幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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22 極光虚曲

 ──メトシェラ。

 

 その名が出てくるのは聖書の中だ。洪水神話、方舟で有名な()()()()()()()()()だかと呼ばれる人物を指し、最も長く生きたことから、転じて長命の代名詞にされている。

 

 一方、ルートヴィヒ……に成り代わったこの闇の神秘も長命存在。噛み砕いていえば、彼は()()()()()()()ともいえる。超古代神秘時代の最後の生き残りだ。

 

 第四神座の最長老。

 「闇」という事象、現象の擬人化存在。

 

 とっとと時の流れに任せて消えてくれればよかったものを、水銀が色々と吹き込んだせいでこいつは己の対となる「光」を求め始めてしまった。

 

 光あってこその(われ)

 彼女と世界の終わりの日まで添い遂げ、この長い生涯に意義が欲しい──

 

 いや、まあその願い自体はいい。否定はしない。人生の意味を欲しがるのは生命、知性体として当たり前の感情だろう。

 

 だがしかしだ。

 終わりの日まで一緒にいたいからって、強制的に吸血鬼(じんがい)に変えて束縛するってーのは、どうよ?

 

 ドン引きですわ。

 なんなら「次代」のために動いている水銀の方がちょっとマシに見える。あっちもやり方はアレだが、相手を選んでいるぶん、まぁ……? まぁ…………いや変態カテゴリーなのは変わらないな。

 

 ともあれ。

 この傍迷惑な神秘に目を付けられてしまった以上、対処する他にないのだ。なるべく最短タイムで。

 

 だからこそ「直死の魔眼」は当たりだったろう。死の点、死の線、万物万象の「終わり」を目視できる反則だ。ナイフで生命の綻びを一刺しすればその生命、存在は例外なく潰える。

 

 ──生きているのなら神様だって殺せる超抜級の異能。

 

 というわけで死んでくれメトシェラ。

 私はお前の望む「光」などではないのだから。

 

「──ガっ、グォ、グオオオォォォァァアアアッッ!?!?」

 

 夜に響く、凄絶な絶叫。

 刺された胸を押さえ、その場にメトシェラはうずくまる。即死してくれない辺り、実に面倒くさい。やはり神秘そのものだから効きが悪いのだろうか? それとも、私の「幻想」が存在の核に届ききっていないとか?

 

「ァ、グゥゥアァ、なんだ、これは『何』だレイシアッ!? 私に、何をしたぁぁ……!!」

 

「死、です」

 

 何をしたかと言われると、そう答える他にない。

 胸の中央からナイフを引き抜くメトシェラだが、それでも状況には好転の兆しもない。

 

「死……!? 死、だと!? なんだそれは、()()()()()()!? ぐっ、が、ああ、消える、私が、私という存在、ガッ……!?」

 

「つか、なんで死の点を刺されてまだ生きてんすかね……夜だから?」

 

「ッそうか、君の世界の理か、これは……! いいや、故にこれは幻想の痛み、こんな『死』のもたらし方など、現実(こちら)にはない!! うっ、ぐぅぅぅぅぅぅ……!!」

 

 ギャルゲーやる気はないけど状況分析だけは出来るってか。今、メトシェラは必死に「痛み」を「無い」ものとして認識を変えようとしているのだろう。素晴らしい足掻きっぷりだ。

 

「……はーん。そうか、『闇』がお前に力を供給しているのか?」

 

 いつまでもメトシェラが死なない理由。

 彼は「闇」という概念の原典だ。しかも今は夜。死の一突き程度では、闇を殺し切れない。彼という存在が死のうとしても、()()()()たちが彼を強制的に生かし続けるのか。

 

 で、あれば。

 

「──こう?」

 

 何気なく、近くにあった暗闇の“死”に、刃を通してみた。

 ごはっ、とメトシェラが苦し気に呻く。おお、なるほど。体力分散型のエネミーと化しているワケね?

 

「レイ、シア……レイシア、レイシァァァアアアア────ッ!!」

 

 怨嗟にも似た怒号と共に、メトシェラが周囲の闇と同化する。今の声にさえ、強い神秘が宿っている。常人がまともに受けていれば精神発狂、間違いなし。しかして此方は流出到達済みの求道神だ──彼の声など、虚無に等しい。

 

「……諦め、んぞ」

 

 ゆらり、と宙に浮かんだメトシェラが此方を見下ろす。

 その手足も、肌も闇に溶け込んでいる。マントは既に闇そのものと化し、本来の──「大神秘」としての彼の姿がここに顕現していた。

 

「ようやく出会えた……ようやく見つけた私の光だッ! ()()()()()()()()()()()、君を私に寄越せェェェ────ッ!!」

 

「そこまで潔い変質者宣言されると凄みがあるな!?」

 

 闇が、刃となって、牙となって此方に殺到する。

 そのどれもこれも、此方の致命傷は避けた軌道。あくまでも捕えることを重視したらしい。つまり手加減だ。有難いのでその“甘さ”に乗せてもらおう。

 

「直死──!」

 

 死を認識する。終わりを真っ向から直視する。

 刀の一振りでは攻撃をさばききれない。速度は足りるが数が足りない。ならばと、神速の一閃と同時に、()()()()()()()()

 

「──ッ、──!?」

 

 物理現象として斬撃が空間を滑った事実に、闇から動揺の気配がする。瞬間、闇の攻撃群は一つの例外もなく斬り払われた。

 一体何を驚いているのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()だというのに。

 

 しかしバキン、と手の中で得物で砕け散る。無理な扱いに刀が持たなかったのだ。

 ……しょうがねえ。いつもの愛機でいきますか。

 

「ここで殺し切らせてもらうぞ──」

 

 そこで自前の改造兵装を取り出した。

 大鉈の武装が機械音を上げながら内部へ収納され、変わりに刃渡り四メートルはある、銀の大大剣が構築されてくる。竜の翼を思わせる形状のソレは、神秘を殺すために鋳造した人造兵器だ。

 

 ──()を、黄金機巧(グルヴェイグ)()編纂技械(アークヴァッフェ)

 

 備考、私の改造機構兵装。

 ああ! 幼女が大型武器使うって浪漫だよなぁ!!

 

「──メトシェラァァアアアア────!!」

 

 振りかぶり、死を断ち切りながら肉薄していく。

 闇との死闘が、始まった。

 

 

     ※

 

 

 ──夜の街を轟音が駆け抜ける。

 

 閃光と共に教会が蒸発し、己の陣地へ飛び出した闇は、地上の恐るべき討滅者を見た。

 背の丈に合わぬ巨大兵装を手にしながら、小さい白影が大気を蹴りながら跳躍してくる。魔人の一人に違いない彼女も、人ではありえない身体能力を持つのは当然か。そこで再び向けてくるのは、異様な形の銃身武装の銃口だ。それは先ほど、教会で闇に肉薄すると同時に大大剣から変形し、建物を消し飛ばした代物だった。

 

「光に代わって粛清だぁ──!!」

 

 トリガーと同時に放たれるは、雷電まとう極光一閃。

 ──電磁加速砲(レールガン)、と未来で呼ばれる兵装を、闇の主へと叩きつける。

 

「無駄だ……!」

 

 それをメトシェラは回避しない。できないのではない──する必要がないのだ。光を認識した瞬間、彼を狙った一閃は、地上に落ちていた適当な影から放出された。

 

 闇そのものが彼という証左がここにある。闇がある領土、その全てが彼の手足だ。いかなる熱光、いかなる熱量であろうと吸収し、跳ね返す。天敵たる光による攻撃でも、こうして無効化するのは呼吸と同等の容易さだ。

 

「やめろレイシア、君では私に勝てない──!」

 

 そして次の行動も、やはり闇が速い。

 少女の周囲から、その身を捉える影が殺到する。メトシェラがまとうのは彼が生きてきた夜の年月そのものだ。それらが同時に鎧となり、切り離せば武器となる。相手が相手ゆえ、殺傷能力は極限まで低下させているが、捕まればまず抜け出すことは不可能だ。

 

 ──通常であれば。

 

「勝てないからって挑んじゃいけない理由はないのさぁ──!!」

 

 それらの影を、死が一閃する。斬り伏せる。

 あらゆる事象の終点を目視する異能。──これは少女自身も知らぬことだが、「視る」ことに関して、彼女は他の追従を許さぬ天賦の才があった。直死の異能との相性は最高峰といえる。

 

「兵装連結、充填完了──そこだぁぁアア──!!」

 

「ッ──!!」

 

 瞬間、大大剣に変形した刀身から、光の斬撃が飛び出した。

 発電機関と武装の連結。もって発動したのは、雷電による一閃だ。直撃までの時間など無に等しい。それは“死の線”と認識したメトシェラの致命点を狙って、確実に叩き込まれる。

 

「ぐ、ォオ……!!」

 

 我が身を削り取られる痛みに、メトシェラの顔が歪む。惑星規模の総体を持つ彼だが、この死を与えられる激痛は未知のもの。今の一閃だけで、およそ千年分の夜を喪った。

 

「痛そうだなぁ! 苦しそうだなぁ! さっさと楽になれよぉ──!!」

 

 刀身が再度帯電する。直後、それは天を割る雷鳴を響かせ、大斬撃を形成して振り抜かれた。紫電の雷光は、そのまま夜を一刀両断。街中を叩き割り、極光が地上を照らし出す。周囲の闇との接続を断たれ、光の中で吹き飛ばされるメトシェラだが──それでもここで諦めるなどあり得ない。

 

「は、っははは……なんという……」

 

 ──どころか、笑っていた。

 可笑しい。面白い。()()()。なんと力強く、目も眩む輝きか。人々から恐れられ続けてきた闇たる自分に、一切まったく怯むことなく挑みかかってくる光の御子。──想像とは随分違う在り方であるが、それもまた良し、と彼は笑みを漏らす。

 

「──だが、少々調子に乗りすぎだ」

 

 彼女は光ゆえに、闇のなんたるかを解し切れていない。

 それは仕方ない。ならばやむを得ない。……それを教授するのが、この場における己の役目だと彼は定義した。

 

「許せよ、レイシア」

 

 心底、申し訳なさそうにそう一言。

 元より彼女が不変の存在であることは承知している。この世に生まれた極点。独立した特異点。

 

 幻想の装甲は、彼女の精神強度に依存している。

 逆説、それさえ剥がしてしまえば、彼女は彼女の世界に篭る他になくなる。だが約束がある。勝てば伴侶になると。──ならば躊躇する必要はない。

 

「君の魂を、私は貰い受けよう」

 

 だからこれは死ぬわけではないのだよ、と諭すように。

 ──独りよがりで一方的な、最悪の術理をここに行使した。

 

「君に悠久を──さぁ、どこまで耐えられるか」

 

 瞬間、夜が加速を開始する。

 それは時間だった。メトシェラが歩んできた時間、二千年を超える膨大な時間がこの場に叩き込まれる。よって引き起こされるのは、あらゆる事象、物質の()()だ。物理的にも精神的にも、彼以上に攻撃手段を多く持ち合わせた存在は他にいまい。

 

 悠久の時間は、あらゆる知性体への毒となる。

 肉体でも精神でも、それは同じ。加え、求道とはいえ少女の性質は幻想である。()()()()()()()には耐えきれない。そこには必ず限界がある。メトシェラ側の勝算がそれだった。

 

 巻き込まれた建物や瓦礫は一瞬にして砕け散り、塵へと帰す。今この時も戦場に踏み込んでいた者らさえも、丸ごと飲み込んでいく────

 

「──、」

 

 その異常、この魔業を、地上に着地した少女も認識していた。

 しかして彼女の位階は永久不変。求道にして永遠。朽ちもしないし、やつれもせぬ。たとえメトシェラが億兆の夜の牙をもって彼女を傷つけようと、その()にはヒビすら入らない。精神だって、次元を俯瞰した位相にあるのだ。ここに現実など無いのだから、いくら神秘が術理を行使しようと、何の影響も受けない────

 

 ──本来の、彼女であれば。

 

『血、血、血、血が欲しい』

 

 頭に反響し始める、リフレイン。

 

『ギロチンに注ごう、飲み物を。ギロチンの渇きを癒すために』

 

 忌まわしき合唱祭。処刑を求める観衆たちの歌声(こえ)

 

『欲しいのは血、血、血──血が欲しい』

 

 ……直死の魔眼。

 メトシェラほどの大神秘の“死”を捉えるには、必然、「創造」位階にまで異能を強化する必要があった。では覚えているか。少女の創造位階とは、その異能を持つ存在に同調することだと。

 

 聖剣を持つ者ならば、そのように。

 神性を持つ者ならば、そのように。

 星の最強種ならば、もちろん、そのように。

 

 ならばそれが、ただの、()()()()()()()()()()()()だった場合は?

 

「──、────」

 

 神秘も黒円卓も、知れば目を剥くだろう事実がここにある。

 今夜の彼女に幻想の装甲はなく。

 首を手折れば命を落とす、儚い命に過ぎず。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だから脆弱な人の身は、この時間の加速に耐えられない。肉体が崩壊すれば、精神もまた同様。続くようにして朽ちて、廃人と化すのみだ。

 

 しかし魂だけは違う。水銀が見出した最美の魂然り、彼女もまたその同列。だから、いくら時間の負荷をかけられようとも、存在消滅などありえない。そうして最後に残った暁には、あの闇の手に渡るだろう。

 

 ……街は風化していく。

 ……時間は加速してていく。

 ……夜が高速で流れていく。

 

 それを彼女は眺めている。自分の指先にヒビが入り始めたことにも気付かない。だが──

 

「──うるさい。おまえのことなんか知るか」

 

 告げた声は、頭の中で響き続ける呪いの唄に向けられていた。

 それで時間の加速が止まるわけではない。肉体の風化は始まっている。このままでは闇の思い通り、彼女は現世で生きる身体を失う。

 

 ……はず、なのだが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「砕けるが先か朽ちるが先か? ──いいや、だったら使わせてもらう」

 

 変生の激痛すら呑み込んで宣言する。

 

 魂の劣化はありえない。

 完成された特異点は不変のまま。

 だから起こることといえば──()()()

 

 風化などしない。

 劣化などしない。

 だからといって、成長するでも進化するでもない。

 

 単純な話。

 これはただ──()()()()()()()()()だった。

 

 ──失っていた力を取り戻す。

 ──忘れていた経歴(かこ)を思い出す。

 

 この一瞬、この瞬間のみ。

 ありえざる存在が顕現し────

 

 

Atziluth(アティルト)──“Void fall(脚本却下)”」

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 顕現した瞬間、なにもかもが否定された。破却され尽くし、全てが棄却された。

 その瞬間、世界は白黒に染まる。

 色も、夜も、時間も、ことごとくが消え去った。

 

 この現実は否定される。

 時間加速された現実は──虚無に墜ちる(Void fall)

 

「────、!?」

 

 異変に最も早く気付いたのは、術師本人であるメトシェラだった。

 もたらしたはずの悠久が、消えている。先ほどまで風化し砕け散っていたはずの街並みさえ、()()()()()()()()()

 

(時間逆行……!? いいや、そんな気配は──!)

 

 己以外に時間に干渉した者はいない。

 ならばもっと高次元かつ、根幹的な話。

 ──“時間加速を行った”という現実が、改変(否定)されたことに他ならない。

 

「いけるな、幻想偽典(グルヴェイグ)

 

 一方──少女は目を開く。

 なにやら一秒前まで、()()()()()を感じていたが、それも軽く頭を振って払いのける。

 

 ただの幻覚、幻聴、白昼夢だ。

 今やるべきことは、決まっている。

 

「──殺す」

 

 自己の意識に、唯一つの命令(オーダー)を下す。

 意識は要らない。人格も不要だ。思考すらも置いていく。

 

 直後に飛び出した。

 建物の屋根、大気の床──空中の玉座へ向かうための足場に不足はない。そこを最小限の歩数で、かつ神速の速度(はしり)で駆けあがり、滞空する闇へ向かって突貫していく。

 

「ッ止まれ、レイシア──!」

 

 事ここに至って、メトシェラとしても恐怖を覚えずにはいられなかった。術が否定された直後に、ようやく彼も今夜の彼女の状態を理解したのだ。

 

 矮小な人の身で、自分に挑んでくる。

 死を目視できる目があるというだけで、それ以外には何もないという少女が、殺しにやってくる。

 

 その異常性、その矛盾──悠久を生きる大神秘でも理解の外だ。彼女は何を考えているのか。何も考えてなどいないのか。ただ、ただ、ただただ──己を「倒す」ために、ここまでする人間がこの世にいるというのか。

 

 だから吼えた。もう止めろ、止めてくれと。

 此方に傷つける意思はない。たとえ、その神秘の宿る一声で、彼女の精神が発狂しようとも──死にに来ないでほしい、という懇願に近い叫びだった。

 

「知るかァァアアア────ッ!!」

 

 だが、それを受けて尚、少女の足は止まらない。

 なんらかの魔術でも、奇跡でもない。()()()()()()()()()()反則でもない。世界の半分を恐慌に陥れるほどの圧力を持つ神秘の声を、「知るか」の一声で打ち払い、乗り越えてくる。

 

「なん──だと──?」

 

 意味が──わからない。

 常軌を逸している。()()()()()()()()()()()()()

 

 今の彼女には幻想の装甲がない。かといって彼女の精神は一切変わっていない。

 けれども闇の一声には神秘が宿っている。それこそ星を滅ぼせるほどの精神汚染が伴うのだ。

 求道の極致だからこそ耐え切った? ──いいや、いくら頑強とはいえ、彼女の性質は夢幻だ。虚構が本物にして真作たる、現実の神秘に打ち勝つ道理がどこにある!?

 

 ──ならば結論は明確。

 アレは純血から成った幻想の求道神格ではなく。

 確実に、人間としての側面を持ち合わせた、()()()()()に他ならない。

 

「……馬鹿な」

 

 メトシェラの喉が干上がる。

 そんな求道の神などいない。いるはずがないし、生まれるわけがないのだ。求道という時点で神性は約束されたもの。混血種は、あっても覇道の神でしか在り得ないだろう。ならば疑似的な求道の神か? いいや、あの娘からは水銀の気配は欠片もない。()()()()()()()()が彼女を構成している。

 

 ──先ほど時間を加速させた際に顕れた……気がする事象と、なにか関係があるのか。

 しかしメトシェラの思考はそれ以上の追究に届かない。解るのは、神格としての少女ではなく、人間としての彼女が純粋に己を上回ったという事実だけ。

 

 闇の声を、()一つで耐え切るなどと。

 そのような人類、神々の時代から生きてきた彼でさえ、見たことがない……!

 

「なぜだ……何故ッ! なんのためにそこまで()に挑む!? それほどまでにあの呪われた君主たちに忠義を捧げたいというのかッ! 彼らは君のことなど顧みていないだろうに!!」

 

 ──それこそ知るか、と少女は放たれてきた闇の嵐を斬り殺す。斬り殺しながら、前へと走り続ける。

 顧みてほしいから忠義を捧げているわけではないのだ。そして彼らのために、こうして走っているワケでもない。──究極的にいえば、全て自己満足のためだ。

 

(ルートヴィヒ──ルートヴィヒ・ヴァン・ローゼンクランツ)

 

 頭に浮かべたその名の人物を、果たして誰が()()()覚えているだろうか。

 彼は教皇庁(ヴァチカン)の裏部隊に在籍する一人だった。メトシェラが関わらなければ、歴史の闇に埋もれて名も出てこなかったような人間だ。

 

 あのカチンの森で。闇の洞窟の最奥で。

 全ての仲間を失いながらも、古代の大神秘に挑み、一人果てた、()()()()()()英雄。

 ……外気に触れるなり、塵と消えていった不明の骸を、他に誰が覚えているだろうか。

 

 今この時だって、誰も気にしてなんかいないだろう。誰も覚えてなんかいないだろう。気にも留めてすらいないだろう。目の前の敵さえも、意識と記憶の外だろう。

 

(──それでいい。誰も知らなくたっていい)

 

 今、ここでメトシェラの疑問に答えることはできるが。

 それこそだって、意味がない。誰も知らないものを、熱意を篭めて語ったところで共感なんか絶対にしてくれない。

 

 だから代わりに放つのは、このたった一言だけでいい。

 

「私は──お前なんか愛せない」

 

 拒絶の言葉と共に。

 瓦礫群を走り抜け、倒壊を始めた建物さえも蹴り飛ばして。

 

 再び、直死が闇を視る。銃口が向けられ、トリガーに指がかかる。

 兵装の次弾は充填済み。収束した閃光が、撃ち放たれた。

 

 

 ──暗黒を照らし出す光が発生する。

   瞬間、白夜となった世界は、無謬の静寂へと落ちていった。

 

 




Q.結局なにが起こったの?
A.率直にいえば現実改変。条件揃ったのでプロロできた感じ。


レイシア
 幻想装甲の数値を仮に100とすると今夜は0。=肉体強度は人間。
 ただし精神は不変なので異能を失うこともない。=神性は維持。

>メトシェラが悠久の夜をつかった!

 幻想装甲がないので肉体の風化が開始する。
 それに伴って精神も変容し、渇望ごと異能を失いかけた、が。

>■■■が表出。悠久の夜はなかったことになった!

 肉体は人間、精神は求道、魂は混血。
 疑似求道神としか称しようがないが、水銀さんは「なにそれ知らん、こわ」とのこと。
(神の資格を持たない人間は、当代の神の支援を受けでもしないと神格になれない。)

 肉体の耐久度に関しては、求道神は確かに頑丈だけど、原作でも純血求道のマリィは処刑されてんだよな……そして恐らく不死の魂だけになって自分の世界に引きこもってた? とここは解釈。なんか間違ってたらスマソ!

 それを踏まえると、幼女の頑丈さは、基本的に精神フィルター(聖遺物)が掛かっている故の装甲強度なので、剥がされて殺されると、普通に魂だけになっちゃうのだった。──なお、普通に「創造」を解除しても、やはり時間加速に魂が耐え切れない模様。結果、起きることは変わらない。

 ちなみに「Void fall」は流出名じゃなくて、ただの技名。
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