幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~ 作:時杜 境
華麗なる高校中退ッ! みんなー、黒円卓の従僕に戻ったレイシアちゃんだぞー!
そんな私は今──アメリカ、ニューヨークにいます……
「はぁ~……卒業証書、欲しかったぁア~~……皆勤賞も狙ってたのにィ~……」
「まだ言ってんのか。つか、そんなモンなんの足しにもならねえだろうが」
前回の住居と勝るとも劣らぬ新居のマンションにて。
ベイ中尉の膝を枕に、クッションを抱えてソファに寝転がったまま、私は失った学生生活の日々を惜しんでいた。
だってさー、急だったんだもんさー。
司狼クンも、もうちょい区切り良い時に来てくれればいいものをさ。ベイ中尉と君を鉢合わせるわけにはいかんのよ。本編に影響出ちゃうから。玲愛はまぁ、ゾーネンキントなんで、そのうち正体バレした時に順当に絶望してもらえれば。
「くぅっ……横槍が入る、ってこんな気持ちなんですね……そりゃあベイ中尉もグレざるを得ないですわ。こんなのが宿業とか、そりゃあチンピラ一直線ですわー」
「おーおー、主人への理解が深まったようで何より。そう落ち込むことぁねえだろうが。俺はシャバの空気吸ってるみたいで気分いいぜ。ようやく猿の国から抜け出せたんだからな」
「そーですか。そりゃあよかったデスネー」
この人の
ま、惜しんでも仕方ない学園編はともかく。
「で──インタビュー、でしたっけ?」
「おお。いつものバーでな」
「また凄い人がいるもんだ……」
衝撃のお知らせ。
ベイ中尉に、インタビューしたいって人が来た件について。
つまり──これはそう。
「Interview with Kaziklu Bey……」
そういう時期である。
まさか、あの日々を振り返って語る機会が来ようとは……
「取材は別にいいんですけど……どう話すか決めてます?」
「そりゃ全部だろ。
アレをか……
ベイ中尉の原点話はともかく、私に関してはどう料理するつもりだこの人。
従僕がいて? 出張から帰ってきたらイチャつき始めて? 従僕を狙うライバル登場で? んでライバル倒した後は凍土で従僕アレして? なんかもー、すげー主人公像だな。
当事者からしたらともかく、聞かされる側からしたら、どんな感想になるんですかこれ?
惚気話じゃね?
今からインタビュアーの人には同情しかできない。
「っつぅワケで、インタビュー中は俺の影に潜んでな。おまえとのアレは、オチが分かってちゃつまらねえ」
「……意味あります? 私の顔だって、裏には知られているでしょう?」
「いや、実はそれがそうでもない」
「ほ?」
気付かなかったのか? とベイ中尉はニヤリと笑う。
「おまえが通学できた理由だよ。『レイシア』なんてガキは、黒円卓のメンバーには存在しねえ。ただの従僕、ただのガヤ。世間的に、おまえという存在はイレギュラーだ。いいとこ、俺の影に潜む使い魔──ってところだな。俺の異能の一部みたいに認識されてるんだろうさ」
「へぇー」
まぁ、それはそっか。
そもそも黒円卓メンバーの名簿があったとしても、私の名はそこにはないのだ。人間社会という網にかけようとしても、私はそこに存在しない。
「従僕にして
「“道化師”って意味だからな、それ」
「知ってますよぅ!」
もむもむとベイ中尉の手の平に頬を揉まれつつ、唇を噛む。
おのれ、水銀の采配が出来過ぎてにくい。ここまで織り込み済みか、あの野郎。厨二心をくすぐるような真似してんじゃね──!
「しかし、問題はおまえとの出会いだな。運命的でもなければ劇的でもない。メルクリウスの野郎の催しでやってきたゲストキャラクターだ。ってか、おまえが玉座の間に来た瞬間、攻撃したのは覚えてるが、その直後が曖昧なんだよ。なんか目ぇ覚めたら、あの月夜の空間にいたし」
「あー。そりゃもう、咄嗟でしたからね。迎撃はしたんですよ? 思い出せません?」
「いや、全然。ちょっと話してみろよ」
ご命令とあらば、と。
私は思い出す。ヴェヴェルスブルグ城に来た当時のこと、黒円卓の皆さまから、そりゃあ手厚い歓迎を受けた直後の出来事を────
※
回想:ヴェヴェルスブルグ城にて
※
『────
一斉に聞こえてくる死の鳴動。
呆気に取られる間もなく、杭やら車輪やら銃弾やら砲弾やら雷撃やらなんかイロイロ飛んでくる。
メルクリウスの使い魔=サンドバック。これが黒円卓式の新顔歓迎パーティか。
なんかそんな気はしてたんだよなあああああ!!!!!!
「うぉぁ──ッ!!
「
刹那、咄嗟に傍観者ヅラをしていた水銀を盾として目の前に繰り出した。
いや、水銀を移動させたのではない。周囲の空間──自分ではなく、
黒円卓の総攻撃が水銀の姿を直撃する。どうせ奴にダメージはないだろう。なので初撃をやり過ごした瞬間、前へと飛び出していく。
「出典──」
「
「
誰よりも速く向かって来たのは
「ッ──!?」
一瞬、なにが起きたか誰も理解できなかっただろう。
まさか、衝突した瞬間に、シュライバーの姿がただ
「
知った事かと炎砲が叩き込まれてくる。だがそれすらも、こちらに当たった瞬間、あらぬ方向へと
いやー、使い勝手いいなこの力。流石は学園都市第一位の能力だ。
とはいえ、その演算能力が使えるのも一時。さっさと次の札を使わないと、効果切れで滅多打ちである。
「出典:
キィン、と五枚のコインが宙を舞った。
と同時に、それらは音速の三倍のスピードで撃ち出され、爆風を生み出しながら破壊の跡を戦場に撒き散らす。
「電気……!?」
ベアトリスらしき声が聞こえる。
火力は大きいとはいえ、一直線攻撃だ。魔人揃いの黒円卓に対しては牽制にしかならないだろう。
なので次ィ!!
「愉しませてくれるじゃねぇかァ──!!」
「出典:
死角に迫ってきていた白面の鬼からの拳を片手で受け止める。
ぎょっと彼が真紅の眼を見開いた刹那、腕を引き寄せ、その頭蓋へ回し蹴りを叩き込んだ。
※
「オイちょっと待てや」
そこまで話すと、ベイ中尉にガッと首根っこを掴まれて引き上げられた。
「いや、本当は首を狙ったんですけど」
「聞いてねぇわッ! じゃアレか? その一撃で俺は……」
「あぁ、ハイ。結構良い感じに
「ッ……!!」
これが中尉との本当の出会いです。
格闘戦とか苦手だからね。一撃で沈めなきゃ! って思ったから全力でやりましたよ。そう、全力で。
「でも卑下なさる必要ないですよ? 『原初の一』って、地球という惑星の究極生命体、っていう幻想ですから。原型を維持していただけ、かなり善戦した方かと」
「ほ、ほ、ほぉーゥ……つまりィ、てめえはその瞬間、俺より上だったと……?」
「……そうですね?」
「テメ──!!」
「ぎゃー!!」
首を腕で固められる。ギブギブギブ、死なないからって苦しいからッ! こ、こぉのチンピラ気質め、まだ更生していないかッ!!
「どうやら仕置きが必要なようだなァ、オォ……?」
「な、なんですかっ。ていうか当時は従僕じゃなかったでしょー!?」
「ウルセェ! 男にはプライドってモンがあるんだよ、てめえの永久主人としてもな……! そうかそうか、なんっか偶にどこかしら俺への敬意が欠けてたのはそういうワケかァ!!」
「あー! ああー!! 花嫁への扱いじゃなーいッ!!」
ぎりぎりぎりりィッ!! と首にかかる力が倍化する。
身体が頑丈で助かった。でなけりゃここでジ・エンドである。うおーん!
「さぁって……? どう始末をつけてやろうかね。暴力的か、性的か、好きなのを選びな」
「なんで究極的選択肢しかないんだぁ──! DVに堕ちちゃ駄目ですよ中尉ッ! ここ半世紀で培った騎士道精神どこだぁ──!」
「黙りやがれ、昔の俺だったら問答無用でベッドに叩き込んでるわ。選択権を与えてやってんだよ。俺に殴られるか、淫乱されるか、それとも他になんか方法があるってのかァ? アァ!?」
「うっ……うううー!!」
なんだなんだ、考えろ考えろッ! 謝罪、誠意、当時のことを償える方法……!? む、無茶言うなよ──! あの時だって必死だったってのにー! 思いつくかぁ──!!
あ。待てよ。
「がっ、ぐう……じゃ、じゃじゃじゃあ、良いコト教えます」
「なんだ。言っとくがてめえのスリーサイズは知ってんぞ」
「それは良いコトなのかぁ……? じゃなくて、真面目な話、真面目な情報っ。ベイ中尉の、どーしようもない宿業の突破方法、とかっ!」
「──、」
やや、腕の拘束が緩んだ。
別に抜け出す気はないものの、少しばかり興味を引けたことに安堵する。
「いつもはネタバレしないよう努めてるんですがっ。ご主人様のプライドを傷つけてしまったお詫びに、遅ればせながら、攻略情報など一つッ!」
「……、…………言ってみろ」
よっしゃ、かかった!
一つ深く息を吐いてから、はっきりと告げる。
「──初めの相手。取り逃がした相手との決着をつけること。以上です」
しばらく、ベイ中尉が動くことはなかった。
その時、その心中で何が起きていたのか、私が知る由はないが──やがて。
「……そういう事かよ。やっぱあの野郎か……」
得心したように、腕から解放される。
緊張状態を抜けた私は、ふう、とその胸に背中からしな垂れかかる。
「……分かってたんじゃないですか? 中尉……」
「そりゃ、カンではな。だが露骨すぎるだろうよ、罠なんじゃねえかと思うだろフツー。クッソ、道理で今まで引っ張られてきたってわけだ」
忌々し気な口調とは裏腹に、声色は嗤っている。それは今まで気が付かなった己自身の迂闊さに対してか。
ウォルフガング・シュライバーとの決着。
それが、ヴィルヘルム・エーレンブルグが初めに突破しなければならない、因縁の始まり。
でなければ彼は奪われ、横取りされる結末しか迎えられない。私の存在で“放棄する”選択を生み出したが、それだって過程を変えただけで、彼の望むものはまだ何も手に入っちゃいないのだ。
「良い情報だ、レイシア。おかげで腹ァ決まったぜ。シャンバラにおける次の戦……なんとしてでも勝ち残らねえとな」
「
「要らねぇよ。これは俺の戦だ。黙って見てろ、必ず攫いに行ってやるからな」
そう言われると、ぎゅっと後ろからまた両腕で拘束される。今度は締め上げるようなものではなく、包み込むように。
「……はい。待ってます」
想い合う男女の結末は、悲劇的か喜劇的か。私たちは一体どちらに向かうのか──この時点ではまだ、誰も予想しえないことだった。
次回より原作開始。