幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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04 夢の対決with……なにこれ [黒円卓side]

「近々、私の使い魔を召集しようと思う。皆、そろそろ掃きだめの神秘では歯ごたえがないだろう。アレは大した者ではないが、手品の数だけは一線を画している。各々、好きに遊んでみるといい」

 

 ──聖槍十三騎士団黒円卓第十三位、カール・クラフトが告げたその言葉に、面々はそろって怪訝な顔になっていた。

 

 副首領の得体の知れなさは今に始まったことではないが、使い魔だと?

 いや、魔術師ならば使い魔の一匹いても不思議ではないかもしれない。だがことカール・クラフトという男に限って、そんな己の手足となる直々の端末がいるなどと、思いも寄らなかったのだ。

 

「どう思う、アレ?」

 

 召集会議の帰り道、城の廊下でルサルカがそう言った。

 

「どうも何も、副首領閣下の思いつきは今更でしょう。我々は神秘に踏み入れた存在と戦うことで、己が力に理解と進化を促すことができる。魔術師狩りと大差はない、あの方なりの催しのつもりでは?」

 

 そう返した男はヴァレリアン・トリファ。冴えない容貌の凡庸じみた司祭だが、その身に持つ霊的感応能力(サイコメトリー)は万象全ての声を捉えてしまうほど強力なものだ。

 そんな彼をもってしても、副首領──カール・クラフトは、人智を外れた存在としてしか認識できていない。

 

「奴の思惑など知ったことではないが、面白そうではある。退屈な余興で終わることはなかろう。うっかり我々が壊してしまったとしても、それはそれだけの価値(もの)だった、ということだ」

 

 そう端的に言い捨てたのは長い赤毛を後ろに一つ結び(ポニーテール)にした女将校。

 エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ。彼女の結論は、この場にいる黒円卓メンバーの大半が同意するものだった。

 

「どんな子だろーね。女の子かな、男の子かなー」

 

 楽し気に歌うのは眼帯を付けた白い頭の少年。

 ウォルフガング・シュライバー。可愛い子犬じみた笑顔を浮かべているが、その身の内に渦巻く狂気は、全員が感知するところにあった。今も何を考えているのか分かったものではない。

 

「人型って保証はねぇだろ。アレの使い魔だぞ? 鳥とか虫とか、そういうんじゃねぇのかよ」

 

 ぶっきらぼうながらも使い魔の予想を立てたのはヴィルヘルム・エーレンブルグ。

 何が来るかは知らないが、向かってくる以上は愉しめるかどうかだ。あのメルクリウスが勧める獲物に、多少なりとも期待する節はある。

 

「……まったく想像つきませんね。まぁ、今からその使い魔には同情しますけど……」

 

 黒円卓の戦闘要員を一人で相手にする。

 あのハイドリヒ卿までもが参加する以上、どうせまともな死に方はすまい。それを、金髪ポニーテールの戦乙女、ベアトリス・キルヒアイゼンは憐れんだ。

 

「けど、私は参加できるか分からないわね。今はイザークのことがあるから……」

 

 呟いたのはリザ・ブレンナー。

 彼女は去年の夏、黒円卓でも特に重要な位置にある子を産んでいる。常人の五倍の速度で成長しているという幼子の世話を、此度の召集時なら例外としても、一時の余興で離れるわけにもいくまい。

 

 トリファが肩をすくめる。

 

「私も戦闘面ではお役に立てませんからね。副首領閣下の使い魔……興味はありますが、席を外しましょう。一体どんなものが来るか、分かったものではない」

 

「賢明ね。まぁ、私たちはそういうわけだから、後は皆で楽しんでちょうだい。生きて帰れることを祈っているわ」

 

「は、誰に物を言っている」

 

 リザの戯言をエレオノーレが嗤う形で、その場で話は終わった。

 黒円卓の席はまだ二つ空いており、更にリザが離れるとなると、彼女が操る屍兵(カイン)も不参加ということになる。

 

 よって、水銀の使い魔を迎える参加者は6名。

 いずれも血風雷火の戦場を乗り越えた、魔人たちである。

 

 

     ※

 

 

 ──意味が分からない。おかしい。何があった?

 

 うつ伏せに倒れ込んだまま、ヴィルヘルム・エーレンブルグの頭の中では疑問が反響していた。

 倒れている。自分が倒れている。

 滅多にないどころか、ここ数年ではありえざる状況だったが──それに腹を立てる以前に、メルクリウスが連れて来た「使い魔」とやらが、完全に想像の埒外だった。

 

 むくりと肘を立てて起き上がると、そこは夜だった。

 己の創造(かつぼう)が創り出した夜ではない。それとは比べて、ひたすらに透き通った、どこまでも自然のままの美しい夜の天蓋が世界を満たしていた。

 

 この時点でおかしい。自分たちは城の中にいたはずだ。

 

 白い月が浮かぶ、どこかの草原。正確な場所など察する余地もないが、とにかくここは草原──白花が咲き誇る、幻想世界だった。

 

「……なんだここは……」

 

 立ち上がって振り返る。と、目を剥いた。

 そびえたつ壮麗な巨城。ヴェヴェルスブルグ城とはまた異なる、およそ現実には存在しえないだろう建築物が、そこに当然のように存在する。

 

 その前に、人が、立っていた。

 

 少女だ。黒円卓の制服を着た、幼い面影を残す少女。白い長髪が風に流れている。その目の色は……青にも緑にも、赤にも見えた。正確な色は分からない。ただ、異常の塊であることは明白だった。

 

「“()()()()()()()()”」

 

 アナウンスのように、可憐な声がそう紡いだ。

 まるで遠い世界から呼びかけられたかのような錯覚。人から発せられたような音声には思えなかった。異国の言葉を告げられたような感覚に近いか。

 

「──卿が、我が友の使い魔か?」

 

 絶対者の声に、そこでヴィルヘルムは気付いた。この場には自分以外のメンバー、今日集まった黒円卓の従者たちもいる。──全員、まさかあの子供の創造に呑み込まれたというのか。

 

Ja(ヤー).お初にお目にかかります、ハイドリヒ卿。不肖の養父がお世話になっております」

 

 養父。養父だと? つまりあのメルクリウスの義理の娘だというのか。

 場に静かな衝撃が走る中、しかし黄金の君はなるほど、と声を零すのみ。

 

「カールの話に聞いたことはある。私のことも彼から聞いたのかね?」

 

Nein(ノイン).知っていただけです。そもそも養父の手紙には『来い』の一言しかありませんでした」

 

「……ほう」

 

 異様な問答。

 少女はメルクリウスから何も聞いていなかったと言いながら、「知っていた」と言ってハイドリヒ卿の名を言い当てた。

 

 ──得体のしれない、おぞましさが背筋に這う。

 アレは、間違いなくあの水銀に連なる異常存在だ。

 

「では卿も、既知(ゲットー)を?」

 

「14の頃に外れたようです。もはやそちらの感覚は分かりませんが、そのような循環(もの)になっていることは認識しています」

 

「──それはまた。カールめ、虎の子といえど限度があろうに。そんなことを言われたら、(こわ)したくなってしまうだろう」

 

「左様ですか。しかし今は、多少なりともマシなのでは?」

 

「確かに。不思議なものだな、おそらく今の感覚こそが本来あるべきものなのだろう。未知、か。久しく忘れていたよ。ああ──これならば、卿との余興も愉しめそうだ」

 

 二人は二人にしか通じない会話を交わしている。

 だが黄金の王は上機嫌だ。会って間もない小娘一人に、あのカール・クラフトと同じような視線を向け始めている。──それが、黒円卓の従僕たちは気にくわない。

 

「嫉妬されてますよ獣殿。養父(ちち)とは違い、人望の厚い方だ。断っておきますが、私に大それた価値はありません。ただの幻想。夢幻。空虚なるもの。時間を使うだけ損になるので、取るに足りないものだと認識を改めることを勧めます」

 

 無表情に徹していた少女の目に呆れが滲む。まるで玩具を取られた子供のような不機嫌顔。過大評価してくれるな、と降参する雰囲気すら出てきていた。それに王は微苦笑する。

 

「父親に似て謙虚な娘だ。では我が爪牙たちも、卿と競い合いたくて堪らないらしい。盛り上げてくれるかな、奇術師殿?」

 

「この身の全力を賭して。微力ながらも、我が幻想の数には果てがないと自負しています。気に入ってくだされば、それに勝る喜びはありません」

 

 戦意の気配に、エインフェリアたちの気合が高まっていく。

 まずはどう殺すか、とヴィルヘルムの思考もそうなろうとした時、

 

「じゃ、()()()()()()()()()。出典:One Radiance Thing(ワン・ラディアンス・シング) – Lv1!」

 

 パチン、と少女が指を鳴らした瞬間。

 ゴッッ……!! と西の方から強大な気配が満ち溢れた。反射的に全員が振り向くと、そこには──

 

 ()()()()()()()()で覆われたような、

 数十メートルを超えた巨大な、

 銀色に光る蜘蛛のようなもの、が、

 

『……は?』

 

 一瞬で理解を超越した。

 なにあれ。

 なにこれ。

 等と思っている間にも、不気味としか言いようのない存在は光り始め、稼働を開始している。魔物? 幻覚? 否、否、否。異質かつ重厚すぎる存在感は、絶望という文字すら許さぬ、埒外にして未曽有の恐怖を体現している。

 

「ほう……!」

 

 愉し気に口元を吊り上げるは黄金の君ただ一人。それ以外の者らは、例外なく唖然とした表情をさらしていた。

 

「いやー、やってみたかったんですよね。黒円卓 VS ORT。まぁ若干メンバーは足りませんが、皆さんほら、生きた英霊みたいな人たちですし。大丈夫大丈夫、私も応戦しますから。あ、ちなみにアレ、取り込まれたら一定時間、動けなくなる仕様なんでそこは気を付けて。じゃ、やっていきまっしょう!!」

 

 一人ノリノリな少女は知らない。

 黒円卓はこの時、しっかりと理解した。

 こいつは間違いなくカール・クラフトの義娘だと。

 そして紛れもなく──誰よりも幻想に殉ずるイカレ野郎であると。

 

「ちょっと待て!! てめえが相手すんじゃねぇのかよ!?」

 

「え、なに言ってんですか怖い……まさか幼女一人を集団リンチする予定だったんですか。というか私の素の戦闘能力なんて皆さんに比べればゴミですよ? 瞬殺じゃないですか。だったら協力して脅威に立ち向かいましょーよ。いつか役に立つ日が来るかもしれないし」

 

 そうこうしている内にも多足の化物がこちらに迫ってくる。

 聖槍十三騎士団、空想の星喰らいとの大決戦がここに開幕した。

 

 




獣殿>楽しかった

 原作の空想具現じゃORT作るのは絶対ムリに決まってるけど、本作ではある事情でとても使い勝手のよい異能になっている模様。主人公の詳しい能力説明は次回にて。
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