ドラゴンボールAT 作:澄ましたガール大好きおじさん
Z開始!ということで初投稿です。
其之五十一 天下一のママ
三年の月日が経過した。
子供の成長というのは早い。
あっという間に成長して言葉を発する様になったのだ。
大変喜ばしい。発語は成長の過程でもっとも大きな一歩と言える。
これを喜ばない親はいないし、子の成長を見守っていた立場でも、ソレは望外の喜びといえよう。
その第一声が例え望まぬ物だとしても、最高の言葉であるはずだ。
「こんにちは!おばさん!」
「はい、こんにちは。大きくなったね。」
小籠包、齢23歳。
悪意なき子供の笑顔の前に崩れ落ちる膝に喝を入れ、引き攣る笑顔を必死に柔らかく保ち、この快挙を優しく褒め称えねばならない最大の試練に立ち向かっていた。
子供の言うことだ、子供の言うことだ。
そんな風に自身に言い聞かせながら優しく頭を撫でてやると、ふにゃりと孫悟飯が微笑む。
ーーー子供のいう事だね!
そんな彼の笑顔にあっさり納得してしまうほど、元殺し屋鬼姫は悟飯にベタ甘であった。
文字通り親戚のおばさんである。
そんな風に人懐っこい悟飯にすっかり絆された彼女は時折悟空から悟飯を取り上げーーーもとい、彼の修行時間を見繕う為に、悟飯の遊び相手となる事が増えた。
教育ママであるチチのおかげかあるいはチチのせいと言うべきか、悟飯はこの年齢にして大体の読み書きが出来る才人ぶり。
今日も、地面に文字を書いたしりとりというインドアだかアウトドアだかよくわからない遊びを二人で楽しくしてる最中、彼ら…いや彼女への来客が現れた。
「ふん、雑魚の使いっ走りの次はベビーシッターでも始めやがったか。」
「おじさんだあれ?」
「…む。」
開口一番、純真無垢な子供の疑問。
実年齢で言うところ一桁の彼。
しかし、ここで子供を前にムキになれば目の前の鬼女を調子に乗らせる。
彼は、グッと返す言葉を飲み込んだ。
「ピッコロだ。」
「わかる、わかるよ。良く耐えたね…。」
「やかましい!気安く触るな!」
「ふぎ…!」
見知らぬおじさんの唐突な怒号、気弱な彼は瞬く間に恐怖に染められ目尻いっぱいに涙を貯め始める。
「ぁ…ちょ、ごめんね悟飯、このおじさんねこんなんでも凄く良い人なんだよ。…多分。」
慌ててグズる彼を抱き上げてよしよしとあやす。
親子と言われても違和感の無い手慣れた様子。
何度、迂闊な行為で悟飯にぐずられたのだろうか。
「…それで、何の用?見ての通り忙しいんだけど。」
「貴様を殺しに来た、構えろ。」
「話聞いてた?もしかして耳悪くなった?」
「やかましい、貴様にその気がないならそのガキを貰って行くぞ。」
ひっ、と再び彼の怒号に小籠包の胸に顔を埋めて縮こまる悟飯の頭を撫でながら一つため息をつく。
彼を無視して視線を回す。真っ赤な果実の実った樹木を見つけ、幼子を抱えたまま飛びいくつか拝借。
「悟飯、ちょっとだけ待ってくれる?おばさん、あの緑のおじさんと話があるの。食べるまでには戻ってくるからね、待てる?」
「う、うん…。」
良い子だ、ワシワシと頭を撫で回して子供を押し除けて俺に構えと飛び出す大人気もない馬鹿弟子に対してもう一度ため息をつく。
「5分だけ相手をしてあげる。」
「いいだろう、3分でケリをつけてやるぜ。」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
さて、どうなったかは言うまでもないだろう、マジュニアと小競り合いをした小籠包が戻って来た先には
りんごの芯だけがその場に残されていた。
相手は好奇心の塊。三歳児。
その場で座して待つなど出来るわけないのである。
三つの実を早々に食べ終えた彼は、見たことの無い蝶を追いかけて、薮の中へと消えて行ったのだ。
育児の初歩の初歩…チチから散々目を離すなと口を酸っぱくして言われていた事もあいまり、彼女は血の気が引くのを感じた。
ーーー落ち着きなさい小籠包、未だそう遠くには行ってないはず。
と言うか、こうなったのもピッコロが無茶な要求をしたからである。
彼女はオーラを全開にして彼を追跡し、これを捕まえた。
オメーのせいで、悟飯がどっか消えた。一緒に探せ。
さて、彼としては小籠包に借しを作るのも悪く無いとこれに乗っかったのが運の尽きPART1である。
悟飯の捜索はソレなりに時間はかかったが、難しい話では無い。
彼は天下一の男、孫悟空の息子である。
3歳児とは思えない気の大きさであるが故に、彼の大まかな位置は気で探ることができた。
とはいえ、その大きさは非常に不安定である。
殆どゼロに近くなったと思えば急にその気配を大きくする。
まるで風に吹かれる蝋燭の火の様な危うさ。
出力が安定したその瞬間を捉えてなんとか大まかな位置を探る。
その居場所は彼の泣き叫ぶ声をピッコロが聞き取り、なんとか、彼は遭難の危機を回避したのだった。
ここで大人しく帰っておけば、ピッコロは事なきを得たのだが、運の尽きPART2。
久しぶりに孫悟空の力を見てやると、小籠包についていってしまったのだ。
彼女はしめしめと、内心せせら笑った。
何故ならここからが本当の戦いである。
悟飯のお守りはチチの元へ無事に送り届けるまでがお仕事なのだ。
これが、実は悟飯は迷子になってました!
なんて言った暁には、チチは文字通り鬼と化す。
天下一の男ですら尻に敷く女だ、当然鬼姫とはいえ例外ではない。
今回の件、当然彼女は話すつもりはない隠し通すつもり満々だった。
なんだったらピッコロに全責任を押し付けて私悪く無いムーブでもかます気満々だったのである。
しかし、悟飯の目元には僅かに泣き腫らした後が残っている。
これを見逃す程チチは甘く無い。
「小籠包!おめえがついていながら何してただ!ピッコロもそこに直れ!!」
この怒号までは彼女の想定通り、相変わらず怖い。
一緒になって正座させられている大変不服そうなピッコロはいい気味である。
さて、こうなったチチはもう止められない。
折角の美人が台無しだよ。
昔はそのおべっかでどうにかなったが、今の彼女は女ではなく母親である。
そんなことを言えば誤魔化すでねえ!と火に油を注ぐのは経験済。
しかし、今日の彼女には秘策がある。
「ごめんなさい、
チチに見えない角度でにっこりと鬼が笑う。
地獄に堕ちるのはお前だけだマジュニア。
そんな風に言っているのだ。
「な…!お前…!」
「本当かピッコロ…!?」
ギロリ。
そんな効果音が聞こえる様な視線の動き。
思わず居直るピッコロは最早この世を脅かす大魔王でもなんでも無い。
「いや、アレは、言葉のアヤ…というやつだ。」
「オラの悟飯ちゃんをどうするつもりだっただ!?」
「ち、違う!そうでも言わんとコイツは動かんと思ってだな!」
まったくの誤解である。
あの時のピッコロは小籠包を焚き付けることが目的だった。
別に孫悟空の息子になど興味はなかったのである。
「言い訳するでねぇ!いい歳した大人が子供の前でみっともねぇ!!」
「…年齢で言えば貴様の息子とそう変わらんぞ。」
「そーゆー問題じゃねぇだ!!」
マジュニア改め、ピッコロ…この日齢7歳。
人間で言うところの小僧も同義なのだが、そんなことは些細な問題なのである。
都合のいいときだけ子供になってんじゃねえ、チチはそう言いたいのだ。
「いいか!今度悟飯ちゃんに変なことしたら許さねーぞ!いいな!?」
「う、うむ。」
縮こまるピッコロに小籠包は大爆笑を飲み込むのに必死だった。
完全に対岸の火事だが、そうは問屋が卸さないのが超教育ママ、チチである。
「おめえもだ!小籠包!?」
「ひゃい!?」
腹の中に燻る大爆笑の火薬が一気に湿気る。
背筋がピーンと伸びる様は見事な条件反射。
「目を離すなって、アレ程言ったべ!どうして放っておいただ!」
「ご、悟飯の前で戦ったら、危ないと…思い、まして…。」
「当たり前だべ!悟飯ちゃんの前で危なくねーよに勝負すれば良かっただ!」
そう来たか〜…
完全にヘイトをピッコロに向けたと思ったのだが甘かった。
そもそも悟飯を放って置く行為が論外、断罪である。
策に溺れた哀れな師をバカめと鼻で笑うピッコロも見逃さない。
「なぁに笑ってるだ!お前ェも子供の前で勝負だなんて言うでねぇ!悟飯ちゃんの教育に悪いだ!!」
「…う、うむ。すまん。」
両成敗!二人して縮こまって正座をする中、チチは更に言い放つ。
「いいか!悟飯ちゃんの前では勝負禁止だべ!次やったら悟飯ちゃんを預けさせてやれねーだ!!」
「…そ、そんな!ごめんチチ!ちゃんとこの馬鹿には言い聞かせるから!ソレは許して!ほらマジュニアも謝って!!」
ピッコロの頭を掴んで無理矢理二人揃って謝罪。
これ以上チチを怒らせるのは面倒だと、大人しく従うピッコロだった。
この日以来、小籠包とピッコロの間に
「孫悟飯がいる時は、軽い組み手をするのみ」という暗黙の了解が出来上がったのである。
Z開始といったな?アレは嘘だ。