幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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16 絵面がアウト by黄金

 初恋(はじまり)を枯れ落ちさせるRTA、はーじまるよー!

 

 はい、ここまでN時間X秒かかりましたが、平均的なタイムだと自負します。とりあえずこれでヴィルヘルム・エーレンブルグの攻略ルートに入れたかと。まぁレギュレーションはAny%(なんでもアリ)なんで大目に見てね。

 

 ここからは主に各キャラクターの好感度調節と、適切なフラグ立てが重要になってきますね。最速攻略ルートを目指すので、グラズヘイムの皆さんの出番は予定していません。

 

 力を持ちすぎたニートに余計な宣戦布告をさせてはいけない。(重要)

 

 これを達成できるかどうかが、最終タイムを決定づけることになりますねー。

 つまりプレイヤースキルが試されるというわけです。方法? 手段? チャート? そんなのは運任せです。『幻想偽典』さんに祈りましょう。

 

 ──さて、そんなわけで今回はコチラの場面からスタート!

 

 

「なるほど、それが顛末か。ご苦労バビロン、ヴァルキュリア、そしてベイ。皆、大事ないようで何よりだ。……ん? どうした? ああこれか? ははは、可愛らしいだろう。膝に乗せると面白いほど静かになる。しかも芸をと歌わせると()い声を奏でるのだ。カールの教育もよく行き届いている。私としては、もう少し気安く接してもらってもよいと思うのだがね」

 

 

 初手、黄金閣下による公開処刑中でーす。

 

 たすけて。

 

 

     ※

 

 

「憐れな……」

 

 ぼそりと、あのザミエルが言うほどのことに、場の全員の心は一致していた。

 カチンの森での報告をと、ハイドリヒ卿の御前に参じたのである。そしてそこで見たのが、この光景だった。

 

 なんか白い幼女が黄金の獣の片膝に乗ったまま死んでいる。

 

 絵面のインパクトも半端ではなかったが、乗せられている動物の方も尋常ではなかった。

 おまえ一体そこで何をしているんだ、と全員の視線が集まった中──

 

 

タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ──────ッッッ!!!!!!!!

 

 

 死に沈んだ目から、たった一つだけ読み取れる感情はそれだけだった。

 表情は一切動かない。呼吸しているかも怪しい。細胞活動すら停まっているのかもしれない。

 骸人形と化した白い少女を、完全に犠牲者だと理解するのにさほど時はかからなかった。

 

「つんつん」

 

死殺ロス絶ツ水銀ァ……!!

 

「おお、こわいこわい」

 

「カール、遊ぶな」

 

 そしてやはり自由なカール・クラフトは平常運転。幼女の頬を突いて怒気を煽っている。決して殺気だけは出さないようにしている少女の心中やいかに。並外れた感情操作であろう。

 

 ちら、とヴィルヘルムと少女の視線が合う。

 黙って逸らした。少女は無表情のまま更なる絶望の底に叩き落とされる。俺に助けを求めるな。

 

 なんというか、間抜けた絵面だが、連想できる絵は一つだ。

 獅子に転がされる、或いは口にくわえられた小兎。

 憐れという感情以外に、一体何を抱けというのか。

 

「ははは。まぁまぁ戯れも程々にしましょう、獣殿。そら、しばらく此方は私が預かっておきますゆえ」

 

 と言って、メルクリウスが幼女を回収していく。ゴリゴリに精神を削られた従僕は、養父に抱えられても人形よろしく動かない。罵倒する気力すら尽きているらしい。

 

「うむ、任せた。それでルートヴィヒ、と言ったかな」

 

 その一言で場の空気が切り替わる。先ほどまで膝に動物を乗せていたものの、王の覇気に揺るぎはない。

 ただ声をかけただけで他者を呑み込まんとする威風。それを受けた男は、当然ただでは済むまいと黒円卓の誰もが思ったが──

 

「如何にも、私がルートヴィヒ・ヴァン・ローゼンクランツだ。そしておまえが、ラインハルト・ハイドリヒだな?」

 

「──っ、てめえ!」

 

 ヴィルヘルムを含めた、黒円卓の幾人かが殺気を露わにする。我らの王に“おまえ”呼ばわりなど命知らずも甚だしい。それを、死に目の少女だけが「獣殿って慕われてるなァ」と薄い意識の中だけで思う。

 

「……国軍を率いる大将閣下ならば礼も払うが。今は公的に死んだとされる御仁だろう。ならば彼も、それに従うお前たちも一個人と私兵に過ぎず、扱いはこの辺りが妥当だろうよ。違うかね?」

 

「その通り。彼の言い分に間違いはない。今の私はただの個人で、部下でもない者から敬われる筋もない。私と彼は対等だ──話を続けたい。ゆえに卿らは控えていよ」

 

 爆発寸前の部下たちを、ハイドリヒ卿の命が抑え込む。それに渋々ながらも、膝を上げかけていた者らは従っていく。

 

「して、私は何を話せば? カチンにおける事の次第は、先にそちらも聞いた通りだろう」

 

 ルートヴィヒの身元は判明している。三日前に電報を受け、教皇庁の所属といっても裏側の席──公的にはいない者として扱われていた。

 

 では、わざわざ似た者同士である黒円卓についてきたのは何故か。これから雲隠れするにしろ、足を洗うにしろ、しかしどのみち──

 

「ここから離れる気はないのだろう?」

 

 とハイドリヒ卿は言い当てた。

 

「その目的は知らんがね。しかし望んで留まるのなら、多少の融通は利かせてくれんか」

 

「……どのような?」

 

「カチンの怪異について、卿から見た見解を聞かせてほしい。一人だけ何も話さんというのは不公平だろう。私は卿を歓迎したいのだ。客人と語らいたいというのは、それほど罪深いことかね?」

 

 ──黄金の求めに対し、やや瞑目してから、降参するようにルートヴィヒは首肯した。

 

 

     ※

 

 

 ──ぼんやりとした意識が徐々に回復してきた。

 業腹だが水銀には救われた。背後にいるのが黄金ではないというだけで、こんなにも気が楽になるとは。しかしコイツに抱えられているというのも、まるで背後に底なしの宇宙空間が広がっているような気がして、常にSAN値チェックを要求されている感覚になるのだが。

 

 黄金といい水銀といい、なぜこんなドキドキチャレンジがあるのか。幼女で遊びすぎじゃあないか、この二大魔王!

 

 目の前では現在、ルートヴィヒによるカチンの怪異講義が行われていた。要は、あの森では結局なにが起きていて、何があったのかを説明するシーンなんだが、元凶はこいつである。

 

「大量の血がばら撒かれ、相応の屍の山が築かれた。結果、眠っていた神秘の目を起こすことになった。大地に浸透した血河は、ソレの寝所に到達していたのだ」

 

 お前のな。

 

「結ばれた“上と下”の繋がりは、満月の夜の雨に成立する。そうしてカチンの犠牲者たちは動く死体となり、新たな死者を求めてさまよい歩く。そういった術式に組み込まれたのだ。動く死体というのは単なる栄養補給。──要は、カチンの怪異とは吸血鬼だった」

 

 お前がな!

 

「私は空想上の怪物という意味でソレを口にする気はないが、そういった概念がある以上、真似る者は出てくるものだ」

 

 お前がなぁ──!!

 

 いやまあ、こいつは単に皮を被ってただけなんだが。

 原典(オリジン)という話をするなら、ルートヴィヒの正体とはソレにあたる。マジモンの神秘そのものなのである。つまりこの世の神秘には変態しかいねえ!

 

「とかく、この世にはそういった二次的に発生する“もどき”が多いのだよ」

 

 ルートヴィヒの失笑はベイ中尉に向けられている。

 が、薄い意識の中で見えたベイ中尉は、一切の動揺らしきものを見せなかった。表面上だけのかもしれないが、まるで凍てついた氷のように失笑を受け流している……ような?

 

「して、そのカチンの吸血鬼は復活する前に、彼女の聖剣によって打ち払われたと。それに地下の玄室に、塵と消えていく骸があったとも聞いた。そうだな、バビロン、ヴァルキュリア」

 

「はい。この目で確かに」

 

「レイシアの幻想(攻撃)が突破口になったのかと」

 

 ハイ、分かりやすい落ちをつけてしまった私です。

 闇には光を。実に分かりやすい真相である。──問題は、ここに這い出てきた奴がいるってことだが。

 

「ルートヴィヒ、卿はこれをどう捉える」

 

「他に考えようもない。古来より、吸血鬼を払うものといえば光だろう」

 

 ルートヴィヒの視線がこっちに向いてる気がするが絶対に返さない。絶対にだ。わしは今、無機物です。声がけされない限り何の反応も示しませんッ!

 

「ふふ、ふふははは、はははははは────」

 

 ──そんな確固たる意志を崩すように響き渡る、気色の悪い笑い声は後ろから。

 水銀のバカである。

 一同は、その笑い狂いっぷりに絶句していた。

 

「結構、結構。清らかな乙女の祈り(こえ)が闇を払うと……実に浪漫溢れる劇談だ。素晴らしい話ではないか、喝采しよう。私も同意するのはやぶさかではない。存外、真理とはそのようなものであろうよ。男ならば誰しも、女神の腕の中で眠りたいと願うもの……ふふふ、はははは、ははははははははは──!」

 

 気持ち悪い笑い芸を一人続行する水銀野郎。こいつ、同類を見つけて喜んでるんじゃねぇよ。

 触覚といえど、神座にいる存在なので素の笑い一つで周りに悪影響をもたらしている。魂にへばりつく精神不調とかどういう笑いなんだよこいつ。

 

「ウルサイ」

 

「そこまでにしろ。気味が悪いぞ、カール」

 

 私がやや早く肘を突き、続いてハイドリヒ卿が水銀の笑いを断ち切る。

 場の空気が戻り、水銀の笑いに毒されていた面々の顔色も安堵したものになった。

 

「これは失礼。しかしレイシア、おまえとしてはどうだったのかね。どういう心持ちで闇を払ったのか、私はそれが気になるなあ」

 

 やっと腕から私を降ろしつつ、そんな事を訊いてきやがる。オイ抜き打ちの試験問題出すんじゃねえ面倒くさい。

 が、今なら普通に答えられそうである。

 どういう心持ちで? 決まっている。

 

「あの程度は闇じゃない。邪魔な幕があったから斬ってみただけですよ」

 

 ──実際、「魂の闇」を見せるという暗がりは、私の目にはおびただしい量の小動物の群れにしか見えていなかった。この身体、視力がイイナァと改めて思ったものだ。

 

「……フ」

 

 おいちょっとそこ微笑してんじゃねぇ赤毛の方の変態なに嬉しそうにしてんだよ。エクスカリバるぞ!

 

「よろしい。闇といえば光、という短絡極まる愚考だけで行動していないようだと知れただけでも重畳重畳。娘の成長が知れて親としては嬉しいよ」

 

「──娘?」

 

「そうだが?」

 

 おい、水銀と変態、そこバチバチするな。

 お前ら、やるつもりか? 「娘さんを僕にください!」やるつもりか!? 嫌だぞ私に殴らせてくれよ。

 

「──なるほど」

 

 そして勝手になんか自己解釈して自己完結してるっぽい新顔の変態ルートヴィヒ!

 謀ったな、というよりも、なんだその……決意に満ちた、“やってやるぜ”の目はよ!!

 

「幕……か。ではレイシア、卿の目から見てのカチンの怪異はどのようなものであった? 暇を潰せる機会にはなったかな」

 

 黄金閣下、直々の問いが不意に投げられたので気絶するかと思った。

 ここで聞くのォ──!? 無視してくれてよかったってのに水銀がまた余計なクチをよォ──! がァァ──!! ──瞬時に脳内で答えをまとめ上げて回答する。

 

「……っすねぇ……大まかな概要はルートヴィヒが先述した通りかと。天地の繋がり、死者の山稜、贋作吸血鬼……ギミックに穴はない。ただ、()()()()()()()()()()が分からない」

 

「必然性がない、と?」

 

 ……ルートヴィヒの言葉に頷いてやる。

 

 そう、客観(メタ)的に見れば、そこで吸血鬼が発生する理由が不明なのだ。それもそのはずで、そもそも神秘自身が吸血鬼の皮を被っていたからで、伴侶見つけて同族になろー! とかいう侵蝕マッチング待ち変態プレイ中だったとか誰が思うかよ。それお見合いですらでないから、インベーダームーヴだから。

 

「まぁ、今となってはどうでもいい動機(コト)ですが。しかし光で消えてしまうとは軟弱脆弱、吸血鬼という幻想に対する浪漫と信仰が足りないと言わざるを得ませんね。──リスペクトもプライドもない物真似など消えて然るべき! 私はそう思いますね! 以上です」

 

 グサァ、と何か傷ついたような表情を滲ませるルートヴィヒだったが無視する! 安心せい、これ自虐ネタでもあるから。

 

「卿にそこまで言われては神秘も逃げ出す他になかろうな。では、この辺りで締めようか。実に有意な会合だった。──皆の者も大儀であった。卿ら、戻って休むといい。各々、今は待つのが戦だと心得よ」

 

『──はッ』

 

 ハイドリヒ卿がそう締めくくって、報告会は終了する。

 一斉に皆が立ち上がって去って行く。軍人として統制された完璧な動きである。純粋にカッコいい。しかし、そんな中、

 

「……おまえは何も変わらんな、水銀よ」

 

「そちらはそちらで変わったようだな、メトシェラよ」

 

 ジジイ二人は旧友の挨拶なんか交わしている。

 私もここでお暇させてもらおう……と思っていると。

 

「卿もご苦労だった。此度の戦、最も大きい戦果を挙げた身として誇るとよい」

 

「……感謝の極み」

 

 とりあえずハイドリヒ卿相手にはコレ言っときゃ不敬にならんだろワード辞典No1! くっ、ついにコレに手を出してしまう日が来ようとはな……!!

 

「して水銀よ」

 

 ──しまった。ハイドリヒ卿の言葉を無視できないせいで、このままジジイ二人の会話劇を見る羽目になった。

 

「レイシアは、黒円卓においてどのような立ち位置にあるのだ?」

 

 わし、帰っていい? 無視していい? あっヤベ、まだ見てる、ハイドリヒ卿が見てる! このジジイ組と幼女が繰り広げる茶番劇の鑑賞モードに入っておられる!!

 

「それこそ無関係のおまえには関係なかろうよ。ま、しいて言うなら彼女は私の義理の娘、使い魔だが」

 

「ほう……使い魔」

 

 こっち見んな。

 

「さよう。まぁ何かと便利でな。ふふふ、羨ましいかね」

 

 後ろから水銀が頭を撫でてくる。ハイドリヒ卿の手前、反抗はしないが無言を貫く。

 

「──いや別に。フン、つまりその程度の価値しかおまえは見出していないということだな」

 

「おまえは違うというのかね、メトシェラ」

 

「愚問」

 

 帰りてぇ……帰りてぇよ……

 これも一種の地獄の時間だな。なーんで変態二人のやり取りを見せられてるんだよぉ。

 すると、何やらルートヴィヒが私の前にきて? ん? 片膝をついて座ると?

 

「──レイシア。我が無二の伴侶となって、共に終わりの日まで添い遂げてくれまいか」

 

 こちらの手を取り、微妙に遠まわしな言い方で投下されたのは一世一代のプロポーズ。

 おい、こいつ、お父さんさえ通さずに直接来たが!? 元警官(ゲシュタポ)長官殿の前で!?

 

 しかし水銀と黄金は口を挟まず、黙って成り行きを見守っている。

 自分の将来は自分で決めなさい、とでも言いたげな雰囲気である。幼女をからかって楽しいのかこの人らは。楽しいんだろうなぁ!!

 

 

 ──さて、どう答える。

 ここで「断る!」と言うのは簡単だ。RTA的にはそっちの方が手っ取り早いだろう。しかしだ。

 

 そうなると、おそらく、いいや確実にこいつは黒円卓に喧嘩を売る。なにせ私の断る理由が、「私は黒円卓の狗なので応える義理はありません☆」である。伴侶絶対欲しいマンとしては黒円卓が私を縛る鎖と定め、この場で開戦宣言しかねない。それはヤバイ。

 

 なので、これもおそらく水銀の思惑に従ってしまうことになると思うが、こう答えるしかない。

 

「──おお。私に勝てたら考えてやらないこともないぜ」

 

「すなわち、君に私の愛を理解させてみせろ、と」

 

「いや違、」

 

「尽力しよう」

 

「聞けや」

 

 フッと一つ笑うと、バッサァ! と外套をひるがえしながらルートヴィヒという名の変態は去って行った。

 

 マジでなんなんだよあいつはよ。一方的すぎるだろ。

 ひとまず握られた手を水銀の外套で拭いておく。

 

「……なぁ水銀。一方的すぎる男って嫌だよな」

 

「さて。娘のえり好みに口は出さぬという教育方針なのでな」

 

 皮肉だよ馬鹿、と脛を蹴った。

 

 

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