幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~ 作:時杜 境
▼大橋で首切り犯を見つけた!
▼しかし逃げられてしまった!
▼第一スワスチカが 開いた!
なんかそんな感じの夜でした。ちゃいます、主人公がよーやっと「自分の武器」を手に入れたのだ。ここがスタート地点ですね。まだチュートリアル中って感じだけど。
教会の地下に集まった人影は六名。
黒円卓の十三席のうち、残りは空席。特に十三の席──水銀野郎の席には気配の欠片もない。
「舞台は整った──ですが、まだあと一押し、というところですかね」
「敵を育てるのもまた戦……ということで?」
シュピーネさんの意見にトリファ神父が頷く。頭いい人らの会話には無駄がない。
「その通り。やって頂けますか、シュピーネ」
「拝命いたしました。つきましては、レオンハルト……少々ご協力願います。この仕事はあなたにしかできません」
視線を向けられた螢は、訝しむような目をしたものの、すぐに頷いた。
「……了解した。私にできることなら助力しよう」
「ではそのように。……ああ、それと」
トリファ神父が思い出したようにベイ中尉──正確には、その影へ顔を向けた。
「新顔もいます。この機会に、『彼女』も紹介しましょう。呼んでくれますか、ベイ」
微かに嘆息しつつ、ベイ中尉がつま先で影を叩いた。
首領代行からの命令とあらば、彼も従わざるを得まい。故に私もそのように。
──吸血鬼の影が揺らめく。
尋常ならざる気配でも感じたか、螢の顔が強張る。そう緊張することもないけどなァ、と思いつつ、私は跪いた状態で、ベイ中尉と螢が座る席の間に顕現した。
「従僕参上──レイシアでーっす! お久しぶり&はっじめましてぇー!!」
立ち上がってピースキメながら挨拶すると、場違いに明るい私の声が空間に反響する。
真っ暗闇が背景デフォな場所なので、いきなり地下アイドルが出てきたようなシュールな空気になってしまった。
実際、なんか別世界観で殴られたような衝撃でも受けたか、螢は固まっている。
「な──」
「相っ変わらず自由な子ねー。ここでも平常運転って神経太すぎでしょ」
「ははは、快活さこそレイシア嬢の強みでしょう。ベイ中尉も変わられるはずだ」
「うるっせえ」
ケッ、と卓に肘をついて顔を背けるベイ中尉。
それを見て、トリファ神父も苦笑を浮かべる。
「彼女は黒円卓の従僕……副首領閣下から賜った、我々の使い魔です。この半世紀、ベイ中尉が独占状態にありましたが」
「従僕……」
「要するに、私たち黒円卓の誰でも命令できて、どう使ってもよくて、いつ捨ててもいい消耗品よ。レイシアへの命令権は首領や副首領、大隊長を除いて、皆平等。といってもご覧の通り、血の気多い奴が手綱握っちゃってるから、ベイに勝つか、許可をもぎとるか、って面倒な工程が入っちゃってるんだけどねー」
ルサルカの言う通り。
我、黒円卓において人権ナシ! おのれ水銀。ありがとうベイ中尉。
ひとまず初見のイメージは大事だ。切り替えて、胸に手をあてつつ礼をする。
「お初にお目にかけます、
「え、……ええ……」
ベアトリスの名を出した瞬間、僅かに動揺を見せたが、鉄面皮を被り直すレオンハルト。
手を組む気はない、と言ったものの、こんな幼女が出てきて意外だったのだろう。私もそー思う。
「レイシア。あなたは二年前まであの
「藤井蓮、ですね。ええ、面識ありますよ。まぁ暗示で多少私に関する記憶は弄ってますが、顔見ればすぐ思い出すでしょう。出会った時は、全然それっぽい気配はなかったんですけどねー」
そう、気配はなかった。
ま、水銀野郎と顔立ち同じってのは一発で気付いたけど。
「なるほど。あなたでも副首領閣下の術は見破れない、と……それとも、何か口止めされていたり?」
「……、」
笑顔でノーコメント。
どの主に対しても、誠実に対応するのが従僕の仕事だ。その態度が全てだとトリファ神父も察したか、一つ頷き返す。
「まぁよいでしょう。では紹介もこの辺で。今後の方針は先ほど立てた通り──シュピーネ、レオンハルト、頼みましたよ」
「「
会合はこうしてお開きに。
シュピーネさんという次なる試練を主人公へ送り出して──
※
「ねえ、ちょっと……その子と、話したいんだけど……」
「あぁん?」
「こら中尉、すぐガン飛ばさないの。チンピラ成分を安売りしちゃ駄目ですよ」
会議が終わると、教会の廊下でおそるおそる、といった様子で螢が話しかけてきた。
ベイ中尉がすぐさま殺気を飛ばすが、こっちの言葉でその顔は呆れたものに変わる。
「安売りもなにもこれが通常だっつの。俺をどういうモンだと認識してんだ、てめえは」
「男気23グラム、暴力46グラム、吸血鬼33グラム、チンピラ99キロにツンデレ1トンで錬成されているものかと。あ、ツンデレじゃなくてロリコンでしたっけ?」
「黒円卓要素がミリも入ってねえのはどういうことだァ!!」
そのまま首をロックして締め上げられる。そしてキレる点はそこなのか。他にもっと否定すべき部分があるのでは!?
「…………」
と、螢ちゃんは螢ちゃんでこっちの漫才を前に呆然となっている。
驚いたかい? ベイ中尉ってツッコミレベル高いんだぜ!
「…………おかしい。よりにもよってベイがまともに見える。よりにもよって……」
「そりゃこんなデタラメ馬鹿の横にいれば誰でもそう見えるだろうよ。チッ……」
そこで何事もなく中尉が地面に降ろしてくれる。
踵を返して、去り際に一言、
「話すだけなら構わねえが、命令権があると思うなよ。触れたら殺すからな」
やっぱり
これは部屋に戻ったら埋め合わせを求められそうだ……
「ねえ、あなた……」
「はぁい?」
くるっと螢の方に振り返る。
やはりその目は、こちらが黒円卓の関係者だとは疑わしく思っているものだ。
「副首領閣下の使い魔……ってことは、人間じゃないの?」
「いえいえ、ちゃんと人の子としてこの世に生を受けてますよ。ていうか、まあ、普通はそういう反応ですよね。あはは、そんな風に訊いてきてくれたの、ベアトリスさん以来ですかね」
「! ……やっぱり、知ってるんだ。ねえ、だったら……」
そこまで言葉を言いかけて、螢は口ごもった。
躊躇い。その先の質問と、その答えを訊けば、何かが変わってしまうのではないかと直感したのか。
そこで一つ、覚悟を決めるようにして息を吸い込み。
「……あなたは、どこまで知っているの。兄さんたちを……殺したのは、ベイなの……?」
「あらー、相当嫌われてますねあの人。確かに戦闘狂の人ですが、欲しいものからは逃げられてしまう方なのです。そこらへん、自覚的になって“身を引く”ということを覚えてくれましたが、まだなんにも解決できていないのが現状です」
「つまり……? どういう事なの、はっきり言って」
「十一年前も、あの人はそのようにしました。曰く、『間男になるのはご免だ』と」
「え……?」
では──犯人は誰だというのか。
それはベアトリスと共にいて。
ベアトリスと同時に死んだ者としか──
「──そんな」
ぐら、と螢が倒れそうになる。
ベアトリス・キルヒアイゼンと櫻井戒の真相。それに嫌でも気が付いたのだろう。まさか、そんな、と呟きつつも、しかし──その心は、まだ折れはしない。
なぜなら彼女は、黄金錬成の真実を知らない故に。
ハイドリヒ卿に尽くせば、きっと二人が帰ってくると信じている。
「……そう。よく、分かったわ。なら私は、やっぱり……」
「──ところで螢さんって、友達いるんですか?」
「はっ?」
突然の話題の急ハンドル。
従僕慣れしていない一見さんは目をぱちくりさせている。
「いえ、興味本位なんですけど。ルサルカさんと学園に通っているんでしょう? 友達何人できたのかなーって。ほら、螢さんのような人って、大和撫子、と言うのでしょう?」
「やま……い、いないわよそんなの。学園に行っているのは、あくまでも藤井くんを監視しているだけで……っ」
「え、ぼっちなんですか」
「ぼ、ぼっちじゃない!!」
凄い否定のしようである。
なんだこの子、面白いぞ。
「学園生活ってはまず接点がないと人脈できませんよー? 部活動とか入らないんですか。運動神経バツグンでしょうに。勿体ないなー」
「あ、あなたには関係ないでしょう……ていうかなんでそんなに詳し……ああ、通学してたとか言ってたわね……」
「はい。今は亡き『キャンプ部』の部長です。部活名ごと虚無に消えましたが。でも私、それなりにあそこではアイドルやってたんですよ? まぁ、ベストを尽くしすぎてトチりましたが……」
「アイドルって……ねえまさか、黒円卓にもそんな感覚で入ってるわけじゃないでしょうね……?」
「そこまで不敬してませんよ。命がけのアイドルって何ですか。ペットですよ、ペット。場を沸かせるだけのガヤに過ぎません。ベイ中尉はああ言ってましたけど、私としてはいつでもご用命、承っておりますので遠慮なくどうぞ」
「いや、いいわよ……ロリコンの気はないから、私。……はぁ。でも変な子ね、あなた。黒円卓として話しているのに、全然そんな感じがしない。命知らず、っていうのかしらね」
それはよく言われます。
むしろそれが特技というか。
それだけで生きてきたというか。
「……少しだけ、気分は晴れたわ。話し相手になってくれてありがとう。でも、ベイだけは止めておきなさい。男の趣味が悪すぎるわよ」
と言って、螢はその場を後にしていった。
その背を見送り、気配が消えた後──
「──それで、お次はどのようなご命令ですか?」
「おや。気付かれていましたか」
乙女の会話を盗み聞きしていた神父様へ振り返る。
趣味悪いなー、もー。ま、暗躍係だから仕方ないのかもだが。
「そりゃあ気付きますよ。うっかり口を滑らせたら、後ろからズドン! されそうな気配あったし。怖い人だなー」
「はは、申し訳ない。しかし聞いている身からすれば冷や冷やしていましたよ。献身的な従僕が、気を利かせて余計なことを吹き込まないかどうか、とね」
「こわいー」
縮みあがると、にこにこと神父様は良い笑顔。
怖いなー。ほんと怖いよ、この時点のこの人。玲愛、なんとかしてくれ。
「いえ、あなたは
「いいんですか? 私、かなりバッサリいくタイプですが」
「勿論ですよ。忌憚なく」
では、と改まって、私はトリファ神父に相対した。
「──親を名乗るならちゃんと子供と向き合うべき。狂信結構、狂気結構、
「────」
神父様、絶句だった。
陰謀を企む奴の後頭部を殴るのって……楽しいよな!
「
「……私、は……テレジアについて、尋ねたつもりだったのですがね。いやはや……」
「玲愛のために言っているのですが。というか今更、あの子になにか欠点があるとでも? まさか」
氷室玲愛が抱える歪みの原因は、全て黒円卓にある。
ゾーネンキントの血筋。生まれから詰み。ならば言うべきこととは、彼女本人ではなく、彼女の身近にいる者についてだろう。
「とまぁ、こんなところですかね! ファイト神父様、私は従僕としてあなたの活躍を応援しております! 意味のない意見でしたが、何か得られるものがあったなら幸いです」
得るどころではなく、地雷原に核を叩きつけるような蛮行。
本気も本気、命がけ。
私にとって生きるとは、常、そういうことだ。
「……はは。やはりあなたは、副首領閣下の使い魔だ……」
すれ違うように立ち去った時、聞こえたのは、そんなせめてもの負け惜しみ。
ヴァレリアン・トリファ。このやり取りが、彼の活躍への布石になれば儲けものだった。
背中を蹴り飛ばしていくスタイル。