いのだ。
だから彼を戦わせるな、…と言いたい訳ではない。
彼女の言葉を待つように、孫悟空は静かに見つめ返した。
「セルを斃すのは私。…でも貴方はそう思ってない。そうでしょ?」
「あぁ、…今のお前じゃ、セルには勝てねえ。」
「はっきり言ってくれるね。」
この言葉に全く不快感を覚えないのは…相手が孫悟空からなのだろう。
この男には、そう言う不思議な男なのだ。
話が逸れてしまう、小籠包は天界で悟飯を焚き付けたあの時のことを思い出していた。
「私はちゃんと負けたら、仇を取ってくれって言ったよ。貴方はどう?ちゃんと彼に期待していること、話した?」
「…参ったなぁ、ねーちゃんにはかなわねえや。」
ついに観念したのか、悟空は自重気味に破顔し、やっと彼は精神と時の部屋で何を見て、何を思ったのかを語り始めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
部屋の中で…スーパーサイヤ人の先を否定し、今の状態となる為の特訓をしていたころだったという。
あの部屋の環境な過酷だ。
11ヶ月の修行で孫悟空が「辛い」と表現するほどに。
そんな中、孫悟飯は父親と日夜限界まで鍛錬を続けていたのだ。
日々、少しずつ溜まっていくストレス。
いくら穏やかな人格の孫悟飯だからといって、発散しなければいつか破裂する。
しかも彼は、父親と違い強くなることが目的ではなく、手段なのだ。
セルを倒し、平和な世の中を勝ち取る為の手段なのである。
そして、強さというのは、本来日進月歩、1ヶ月2ヶ月では成果が上がらないのは当然。
タイムリミットは刻一刻と迫るのに、スーパーサイヤ人にただひたすら慣れるだけの苦行ばかりが続く。
そんな時だった。
息子の様子がおかしい、集中力に欠いている、明らかに修行に身が入っていない。
ーーーここ最近ぶっ通しだったからな、今日は早めに切り上げた方が良さそうだ。
己一人でも修行を続けても良かった。
今の悟空は一児の父親である、一日ゆっくり休んで息子と語るのも悪く無い、そう考えたのだ。
幸い、今の彼らの修行は「ただスーパーサイヤ人を維持する」だけでも十分な修行になる。
焦りは何も生み出さない、師匠の教え*3倣い、ふらついた息子に視線を投げたその時だった。
「…!」
急激に膨れる息子の戦闘力。
迸る強烈な稲妻。
怒髪天を突く金の髪。
理性を失った獰猛な目。
数ヶ月前、孫悟空は確かにスーパーサイヤ人を超えた。
それがただの通過点に過ぎないことを息子が証明した瞬間だった。
悟空は無意識に臨戦体勢をとっていた。
しかし…余りにも遅すぎる父の構えに孫悟飯は容赦なくその鳩尾目掛けて鉄拳を叩き込んだ。
知覚の外から襲ってくる激痛。
余りのダメージにスーパーサイヤ人を危うく解除してしまいかねないほどの衝撃。
「ぐ……ぁぁぁ!?」
肺の中身と共に絞り出される絶叫。
全く見えなかった、今の孫悟飯は父親を完全に超えた戦士。
そして強さと引き換えに彼は優しさの一切を捨てていた。
視界の端で口角を吊り上げる息子の顔が見える。
背筋が凍るような微笑みだ。
かつてベジータが地球に訪れたあの時を彷彿とさせる。
有無を言わさないアッパーカットが悟空の顎を撃ち上げる。
「……!」
肺の中身を搾り出した彼に声を出すだけの酸素など残されていない。
このままでは、殺される。
その危機意識だけで、薄れゆく意識の中…酸素を取り込むコンマ数秒の時間を稼ぐ為に、瞬間移動を行使。
迫る追撃を逃れ、悟飯の鉄拳が地面を穿つ。
あがらないはずの砂煙の向こう側に標的がいなかったにもかかわらず、焦る様子など微塵もない。
ゆっくりと背後に移動した敵が呼吸を整えるのを待っているようだった。
上がった口角はそのままにいつまで反撃に出ない父を嗤った。
「どうしたのお父さん、もうおしまい?」
ばちり…!
強い戦闘力の証が見せつけるように迸る。
ここまで力の差を見せつけられて…黙っていられる孫悟空ではない。
もう彼は自分が守るべき息子ではなく、超えるべきライバルになったのだ。
父親の顔は…ただの武道家へと変わっていく。
「へ、へへ…!悪ィな悟飯!続き、やろうぜ…!」
未だ完成していないスーパーサイヤ人に気を入れる。
天高く昇る金色の光。
幾ら気を入れようと…彼と同じ稲妻は悟空には発しなかった。
「行くぞ…!」
なんとか呼吸を取り戻し…ペース配分など微塵も考えないスピードでご飯に迫る。
「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
一方的に繰り出す渾身の攻撃の数々。
そのどれもが過去最高の威力を持った攻撃だった。
だというのに、その攻撃は擦りもしない。
瞬きすら返す余裕を見せながら、それでも紙一重で淡々と攻撃を交わしていく。
打ち込む余裕はいくらでもあっただろう。
それでも悟飯は淡々と避けるばかり、相手を慮っての行為では無い。
嘲笑っているのだ。
お前では僕に傷ひとつつけられないのだと理解させるための挑発。
そこに戦略的思想は存在しない。
ただただ、己の快楽のために戦闘を行うという実に戦闘民族らしい心がそこにはあった。
「つまらない。」
「う…ぐぁぁぁぁ!!」
およそ数分、ただただ避けるだけの行為。
その挑発に全く乗ってこない生真面目な戦いを続ける父に唾を吐くような言葉とともに強烈な膝蹴りが悟空の腹を撃ち抜いた。
たった一発の攻撃で攻勢を挫かれた彼の頭を回し蹴り襲う。
気を高めていなければ危なかった…わけではない。
意識を刈り取らないよう手加減をしていることは直ぐにわかった。
受け身を取ることすらできず、ボールのように何度も地面をバウンドし、地面に転がる。
立ち上がらなければ、殺される。
バラバラになりそうな全身に喝を入れて無理矢理気を解放しながら舞空術を行い、強引に体を起こす。
…しかし来るであろう追撃はない。
荒々しい戦闘力の暴風はいつの間にか消滅し…代わりに倒れ伏す息子の姿がそこにあった。
「…悟飯!」
抱き上げる息子の体は異様な熱を放っている。
自身もぶっ倒れそうなダメージの中、悟空はなんとか二人揃って居住スペースへと帰還した。
…その後、悟飯は三日三晩高熱でうなされ続けることになる。
図らずも見せつけられたスーパーサイヤ人のその先、己も修行を休み、慣れない看病に奔走しながら悟空は複雑な想いを抱き続けることになった。
悟飯の熱がすっかり治り修行を再開したが、あの時の記憶は綺麗さっぱり忘れさられていた。
悟空すらあれは夢だったのでは?と思ってしまうほどに。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ひとしきり、話し合えた悟空に、小籠包は瞳を鋭くしたままだ。
曰く、今の彼でも…あの時の悟飯には絶対に敵わない。
そう断言できるほどの力の差。
だからこそ悟空は確信している。
あの時のパワーを
「今のアイツに必要なのは力じゃねえ。オラはそう思ってる。」
幼い体と心に過ぎた力…それが今の悟飯に備わってしまっている。
だからこそ、数少ない猶予を修行ではなく穏やかな日々を少しでも積み重ねる。
それが今の悟飯にとって最善であると彼は考えたのだ。
「その話、彼にはしたの?」
「してねぇ。」
「おばか!!」
容赦ない鉄拳が悟空の鼻先を打つ。
避けるつもりもなかったのか、無抵抗に打たれた彼は強烈なダメージに空中で体を丸めた。
「痛ってぇ〜〜…なにすんだよ!」
「あのねえ!そんな状態で彼を戦いに引き摺り出してみなさい!…同じことをするよ!?」
悟空のやり方は間違っていない、それは理解している。
…しかしそれは
もう自分達には時間がない。
たった一週間程度しか残されていない。
そんな短期間で強い武人の心をもった超戦士が生まれるのなら、精神と時の部屋など必要ないのだ。
この短期間で出来ることは「覚悟を決めること」である。
…少なくとも、彼女の師から受け継いだ殺し屋の心はそう結論を出している。
「いい!?ちゃんと…悟飯君に!貴方の口から!はっきりと!言いなさい!今私に話したこと!貴方が彼に期待してること!!わかった!?」
「わかったよ、そんなに怒る事ねぇだろ。」
「ッ〜〜〜!チチの気持ちがわかったかも…!帰ったらチチとラディッツとでお説教だから!!!」
「いィ!?なんでだよ!?今ねーちゃんにぶん殴られたばっかじゃねーか!」
「うるっさい!!ただでさえセルゲームに出してくれるって奇跡*4を起こしてるチチが可哀想だよ!!!ラディッツにもこってり絞って貰うから覚悟なさい!!!」
ぷんすこと怒る義姉が数秒で魚を叩きのめし、悟空の首根っこを掴んで孫家に帰還。
自身の前ではただならぬ満面の笑みを浮かべる母親と小籠包に終始「?」を浮かべる孫悟飯。
どう息子に話すかと頭を回す悟空。
哀れな弟の肩を憐れみを込めて叩くラディッツ。
娘夫婦が良き家族に恵まれたと半泣きで頷く牛魔王。
10歳の誕生日会は静かに*5穏やかに過ぎていったのだった。