幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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前編 幻想少女と吸血鬼
01 異邦の転生者


 今が夜だろうと、こんにちは、ごきげんよう。私はレイシア。お察しの通り転生者だ。

 

 私の転生先はあの学園伝奇バトルオペラADV、「学園」要素の影が周回ごとに徐々に薄くなっていくことに定評のあるノベルゲーム、「Dies irae」であった。

 

 ディエス・イレ。

 イレってのが「怒り」で、ディエスが「日」って意味だ。すなわち怒りの日。オサレだね。

 

 さて、現状説明のためにも、ざっくりと世界観を解説していきたいのは山々なのだが──その前にまず、私の今の状況をご覧になった方が早いだろう。

 

 

「──たとえば、己の運命が定められていたとしたらどうだろう」

 

 

 切り出しはこのように。

 どこが自分の人生の起点なのだと訊かれたなら、おそらくその言葉をかけられた時こそが私の人生の起点になったのだろう。

 

「人生におけるあらゆる道筋、選択、結末……全て、ただ一つの運命のために、選んでいるのではなく選ばされているものだとしたらどうだろう」

 

 名も知らないはずの男の語り口調は止まらない。

 いきなりやってきて開口一番にコレである。なんだこのコズミック変質者。

 

「無限の可能性など幻想に過ぎず、人はどれだけ足掻こうとも、定められた道筋からは降りられない。富めるもの、飢えるもの、勝つもの、負けるもの、生きるもの、死ぬもの……善人は善人として、悪人は悪人としてしかならぬと定められていたとしたら、どうだろう」

 

「“ならばどのような咎人にも罪は無く、聖人にも徳など無い”?」

 

 先回りして演説の言葉を口にしてみると、男の黒髪が風に揺らいだ。

 その表情は無心の微笑み。何を考えているのか、さっぱり分からない外面だ。

 

「……然り。何事も己の意思で決定したことでなく、そうさせられているだけとしたら? ただ、流されているだけだとしたら? 問うが、君はそれで良しとするのか?」

 

「傍観者としてなら憐れに思う」

 

「当事者としては?」

 

「だったら──そうだな」

 

 少し、考える。

 草木も生えない、この無謬の鋼色の地平に座りながら、天蓋を閉ざした夜を仰ぐ。

 

 そんな人生があるのなら。

 そんな人生にされているのなら。

 

「脚本家に直談判するね。値千金叩いてでもシナリオの変更を求めるよ」

 

「ほう。ならば例えば、どのように?」

 

「倒す」

 

 脳筋一択。

 そして、

 

「私に書かせろ、と言う」

 

「……はははは。なんともまあ、豪胆なことだ」

 

「そっちの方が手っ取り早くないか……?」

 

「交渉や取引や説得や、そういったものは使わないと? 力に訴えるか、君は」

 

「物理で解決できそうなことは物理で解決したいんで……」

 

 頷くと、いやはや、と影絵のような男は肩をすくめる。

 影絵、とっても私の眼にその姿ははっきりと映っている。そこそこに端整な顔立ちの成人男性。背にかかるほどの長い黒髪。服装は中世ヨーロッパを思わせる黒外套。雰囲気は彷徨い過ぎた世捨て人かなにか。それでいて、あらゆるものを諦観し、俯瞰し、見通すような賢者がごとき目付き。そう、彼こそが!

 

 

 この世界の現サーバー管理者である。

 

 

 違った。いや合ってるけど、もっとかっこよく言うなら、水銀の王メルクリウスである。

 ……だよね?

 

「まあ、多少の語弊はみられるが大体その理解でよろしい。しかし、あまり驚かないのだね。()()()()()()()だ。これまで私以外に、訪問者はいたのかな」

 

「いませんよ。けどまあ、アンタなら不思議じゃない。私はただのスレ立て人で、そっちは管理者にして運営者。住人なのはこっちの方だ」

 

「よく見抜く眼をお持ちのようだ。では名乗りは……メルクリウス。水銀、としておこうか」

 

「そう。知ってる」

 

 眼とかなんとかは知らないが、知識で知っている。

 初めから。

 生まれた時から知っている。

 

「それでなんのご用ですかね。ご覧の通り、ここには何もない。暇つぶしに来たっていうなら、それなりに、もてなしはできるけど……」

 

「いえ、結構。此度は君をスカウトにしに来たのだよ」

 

「……なんて?」

 

 こんな引きこもりを何故?

 私ってば邪魔になるからおとなしくしてよー! と、ここに篭っていたのに……なにゆえ?

 

「それこそ言うに及ばず。この既知感を超越するために」

 

「えぇ……いやそれも知ってるけど……」

 

 私、いらねーだろ。

 キャストはとっくに揃っている。余分な駒を増やしてどうするというのだ? まさか私を主演にするなんて銀河が引っくり返ってもありねえだろうし。

 

「要は、君を養子にしようと思ったのだよ。その姿、その年齢、そしてこの世界。魔道の素質は充分だ。或いは、君こそが既知を打破する鍵となるやもしれぬ。ならばその選択(かのうせい)、ここで見過ごすわけにはいくまいよ」

 

「養子っておま……」

 

 確かに私の肉体年齢は14歳で停まっていますがね?

 なんなら幼女体で、めちゃくちゃロリロリしているがね?

 ……まさか。

 

「ロリコンではない」

 

「アッハイ」

 

「うむ、分かってくれたなら何より。して、どうするかね?」

 

「あ、拒否権があるんだ」

 

「こう己の世界に引きこもられてしまっていてはな。だが君は選ぶべきではないか? 異分子であるという自覚があるのなら尚の事。君とて、そのような自分に酔いしれたいはずだろう?」

 

 うわぁ、その言い方すげえムカつく。

 こいつが嫌われる所以の一端、それを垣間見たぜ。

 

「──否定はしないけど。しかし疑問だ。なんで私を巻き込む必要があるんだ。異分子だろうと限界はある。アンタが望む未来に到達できる可能性は、私がいない方が高いんじゃないのか?」

 

「否。それは否だ」

 

 それではまったくダメ()()()のだよ、と──

 メルクリウスは首を振る。これだから既知感初心者は、なんて言いたげな古参ヅラで。

 

「君は異分子でありながら、既にこの世の要素に組み込まれてしまった。それも随分と根深くね。だが私は君に感謝している。()()()()()()()()()()()()()()()。なぜなら、こうして再び回帰を行えたのは、他ならぬ君の偉業のおかげなのだから」

 

「…………どういうこと?」

 

「異分子といっても、君は本当に特殊な異分子、なのだよ」

 

 もったいぶるような言い回し止めてほしい。マジでそれ悪癖だよな黒幕の。

 

「とはいえ、今の君が知らなくてもよい事情ではある」

 

「いや、気になるんですけど」

 

「では私の歌劇に参画してくれるかな?」

 

 メルクリウス超うぜえええええ!!

 人の神経を逆なでする大天才かこいつ! ウザイウザイと覚悟していたけれども、そういうキャラなんだと分かってはいたけれども、ここまでウザイか! 実際に会うとここまでウザイか!

 

 そりゃあ皆、殺意わくわ……

 まだ出会ってもいないが、私はラインハルト・ハイドリヒを尊敬します。こんなのに付き合って親友ポジやれるのマジであの人しかいねーって。

 

「えーっと……待てよ……騙されちゃいけない。そもそもこいつは『参加してくれるなら君の正体を教える』なんて一言も言っていない。だからここで参加の意志を表明しようと、私は私について何も知ることができない──!!」

 

「ははは、よく分かっている。まぁ詐術の常套手段ではあるのだが」

 

「マジうぜぇ……」

 

 虫唾が走るぜ!!

 

「まぁ、君の意志なんぞ知ったことじゃないのだがね。なにせ私はもう君の養父だ。パパと呼んでくれて構わないよ。君が嫌がろうとその幼い姿で甘美な泣き姿をさらそうと、私の魔道を授けることは決定している。確定事項だ。せいぜい『ゲスト』として踊ってくれたまえ」

 

「……魔道って……つか待てよ水銀、アンタ、『ゲスト』って……自分で何言ってるか分かってるのか? ()()1()8()0()7()()()()?」

 

「おっと、それ以上はいけない。なにせ現時点の私は、割と直感と感覚で君と喋っているからね──己が触覚だという自覚はあるが、『何故そうなのか』は把握していないのだよ。たとえそれが既知であったとしても」

 

 ……そういや未来視ができるワケじゃねーんだっけこいつ。

 

 ここでネタバレ全開でざっっっくりと世界観を説明させてもらうと、要はこの世界、壮大な()()()()()だ。

 

 ループ。

 繰り返し。

 永劫回帰。

 

 壮大っていうのは、夏休みを無限ループしたり、一週間をループしたり、そういった一定期間の繰り返し、ではなく──世界の創造起源、宇宙誕生からず~~~~っと、永遠永劫にループしている、ということだ。もはやこの時点で相当無理やってる世界だとお分かりだろう。

 

 つまり死んだ瞬間に母体に回帰して、また同じ人生が始まるのだ。

 

 実に呪われた世界構造である。

 

 その原因を一言で説明すると、目の前のこいつ──メルクリウスが悪い。全部悪い。

 なにもかもがマッチポンプ。こいつのせいで人生狂った奴らしか出てこないのがこの世界の特徴だ。そして今、私もその一員に加わろうとしている。

 

「え~……」

 

 だから分かってくれるだろうか。このやる気のなさを。

 嫌だなぁ~……という、このうんざり感をッッ!

 

 絶対ろくな目に遭わねえ。

 死ぬよりヒドイ目に遭う予感しかしねえ。

 グエ────。

 

「学園伝奇バトルオペラADVかぁ……」

 

「?」

 

 あ、ホントにこっちが何言ってるか分からん顔してるこいつ。

 もしかしてレアな顔では?

 

「はあ……まぁ、監督直々のお誘いなら受けようかな。どうせ暇だし」

 

「よろしい。賢明な娘を持てて父は幸せだ」

 

「やだよぉ、こんなパパ……」

 

「ところで、まだ君の名を聞いていなかったな」

 

「知らずに来たんか。レイシアだよ」

 

 いったいこれからどんな地獄が私を襲うというのだろうか。

 嫌な予感百億倍。絶対にろくな人生がこの先、待っちゃいないだろう。

 

 だが直近で一番嘆くべき事柄は……

 

(…………このクソニートと共同生活するっていうのか……?)

 

 この、現実的な明日からの新生活、という天災だった。

 

 

     ※

 

 

 クソニートことメルクリウスこと水銀パパとの同居生活……というか放浪生活が始まって三年が経過した。

 

 魔道を授ける、という宣言通り、私は水銀神から直々に魔術の手ほどきを受けた。まずは己の渇望を自覚し、それを力に変えるのだと──つまり厨二力を高めるのだと!!

 

 ……うん。そっちの方の才能は心配なかったです。というか転生してる自覚がある時点で合格だってよ。才能あるよって言われてこんなに複雑な気持ちになるなんて流石は水銀野郎だよ。

 

 さて、そんなウザ神・水銀の近況といえば、

 

「……ああ、マルグリット……マルグリット、マルグリット、マルグリット……我が女神……」

 

 ご覧の通りでございます。

 一応経緯を説明すると、私たちはフランス革命の真っただ中にいた。そこでのブームはギロチン斬首。港町サン・マロ。収穫祭の日、断頭台に金髪の少女が登り出た。

 

 彼女の名をマルグリット・ブルイユ。

 この世界──「Dies(ディエス) irae(イレ)」のメインヒロインが一人である。

 

 で、率直にいうと、これからこの水銀野郎がやらかす「歌劇」こそ、()()()()()()()()()()ための盛大な催し物なのである。

 

 ……ちょっと言っている意味が分からないと思うが、つまり、このクソウザ水銀は死にたがっているのだ。

 だが水銀はウザくとも神格なのだ。そして神格として流れ出ている世界のルールは、「ループ」。

 永劫回帰の繰り返し。奴が望む結末を得られるまで何度でも繰り返す。それがこの世界の根幹だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。うむ、意味が分からん。だがこいつの本体がいる「座」という場所には時間軸の概念がない。そしてこいつの渇望は時間軸を無視する。なので矛盾は法則として成立するのである。よし、自分でも改めて頭の整理をつけようとしたが意味が分からん。

 

「決めた。決めたぞレイシア。いいや決まっていたのだ。やはり彼女こそを次の神にするべきなのだ」

 

「知ってた」

 

 ──で、奴の渇望自体は本人も分かっていない(忘れている)が、目的はただ一つ。

 “マルグリットを次の神にすること”。

 その結末のために世界を繰り返し、彼女のために活動するのが、この水銀である。

 

 さて、そんな感じの残念養父は順調に最悪プロデューサー道を歩み始めているのだが。

 

「……ところで、彼女に出会えたんだから、そろそろ聞かせてもらっても? なんで私を歌劇に登用したんですか?」

 

 愛した既知に会えた今の奴は機嫌が良い。

 長年の疑問をぶつける好機である。

 

「ああ、そんな話もあったね。いいだろう、聞かせてあげようではないか。君がどれだけ面倒くさい因子としてこの世に存在しているのかを」

 

 あ、これまたウザ解説始まるな。

 そんな予感の通り、その後の水銀解説はこれまでに類を見ないレベルでの長台詞となった。上機嫌だからかウザさが倍増していたのだ。だが「己の真相」を聞ける機会などこの時をおいて他にはない。なので私は超人的な忍耐力で、なんとか水銀の語った長話を聞き終えた。

 

 要するに、以下。

 

 

 レイシアとは並行世界で生まれた異分子であった。迷い込んできたそれを見過ごした結果、Dies本編がいつまで経っても共通ルートにすら入らないというドン詰まりの結果を繰り返していることに気付いた。

 

 ではそこで私を採用する考えになるかといえば、否。なにせ水銀は繰り返しが出来る力の持ち主だ。過去の因果を操作し、私という存在の発生因子から潰してしまえば問題ない。──だが。

 

「そうすると、何故か、私がマルグリットにさえ会えなくなった」

 

 つまり、彼女を愛する水銀にとって最悪の事態になった。

 

 これも水銀の推測なので本当か定かではないが、おそらく「一周目」……とここでは定義する根幹の世界線で、私の行い・影響で水銀はマルグリットの処刑を見に行く流れがあった。具体的に私のどういうものが影響したかは分からないが、まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()って点が怪しいそうだ。これも奴の推測だから信憑性は薄い。

 

「故に、仕方なく、君に干渉せざるを得なかった。まったく困ったものだ、一体、君の真なるルーツはなんなのだろうね? 私と彼女を引き裂くための邪神かな」

 

「割と本気の意志で消そうとする考えを見せるの止めろよ。私だって知らねーよ……」

 

 恩義とかいう話はどこにいったんだよ。こっちも身に覚えないけどさ。

 

 つまり、まあ、なんだ。

 この世界において、私は間接的遠因なれど、Dies iraeを織りなす重大因子になってしまっているようだった。主人公には今から謝っておきたい!

 

「というわけで、ここまで私の手を煩わせてくれたのだ。君にはしっかりと演者の一員として役目を果たしてもらわねばならない。分かったかね、自分がいかにどれだけ無知蒙昧かつ傍迷惑な存在であるか」

 

「りょーかいりょーかい。少なくとも罪悪感の一端はわいてきた。アンタへの殺意は消えないけど」

 

「ならばよろしい。己の立ち位置を把握できたなら重畳だ。特例も特例のゲスト出演、存分に舞台をかき回せレイシア。私に未知を見せるために」

 

「へいへい」

 

 まぁ──これで水銀と同行する状況に、納得はした。したくはないけども、した。

 彼が既知感に囚われ続け、苦労している責任が私にもあるというなら、それを打破するため、微力ながら力を尽くそうじゃないか。

 

 

 ────そう私にも純粋に思っていた時期がありました。

 

 この数年後、私はやはり、相変わらず、水銀クソ野郎を滅さねばならんと誓うことになる。

 

 

「人を山ん頂上に置き去りにするってどういう神経してんだあンのクソ水銀がぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」

 

 

 肌を焼くような極寒の暴風を受けながら。

 標高八千メートル越えの極限の標高環境(エベレスト)にて。

 私はこの世に生を受けたことを、強く、強く、強く、強く…………後悔した。

 

 




 求道の殻に篭って自分用に書いていたけど書き上がっちまったので流出を開始するぜ!
 効果:みな、ことごとく、ロリコンになれ。

 ……未来視できねえっつってんのに主人公に干渉してるのは、”座”からの意思が働いてるってコトで一つ。
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