幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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54 インタールード

 ──夜の端を照らす炎火の大爆轟に、不死鬼(ノスフェラトゥ)は顔を上げた。

 

「……レイ」

 

 血盟の繋がりに途切れはない。

 少女の存在の消滅は感じない。

 ならば生きている──そう確信しつつも、嘆息を禁じえなかった。

 

「ザミエルの野郎……人の花嫁を雑に扱いやがって」

 

 苛立ちは滲むが、しかし赤騎士(ルベド)のような扱いこそが、黒円卓として正しいとはヴィルヘルムも分かっている。

 

 何をしてもいい、何をやってもいい絶対従僕。

 適当に駒として利用し、時に斬り捨て、戦況を動かすために使い潰すだけの存在。

 軍人として、指揮官として見るなら、ザミエルの使い方は最善だ。それを分かっていて、白い少女もまた戦場(いくさば)へと向かっている。

 

 愛するなら壊せ────

 

 それがかの君に仕える忠臣として、正しい姿勢。

 ヴィルヘルムが行っているのは、とうに壊れた残骸を愛でているだけに過ぎない遊戯。子供の一人遊びとなんら変わらない自己満足の域を出ない。

 

 だが、それに葛藤する時代はとうに超えている。

 

 だからなんだ。壊したならもう愛さないというのか。違うだろう。()()()()()()()()()()のが、()()()()()というものではないのかと。

 

 そう──結論は下している。

 故に夜の眷属は、白薔薇を愛でるのだ。

 

 

 遊園地……第五スワスチカとして開放した場所から離れて、彼が足を向けていたのは教会だった。

 裏で黄金に対し、暗躍を企てていた不忠者を粛清するために。

 

 ──が。

 

「……おいおい」

 

 どういう状況だコレは?

 いったん思考がリセットして冷静になるほど、教会で見たその光景はヴィルヘルムの予想を超えていた。

 

「あんたが加勢って、背中が怖えんだがオレッ!?」

 

「ご安心を。まぁ信用して頂けないのも無理ありませんが、これもテレジアのため。ええ、彼女のおかげで目が覚めたのですよ。私には、やらねばならぬことがある……」

 

 何故か、そこにはルサルカ──マレウスがクラブで始末した筈の金髪……遊佐司狼が居り。

 更に、彼を援護するようにして──首領代行、聖餐杯ヴァレリア・トリファが付いており。

 

「あーぁ……残念だなぁ、神父様。そっちに付くってことは、もれなく背信行為になるってことだけど……まだ懲りてないんだねえ」

 

 彼らに相対して嘲笑を、侮蔑の笑みを張り付けるのは、ウォルフガング・シュライバー。

 スワスチカが六つも開いた影響だろう、その気配は強く増して、影であるにも関わらず、二者を圧倒している。

 

「……うーむ」

 

 それを見て。

 ひとまず確認して。

 冷静に──冷静を努めながら、ヴィルヘルムは考える。

 

 ここで一番大事な点は、なんだ。

 

 優先順位を決めろ、と。

 

「……あのガキだな」

 

 神父の心変わりに関して考えるのは、後に回すとする。

 そもシュライバーに目を付けられた今、アレが助かる道はなかろう。

 更に奴が相手となれば、まだこちらも宿業打破の時は来ていない。用があるのは確かだが、ここで仕掛けるのはナシだ。故に──

 

「…………」

 

 教会の前で三人の闘いの火蓋が切られるのを見計らい、闇に紛れながらヴィルヘルムは教会に忍び込む。

 こと暗闇……夜において、吸血鬼を凌駕する潜伏は他にいまい。故に、闘争に猛っている者らの目を盗み、あっさりと潜入に成功した。

 

 そこで見たのは──

 

「──そういう事かよ。腹ァかっさばかれたか、マレウス」

 

「ぁ…………ベ、ィ…………?」

 

 教会、礼拝堂の祭壇前で。

 そこに、瀕死の重体に陥っているかつての同胞──ルサルカ・シュヴェーゲリンを見た。

 

 

     ※

 

 

 率直に驚いた。

 半死半生という言葉があるが、今の奴はまさにそれだ。聖遺物を奪われた状態であろうに、血涙を流し、今も吐血しながら自分の血に溺れかけているが、それでも魔女は生きていた。

 

 生き汚さにかけては他の追従を許さぬほどの執念。

 どうも俺たちより遥か昔から魔道に踏み込んでいただけの実力はあるらしい。

 

 ともあれ。

 まあなんだ。

 俺がここに来た理由は、あのクソガキが復活した所以と、こいつの状態を確認するためで。

 もう分かり切った状況がここに在る以上、次に取る行動など、決断するまでもなく────

 

「ベ……ベイッ! ベイ、よかった、ああ、よかった……あなたが来てくれて……私、うれしい、うれしいのよベイ……」

 

 魔女は嬉し涙──それすら血だが──を流しながら、こちらに這いずってくる。

 歓喜に満ちた目。死の際、土壇場における俺の登場は、さぞや自分の救世主にしか見えていないに違いない。こいつとも古い馴染みだ、まったく気が引けねえかと言われたら嘘になるんだが……、

 

「そうかい。なぁマレウス、おまえとも長い付き合いだ。だからこのまま見捨てるのは人情的にどうかと俺も思うんだがよ」

 

「えぇ……ええ、ベイ、分かってる、分かってるわ……ねえ、でもその前にお別れを言わせて……? こっちに来て、私の目を見て……」

 

「──、」

 

 ああなるほど、そういう事かと俺は得心する。

 こいつの目が俺を見た時から抱いていた違和感。普段のマレウスらしからず、俺に向けてくるその視線の理由(ワケ)を。

 

 ──愛している。あなたを愛しているベイ。()()()()()()()()()()()

 ──愛している。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまりは情欲の目だ。恋人に向ける類のものを、こいつは今、俺に向けている。

 魔道。と、くれば洗脳。こいつは自分自身に暗示をかけて、更にはこっちにまで暗示をかけてこの場を生き延びようとしている──

 

 愚かにも。

 俺の恋人に成り代わろうとしている。

 

「……レイ……」

 

 故に自然、俺の口からはその名が漏れた。

 足が動き、その場に膝を折ろうとする。

 

 目の前にあるのは死にかけの恋人。赤毛の少女が白い少女にダブってみえる。

 助けなければ。助けないと。血を与えなくては。でないと、そうでないとこの少女は消えてしまう────

 

 そう、思って。

 

「ベイ……」

 

 勝利の確信を得たその一声で、完全に我を取り戻した。

 

「──カハッ」

 

 はははははははは。

 なんだこれは。なんの茶番だこれは?

 割とマジに引っかかるところだったぜオイ魔女の本気ってやつかこれが馬鹿馬鹿しいフザけてんじゃねえよクソあああああ一瞬でも一秒でも刹那でもこんな無様をあいつと思い込むなんて──!!

 

「ベイ……?」

 

「黙れクソババア」

 

「ごッッッ!?!?」

 

 その背中に片足を叩き込む。踏み潰す。

 ただでさえ血泡を噴いている状態で圧力を加えられ、魔女は更にその中身を嘔吐する。

 

「よくも舐め腐った真似してくれやがってよォ……レイ? おまえが? 似ても似つくか、クソボケ。大体なァ、俺はロリコンじゃねえんだよ。好きんなったあいつがロリだっただけだよ。恋人が幼女体だからって自分にもチャンスが思ってんなよアバズレ。思い上がりもいいところだぜ──てめえは守備範囲外だって言ってなかったか?」

 

「ごっ、がぼっ、ぁあっ、やめ、やめてベイ、ベイィッ……!!」

 

「あいつはなぁ! 二人っきりの時は名前で呼ぶんだよッッ!!!!」

 

 怒りに吼え狂って、赤毛の肉塊を蹴り飛ばす。

 祭壇の向こう、十字架が立てられたそこに、魔女が張り付けになる。ごほっ、と再びその口から、腹から、癒えかけていた傷口から血潮が噴き出した。

 

「──てめえの命で第七をこじ開けろや、足引きババア」

 

 右手に形成した杭剣を投擲する。

 教会よ消し飛べと言わんばかりの念を篭めた一撃は、魔女という存在を、その命を完全に粉砕した。

 

 魂が一斉に散華する。

 第七のスワスチカがここに開く。

 

 俺としては忸怩たる思いに歯噛みしながら、近づく魔城の気配に顔を上げたのだった。

 

 

     ※

 

 

「点呼ぉー!」

 

 ──病院の爆撃から逃れ、生存者たちが集結していたのは公園だった。

 

 藤井蓮の腕にはマルグリットが抱き着き。

 それに櫻井螢が冷ややかな視線を向け。

 リザ・ブレンナーはそんな若者たちに苦笑し。

 ベアトリス・キルヒアイゼンは腰に両手を当て、場を仕切っている。

 

 ……そして。

 

「はいはーい。オレらも入れて入れてー」

 

「ッ……!? 司狼!?」

 

 二人の影も、そこへ合流してくる。

 遊佐司狼──並びにトリファ神父。

 神父の顔に、大多数が身構えたが、いえいえと優男は降参のポーズをとる。

 

「企んでません──何も企んでませんよ?」

 

「どのクチで言ってるんですかねこの腹黒は。私と戒の恨み、ここで晴らさずしておくべきかっ!」

 

「ええ。手伝うわ、ベアトリス」

 

「まーまー! まぁまぁまぁ!!」

 

 神父、四面楚歌。

 自業自得ねえ、とリザさえも作る表情が分からない中──

 

「──ごめんなさい。そこの神父様に代わって私が謝るから……矛を収めてくれない、かな」

 

「先輩!?」

 

「玲愛……!」

 

 公園に現れた氷室玲愛の姿を見た瞬間、駆け寄ったリザがその身を抱きしめる。

 出遅れた蓮は行き場のない手を彷徨わせ、むーっと顔を覗き込んできたマリィの視線から逃れるように顔を逸らす。それを無視しつつ、司狼が頭を掻きながら言葉を挟む。

 

「あー、感動の親子の再会やってるとこ悪いんだけど、先輩。香純は?」

 

「お家に置いてきちゃった。出ていく時バレたから、こう、」

 

 手刀を振る仕草には司狼も苦笑しかできない。

 クラブが壊滅した日の後、玲愛は香純の家に逗留していたのだ。香純から強く提案されたこともあり、それを蓮も了承していた。どこもかしこも戦場となる以上、自宅が一番安全かもしれない、という博打に近い消去法だったが。

 

「そりゃ結構。じゃあ次の質問は、神父さん。あんた、香純(あいつ)を使って何を企んでいたんだよ」

 

「おや、マレウスにも同じことを訊かれましたねえ……まぁ、その直後にあなたが食い破ってきたのは流石の私もドン引きでしたが」

 

「ヴァレリア」

 

 はぐらかしている場合じゃないでしょう、とリザの一声が飛ぶ。

 いやまあ、と退路のない神父は肩をすくめ、息を吐き、眼鏡をクイッと上げて。

 

「──不完全なゾーネンキントを用いて黄金錬成のイイトコ取りを狙っていた私ですが、愛娘の決断によって目が覚めたということはご存じの通りですね?」

 

「「やっぱ死ねこの神父」」

 

 蓮がマリィを宿してギロチンを振りかざし、司狼もノータイムで発砲した。

 うわあああ、と頭を抱える神父だが、刃も銃弾の一撃もその身には通らなかった。

 

「せ、聖餐杯は不壊なりッ……!」

 

「金メッキでしょう。それ、ハイドリヒ卿の玉体なんだから」

 

 えっ、とリザの漏らした情報に蓮以外の目が丸くなる。

 いよっし、とそこで悪童代表・遊佐司狼が銃を仕舞い────油性ペンを取り出した。

 

「猫ヒゲを……」

 

「天敵の予感ッ!」

 

 ヴァレリアが公園を駆け出し、それを司狼が鎖を形成しながら追いかけ始める。

 茶番に走り出した馬鹿二人を見送り、ええと、と蓮が現存メンバーの顔を見回した。

 

「……あんなのでも今は一人でも戦力が惜しいところだ。過去の遺恨を流せなんて言わないけど……」

 

「ええ、分かっています。言いたいことは山ほどありますが、全て終わった後にしましょう……それで、そちらでは何があったか聞きたいんですが」

 

 ベアトリスが目を向けたところで、公園を軽く一周して神父が戻ってくる。そこでその足首を鎖で捕まえ、転ばせた司狼が背に乗っかった。ペンは途中で放り捨てたか、金の長髪を弄り始めている。

 

「き、教会でテレジアを待っていたのですが……そこにマレウスがやってきたのですよ。彼がした質問を彼女も口にしていました……取引する際、従僕(レイシア)からそう小耳に挟んだのだと」

 

『────』

 

 この場の全員にとって無視できない名前が飛び出し、空気の緊張が高まる。

 それを知ってか知らずか、いや構うものかと神父をツインテールの刑にする手を止めないまま、司狼が言葉を継ぐ。

 

「どうもオレら、あの幼女の掌に踊らされていたみたいだな? あの赤いロリババにクラブを襲わせたのもあいつらしいし」

 

「……ああ、それを言うなら私もそうですね。思えば、彼女に意見を言われたのが始まりでした。『親を名乗るならちゃんと子供と向き合うべき』……だと」

 

「ちょ……ちょっと待ってください。私も、あの子にカインから魂を切り離されて……」

 

「……藤井君に会わせてくれたのも、レイシアだった……」

 

「私は……あの幼女に、兄さんたちの真相を聞かされた……」

 

「……そして、そんなあなた達の行動に影響されて、私も……ここまでくると、あなた(ヴァレリア)より策謀してるじゃない、あの子」

 

「つまり──ここに俺たちを集めたのは、全部……」

 

 レイシアという、たった一人の少女だと?

 

 神父に忠告まがいの助言を出し。

 玲愛の助けに応えて蓮と合流させ。

 魔女の取引で情報を渡し、司狼を飲み込ませ、彼に聖遺物を奪わせて。

 生き残った螢に真相を伝えることで離反を促し、蓮と行動を共にするように。

 あえてリザには干渉せず、病院へカインと共に連れて行かせ、その手でベアトリスを復活させた──

 

 シン、と静まり返った夜の中、一同は事の因果の始まりに思い至る。

 ぞくり……と蓮の背筋に得体の知れない怖気が走った。

 

「宝クジに当たったどころの話じゃないだろ、これは……!」

 

 ここまで確率操作されたクジがあるものか。

 しかも今夜……あの従僕は、“自分が使われる”ことさえ前提に動いていた。その結果、こうしてベアトリスを復活させ、回りまわって第七までスワスチカを開けてみせたのだ。ここまでピースが嵌ると黒幕と言っても過言じゃない。

 

「彼女の動機は全て、『黒円卓への善意』ですね」

 

 うつ伏せのまま髪をされるがままになりつつ、そこへ玲愛まで加勢してくる中、神父はシリアス面を崩さずに話を続ける。

 

「スワスチカが開いている以上、状況だけ見れば忠誠を尽くしていることに他ならない。こうして私やリザが……テレジアとまた再会できたのも、レオンハルトがヴァルキュリアと再会できたのも……」

 

「んじゃ、オレと蓮が再会できたのもその内ってことか?」

 

「彼女は幻想を愛しているのですよ。マレウスの聖遺物を奪い、その記憶を引き継いだあなたなら分かるでしょう? 彼女が黒円卓にやってきた日……私とリザは知りませんが、相当とんでもない催しだったそうじゃありませんか」

 

「あぁ……」

 

 と、昔日を思い出したように声を零したのはベアトリス。

 彼女もまた、当時レイシアとの初対面で「幻想をくらった」最古参の一人だ。

 

「確かに。ありゃヤバイ。あの幼女の本気デーなんか戦争してる場合じゃねえよ。世界の終わりだよ。あいつはラインハルトと世界観が同じ奴だ。生まれる世界を間違えてる」

 

「ど、どんな能力なんだよ?」

 

「蜘蛛。ていうか宇宙怪獣? 顕現するだけで全部水晶に塗り替えて、人類のあらゆる技術とか、そういうのを片っ端から栄養源にして侵蝕してくる的な」

 

「……無理ゲー?」

 

「しかも形態変化まである」

 

「アレ最後まで楽しんでたの、ハイドリヒ卿だけでしたからね……」

 

 人間が挑んでいい脅威ではない。

 策謀、異能の点にかけては、つけ入るスキが見当たらない。

 

「……最悪ヴィルヘルムを人質にとるとか……?」

 

「対幼女としてはそれぐらいしか現実的な案はねえな。けどよ、上手くやればこっちに付けることだってできるんじゃねえの?」

 

「それは難しいでしょう。大隊長、首領閣下の命が優先される以上……敵対は避けられないものかと。ところでここ数日、彼女はどんな異能を使っていたのです? ヴァルキュリアを切り離したというのも、そういう力の一環で?」

 

「あ──いえ。彼女、ただの剣術だけで魂を切り離していたわ。前から戦闘技術が長けているとは思っていたけれど……あそこまで卓越してるなんて……」

 

「……ほう」

 

 リザの証言に、神父の眼鏡が閃く。

 そろそろ頭はパイナップル状態だったが、中身の頭脳明晰さまで失われたわけではない。

 

「幻想を司る者、故に現実を制す……ですか。藤井さん、あなたと戦った時は?」

 

「え。ええと……あの日は『防御魔法』が使えるって言ってたけど……学校で戦った時はヴィルヘルムがあいつの支援をしていたし、色々使ってたよ。ギロチン出したり、即死技っぽいやつとか杭も出したり、時間まで停めてたし」

 

「あとアレだろ。その前はすげえ雷放射するやつ。後は銃だな。弾数無限(コスモガン)とかいうやつだったけど、ほとんど技術頼りだった」

 

「ほうほう……つまり最近になるにつれて彼女は、()()()()()()()使()()()()()()、と」

 

 それは幻想使いとしてあるまじき行為。

 この矛盾を示す一つの事実が、彼女を打倒する要となるか……?

 

「ていうか……根本的な疑問なんだけどさ。あいつの聖遺物ってなんなんだ?」

 

 挙手した蓮の問いには、ああ、と司狼が答える。

 

「ルサルカの記憶によると……精神そのもの、ってことらしいな。あいつにゃこの世の全部、虚構に見えているらしい。オレらはさながら、ゲーム内の登場人物かって具合にな」

 

「せ、精神……!?」

 

「……あり得ないわ、そんなの。聖遺物の条件を度外視してる。たった一人の信仰心が、大勢の想念と同等にあるってことよ、それ……?」

 

 螢の意見に、然り、と神父は頷く。

 

「狂人も狂人。副首領閣下の使い魔として選ばれるだけの素質はある、ということですよ。私たち黒円卓は皆、副首領閣下の術を受けて人間から使徒となりましたが、彼女はその恩恵すら受けていない──幻想の原石。いわば天然モノの歴戦英雄(エインフェリア)……ということになるのでしょうかねえ」

 

 それを従僕として扱ってよい、というメルクリウス。

 ここまでくるとその趣向と悪趣味さが露見してくる。

 贋作たちに真作を奴隷として使わせるなど、皮肉を込めた立ち位置として、これ以上のものがあるだろうか。

 

「つまり、真っ向から実力勝ちすればいいってこと?」

 

「……おまえできると思うか、櫻井?」

 

「……無理ね。いや、無理ってほどじゃないけど、なにかとんでもない反則使われて、有耶無耶にされそうだわ」

 

「反則に加えて例外、しかも特例ですか。それを使い魔、などと。ははは、副首領閣下は冗談がお好きなようだ」

 

 あのデタラメ幼女に関する情報はここに出し切った。

 それを踏まえて、再び対策を練るとなると────

 

 

「……()()()()()()()()()、だな」

 

 

 蓮の下した結論に、全員が同意した。

 あの幼女は無視する。

 勝算の目がない、倒してもこれといった意味がない。ただのガヤ。

 

 その暗躍に乗じるだけして、ここから逆転する。

 ……きっとおそらく、それこそが彼女の目的の達成に繋がることであったとしても。

 

「じゃあレイシアは、結局……」

 

「全員の味方だった、ということでしょう。まぁ、マレウスの件は例外すぎたということで」

 

「そうかぁ? 案外、見越してたのかもしれないぞ。アレ、そういう類だもん。()()()()()()()()()()()()()()。ババアより、オレへの好感度が高かったってだけかもしれないぜ?」

 

「おまえにはまだあの人が攻略対象に見えてんのかよ……」

 

「いや、あいつは詐欺キャラだ。オープニングにメイン面で出るくせしてルートがないキャラに違いない」

 

 そろそろ神父から退いた司狼の言い分に、弄りまくった金髪を元に戻しつつ玲愛が言う。

 

「……そこは単に、あの男が早く生まれてただけ、って気がするけど」

 

「攻略済みのヒロインは攻略不可かぁぁぁ!!」

 

「嘆きすぎだろ、非ロリコン」

 

「……? ねえレン、ろりこんってなに?」

 

「……ただの性癖の名称です」

 

 嘘は言っていない。

 司狼と玲愛からの視線が痛いが、この藤井蓮、一切嘘は言っていないッ……!

 

「……ま! 後の問題はハーレム王がハーレムを無事に築けるのかどうか! ぐらいだが」

 

「……え。ちょ、藤井さん? テレジアのみならず、あなた……っ!?」

 

「俺が男らしい決断を下せることをお祈りください、神父さん」

 

「藤井さ──んッ!?」

 

 立ち上がったヴァレリアが玲愛に視線を向ける。

 それを受けた玲愛はコクリと頷き、サムズアップする。

 

「海外には、一夫多妻制度、アリ」

 

「いッ、いや……そういう問題ではなく!?」

 

「今後の家族会議が心配ね……」

 

「男って最低……」

 

「モテる男の子っているもんですねえ……」

 

 やいのやいのと、夜の公園は騒がしく。

 ──そんな束の間の平和は、やがて来たる魔城の気配の前に霧散する──

 

 

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