幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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05 従僕ロリの華麗なる日常

 ヴィルヘルム兄貴ことベイ中尉は夜型人間である。

 つまり夜になるまで全っ然起きてこねぇ。渇望が自身を吸血鬼化させるもの、というのもあるのだろうが、そもそも彼は先天性のアルビノである。

 

 つまり陽の光に弱いのだ。

 ちなみに私の髪色は後天的なものですよと予め伝えた時は、なんか若干がっかりしたようだった。ごめんなさいね。

 

 ちゃっかり一つ屋根の下に住んでいるが、男女のアレコレ的なものは一切無い。

 というか、こっちが死ぬほど気を遣う。

 見た目は幼女とはいえ。ルサルカよりは年下とはいえ。──124歳差である。

 

 ベイ中尉がロリコン扱いされがちだが、ホントはこっちがショタコンの絵面なのである。我ながら申し訳なさすらある。ただでさえ非モテの星の下に生まれているというのに申し訳ねぇよ。……本人に言ったら間違いなく殴られるなこれ。

 

「ベイ中尉ー。ごはんできたー」

 

「……あァん?」

 

 晩飯、ならぬ朝食を作り、中尉を起こしに行く所から一日は始まる。

 住み込み始めはイケメンの寝起き姿に揺れる心もあったがすっかり慣れてしまった。ダメな弟か兄を起こす感覚に似ている。違う。ワイはまだショタコンじゃねぇ!!

 

「まだ寝ます? じゃあラップかけとくんでレンジであっためて下さいね」

 

「は? あ? なんだラップとレンジって……」

 

「ラップはもう少しで発売する透明フィルムで、レンジはレンジです」

 

「何を抜かしてんだてめぇ……」

 

 なにかが起きている、と我が家の危機を察知したらしいベイ中尉が起き上がる。

 そうしてキッチンにやってくると、見慣れないものが増えまくっていることに気付いたのだろう。こっちにガンを飛ばしてくる。

 

「……何のガラクタだこりゃ」

 

「ちょっと先の未来の叡智ですが、なにか」

 

 現在は1943年。

 キッチンの一角にあったのは電子レンジ──1945年、発明(予定)。

 食品用ラップフィルム──1949年、発売(予定)。

 他にも21世紀の最新式炊飯器や冷蔵庫、オーブンやら食器洗浄機、洗濯機まで大体完備した。うるせぇ、これが文明人だ! 幻想使いをナメるなよ!!

 

「つかどっから持ってきやがった……って、まさか」

 

「Yes.今日の私の異能(チカラ)は、『空想具現化』! です!!」

 

 その名にピクリとベイ中尉の眉が上がる。

 

 これぞザ・チート。厨二転生者の末路。

 

 幻想具現。マーブルファンタズム。

 要は、地球と繋がって、地球上のものならなんでも創れる、という3Dプリンターだ。

 ただしそれは「本来の」空想具現化の話。重要なのは、幻想を信仰し、この世が架空だと信じ、あまつさえゲームの世界だと断ずる、この狂気的精神性。

 

 それが私の、私自身の精神こそが聖遺物。

 

 『幻想偽典(グルヴェイグ)』。

 

 好きなアニメやゲームやマンガや──とにかく、私が二次元と信じたものたちの力を使える渇望。

 しかも信仰によってそれらは本来の設定から歪み、変質し、術者たる私に都合よくなっているオマケつき。

 

 幻想を信仰しているクセに幻想を歪ませる。そりゃもう罪深い、原作設定キラーを詰めたような悪逆の力である────!!

 

 いやマジでクッソ便利これがなきゃDies世界で転生者なんかやってけないぜぇ!!

 

 ──ただし、恐ろしいほどの汎用性、万能性のウラに、きっちりデメリットも存在する。

 

「そりゃアレか。初めにあのクソ蜘蛛水晶野郎を創った……」

 

「そうそう、同じ力です。つまり絶好調の日でございます。ははーぁ、文明無双サイコー」

 

 この『幻想偽典』、異能がルーレット式で、()()()()()()()()のである。

 

 どこぞの小説投稿サイトの原作一覧にありそうな作品名の力を、毎日たった一つだけ使える。

 つまり「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」を引き当てた場合、その一日、ずっと聖剣使いだ。

 

 しかし、「空想具現化」を引き当てた日は凄い。全作品・全能力の使い放題セールだ。まさに無敵! 素敵! 厨二バカ!!

 

 すなわち異能ガチャというわけだ。なお魔法のカードはない。そこまで業を詰めるか、我が渇望よ。

 

 まぁ見た目まで14歳で停まるほどだからね。しかも求道だからね。

 救いようがないと言っていい。自慢にならねぇ。

 

「……? 待てよ。じゃあ創ったっていうこれも、明日には消えるんじゃねぇか?」

 

「いえ、消えませんよ? ただの電化製品だし。宝具……えーと、必殺技っぽいのは使うとそれで存在維持力を使い果たしちゃうので一回きりで消えますけど。こういう何の変哲もないやつは普通に壊れたり風化したりしない限りは残ります」

 

 ──というのもまた、私の精神性にカラクリがあるのだ。

 

 この世を二次元(幻想)だと思い込むこと。

 

 どこぞの創作神話の神の夢が我々の住む現実世界である、というように。

 私がこの世界を「Dies世界」だと思っている限り──転生者としての自覚がある限り、モノは残り続ける。残り続けてしまう。現実という名の、幻想世界の一部として。

 

 要は科学技術の先取りし放題なわけで、下手すると歴史が変わるレベルなのだが、まー、ここパーダーボルンは後々消し飛んだりするので、ロクに証拠は残るまい。

 

「……未来人ってのは箱が好きなのか? どうやって使うんだよコレ」

 

「ボタンをポチポチするとパンがこれこれこのように」

 

「はああ!?」

 

 文明利器に戦慄する現代人。革命である。というか驚く神経があったんだな兄貴。

 いや、流石にこの時代の人間は、ボタン押したらすぐ料理が出てきたらビビるか。

 

「こいつも魔術か……?」

 

「純粋科学ですよ」

 

「嘘をつけ嘘を! じゃこっちの箱はなんだ!?」

 

「それは電子レンジといってですね……」

 

 思ったよりもベイ中尉からの食いつきは良かった。

 ていうかまだこの人も26歳? そのくらいの年か。うーん、150歳の幼女と暮らしてるって、それこそラノベじゃないかね。

 

「便利だからってレンジに何でもいれちゃ駄目ですからねー」

 

「いや、触れるかよ。得体が知れねぇモンを置くんじゃねえよ……」

 

 一通り説明した後には引かれてしまった。キッチンの領土を完全侵略してしまったようだ。仕方がないので、結果を示して信用を取り戻すこととする。

 

「……なんだこりゃぁ」

 

「肉じゃが」

 

「はぁ」

 

 テーブルについてから登場したのはドイツ料理にお馴染みのジャガイモである。これで炊飯器との距離を縮めてほしいものだ。と思って観察していると、大皿に盛ったそれが瞬く間に平らげられる。分かりやすいね兄貴。

 

「美味しいですか」

 

「まぁまぁだな」

 

 ツンデレの壁が高ぇー……

 がしかし、黙って空皿を出してきたので、こちらも黙っておかわりに応えることとする。

 

 

     ※

 

 

「新婚か!!」

 

 ガタタァッッ!! と話を聞いていたベアトリスが勢いよく立ち上がった。

 場所は彼女のお屋敷であった。招待を受けて昼、ベイ中尉が寝ている間にやってきたのである。

 そんで近況……というか中尉との日常について訊かれたので、話していたというわけだ。

 

「何を聞いてたんですかベアトリスさん。私は常に命がけで貴方たちと接しているのですよ? さっきのどこに新婚要素があったんですか」

 

「いや、むしろ熟年夫婦! そ、そんな馬鹿な……あのベイ中尉に、こんな、こんなっ……!? こんな小さい子に家事を任せて日中グータラ寝とか、ダメ夫では!?」

 

「落ち着いてください」

 

 つーか結婚してねー。前提から色々と狂いすぎだ。

 

「あのですね。私は今、エーレンブルグ家の文明革命をしたという話をしただけであって、ベイ中尉を愚痴ってたわけではないんですよ?」

 

「だ、だって、どこからどう聞いても新妻の苦労話にしか聞こえなかったよ!? どこが飼い主とペットですか、チンピラとパシリですかっ、いちゃいちゃ生活してるじゃないですかー!」

 

 してねえよ。

 というか、ご飯食べた後は家の中に「空想具現化」で花畑の結界敷いて、そこで普通に殺し合っている。杭の嵐にぶっ飛ばされたり、ベイ中尉を竜の魔女(デュ・ヘイン)したり、ブチギレられて()巻きで放置されたり。

 

 とても優雅な日々を送っている。

 

「レイシアちゃん、早くあんなの捨ててください! うちの子になりましょう!」

 

「私に選ぶ権利はないっす……」

 

「なら私が獲得してみせます! まずはベイを倒せばいいんですね!?」

 

「いや、私のことで内ゲバされても困るんですが。あんまり騒動を大きくすると、むしろ水銀から処分されかねないというか……」

 

 水銀と口にした途端、うっ、とベアトリスが席に座り直す。

 ちょっと頭が冷えたらしい。そう、私の命を誰が握ろうと、大元には水銀がいるのだ。一時的にペットとして暮らしていようと、本来の主である水銀から命が下れば、私は地球の裏側にでも行くだろう。

 

「……我ながら軽率でしたね。でもレイシアちゃん、私はいつでも歓迎してるからね! なにもかも嫌になったら、頼ってください! 一緒にお買い物とか行きましょう!」

 

「はい、その時はよろしくお願いします」

 

 ベアトリス・キルヒアイゼンは黒円卓の中でも珍しい、良識派である。

 しかして剣の腕は超一流。実力は折り紙付きだが、ハイドリヒ卿に忠誠を誓っていない辺りは異端ともとれるだろう。まぁそこは個人の事情だ、深入りする気はない。

 

「ところで、レイシアちゃんの結界って……あれ、ぶっちゃけどういうものなの? この前、怖い蜘蛛と戦った時の記憶はあるんだけど、どうも実感が薄い感じなんだよね……」

 

「そりゃそうでしょう。白昼夢に近い場所なんですよ、あそこは。幻想で満たした仮想世界ですからね」

 

 そういえば、ベイ中尉ともそういった話をしたものだ。

 

『まーなんていうかアレなんですよね。現実世界での普通の経験値が1000とすると、こっちはさんざん苦労する割には経験値が10しか貰えないっていうか』

 

『本当に割に合わねえな……』

 

「うわ、それは割に合いませんね……」

 

「だから、夢みたいなものなんですよ。ハイドリヒ卿が余興と言っていたのはそういうことで。幻想は現実という基盤がなければ存在できない。けれども私はこの現実すら夢のように俯瞰している節がある。なので、そうじゃない……ここが現実だと思って生きている人からしたら、あそこは起きたまま見ている夢。思いっきり戦った後、覚めた直後は『あーなんか楽しかったな』って感想は抱けるけど、一度ちゃんと寝て起きたら、一年前に見た夢だったみたいに遠のく……みたいな」

 

 幻想をどこまでも肯定する故に、私の世界は聖遺物の使徒である黒円卓を支援する。

 しかし得られるものはごく僅か。ガヤだと水銀が言ったのはやはり的中で、そこまでの意味はない。取るに足りない、幻想存在。結局、現実を変えられるのは、現実に生きる人だけだ。

 

「けどま、夢でも暴れ足りない人には都合いい場所ですけどね。本来ありえない敵と戦いまくれますし。いやぁ、終盤の吸血鬼大決戦は本当にベイ中尉が主人公で……」

 

「す、凄い凄惨な戦場っぽいんだけど!? え、じゃあ何レイシアちゃん、もしかして貴方も吸血鬼になれる異能を持つこと、あるの!?」

 

「いやぁ、吸血鬼キャラは多すぎて一つに絞れないっすね。異能として引き当てることはないでしょう。──この世界における吸血鬼は、ベイ中尉で満席ですよ」

 

 既に吸血鬼の枠は埋まっている。で、あるならば私も新たに「幻想」として創り出すことはできない。真祖は、ただ一人きりでなければ意味がないのだから。

 

 

 

「よう戻ったか。ちょっとそこに座れよ。俺ぁ昨日の戦いで思ったんだが、やっぱ『薔薇騎士』って名乗る以上は剣みてぇなのを持つべきかどうかって重大な課題なんじゃねぇか? あれだよ、血を軽く操って剣にするってのはどう思うよ、なぁ?」

 

 ──屋敷に帰ったらホワイトボード(作:空想具現)を背に家主がそんなことを言ってきた。

 どうも「吸血鬼」という幻想に触れたことでなんか刺激してしまったらしい。

 本人は大真面目な顔をしている。普通に戦略会議のノリなのだろう。

 

 うむ。

 

「ベイ中尉はそのままでいいと思イマス……」

 

 責任を感じる。そんな日だった。

 

 




『幻想偽典《グルヴェイグ》』
 レイシアの聖遺物の名称。転生者意識が元となった精神性が聖遺物みたいになったデタラメ。
 無限無数の異能を内包したクロスオーバーの塊だが、使える異能は日替わりのガチャ形式。
 ただし「空想具現化」を引き当てるとめっちゃ自由のなんでもあり。
 異能は日替わりだが、創造物はレイシアの幻想フィルター(厨二病)がある限り存在し続ける。
 ちなみにグルヴェイグとは、“黄金の力”の意味。(Wiki調べ)

 要するに、ぅゎょぅι゛ょっょぃ。


 ……なお作中で使用する異能は、型月多めになる模様。


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 一次も更新再開したのでよろしく。
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