幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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13 浪漫兵器の装備は基本

「まったく、なんだったんですか。やっぱり騎士道なんて、あなたには早すぎる概念だったんですかね」

 

「まぁまぁベアトリスさん。これも中尉なりの騎士道ってやつですよ」

 

「好き放題言ってくれてんじゃねえ、この馬鹿女ども」

 

 しかし車の強行軍は、私にとっては割かし楽しい時間であった。

 なにせ運転中のベイ中尉の横顔を見放題である。この人が車を運転してる光景なんて新鮮すぎる。“視線がうるせえ”とか言われたが、これくらいの従者の自由は許してほしいものだ。

 

 そうして、やがて私たちは辿り着いた。

 スモレンスクという町から、そう遠くない、名もなき池のほとりに。

 

「ようこそ──って言うのも変だけど。待ってたわよ三人とも。ここに来るまで、なにか困ったことはなかったかしら?」

 

 陽も落ちてすぐの夜頃、そこで出迎えてくれたのはリザ・ブレンナー。

 今回の作戦の本来の指揮官様だ。綺麗な女性だが、その業はすげえ深い。いわゆる、ネクロマンサー的な能力の持ち主である。

 

「いえ、特にこれといったものは何も。道中、お二人の口喧嘩も見てて面白かったですし」

 

「う。お、面白かったんですか」

 

「てめえのその黒円卓マニアっぷりはどうなってんだよ……」

 

 えー? 本当に面白かったけどなあ。

 ベイ中尉が憎まれ口を叩いて、ベアトリスがそれに正論かまして、ベイ中尉がキレて、私が合いの手を入れて、やっぱりベイ中尉がキレたりツッコミ入れて。

 

 いやぁ、充実した移動時間でしたとも。

 ていうかベイ中尉のツッコミっぷりが好きだね、私は。

 

「それでバビロン、状況は?」

 

「そうね。じゃあ、軽くおさらいからいきましょうか」

 

 咳払いをして、指揮官の顔になったリザさんが説明を始める。

 カチンの森事件。時代背景なんかはこの際カットして、現状必要な情報だけ抜き出すと以下の通り。

 

 森にある大量の死体が動いている。

 なので駆逐する。

 以上!

 

 ってなワケで、いざ森の中へと出発。奥へ進むたびに霧が濃くなってくる。ホラー映画みたいだ。まぁ、実際に虐殺が行われたという場所なんで、マジモンのいわくつきなんだが。

 

 しかも『奴』がいるしな。

 憂鬱。

 なんか胃がキリキリしてきたぜ。

 

「──ところで、レイシアはもうこの森のカラクリには気付いてる?」

 

 歩いていると、リザさんからそんなご質問が投げられた。

 嘘つく意味はないので正直に答える。

 

「はい。見当はついてますよ」

 

「……流石は副首領閣下の使い魔ね。今日の異能は、大丈夫?」

 

「ええ、当たりです。ご命令さえあれば、この森ごと吹き飛ばせますけど」

 

「「!?」」

 

 先を歩いていたベイ中尉とベアトリスから動揺の気配。

 ぬはははは。今日の私は凄いですよー? 賭けには勝った、と言ってよいだろう。

 

「そ、それは凄いわね……けど、これは私たちがやらないと意味がないから、しばらく待機ね。戦いが始まっても、安全なところで静観していてちょうだい」

 

「了解しました」

 

 とまぁ、軽い打ち合わせはこんな感じで。

 おや? ベイ中尉がなんとも言えない目でこっちを見てきている。

 

「どうかしました、中尉?」

 

「……あんま大口叩いて恥晒すなよ?」

 

「な、なにおう。天下の対城宝具ですよ? すっごいビーム! なんですよ!?」

 

「ああ、そう」

 

「全然信じてなーい!」

 

 ぐぐぬぬぬ。覚えてろよー。目に物を見せて……いや、見せ過ぎたらそれはそれで拗ねられるだろうか。従者の力が強すぎるってのも、ご主人のプライド的にあれだろうか。難しいナー。

 

「ベイ、なんか変わったわね」

 

「はァ?」

 

「やっぱり可愛い女の子にお世話されてると、思うところもあるのかしらねえ」

 

「戦闘狂にロリコンに加えて、これ以上どう悪化するんでしょうか……」

 

「変態度合いをてめえらだけにゃ計られたくねえんだが?」

 

「いや、どう見たってアウトいってるのはそちらでしょう」

 

「雨ですね」

 

 そろそろ剣呑な空気が漂ってきた時、ポツリと雨粒が降ってくる。

 ちょうど場所的にも中心部だ。死臭がする。ここが「動く死体」の発生点。丘の手前、不自然にひらけた深部が広がっている。

 

「うわっ、降ってきましたね。って、レイシアちゃん?」

 

 ひとまず流れるように折り畳み傘を取り出して展開する。

 はい、じゃああと頑張ってー。

 

「──来るわ。二人とも、臨戦態勢をとりなさい」

 

 リザさんの一声でベイ中尉とベアトリスも勘付いたようだ。深部の地面が盛り上がり、そこから続々と動く骸骨の群れが起き上がり始めている。うへぇー。

 

「おいおい、まんまじゃねえか」

 

「多いですね……面倒な」

 

 生気も魂もスッカラカンの木偶の軍勢だ。それが二万体はいるくせ、相応の魔術攻撃じゃないと駆逐できないときた。足止め、バリケードとしての仕事には十分すぎる壁だろう。

 

「「Yetzirah(形成)──」」

 

 ベイ中尉の身体からは杭が生え、ベアトリスの手には雷電を帯びた剣が顕現する。

 直後、巻き起こる蹂躙の嵐。片っ端からベイ中尉の茨杭が叩き込まれ、ベアトリスもベアトリスで雷撃一閃、塵風を発生させながら死体たちを蹴散らしていく。

 

 まさに人間戦車というべきか。

 とにかく派手に、加減なしに二人とも暴れている。それでいて息の合った動きで殲滅しているのだから、やっぱ戦場慣れしてるなあ、と思う。

 

「ふぁいほー」

 

 それを後方で眺めつつ、持参していた棒付きアメをくわえる私であった。完全に観戦モード。やることねえ。ここから三時間向こうは待ちぼうけかな。

 

「レイシア、自分の身の安全は自分で守れるわね?」

 

Ja(ヤー).お気になさらず。迎撃に徹します」

 

 と、リザさんと話していたら討ち漏らしが何体か襲い掛かってくる。あの二人の猛攻を潜り抜けてくるなんて運の良い奴らである。

 

「邪魔邪魔」

 

 ベイ中尉の勇姿が見えないでしょうが、退きたまえ──と思いながら、スカートの中からマシンガンを取り出す。装填弾は由緒正しい銀製だ。掃射して数体は吹き飛んだが、仕留め損なった二体が突っ込んでくる。しかし此方の間合いに入る直前、変形機構を稼働させてマシンガン部分を引っ込めると、滑り落ちるようにして大鉈が飛び出す。無論、この刃も銀製。そのまま横薙ぎにすると、一歩も動かないまま敵の駆逐が完了する。

 

「ちょっ……な、何、その武器……?」

 

「自前の改造装備っす」

 

「なんかスカートから出てきた気がしたんだけど」

 

「女の子のスカートには秘密がいっぱいなのです」

 

 収納魔術(ハンマースペース)の一種と思ってほしい。これも水銀クソ野郎から教わった小技である。幼女のスカートには浪漫があるものだ。これ、世の常識なれば。

 

「もうちょっと細やかにやってくださいよ、ベイ中尉ー! こっちに敵が漏れてますよぉー!」

 

「あぁ!? 聞こえねえなぁッ!!」

 

「あーもう、完全にヒャッハーしてやがる……」

 

 返事が雑だし。ってか、またこっちに何体か来てるし。

 適当にボコしておく。斬、斬、ざーんっ。どががががー。

 

「……慣れてるのね。貴方の戦い方、無駄がない」

 

「いやぁ、人型の敵には特別な技術は要らんでしょう。突き詰めた結果──です、よっと!」

 

 わざと鉈を敵に食い込ませ、骸でリーチを伸ばしつつ他の数体を巻き込み、まとめて遠くへと放り出す。落ちる場所はベイ中尉が戦っている最前線だ。狙い通り、次の瞬間、彼の杭の乱舞の中に塵どもは消えていった。よし、いちいち倒すの面倒だし次からこれでいこう。

 

「俺を使うとは良い度胸してるじゃねえかクソ従者ァ!!」

 

「ヤベッ、バレた」

 

 後で殴られるのを覚悟しつつも、どんどん漏れた個体を投げ飛ばしていく。あー、楽でいいわこれ。本当に後が怖いけど。なるべくベアトリスの方に多めに投げとくか……

 

 そうこうしている内に、リザさんの準備が完了する。

 死体操作の専門家の手にかかれば、数の劣勢は一瞬で覆った。敵勢の半分がこちらの手駒と化し、本格的な掃討戦が開始したのだ。そこまで展開が進むと、もう私の出番も激減し、最後の一時間はぼーっと周辺の樹の枝の上から戦場を俯瞰しているだけとなった。

 

 

「お疲れ様ですー」

 

 予想通り、事は三時間弱で終結した。

 樹から飛び降りると、合流してきたベイ中尉がこっちにやってきて──いだだだだ。

 

「謝意を述べろよ。敬意を以って」

 

「さっすがベイの兄貴、吸血鬼(ヴァンパイア)の中の不死鬼(ノスフェラトゥ)! これは惚れ直さざるを得ませんわー。わー!! すいませんすいませんでしたってば!」

 

 片手で頭を掴まれて持ち上げられ、その指に力がこもるのを感じたので慌てて謝罪する。ケッと地面に投げ捨てられ、尻餅をついた。幼女の扱いがなってないぞぉ、この人。

 

「レイシアちゃん、意外と異能(げんそう)なしでも戦えるんですね……?」

 

「そこそこですよ。一般人には負けないぞー、って程度です。小手先と小細工だけで生き延びてきたようなモンですから」

 

「それはそれで逆に凄いんじゃ……?」

 

 っつっても、水銀野郎の魔術(エイヴィヒカイト)で格段に強化が掛かってる黒円卓の皆さんと到底渡り合えるようなレベルではない。改造装備も長生きにおける趣味の一環だ。戦場を渡り歩く兵士の中でも、毛が生えた程度の実力(水銀基準)である。

 

「とりあえず向こうの下、洞窟っぽいの、さっき発見しましたよ?」

 

 立ち上がりつつ報告すると、リザさんが頷いた。

 動く死体の元凶。それが潜む奥底へ行って原因を叩く。丘を下れば、斜面にぽっかりと地下へ通じる入口を三人も目にした。

 

「行くわよ。皆、充分に気を付けて」

 

 リザさんの言葉に頷き、全員で暗がりに足を踏み入れていく。

 ──カチンの森の怪異、その解決は目前にまで近づいていた。

 

 

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