幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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02 就職決定☆

 おのれ水銀クソ野郎、許すまじ!

 

 ……の、精神でここ数十年間を生きていたレイシアです。

 なんて言いつつ、肉体年齢は不変なんだけどね。幼女な14歳だけどね。永遠のロリにして14歳!

 

 つまりずっと厨二ってことです。ええ。これ笑い飛ばすところね。

 

 というか会得した能力も、マジで厨二だからね……もう無茶苦茶でございます。オタクがこの世界に転生するとこうなるんですね、っていう典型だよ。きっとその内ご披露することになると思うんで、その時は笑って流してくれよな!

 

 ……え? 前回? なんでエベレストにいたのかって? 知らんよ。

 つか水銀野郎の教育方針がカオスで謎だよ。なんであいつ、いきなり人を大気圏外から「高い高い」したり、密林に叩きこんだりするの? 魔道の研鑽のためだー、とかお題目を並べられてたから従ってたけども、アレやっぱよく考えたら単に遊ばれてなかったか!?

 

 結論:水銀に子育ては壊滅的に向いてない。

 

 そんなこんなで無茶地獄の数々を体験させられ、挙句にポイ捨てされた私は、水銀への憎しみを募らせていた。渇望が塗り変わるかもしれないと思うぐらいには。

 

 さて、衝撃のエベレスト幼女置き去り事件から数年。暇つぶしに各地の戦場にお邪魔しつつも、私はひとまず東方の島国でゆったり過ごしていた。知り合った面白れーお爺ちゃん方とわいわいやりながら。

 

 しかし年代が1943年に差し掛かった頃──ある日、第三帝国から水銀野郎による召集状がきた。

 もうどうやってこっちの位置を捕捉したんだとか、そーいう常識的な疑問はあんな規格外に求めても無駄だ。

 

 てなわけで海を渡り、Dies iraeの主要人物にして敵陣営、黒円卓との顔合わせの日がやって来た!!

 

 こわい。

 

 

     ※

 

 

 どーせまともな立ち位置にならないんだろうなー。

 憂鬱。

 なにせだって、黒円卓は十三席あるが、それにしたって既存キャラの誰かを押しのけて私が座る、なんてことはあり得ないし無理があるだろう。

 

 彼らの位置はもう、これ以上ないくらいにピッタリと収まっている。無駄な点など一片もない。

 故に呼び出しくらった私は、彼らという魔王軍の中で一体どういう扱いになるのか……もう不穏で仕方がない。アレかな、飾り首とか?

 

 まぁ、不幸中の幸いというべきか、本日の私の異能は()()()()だ。といっても、()()()()()()()()()()になるので、それも含めて紹介されるのかもだが。

 

「……ここが魔王城か……」

 

 ヴェヴェルスブルグ城である。

 ドイツ、パーダーボルンにあるこの古城は、黒円卓の主要拠点だ。まだハイドリヒ卿の創造が展開してないからか、ギラギラの黄金感はないがまぁ、水銀辺りがもう下準備には入ってたりするんだろう。ただの古城とするには魔的な空気が強すぎる。元々はオカルトクラブの社交場だったって話だしね。

 

 見た目14歳、度重なる常識外の英才教育によって髪が真っ白になりし幼女、魔王城の前に立つ──

 

「とりあえず水銀クソ野郎を殴ろう。そうしよう」

 

 そのためだけに来たといっても過言じゃない。

 背に届くほどある白髪をなびかせつつ、覚悟と殺意を胸に私は入城した。

 

 

「や。久しいなレイシア。背丈は多少、伸びたかね?」

 

 無言の腹パン。ぐふうっ、と影絵の姿がくの字に曲がる。

 

 久々の水銀クソ野郎はやはり平常運転であった。年齢が停まっているのは厨二を公言しているようで我ながら恥ずかしいところがある。それを開口一番に皮肉って挨拶替わりにしてくるんだから、平常運転すぎて殺意を忘れて殴ってしまった。

 

 そう、殴れるのだこいつ。

 

 こいつは本体の触覚なので普通の攻撃はスルーされる感じなのだが、私は位階がこいつと同等にあるおかげで多少? 干渉できるようだ。

 

 流出位階。つまり神格。

 ただし世界を染め上げる覇道神ではなく、個の世界として完結した求道神。

 すなわち黄昏の女神、マルグリットと同じようなものなのだが──覇道にジョブチェンジする勇気はない。つーかこんな理、流れ出させたくない。

 

「ふ、ふふ……久々の親子の再会だというのに、随分な挨拶だ……」

 

 おそらく腹を抑えているのは演出か小芝居の一環だろう。若干弱っているところを見ると追撃したくなるが、調子に乗るとどんな報復が返ってくるか分かったものではない。握っていた拳を下ろし、向こうの息が整うのを待つ。

 

「で?」

 

 ここは玉座の間ではない。城内廊下。

 流石に人目があったら開幕腹パンなんてしなかったが、ノコノコとどのツラで片手を挙げて挨拶をしてきたこいつが悪い。

 

「で、とは何かな。レイシア、言っておくがこれから会う相手にまでそんな態度ではいけないよ。君はまかり間違っても黒円卓の一員になれるわけではない。あくまでも私の娘──いや、愛玩動物として紹介するだけだ。弁えるように」

 

「不敬を貫くのはアンタにだけだから安心しろよ。ていうか何、その紹介の仕方。もうまったく嫌な予感しかしないんだが!!」

 

「要は使い魔(ペット)だよ、使い魔(ペット)。黒円卓において君の人権はない。私は最低限、養父として尊重はするが、他の者が君をどう扱おうと知ったことではない。だが『ゲスト』──“ガヤ”としては動きやすかろう? 父の配慮に感涙にむせび泣いてもいいのだぞ」

 

「初っ端からスゲー発言を飛ばしていくな水銀ダディ。怒りで血の涙が出そうだよ。頼むからもう一発だけ殴らせてくれよ」

 

 言いながら蹴りを放つが、ひらり、とかわされる。おちょくるような動きがウザい。

 

「まぁまぁ。まぁまぁまぁ。可愛げのない照れ隠しもそこまでだレイシア。君の一撃は若干痛い気がするのだ。なんか精神的に。親子の感動の再会シーンとしてはもう充分だろう。付いてきたまえよ」

 

 そう言って水銀が歩き出す。

 この場面も彼にとっては既知であるはずだろうに、わざわざ茶番に乗ってくれた辺り、親子の情を錯覚しそうに──ないな。育ててくれた恩義はあれど、それくらいだろう。やはり何を考えているのか分からない。そういうところが実にらしいので、別に嫌いではないのだが。

 

「まったく、捻くれているのか、素直なのか」

 

「思考を読むなよ。今って何人?」

 

「十一人。再三言うが、当然ながら君の席はない」

 

「分かってるよ。期待してないし入る気もない。ああ、敬遠じゃなくて恭謙の意味で。彼らの椅子に座るほどの格があるとまで驕っていない。ガヤ。ガヤね。言い得て妙だが、確かにそれくらいが身の丈に合ってるよ」

 

 空席枠はマキナとシュピーネさんだろう。後者の人はおそらく今年中に入るだろうけど。

 ……サインもらえっかな……

 

「ところでレイシア」

 

「なーにパパ」

 

「今日の調子は?」

 

「絶好調」

 

「なるほど、それは僥倖」

 

 ここで「?」と首を傾げない辺り、私も相当鍛えられた実感がある。

 玉座の間で、何が私を待っているか大方の察しはついた。

 

 ところで、黒円卓の皆さんは血沸き肉躍る戦馬鹿たちの集まりみたいなもんである。

 ところで、黒円卓の皆さんはこの頃、同種の神秘と戦うことでレベルアップを図っている時期である。

 

 ところで、黒円卓への私の紹介文を思い出してみよう。

 曰く、水銀野郎のペットがやってくる。

 

 ところで、黒円卓の皆さんも、この水銀クソ野郎が嫌いである。

 そんな奴のペットが来るんだってよ。もうお分かりですね?

 

「では、健闘を祈る」

 

 あからさまに大扉の隅っこに立った水銀が、玉座の間への道を開く。

 ──直後、その奥から叩きつけられてきたのは圧倒的なまでの、六人分の、色濃い殺気と敵意と悪意の暴風だった。

 

 

『────Yetzirah(形成)

 

 

 一斉に聞こえてくる死の鳴動。

 呆気に取られる間もなく、杭やら車輪やら銃弾やら砲弾やら雷撃やらなんかイロイロ飛んでくる。

 

 メルクリウスの使い魔=サンドバック。

 

 これが黒円卓式の新顔歓迎パーティか。

 

 なんかそんな気はしてたんだよなあああああ!!!!!!

 

 

     ※

 

 

 こんちはレイシアです。私です。生きてます。生きてましたよギリ。

 今の私の状態? まぁその、黄金の玉座の間のど真ん中でヤムチャしてる感じっす。死んでねーかこれ?

 

「きっかり0時、ですな。私の使い魔はいかがでしたか、獣殿?」

 

「楽しかった」

 

「奮戦しすぎて語彙が枯れましたか。具体的には?」

 

「興味深い。面白い。素晴らしい──本当に彼女の席はないのかカール? 奇術師としておくには勿体ないぞ」

 

 頭上から聞こえてくる有難きお言葉。

 返事しようにも、もう指先一本動かない。おそらく他の黒円卓の皆さんも同じだろう。全力を尽くしすぎた感がある。

 

「ありませんなぁ、残念ながら。そも、コレはあなたの爪牙にはなりえませぬよ。せいぜい場を沸わかす程度の合いの手。道化役とでも言いましょうか。雑務係としては申し分ありませんがね」

 

 好き勝手言いやがってこいつはよ。

 どうせ皆さんを焚きつけたのもアンタでしょーが。

 

「愛玩動物以上の活躍は期待しませぬように。コレの格は所詮それ止まり。所詮は端役以下の背景の端。先ほどの一大芸も、昨日という彼女の吉日ゆえのこと。ま、煮るなり焼くなり犯すなり嬲るなり、好きにするがよろしいかと」

 

 新しい職場には人権がない。

 なんでやねん。なんも悪いことしてねーだろうが! 扱いの雑さが極まってんぞ!!

 

「養子とはいえ娘に対する態度とは思えんな。まぁ、他人の家庭の事情に首を突っ込むのも野暮か。とはいえ、私は友の娘を無碍に扱うような真似はせんよ。全てを愛しているのだから」

 

「だ、そうだレイシア。君の奮闘、どうやら無駄にならずに済んだようだぞ」

 

 むくり、と名前を呼ばれたので私は起き上がった。気合や意地や意志の力も必要ない。ただ単に、水銀野郎の声がしたから起き上がった。やるべき事がここあるという使命感から立ち上がった。

 

「カール・クラフト超死ねぇ────ッ!!」

 

 養父の顔面に渾身のコークスクリューが突き刺さった。

 

 

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