幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~ 作:時杜 境
「意味が分からん……」
追いついた
黒円卓の黒制服姿で、壮大な星々さえも掌に掌握する神は──ただただ、困惑の極みにいた。
そんな彼に相対し、うむと首肯する。
「それが未知だ」
「いや、違う。なんかこれは求めていたものと違うぞ。ああ絶対に違う認めるものか、こんなものが私の未知であってたまるかっ……!?」
強情な奴だなーモー。
諦め悪いっていうか往生際が悪いというか。
そういう神格なんだからしゃーないのかもだが、ここまで来たら素直に認めてほしいもんだ。少しは潔さを覚えてほしい。
「というかハイ、ハイドリヒ……ハイドリヒがどうなっている……そちらのハイドリヒは正気かっ! 壊す余地がないから恋だと? 余地がなかろうが
「凄い台詞を口走ってることに気付かないのかコイツ……」
おまえ、なんやかんやで黄金卿のこと好きだよね。自分の自滅因子だからそうなのかもだけどさ。
割と目の前で彼があぼーんしたら激昂したりするのかもしれない。そんな水銀など見たくないが。
つーか、
「迷惑してんのはこっちなんだよなぁ……」
「おまえ本当に言ってはならんことを。言ってはならんことを言ったな。今、全宇宙の淑女たちを敵に回したぞ」
「別にいいさ。元々、
「……などと言って嬉しがっているだろうおまえ。
『すまねえ、レイシア……』『誰か、誰かぁ……おいていかないでぇ……!』
片割れを失くして
『私のヴァルハラに手を出すなァ──!!』『レイシァァアアア!!!!!』
片割れの盾となって
『マレウスゥゥ──!』『やめろやめろやめろォオ──!!!!』
片割れによって
『……満足?』『ああ、悪くねえな』
────なんか、そんな感じで途中脱落していればよかったのだよ」
「存在しない記憶すぎない?」
知らねえよそんな世界線。
わざわざリアルな幻聴ボイスと一緒に演出すんなよ。
つーか三番目のシチュエーションが最悪すぎるんだが……、想像するだけで胸を抉り殺されるようだわ。至上最悪のバッドエンディングだよそれは……
「あったかもしれんだろう? 実際、この展開に至るまで一体何度やり直してきたことか……」
「私を消したせいでマルグリットに会えなかった三万回の気持ちなどどうぞ」
「筆舌に尽くしがたい地獄だった。正直申し訳ない」
「バタフライエフェクトってこえぇなぁ……」
「まったくだ」
うんうん、とお互いにフラグ管理の調整の難易度などに頷き合う。
アレってほんと神経削るよね。実際やるとなるとさ。
「だがまぁ……実際、おまえはいつもよくやる方だ。先ほどのものは総て捏造、正しく幻聴だとも。常に伴侶をそこそこ満足の行く結末へ導き、愚息に人の光を示して消えていく。せいぜい、そのくらいが限界だと思っていたのだが……しかしそこで私が理想の結末一歩手前までいくと、成長を果たした我が女神がおまえの存在を思い出してな……」
────あの子が幸せになってないよ……カリオストロ。約束を破る気?
エンディングの強制却下。
レイシアという存在因子、実にめんどくさい立ち位置にあるものだ。私だが。
「かの女神の治世へ移行しても、そこには虚無へ消えたおまえの魂は無いからな。仮に移行したとしても、第二の
「……、私は、私のいない宇宙の知識で色々やってきたんだけど……」
「それは高次元の視点での話だろう? 実際、こちらとあちらがどのような関係にあるのか、どちらが原典かの区別など私たちにはつかん。証明しようのないものは考えたとしても時間の無駄。これが所詮、何者かの夢幻の類であったとして……君はそれを否定するのかね?」
どうかな。どうだろう。
別にどっちでもいいというか、どうでもいいというか。
そこの優劣を決定する権利を、私たちは持ちえないだろう。そういうのは観客側の管轄だ。
「ならばそれが答えだ。些末事に頓着できていれば神の位にまで上がっておらん。ああ、私はマルグリットさえいれば良いからな」
「最後の一言で色々と台無しだぁ……」
自分の株を自分で下げる症例にでも罹っているのだろうか、こいつ。
どの宇宙でもこの変質者性は不変だろうな。間違いない。
「さて──そろそろ私の長口上も飽いてきた頃だろう。始めるとしようか?」
「そうだな。なんかこれ以上話してると、それで満足しかねない」
その言葉に、やや、驚いたように目を開くメルクリウス。
そこで意外そうな顔をするから、やっぱりおまえは駄目養父なんだよ。私にこんな形で出し抜かれるんだからな。
「勝負だ、水銀の王。
「受けて立つ、虚空の君。
運命の聖槍を手に。
宇宙の星々を手に。
この遥かな舞台袖で、一つの最終決戦が開幕した。
※
──それを、地獄の
「まったく……」
黄金の瞳には羨望にも似た憎悪が宿っている。
怒りこそが彼の源泉にして存在意義。戦うにしてもまさか頭上でおっぱじめなくてもいいではないか、とラインハルトは嘆息する。
「……我が君」
「良い。放っておけ。親子喧嘩に水を差すものではない……未練がましい男だと勘違いされたくもないのでな。あんな馬鹿げた宇宙の己など私は知らんし認めん。断じてだ。虚数の泡が起こした気の迷いに違いない。──我ながら殺したくなってくるな……うむ、忘れよう。あんなの夢だ夢。故に卿らも忘れよ」
「や、
絶対命令と受け取り、エレオノーレもまたそのようにする。
恋を知るハイドリヒ卿などいない。いないったらいないのだ。いてたまるか。
「──ベイ。忠言大義である。追って望みを聞こう。こちらの片がつくまで、今は休むといい」
「そうさせてもらいますよ。ったく、あの野郎……主人を使いっ走りにする従者がいてたまるかってんだ……」
ぶつぶつぼやきつつ、そこでヴィルヘルムは玉座の間を後にしていく。
口調こそぶっきらぼうだが、その声と表情には喜悦が滲んでいたことは誰の目にも明らかだった。惚れた相手が輝く様を見て、心躍らぬ伴侶などいまい。
「────」
そうして彼が廊下に出た瞬間、道の向こうから駆けてくるギロチンの担い手を見た。
時間を加速させた最速疾走。青い影が此方に向かってきているが、ヴィルヘルムは殺気を向けすらしない。
「────」
そしてそのまま──すれ違う。
ただ一瞬、互いに一瞥を交わしただけ。
いつか殺し合うことになるだろうが今ではない。
そう、無意識の中で、暗黙に彼らは約定を交わす。
『──司狼! 櫻井! 上で何があった……!?』
『遅っせえよ蓮。もうなんか、こっちはあの幼女がめちゃくちゃやっていったよ。今更来ても主役面できねえぞ?』
『まだデタラメ度に上があるのかあいつ……』
後ろから聞こえてくるやり取りに、吸血鬼は見向きもしない。
出番はいずれ。遠くない内に。
彼らによるこの前哨戦が終われば、おのずと獲物はやってくる。
……だが。その前にもう一つ。
「……休めねえなこりゃ」
気配が高まる一方の天上の戦いを想う。
介入する気はない。あの一戦は彼女が彼女のために乗り越えなければ意味がない。
その勝利を、誰よりも信じている。
だから全ては終わった後に。
今はただ、彼女が落ちてくるのを待つだけだ────
本来のシナリオ展開でフェードアウトしていくばかりだった白幼女の幻覚がミエルミエル……
ベイ中尉が一般人()に倒されちゃって橋の下に置き去りにされた幼女の慟哭とか、神父の不意打ちに身代わり盾になって飛び出す様とか、ルサルカに肉体主導権を魔術で奪われたベイ中尉が従僕をタワーから放り捨てるBADENDとか、その時の魔女への幼女のキレ顔スチルとか……最後は燃える教会の中で二人満足気に昇天(消滅)していく結末とか……
水銀の言う通り、そんな世界線は無い。大体いつもいい感じに満足できる結末を迎えていた模様。ただしそのまま第五に移行すると消えちゃうので怒ったマリィがちゃぶ台返しを強制する。
幼女の存在で何気に水銀の周回チャートハードルが上がっていたっていう。