幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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41 従僕のロリータ現る

「今夜、ツァラトゥストラを連れてきてください。もちろん、生け捕りで……ですよ?」

 

 聖贄杯猊下(クリストフ)からそんな命令を受け、本日のベイ中尉は諏訪原タワーへと足を運んでいた。

 おそらく、というか確実に後から螢が追ってくるだろう。多少なりとも更生したとはいえ、このひとの戦闘狂の(サガ)は不変である。ノッてしまったら半殺しにしかねない。

 

『ベイ中尉ー』

 

「あんだよ」

 

『……殺しちゃダメですよ?』

 

「ハッ、知るか。シュピーネとやり合ったってことは、あのガキも前よりマシになったんだろ? こっちはハズレ掴まされ続けてんだぞ、少しは責任取らせなきゃ割に合わねえよ」

 

 だ、そうで。

 もうこれは何を言ってもしょうがないので、諦める他にない。

 なんて話している内に、ツァラトゥストラ──藤井蓮、それにその聖遺物の気配が近づいてくる。

 

「──おい、出て来いよ」

 

 相手のそんな声と同時に、ベイ中尉が“活動”の杭を撃ち放つ。

 抉れる地面。一瞬で戦場と化す観光地。

 不可視の杭を、しかし避けてみせた藤井蓮は、現れたベイ中尉を睨む。

 

「ヴィルヘルム……!」

 

「ちったぁやれるようになったか、ガキ」

 

 蓮のいる広場を見下ろすように、街灯の上に立つ吸血鬼。

 今の蓮は、確実に数日前と違っている。武器を手に入れたこと、形成位階に至ったことで、黒円卓と渡り合えるようになった。実際、今なら彼はベイ中尉の不可視の杭も視認できるだろう。

 

「聞いたぜ、シュピーネと戦ったんだってな。やるじゃあねえの。あれでも六十年来の付き合いある戦友だったんだがねぇ……」

 

「──え」

 

 街灯から飛び降り、芝居がかった演技口調で肩をすくめる。

 

「だがまあ、妥当な末路だわな。黒円卓に叛意を抱く身の程知らずになり下がるとは。半世紀前はまだ多少マシだった筈なんだ、あいつは誰よりも慎重派で通っていたからな。──自壊衝動でも起こしたのかね」

 

「自壊衝動……?」

 

「魂が持つ自死の欲求だよ。不死の肉体を手に入れようと、常人なら百年前後、魔術師とかいう魔道に足突っ込んだ奴でも二百年から三百年。最初の百年が区切りってわけだ。弱者の摂理、だな」

 

「……まるで自分だけは違うような言い方だな」

 

「違うさ。俺たちは違う。いつまでも残り続ける。生き続ける──それが強者の摂理だ。そうだろ?」

 

 自負と自信に満ちた宣言。

 従僕としてはかっけー! と思うが、蓮の目は冷ややかかつ、呆れたものだ。

 

「さて、このまま弔い合戦してもいいんだが、今夜はちょいと事情が違ってな」

 

「っ?」

 

「代行殿がてめえをお呼びだ。一応訊くが、黙ってついてくる気はあるかい?」

 

「──冗談」

 

「だよなあ、そう来なくちゃ」

 

 歓喜と喜悦の色を滲ませた瞬間、ベイ中尉が再び杭を掃射した。

 それを蓮は目で見てかわす。もはや活動位階は通じない。しかし、そこへ一拍遅れてベイ中尉が突貫した。

 

「試験してやる。どの程度のもんか見せてみなァ!!」

 

 まさに鬼教官。右ストレートを放ち、蓮の行動を制限すると、続けざまに左の踵をその側頭部に叩き込む。──直撃。しかし、ほう、とベイ中尉から感心の息が漏れた。

 

「形成位階にはいってるか。いいじゃねえの、戦はこうでないとな」

 

 以前ならひき肉一直線だったものを、今の蓮は両腕で防御し切ってみせた。すなわち人間という規格からの脱退。霊的装甲の獲得。その身は人ならざる者への道を歩み始めた、ということだ。

 

「そら、てめえの武器を出してみろよ。どの道、聖遺物以外じゃあ俺は殺れねえぞ?」

 

「ッ──」

 

 蓮の瞳に闘志が宿る。その右腕に、ギロチンの殺意と怨念がうずいている。

 それに対し、ベイ中尉の方も口を吊り上げ、今にも暴威を振るおうとしたが──

 

「──ベイ。自重しろと言ったはずだが」

 

「おい、またか」

 

 そこで螢の邪魔が入る。

 そろそろ、うんざりした顔でベイ中尉が声の主の方を見やった。

 

「すっこんでろレオン。てめえの手番じゃねえんだよ。それとも何か、やっぱこのガキはおまえが欲しいってか?」

 

「口の減らない男だな。おまえに任せれば殺すだろう?」

 

「人を理性もへったくれもねえ獣扱いかよ。自重が足りねえのはどっちだ」

 

 辟易と共に、その殺意を螢にも向けるベイ中尉。

 だが──

 

「……かかってこいよ」

 

 その上で、藤井蓮が一歩踏み出す。

 

「二人まとめてかかってこい。どんな考えにしろ、そのつもりで来たんだろ。()()()()()()

 

「へえ……」

 

 敵を打ち倒す気概に満ちた瞳に、螢が笑う。

 事ここに至り、ツァラトゥストラの覚悟は決まっていたようだ。その右腕から、ギロチンの黒刃が形成される。

 

「はッ──ハハ、アハハハハハハハハァ!! いいぜおまえ、いいなおまえ、最高だなオイッ!!」

 

 哄笑を弾けさせたベイ中尉から杭が発現される。

 共に形成──射出された杭の乱舞が蓮の姿を呑み込んでいく。だが。

 

「っゥ──ォア」

 

 それをギロチンの刃が斬り伏せる。

 咄嗟に斬撃を重ねて杭の乱射を叩き潰したか。中々やりおる。

 だが反応的にギリギリだった。それを認めた螢が焦りを見せる。少年の気概は買うが、このままではベイ中尉が彼を殺すだろうと。

 

「ッ、ベイ──!」

 

()()()()

 

 一瞥。

 それだけで螢は動けなくなった。彼からの重圧が全身に乗り、崩れ落ちそうになる。

 

「年上をナメ腐るのもいい加減にしとけ、小娘。早死にしてえならそう言えや」

 

「わ、わた──しは」

 

 螢が震え上がるのも無理はない。純粋に──魂の総量が、ベイ中尉とは比較にならない。

 半世紀前において彼の魂の許容総量はおよそ八千あまり。

 だが今は違う。

 現在の彼の持つ魂の数は、()()()にまで膨れ上がっている。

 

 主に私のせいでな!!

 

『おまえのおかげだろ』

 

 実況に返事しちゃダメなんですよぁぁ──!! 好き──!!

 

「ハッハァ──!!」

 

「ッ!!」

 

 こっちの応援上映(ラヴコール)に興が乗ってしまったのか、ベイ中尉の速度が上がる。

 広場を巻き込んでいく杭の一斉乱射。蓮の回避っぷりも見事だが、迎撃を強制される状況は旗色が悪い。()()に留まっている今ならまだ隙を突けるかもしれないが、それでも一手、届かない。

 

「ォオオオオオオオオ────!!」

 

 だが彼は円環に囚われている刹那の君。

 一秒を切り刻み、秒を停めた永劫の果て、瞬間的に全ての杭を薙ぎ払い、断ち切ってみせた。

 

「何──」

 

 形成に到達したばかりとは思えぬ絶技に吸血鬼も目を見張る。

 その隙を処刑人は見逃さない。杭を叩き落とした空隙、一瞬で彼の懐へと入り込み──刃を振るう。

 

 完全に“取った”と思わせる致命の一撃。

 しかし──

 

「──ァァアらァアアッ!!」

 

「がッ──!?」

 

 並外れた身体反応により、ベイ中尉の放った剛拳がギロチンを叩き飛ばす。

 咄嗟に防御態勢に移行した蓮は吹き飛び、大地を滑りつつも着地。ありえねえだろ、とでも言いたげな目で再び敵を睨んだ。

 

「おーおー危ねえ。今のはヒヤッとしたな。本当にいい具合に育ってんじゃねえかよ。見直したぜ」

 

 自惚れやすいが、彼はそれで窮地に立ったことは一度もない。

 こと戦いの中においては油断などする筈もなく、今見せた隙も意図したものだった。

 

 そも──形成位階同士で戦っているとはいえ、とうにベイ中尉は創造位階に立っている。

 ランクの土台が違うのだ。試験と言っていたのは本気も本気で、小手調べに過ぎなかったことを蓮も悟ったことだろう。

 

「試験は合格。及第点ってトコだがな。んじゃまぁ──そろそろ終わらせるか」

 

 名残惜しいがね、と付け足して。

 

 ──直後、蓮の目前に白鬼が現れた。

 認識まで一秒となく。今度こそ、彼の意識を刈り取るために獣の鉤爪が放たれる。

 

 その、直前。

 

「「──!!」」

 

 一発の銃声音が、蓮の運命を変えた。

 鬼の凶腕が鈍った隙に獲物はその場から離脱する。銃声を受けた狩人は動きを止め、その歯で止めた銃弾を吐き捨てた。カラン、と弾が地面に落ちる。

 

「来たか、クソガキ」

 

 だがその表情、感情には邪魔立てされた苛立ちは皆無。

 むしろ延長戦に雪崩れ込んだ状況を歓迎さえしていた。

 

「司狼──ッ」

 

「いよ──ぅ蓮。なにお一人様で主人公(ヒーロー)気取ってんだよ、オレも混ぜろや。親友だろ?」

 

 飄々とした態度は、そこが戦場であろうと変わらずか。

 赤いコートをはためかせ、右手には男の浪漫、世界最強銃(デザートイーグル)を携えて。

 

 金髪不良筆頭生、遊佐司狼がここに合流した。

 

 

     ※

 

 

「帰れよ……馬鹿が」

 

「お断りだね。おまえにとっちゃ人生主役はおまえだろうが、オレにとっちゃぁ人生主役はオレなの。脇役がしゃしゃってんじゃねえよ」

 

 乱入し、好き勝手に喋る司狼を、ベイ中尉は面白そうに眺めている。

 横並んだ若者二人は、視線を交わすことなくこちらを見つめ、やがて蓮が深く息を吐く。

 

「──帰れ、クソバカ。一緒に戦ってくれなんて頼んでない」

 

「つれねえなぁオイ。だったら、あの白いのオレにくれよ。チンピラはチンピラ同士、おまえはあっちの黒髪女、優等生同士で丁度いいだろ。二対二だ」

 

「二対二、ね」

 

 と、ベイ中尉が苦笑交じりに口角を上げる。

 あの一般人にしか見えない方が己と戦うという提案も失笑モノだが、数の話をすると、どうしても彼の意識から外せない「余り」が一人いる────

 

「俺はハブられた時の辛い気持ちが分かる良い男だからよぉ……()()()()、だったらおまえも一緒に遊ぼうぜ」

 

 名を呼ばれた。

 観客席(そこ)から()()()()と主が命ずる。

 ならば従僕として行うことは決まり切っている。

 

「同窓会っていうんだっけか? 折角なら派手にやろうや」

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)の影が揺らめく。

 陽炎のようにそれは立ち昇り、新たな気配に後輩二人の顔が強張った。

 刹那──

 

 

「──出典:破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)

 

 

 爆裂する紫電の災害。

 広場一帯を吹き飛ばさんばかりの閃光が降臨し、大地を抉り大気を引き裂いて轟音が叩きつけられる。ぎょっとする間もなく、特大の嵐に見舞われた蓮と司狼と螢は吹き飛ばされる。

 

「な、な、なん────っ!?」

 

「おいおいおいオイッ! マジかこれオイマジかッ!?」

 

「ッ──!?!?」

 

 既知を求めるツァラトゥストラはその顔から血の気を引かせ。

 未知を好む自滅因子は破滅の光景を前に歓喜の声が止まらない。

 完全に巻き込まれたレオンハルトは、息を呑むことさえ忘れ、一体何事かと瞠目している。

 

 雷電、雷光がひとしきり暴れて静けさを取り戻したあと。

 ベイ中尉の傍らに降り立った魔法使い(グルヴェイグ)は、杖を片手に。

 

「────呼ばれて飛び出て従僕ここに参上!! なんて挨拶ももうこの時代じゃ古いのか? 『召喚に応じ参上した、おまえが私のマスターか!』って言いたいのは山々だけど、そんなタメ口利いたら死んでしまう職場とか幼女に厳しいナー! そんなわけで今日は魔法少女でお送りする永遠の従僕奴隷、謎のヒロインDXことレイシアちゃんでーす! 敵は断頭台の処刑人? それともヒャッハー馬鹿な不良かな? いえいえ、そんなものは前座も前座、真なる最終ボスとはこれ、銀河の彼方の果てにましますこの世の絶対元凶神なれば──! あ、ファミチキください」

 

「「────、」」

 

 蓮、司狼、共に絶句だった。

 正確には、私の姿を見た瞬間に忘れていた記憶が呼び起こされて、脳内に一年ばかりのアオハルが溢れ出していたのかもしれないが。

 

「おっと──まだこの言葉を言っていなかった」

 

 肝心なコトを思い出し、私は呆然とする後輩二人へ人差し指を突きつける!

 

「──おまえらとの友情ごっこ、楽しかったぜぇ!!」

 

 放たれるは裏切りの常套句。

 完全、完璧に決まったという自負と満足感がこの身に満ちるが。

 ……ベイ中尉がなでなでしてくるのは、何故?

 

「えっ、ちょ、なんで頭撫でるんですかっ」

 

「滑稽さを煽ってんだよ」

 

 性格の悪さまでは更生できていないようだ。くっ、教育の敗北を感じざるをえない……

 

「ちょっと待っ……え、ちょっと待て。なぁ司狼、これって夢?」

 

「現実らしいよ、残念ながら。いや喜ぶべきかこれ? やっぱりいたんだ! 先輩系ロリ美少女は実在したんだ! どうやらこの世にはまだまだ希望があるらしいな、オレは今日からロリコンになります」

 

「司狼ぉ──!? ちょっとその決断は遅すぎないかッ!?」

 

「────待った。おまえ、まさか既にそっち側だったのか!?」

 

「……ロリータかな(<性癖:氷室玲愛>)

 

「性癖で宇宙の結末が決まるとか誰が予想できるんだコレ」

 

 思わず素でツッコミを入れてしまったところで。

 閑話休題。

 

「──ッいや! いやいやいや!! 何やってんだ先輩!? なんでそいつなんかと一緒にッ……ていうかその格好──ッ」

 

 再生した記憶と現状の齟齬に、蓮後輩のキャパはオーバー気味。

 反して司狼は、苦笑を浮かべつつも、彼よりかは迅速に受け入れてるようだった。

 

「なんでも何も、そういう事なんだろうさ。あのロリは初めっからオレらの敵で、つまり騙されてたってワケだ。────いや、うん。正直驚きはしたけど、案外違和感ねえな先輩」

 

「でしょー。司狼くんも入る?」

 

「ハ、冗談。流石にそっちの部活までは入れねーよ。どう見たってブラックだろ、黒円卓なだけに」

 

 言いながら司狼は銃口をこっちへ向けてくる。

 それを、ぎょっとして見るのは蓮だった。

 

「おい司狼ッ」

 

「なぁんだよ。迷うまでもねえだろ、この状況。別に脅されてやってるワケでもねえみたいだし。っつか、さっき殺されかけたし? どうせ重い事情もなにも無いだろ、あの幼女。クッソノリノリどころか学校で会ってた時よりイケイケだぞ」

 

 そりゃあ好きな人が隣にいるのといないとでは、モチベも変わるってもんだ。

 司狼クンは話が早いナー、とうんうん頷いていると、蓮の視線はまた別の人物へと向けられる。

 

「……おいヴィルヘルム。その人とはどういう──!」

 

「やかましい。てめえなんぞに俺たちの関係をどうこう口出しされる覚えはねえよ。人ん女にいつまでも固執してんじゃねえよ、殺すぞ」

 

 その言葉に私は胸を押さえる。

 

「くッ……なんて濃厚なデレなんだ。甘々にも程があるでしょ中尉、人前ですよー!」

 

「おまえの羞恥の基準がいつまでも意味不明だわ。この万年恋愛脳のクソボケ、猫被ってんのはどっちだって話だよ」

 

「なにおう。私がこうなったのは間違いなく貴方のせいでしょうがー!」

 

「それこそお互い様の話だろ、ったく……」

 

 ──そんな私たちのやり取りに、数瞬、夜は静けさを増した。

 どしたの皆? 呆気に取られたというか、マンボウのような顔をしちゃってさ。

 

「────あ。バカップルだこれ」

 

 冷静に、真顔になった司狼がそう言った。

 そうですが、なにか?

 

「ば、…………馬鹿、──な」

 

 一方、蓮は蓮で落雷にでも打たれたようにフリーズ。

 台詞がいつかのベアトリスと同じだ。そんなに衝撃かね?

 

「……、…………?」

 

 ただ一人、後ろの螢ちゃんからは困惑の気配。あの馬鹿二人、何を言ってるのかしら、という顔だ。十七歳でこの無垢っぷり、一周まわって真のマスコットとは彼女のことなんじゃないかと思う。

 

「つかよパイセン、あんたいつからそっち側だったんだよ」

 

「半世紀前からだよー。合法ロリってやつだよ、喜べよ」

 

「うわぁ、夢壊れたわ。やっぱロリコンはいいです。ってわけだ蓮、やっぱあの白髪野郎はオレに寄越せ。ロリと半世紀生きてきたとかいう重罪を裁かなくちゃならねえ。こいつは男の義務だ。ロリコンとか関係ねえ、ありゃ処すべきもんだ!!」

 

「…………それについては同感だが……勝算でもあるのかよ」

 

 片や歴戦の魔人吸血鬼。

 片や雷電ブッパの幼女。

 これを一般人同然の野郎が、一人で対処できるものか──否や?

 

「まぁ後輩一号クンなら多少は大丈夫でしょう。()()()()()()()()()()()()()()

 

「──おいおい。非常識筆頭にゃ言われたくねえ台詞すぎんだろ」

 

 肩をすくめてせせら笑う。

 

「この場に、まだ常識が残っているとでも?」

 

「そいつに関しては同感だわな。ああ、だったら────」

 

 瞬間、開戦の銃声が響き渡る。

 一切の躊躇もない、大口径の銃を盛大に操る曲芸射撃。射手の負荷など一切無視した六連射は、的確にこちらの命中軌道を描いている。

 

「さらばだ幼女先輩、良い夢だったぜおねんねしてなァ!」

 

 司狼が別れの言葉を口にした時、私は既に手元から杖を消し、影から二丁の黒白銃を抜き出していた。

 

「照準が甘いぞ、ド素人」

 

 別に直撃したところでノーダメだが。

 棒立ちで鉄壁を誇るのもつまんないので、同じ銃撃を以て、その弾丸を撃ち落とした。

 

「「なッ……!?」」

 

 寸分違わぬ相殺射撃。

 観客の反応は上々だ。ヒュゥ、と横からは主人の口笛が聞こえる。

 

「へいへーい。ルーキービビってるぅー?」

 

 煽りを遮るように、再び司狼から銃弾連打。

 十二発にも及ぶ射撃は、曲芸でありがらも確実にこちらの心臓を、頭を、致命傷となりうる箇所を狙っている。──だがそれらも、先と同じ光景が繰り返されるのみ。全て一寸の狂いなく、撃ち返す。

 

「曲芸師かよ……!」

 

「銃使いならこれくらい出来なきゃ金取れないって。人間の動体視力を甘く見ちゃいけない」

 

「……聖遺物の能力でもないっていうのか……? それじゃあ……」

 

「ん? 当たり前でしょ。銃を使う相手なら銃を、聖遺物には聖遺物を。殺し合いなんて基本は一度きりしか出来ないんだ、公平さは大事にしなきゃ」

 

 つまり──先の雷電など使わない。

 つまり──司狼をナメ切っている。

 そうとしか取れない発言に、ハハァーン? とそろそろ不良後輩はこめかみがイラッときている。

 と、そこで横から側頭部を軽く突っつかれた。ベイ中尉だ。

 

「主人より面白いことしてんじゃねえ」

 

「え~~」

 

 ベイ中尉が前に出る。援護射撃に徹してろ、というお達しのようだ。仕方ないので後ろに下がることとする。

 瞬間、ベイ中尉が活動状態──不可視の杭を司狼へ放った。先ほどの銃撃は私に防がれたが、しかし銃弾よりも速度のある、それも見えない杭を──

 

「おおっと」

 

 ──司狼は当然のようにかわしてみせる。

 それに蓮やベイ中尉、螢までもが目を見張り、続いた不良少年の射撃がベイ中尉に──命中する前に、私の弾丸が相殺した。

 

「ちょっと気を付けて下さいよー。そのサングラス、高かったんですからー」

 

「っ、とんでもねえ幼女だな……」

 

「司狼、おまえ──」

 

「ああ、どうやら面倒なのはあのロリっ子だけだ。()()()()()()()()()()()()()()。なるほど、一芸極めるってことは全部極める、ってのを地でいってんだな?」

 

 もうこっちの本質を看破されてしまった。

 ベイ中尉も十年一緒に過ごすまで気付いてなかったのになー。

 

「──レオン。おまえはそっちのガキをやれ。このふざけた間男(クソ)は俺の獲物だ」

 

「……了解」

 

「話はまとまったな。あのバカップルはオレが爆発させてやる。んな顔すんなよ蓮、今の見たろ?」

 

「……俺は自殺の手伝いなんかする気はない。それに──」

 

 蓮の目がこっちを向く。ひらひらと手を振った。

 

「──……死因がロリとか笑い話にならないからな。死ぬなよ」

 

 乱戦の内訳は決まった。

 蓮は螢が相手をし。

 司狼は、このご機嫌斜めなご主人と、そのおまけを。

 

 夜の乱戦は次の展開へ。

 今宵、何が降臨するかなど、知る由もないままに。

 

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