ドラゴンボールAT   作:澄ましたガール大好きおじさん

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 お待たせしました。お仕事バチくそに忙しいので初投稿です。


其之四十二 運命の30秒

 

 目の前の恐ろしい気のデカさにマジュニアは震えが止まらない。

 それを自覚する僅か0.1秒後、彼女の拳が躊躇なくマジュニアの顎を撃ち抜く。

 見えない、見えるはずがない。

 後年…気の大きさを戦闘力という形で数値化されるが、仮に今のマジュニアの力を数値化するとしたら1200と少し。

 これだけでも宇宙全体でいえば、稀有な才能の持ち主といえる。

 しかし目の前のこの女はそれを遥かに凌駕するパワーを見せつけていた。

 その数値は2200と少し…倍近い実力である。

 その差は…この女にボコられて少し経ったころ…マジュニアの身体が成長し始めて間もない頃の力関係にそっくりである。

 拳打の嵐はコンマの世界を超えて打ち出され、文字通りマシンガンパンチ。

 

 彼は見えないなりにも懸命に反撃を試みたが、闇雲に攻撃をしたところでそれが通ずるような甘い相手ではない。

 相手にはしっかりと自分の動きが見えている。

 打てば、手痛いカウンターが襲いかかるだけ。

 受けても同じだ、そのスピードにパワーまで両立した出鱈目な一撃、防御をしたとしてもダメージは貫通する。

 避けるなど以ての外、見えていない攻撃をどう避けろというのか。

 

 この時点でマジュニアは詰んでいる。

 唯一の勝算は…彼女のこの全力パワーに耐え抜けばいい。

 倍近くある力の差をたった30秒凌ぎ切ればよいのだ。

 たったの30秒間この女のサンドバッグになることを考えて甘んじれば良い。

 

 …無茶苦茶である。

 

 想像してほしい。

 避けることはできない、受けるだけで大怪我をする攻撃を30秒間受け続けなければならない。

 並の戦士には不可能だ。1秒とかからずノックアウトさせられるだろう。

 だが彼は普通ではない。

 かつてこの世を恐怖のどん底に叩き落とした大魔王の生まれ変わりだ

 加えて、目の前の悪鬼羅刹の如く襲いかかる女のサンドバッグになることで強さを見出した男である鍛え方が違うのだ。

 小籠包の意図した成果ではないがマジュニアは格上からボコられても早々に音をあげない強い肉体と精神力を身につけていた。

 3年間で最大の修行の成果と言える。

 

 さらに、彼の脳裏には小籠包の動きが焼きついている。

 なんなら寝る間も惜しんでイメージトレーニングに耽ったこともあった。

 見えずとも、受けた攻撃のタイミング、方向で彼女がどんな攻撃をしたのかは大体の想像がつく。

 次にどんな攻撃を繰り出すのか…脳内で散々繰り返してきた宿敵との戦いは決して無駄ではなかったことを彼は証明した。

 そこまで全力で師匠との戦いに備えたのに、選択肢を少し誤った程度でブチギレられるとは、なんとも不憫な男である。

 

 さて、話を戻そう。これほど絶望的な状態でも寧ろ彼は喜びに打ち震えていた。

 超えたと思った相手が一時的とはいえまたも自分を大きく突き放し、まだまだ先がある事を彼女は証明して見せたのだ。

 全く見えないまま、ほとんど直感で彼は何かを掴み取る。

 小籠包に染みついた拭いがたき攻撃の癖、それだけを頼りに彼女の突き出された拳を掴み取った。

 

 「!?」

 「捉えたぜ…!」

 

 見えずして、彼は超高度な読み合いに勝利する。

 これがどれほどの大金星かは言うまでもない。

 黄色の瞳が驚愕に揺れるのも一瞬、すぐに感情のなき暗いモノに切り替わると理外の膂力で掴んだ腕ごとまるでタオルを振り回すかの様に、その巨体を振り回す。

 武舞台目掛けて、びたん、びたん、と何度も何度も叩きつけ小規模なクレーターを何個もこさえていく。腕を掴んだ指先が緩んだところで彼を宙に投げ飛ばすと、今度は舞空術で空を舞い空中で彼を蹴り飛ばす。その先へと先回り更に別方向へ、更に、更に、更に…!

 ピンボールのごとく空中で弄ばれるマジュニアは両腕をハンマーの様に振り下ろした一撃で舞台へ一直線に沈み込む。

 

 悲鳴すら上げる暇もない中、無慈悲などどん波が追い討ちに襲い掛かる。

 気を高めた防御をしてもその威力はあっさりマジュニアに大ダメージを与える。

 

 その余りにも激しすぎる戦いは、余人にとってはただの爆音でしかなかった。

 爆風が吹いて皆が吹き飛ばされたと思えば耳をつんざくような打撃と破裂音、それが人を打っている音だとは誰も思うまい。

 

 まだたったの5秒しか経過していない。

 吹き飛ばされて、なんだ何が起きたと困惑している最中。

 クリリンとヤムチャにはもう彼女の攻撃は理解できない。

 

 その世界を理解するのはこの場ではたったの二人。

 戦闘力1000超えの力を体験した天津飯。

 天界での修行で限界を更に突破した孫悟空。

 

 悟空は、天界で鍛え抜かれた鋭敏な感覚によって見えはしないが感じている。

 ただただすげぇ、そう感じた。

 同時に彼女らしくない。悟空の知る小籠包とはクレバーな戦士だ。

 力の大きさに拘らず、己のフルパワーを如何に維持できるか?

 そこを突き詰めた戦士だ。

 

 今の彼女はペース配分などミジンも考えられてない出鱈目な気の放出。

 この瞬間、彼女は間違いなくこの世の誰よりも強い。

 しかしそれはあと何秒もつ?

 30秒と宣言したが、この超パワーは今すぐにでも泡の様に消えてしまいそうな危うさを持つ。いや、30秒も保たない確信が悟空にはあった。

 

 超短期決戦を望むのなら既に勝負は見えていなければならない。

 これだけ一方的に叩きのめしているのに、決定打を与えられていないのだ。

 おまけにマジュニアは見えないなりにも彼女の動きに適応し始めている。確実にダメージは蓄積しているが、彼の頑強さは悟空をも上回っている。

 小籠包の戦い方は決して褒められた立ち回りではなかった。

 

 ーーーやっぱりお前ェはすげぇ…!

 

 それでも悟空は小籠包の超強化に感動せずにはいられなかった。

 マジュニア同様、見せつけられた可能性にワクワクせずにはいられない。

 クソでかいロボットに憧れを抱く男児のように、彼女の放つ馬鹿でかい気の大きさに憧れをいだく。

 いつか自分もあの領域に…!

 そう拳を握る様子をチチは微笑ましげに隣で見つめていた。

 

 さて、戦いは更に転換期に突入する。

 

 攻撃は尚も苛烈に、次第にマジュニアの予知じみた先読みすらも超えんと小籠包は()()()()()()

 

 拳打の衝撃のみで地に足がつかなくなり、サンドバッグと化した彼だったが…その口元には笑いが堪えきれていなかった。

 痛めつけられる事に喜びを覚える奇人変人狂人の類だからでない。

 

 これはあの日の焼き回し…幼少時代、手も足も出なかった強敵が再び自分の前に現れたのだ。

 これぞ小籠包だ!!

 そう高笑いせずにはいられない。

 自分が倒したかったのは目の前の鬼だ。

 ならばこそ、この猛攻を凌ぎきり、倒れ伏した彼女を踏み潰す。

 これこそが最高の意趣返しといえよう。

 

 10秒が経過した。

 

 小籠包の頬に汗の雫が光るのを見逃さない。

 すぅ…と互いに酸素を取り入れる。所要時間は0.1秒、常人が知覚できる最小単位にまで最適化された動き。

 

 ただでさえありえない強さを誇るというのに、彼女の攻撃は悪辣に徹していた。

 執拗に死角に潜り込み、意識が追いつく前にマジュニアへと打つ。

 

 打たれた矢先に意識を揺り起こして即座に立て直す。

 

 受けられた拳を逆に引っ張って、その額目掛けて強烈な頭突き。

 

 勝負を焦り始めた小籠包と、光明を見出したマジュニア。

 既に彼女のパワーダウンは始まっていた。

 

 先ほどの加速、ただでさえ無茶な最大出力に、更なる上乗せをした反動が返ってきている。

 ギリ…!と奥歯を噛む音は一体誰の音か。

 

 ーーーまだ、止まる訳には、行かない…!

 

 拳を打つたびに視界が撓む。

 ふと意識を抜けば全身の力が抜けてしまいそうだ。

 溢れ出る余剰エネルギーを死ぬ思いで押し留めて出力を維持する。

 もう既にマジュニアは自分の動きを完全に捉えている。

 彼も悟空と同じ超天才だ。

 逆境の中で自分の可能性を無限に拡張していく才能の塊。

 小手先で誤魔化すことしかできない自分にはできないこと。

 

 懐に潜って打ち込んだボディブローを腕で受けられ、

 回り込んで首筋に振り下ろした手刀をかわされ、

 真横に飛び込んだところを、遂に裏拳で撃ち落とされる。

 

 「ぐぁ…!?」

 

 軽く突き出された裏拳も、超スピードによるしっぺ返しが上乗せされ、大ダメージとなって吹き飛ばされる。

 空中にてぎゅるん!と一回転して静止。

 ここにきて漸く人々の目に小籠包の姿が映った。

 

 「はぁ…!はぁ…!」

 「そんなモノか…?大口を叩いた割に随分とヘロヘロじゃねえか。」

 「……ッ!!」

 

 ビッ!!!と鋭い風切り音と共に再び彼女の姿が世界から消える。

 彼女の宣言から既に20秒余りが経過していた。

 全身に纏ったエネルギーが霧散していくのを感じる。

 大きく突き放された力の差はもう殆ど存在していない。

 マジュニアが適応しているのではなく、小籠包がパワーダウンしているのだ。

 それを自覚できないほどに彼女は疲弊していた。

 

 「そこかぁ!?」

 「ァが!?」

 

 まるで幻影と戦っていたかの様な反応速度は見る影もない。

 必死に死角に齧り付くのを視界の端で確実に捉えて、突き出された片足が腹部に突き刺さる。

 壁の一部を倒壊させながら崩れ落ちる小籠包の全身から力が抜けていく。

 気功法も崩れ、辛うじて気の解放は維持しているが…疲弊とダメージにより最早戦える状態ではない。

 

 「降参しろ、それ以上は貴様の身体が保たんぞ。」

 

 倒れ伏す女を見下ろす。待ち侘びた、待ち侘びた瞬間!

 …しかし、彼の気はまったく晴れなかった。

 

 理由は単純、勝負に勝っていないからだ。

 もちろん、スタミナ不足と笑う事もできる、時間内に仕留められなかった彼女の落ち度、勝ちは勝ち。

 

 だがマジュニアのプライドがそれを許さないのである。

 相手が自滅するのを待ち、倒れ伏したところを踏み潰す。

 

 それの何が嬉しいというのか?

 近い将来、この女は今の恐ろしいパワーを確実に自分のモノに昇華させるだろう。それを真正面からぶっ潰さなければ気が済まない。

 

 3年間、変態だのスケベだのと言われのない風評被害でプークスクスされた恨みはこんなもので解消できるほど軽くないのだ!

 

 「…じょ…だん…。」

 「強情な奴め、おい…何をぼさっとしている。さっさとカウントしろこいつはもう立てん。」

 

 吹き飛ばされたアナウンサーが健気にも実況を再開せんと戻った矢先にこれだ、彼も彼で不憫といえる。

 

 「ぁ、あの〜…」

 「早くしろ、ぶちのめされーーーがァ!?」

 

 実況に向き直ったその瞬間、彼の後頭部に強い衝撃が襲う。

 勝利を確信し油断しきった哀れな魔族が本日2度目のダウン。

 その後頭部に容赦なく踏みつける悪鬼。

 

 「き、貴様ァ…!まだそんな力が…!」

 「…カウント…しなさい…!」

 「は、はいぃ!?…1…2…!」

 

 浅い呼吸を整え、目線の焦点が合わないまま執念でマジュニアの頭を武舞台にめり込ませる。

 

 「油断したわねこの間抜け…!そのままじっくり砂を味わってなさい!」

 「へっ…相変わらずの性格の悪さだな!親父の見込み通りの女だ…!」

 

 4…5…!

 カウントが進む。

 残りの気を総動員してその頭を踏みつける。

 

 「さぁ、返して見せなさいマジュニア!死に損ないに負けたいの!?」

 「良いだろう…おい貴様!離れていろ!巻き添えを喰らうぞ!」

 「6……ぇ?あ、はい!」

 

 小籠包からため息が溢れた。

 

 同時に踏みつけた魔族の気がぐん!と上がる。

 そのタフさに笑わずにはいられない。

 あれだけボコボコにしたのに、呆れたタフさだ。

 もう気功法を発動できるだけの体力は残されていない。

 

 べき…!

 

 それでも渾身の力で頭を踏みつけることで、武舞台がきしむ。

 勝利を目指しての事ではない、少しでも…マジュニアの手札を晒すために、彼女はただで負ける訳には行かない。

 

 「見せてやろう…!マジュニア様の技をな!」

 

 ーーーはァァァァ!!!

 

 7…8…!

 あとだったの2カウント…力のチャージに十分な時間だ。

 

 「爆烈魔波!!」

 「!?」

 

 カッ!!と二人を中心に爆風が迸る。

 ダメージを与えるのが目的ではなく自らを踏み躙る女をぶっ飛ばすことのみに重きをおいた範囲攻撃、全身全霊で身構えたにも関わらず…小柄な体躯は紙屑を吹き飛ばすかの様な気軽さであっさり吹き飛ばされた。

 1秒にも満たない時間。

 彼らにとって対策を構えるには十分な時間だが、消耗し切った小籠包は舞空術により立て直しをすることはできず…観客席の間を隔てる壁に無情にも激突した。

 

 気のほとんどを使い果たし…数年振りに気の解放すらも手放して小籠包は完全に意識を失った。

 

 場外落ちが確定した時のダウンカウントは9。

 マジュニア、決勝戦進出決定。





 以上、気功法の可能性でした。
 彼女の技が形を成すのはもっともっと先の未来です。

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