幻想偽典 ~Dies irae Rosenkavalier Kaziklu Bey~   作:時杜 境

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68 宵の勝利者

 茨の嵐が爆ぜ返る。

 降り注いできた魔の槍杭は、処刑人のいた位置を狙った弾幕だ。コンクリごと叩き壊して、粉塵を巻き上げる中、寸でのところで攻撃を察知した少年は素早く飛びのいていた。

 

「……、あ」

 

 呆然とした声を上げたのは、地面に座り込んだままの白い少女。

 彼女の視界にあるのは黒い背中。戦場のSS将校。闇夜と暴虐と殺戮を引き連れる不死の鬼。

 只人ならば恐怖の対象、更なる災禍が現れたと身を竦ませる存在だが──

 

「必ず攫いに行くと言っただろ、間抜け」

 

「──、」

 

 声もない。

 恐れからではない。決して。

 ただ見惚れていた。月光を浴びる白い髪の後ろ姿に、完全に心を奪われていた。

 

「──よぉ、ちったぁマシになったか、小僧」

 

 白のストラを夜風にはためかせ、不敵な笑みで言葉を放つ吸血鬼に、蓮は歯噛みする。

 ……明らかに、傷からして死闘直後。感じる威圧感(プレッシャー)も、初めて会った時に比べれば減衰している……はず、なのに。

 

(こいつ……強くなってる……!?)

 

 強度が段違いに上がっている。

 この短期間で一気に創造まで駆け上がった蓮でも、目の前に立つヴィルヘルムがどれだけ様変わりしているかは見て取れる。既に創造より上の階を感覚としては掴んでいるが、それでもなお、この始まりの敵に対する印象は変わらない。これはまるで──

 

「やっと()()ってところか。なんとかまともな戦いにはなりそうだわな?」

 

「なッ……」

 

 同格──それが意味するところを、蓮は直感的に理解していた。

 流出位階。神格に相当する始まりを、この男も踏んでいるということ。余りに信じがたい現実だが、目にしている以上、疑う余地はない。

 

「ぁ……ヴィ、ベイ中尉……」

 

 そこで我に返った少女が、自販機に手をつきながらも立ち上がる。

 二体二──これより起きる戦闘を思い、蓮はギロチンを構えたが。

 

「何してる阿呆。動くんじゃねえ」

 

 仕方なさそうに背後に首だけ向けたヴィルヘルムの声色に、一瞬、少年は虚を突かれた。

 

「ぇ──いや、で、でも」

 

「ぶっちゃけもう戦いたくねェ、と」

 

「はうっ」

 

「で、俺が好きだから嫌々ついてくる、と」

 

「うぉっ…………」

 

 先の蓮との会話を聞いていたのか、矢継ぎ早に幼女の図星を突く冷酷無惨。

 言葉による銃弾に撃たれ、少女は立ち上がった状態のまま、動けなくなる。

 

「──で? 何か言うべきコトがあんじゃねえのかコラ」

 

「……あ、『白騎士(アルベド)』就任、おめでとうございます……」

 

「それから?」

 

「ますますのご活躍と繁栄をお祈り申し上げたく……」

 

 そこで完全に蓮から背を向け、花嫁に近付いた吸血鬼はそのまま首根っこを掴み上げる。まるで学習しない子猫か小兎を咎める飼い主さながら。うえーん、とロリが泣いている。

 

「結局、てめえの渇望はなんなんだよ。戦いから(のが)れてどうしようってんだ、オイ?」

 

「……わ、分かりませんか」

 

「分かるか。言葉でハッキリ言いやがれ」

 

 無慈悲な尋問は、答えによっては少女の生死を分けることになる。

 咄嗟に、止めの声を上げようとした蓮だったが、

 

『──大丈夫だよ、レン』

 

「────」

 

 己の恋人による制止に、思い留まる。

 ──それを横目で確認しつつ、で、と再びヴィルヘルムの赤眼はこの憐れな獲物を見下ろした。

 ややあって、折れた少女が発したのは、実にシンプルな渇望(がんぼう)だった。

 

「…………ヴィルヘルムと平穏に暮らしたいだけですよ……」

 

 そんなあり触れた、在り来たりな願い。

 面白みもなければ意外性もない、凡俗な渇望(みらい)

 永遠の闘争と死と再生を望む黒円卓からすれば、棄却されるべき劣等案件。蓮も当然、そんなささやかな願いを、あの白貌は笑い捨てるものと思ったのだが、

 

「──本当は、そのために幻想を捨てたのか」

 

 予想に反して、穏やかささえある声色。

 以前までの彼だったなら、それさえ嵐の前の静けさと捉えられようもしただろうが、今の声は何かが違っていた。悼むような悔いるような、そんな響きが滲んでいたのだ。

 

 レイシアはそれにゆっくり頷く。

 異能……渇望を捨て去って、宿業から解脱する。

 そうすれば、ただの人間になって、次の神座(セカイ)にも行ける。何の力もない人間になるので、死ねば魔城にも取り込まれるし、どの道、彼女がヴィルヘルムと別れるようなことにはならない。

 

 ──だからこそ、見逃されていた愚行だったのだろう、と少女は認識していた。

 しかし真実がそうと分かれば……魔城からも逃れたいと思っているのならば、黒円卓に絶対忠誠を誓う彼に見限られる……かも、しれない。

 

 怖かったのはそれだけ。

 だから本当にこれは、意味のない願いでしかなく──

 

「……気にしなくていいですよ。反逆するつもりは、ありませんから」

 

 叶わないのは想定内。だって理想論にも程がある。

 それに少女は知っている。総てを俯瞰する視座を持つ故に、識っている。

 

 軍勢(レギオン)が目指す呪われし死者の生は、そもそも実現しないのだと。

 ……獣が座に就くことは水銀が全力で阻止するから、そういった未来が来ることはない、と。

 

 必ずやってくる治世は、輪廻転生を理とする女神の時代以外にはない。

 だから憂うべきは、この戦いが終わると同時に確定している出来事のほう。

 

 

 ──「レイシア」としてヴィルヘルムと関われる時間は、もう、ごく僅かしかないこと。

 

 

 次の転生でまた会えた時……ワールドアフターにしろ新世界にしろ、その世界の自分たちは、今まで生きてきた記憶を失っているだろうし、思い出すかも分からない。

 

 だけどそれを叶えるためにはやはり、大前提として、彼女がここで一個の人間として解脱せねばならないわけで……

 

「おまえの意志はよーく分かった」

 

 はああぁぁぁ~~……と。

 盛大に、深く深く長い溜息を吐いて、ヴィルヘルムは黙り込む。

 次に飛び出すは怒りの言葉か、説教か。しかしどちらにせよ、己の願いは顧みられぬものだとレイシアは信じ、

 

「──悪かった」

 

「……んぇ?」

 

「気付いてやれなくて悪かったよ。危うくおまえを一人にするところだった」

 

 その言葉に衝撃を受けたのは、元従僕少女に留まらないが、ヴィルヘルムは感知しない。

 当の伴侶は、斜め上どころではない返答に、目を何度も瞬きしている。

 

「……あの、ヴィル……?」

 

「いい。何も言うな。それがおまえの願いだって言うなら()()()()()

 

「はい?」

 

「────っつぅわけだよ。ツァラトゥストラ」

 

 そこで地面に足がついてなかった少女を降ろし、再び吸血鬼は背後の処刑人に向き直る。

 

「ちっとばかし付き合えや。最初に会った時のリベンジマッチとして受けてやる」

 

「……幼女一人幸せにできない男が、俺に敵うわけねえだろ」

 

「ほざきやがれ。勝った方が強ぇんだよ」

 

 憎まれ口を互いに叩きつつ、そこで蓮もギロチンの形成を解いた。現れたマルグリットもまた、この時ばかりは白い少女と似たような顔になっていた。

 

「えっ……レン?」

 

「マリィ、君は下がっててくれ。こんな馬鹿勝負に付き合う必要はない」

 

「おまえもだぞレイシア。水差すなよ」

 

「!?!?」

 

 女子供は訳の分からない流れに混乱している。

 それに構うことなく、男たちは前へと歩き出す。

 

「レ、レン!? あの、えっと……!」

 

「マリィはそこの幼女の見張り役、頼んだ」

 

「え!? う、うん……!?」

 

 アワアワしながらも、彼らの横を小走りで通り抜けたマルグリットは、幼女の元へ。

 それすら今は意識になく、呆然とレイシアは遠のく黒い背中に手を伸ばしかけ、

 

「──女は男の陰で舞台回してろ。表で俺らが華ァ咲かせてやんなきゃ、甲斐がねぇってもんだろう?」

 

「ちょっ……なぜそれを」

 

「さぁなあ」

 

 遥か遥か昔の己が言い放った持論を返され、もはや呻くこともできない。

 そのまま彼女は、戦場へ向かう背を見送ることしかできなくなる。そこでマルグリットが合流し、ぐいぐいと戦場からやや離れた安全地帯まで連れていく。かくして完全に観戦の準備は整った。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第四位、白騎士(アルベド)にして薔薇騎士(ローゼンカヴァリエ)──ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ」

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第十三位、副首領代行──藤井蓮」

 

 名乗りがあがる。

 騎士は掌に拳を打ちつけ、奏者もまた拳を構える。

 

 ──そうして、最後の戦いが始まった。

 

 

     ※

 

 

「めちゃくちゃ殴り合ってる……」

 

「殴り合ってる……ね……」

 

 ──もはや殴り合いというレベルには収まらぬ彼らの戦闘を、体育座りになった少女たちは眺めていた。

 

「大体おまえみたいな奴が幼女先輩と一緒にいるとかねえから! 何様だよ!! 全ロリコンを敵に回すような所業の覚悟は出来てんだろうなッ!?」

 

「あぁア!? 知るかァクソボケッ!! あいつは俺のなんだよ、半世紀前から売約済みだァ! 後から出てきた小僧風情が講釈垂れてンじゃねえぞォ!!」

 

「その小僧に説教される気持ちはどうなんだよ言ってみろよ! 言ってみろよ! おまえ知らないのかよ、兎は寂しいと死んじゃうんだぞッ!!」

 

「──な、ンだとォ────」

 

本気(マジ)で衝撃受けてるんじゃねえよッ!!」

 

 ……確実に自分たちのために戦ってくれているのは理解できるのだが、言ってることだけ聞けば、まるでロリコン同士がお互いの解釈違いをぶつけ合っているようだった。気恥ずかしくなる反面、しかしその死闘から少女たちは目を離せない。

 ヴィルヘルムの放った杭雨がビルを砕き壊し、鈍器として蓮に吹っ飛ばされていく。それを時間加速で躱した蓮がヴィルヘルムに接近し、拳を叩き込んでいく。

 

「強い、ね」

 

「お、うん……そっちこそ……」

 

 蚊帳の外に置かれた彼女たちの距離は、やや気まずい。

 そもそも数分前まで殺し合っていた仲だ──舞台からやんわりと追い出され、傍観を強いられている現在、ただただ自分の男たちの奮戦っぷりを見届けることしかできない。

 

「あのね」

 

 ──と、マリィが口を開く。

 

「考えたよ、わたし。……蓮にも相談してもらって、わかったの」

 

「……何を?」

 

「──自分(わたし)を許してあげよう、って」

 

 その言葉に白い少女の眼が、わずかに開く。

 黄昏の女神は。

 マルグリットは──膝を抱えたまま、やや俯きがちながらも、続ける。

 

「正直、今のわたしは『みんなを愛したい』……『抱きしめたい』って気持ちばっかり。でも、そうすることで苦しく思っちゃう子がいちゃっても、頑張る。(こん)負け、させる。レンがね、『愛は図々しいくらいが丁度いい』って。わたしは、みんなを愛するわたしを誇りたい……だから、もう迷わない。未来(あなた)を見ても、後悔なんてしない」

 

「────、」

 

 それは。

 レイシアがずっと望んでいた、言葉だった。

 なのに。

 しかし。

 ──────彼女は、動けない。

 

「あなたは、わたしじゃない」

 

 マルグリットは、言う。

 

「消えたい、なんて。殺してほしい、なんて思わない。あなたには、絶対にそんなこと、させない」

 

 輝く瞳で。

 明日を願う眼差しで。

 慈愛に満ちた微笑みで──

 

「あなたをまだ縛っているのは、あなた自身」

 

 そうして、顔を向ける先は、遠くで拳をぶつけ合っている愛しい彼ら。

 

「好きな人と一緒にいたい。だけど、あの人は戦いが好きだから、それを否定したくない。酷いところも、怖いところも、悪いところも、全部が好き──そうでしょ?」

 

「……、」

 

 白い少女もまた、目を伏せてから、顔を上げる。

 真っすぐに──どうして「彼」が戦っているのか、その理由に向き合うために。

 

「……だって、戦ってるところ、好きだもん」

 

「うん」

 

「たくさん殺してきた。たくさん奪ってきた。時代がそうやって彼を創った。でもそんなこと、あの人はきっとどうでもいい。勝ち続けるんだって、生き続けるんだって……前しか見ないし、他を省みないし……最悪で最低で、でも、でもさぁ────!」

 

 そこで弾かれたように、彼女は立ち上がった。

 

「──好きになっちゃったんだもん、しょーがないだろぉ────!!」

 

 男の趣味がどうとかは承知済み。

 分かっている。分かり切っている。言われるまでもないんだ。どうしようもない悪人で悪党で、人から恨まれて当然なのは分かってる。そこを正当化するつもりはない。悪いことは悪いのだ。人を殺すなんて論外だ。自分もその道にいるから余計に分かる。これは絶対に正当化できないし、してはいけない理だ。

 

 ──だけど、でも。

 ……そんな彼だからこそ、好きになったのだ。

 清廉潔白なだけだったら、絶対にこうはならなかったと、確信できるほどに。

 

「愛してる……」

 

 そう、としか、もはや言いようがない。

 

「だから……私のせいで、それまで奪うなんて、嫌だ……」

 

 闘いこそ彼のアイデンティティー。

 黒円卓第四位。白騎士(アルベド)。その称号まで、手に入れたのに。

 

 たかがこんな愛一つで。

 一番大事な矜持(もの)まで捨てさせるなんて、耐えられない──

 

 

「────だってよッ!! あーあー、最ッ低だなこの男!! 女の子(ロリ)を泣かせて一人にしてッ! ああ間違いない、これが絶対悪だ!! 愛した責任さえ取れないとかマジないわ──!!」

 

「──ガ、ぐぅッ……!!」

 

 一方で。

 少女たちの対話を、言葉を、拳撃の嵐の中、男たちも聞いてた。

 

 というより、効いていた。

 これ以上となく。なんならその魂の断片を消費した時以上に、ぐっさり突き刺さっていた。

 

「まぁ俺としてはッ! 気に入らなかったてめえを殴れる理由になって助かるけどな!! 最初に戦った時の雪辱、ここで果たさせてもらう! 司狼とばっかり戦いやがってよっ! 俺だっておまえを殴りたくて仕方なかったんだよッ!!」

 

「なァにが雪辱だ、てめえが弱っちかっただけだろうがぁ!! 大体そこまで至れたのも全部俺のおかげだからな、あそこで俺以外と出会ってたらァてめえは生きてねえ! 鍛えてやった恩しかねえクセに大口叩いてんじゃねえぞォッ!!」

 

「はー!? 恩とか思ってねえよっ、この自己陶酔野郎ッ! 余計なお世話だ余計なお世話っ! 自意識過剰も程々にしとけよ! てめえはただのチュートリアルのボスキャラだぁ! なんでこんな終盤にまで生き残ってんだよ、出番欲しすぎにも限度があるだろっ!!」

 

「クソガキッ……!!」

 

 そこで両者、弾き合って距離をとる。

 素手による打ち合いだが、互いにもうボロボロだ。そもヴィルヘルムは死闘帰り、蓮こそデタラメ幼女との相手で疲労がある。更に目の前のこいつを倒してもまだラスボスが控えているときた。もう勘弁してほしいといった具合のスケジュールである。

 

「ぜぇ……」

 

「はぁ……」

 

 既にお互い、息は上がっている。

 それでもなお倒れないのは──やはり、男の意地と言う他に、ない。

 

「……おまえはどうしようもない、救いようのないクズだけど。それでも、義務があるんじゃねえのかよ」

 

「……、」

 

「どうせもう分かってんだろ……? さっきから……全然、杭とか使わなくなってるじゃないか」

 

 蓮の言う通りだった。

 シュライバーに猛威を振るっていた茨の暴虐は、もう気配がない。いや、使うための燃料が切れているのだと思えば、徒手空拳を使っている理由にも説明がつくが、

 

 ──それでもこの場を「勝つ」だけならば。

 ヴィルヘルム自身の魂を糧として、聖遺物に使わせればいいだけの話だ。

 

「……チッ……」

 

 だが、それだけはない。

 その展開だけは、絶対にない。

 それはもう言うまでもなく、言葉にするまでもなく、明確で────

 

「あの人を縛ってるのは、おまえだヴィルヘルム」

 

 藤井蓮は指摘する。言ってやる。

 これまで受けた恨み辛みを上乗せして。

 渾身の一言を、言い放つ。

 

「おまえが変わらない限り──絶対に、あの人は幸せになれない」

 

 ────反論は、なかった。

 真紅の眼が、敵を見つめる貌が、揺れることもない。

 ただ……、

 

「……分かってるさ」

 

 決意の表情だけがあった。

 そう、言われるまでもない。

 駄馬でも分かる理屈だ。詰まるところ、白薔薇を本当の意味で手に入れるための条件とは、

 

「──分ァッてんだよそんな事はアアァ────ッ!!」

 

「ッッッ…………!!」

 

 豪拳が、蓮へ向かって放たれる。

 それを咄嗟に両腕でガードした少年は数メートルほど吹き飛ばされる。着地し、すかさず拳を構えて迎撃の姿勢をとったが──、目の前の男が、拳を放った姿勢のまま、微動だにしない事に気付いて、動きを止める。

 

「……舐めんじゃねえ、クソガキ」

 

 月の逆光を受けた白貌は、見えない。

 だが影に塗り潰されながらも──真紅の眼には、力が宿っていた。

 

「俺は俺だ。俺は俺だ! ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイッ!! 黒円卓第四位!! あの人の牙であり、爪であり、白騎士(アルベド)だッ!! それは一切変わらねえ、この忠誠は変わらねえ! 捨てるなんざするかよ、在り得ねェッ!! それで変わった俺はもう俺じゃねェだろうが!! それと引き換えに手に入れたモンなんざ一体何の価値があるッ! どいつもこいつも腑抜けたコトこいてんじゃねぇよッ、悪だろうが罪だろうが罰だろうが──喰ったもんは全部背負ってくのが王道だろうがァァア!! 馬鹿も休み休み言いやがれ、()()()()()()()()()()()───ッ!」

 

 そう。

 我が宿業は踏破した。

 ならばその証明として、これを第一歩とするのみだ。

 

 

「俺がッ! 俺があいつの──レイシアのヴァルハラだァッ!! だったらァ! あいつがいるトコにいなきゃ、嘘んなっちまうだろうがァァアアア──ッッ!!」

 

 

 直後、踏み込みがあった。

 全霊を篭めた一撃が振り抜かれる。それに、蓮は反応しない。否、できなかった。

 

 ……当然だ。

 なにせ今、この瞬間。ヴィルヘルムから、聖遺物の使徒特有の気配が断ち切られたのだから。

 

「──ッ、ゴ、ァッ」

 

 顔面を殴られる拳の威力も、数秒前のものとは大きく異なる。

 人間。ただの──人間の拳だ。

 蓮を殴ると同時に、拳から、その骨の砕ける音がしたが、白騎士はおくびにも出さない。

 

 ──痛覚など既に麻痺しているのか。

 ──否。この程度の痛み、半身を使い切った時の吐き気とは比べるべくもない。

 

 骨が砕ける程度で敵に勝てるのならば、いくらでも砕ける。

 これは、それだけの話だった。

 

「……言いやがったな、白髪(しらが)野郎」

 

 対して、殴られた側の蓮の表情は、悪童じみた笑みだった。

 目の前の宿敵を、初めて尊敬の念を抱いて見つめながら。

 

「だったら、もう俺たちの道を塞いでんじゃねえ──」

 

 よろけた足を、地面について力強く立たせ。

 主人公(ヒーロー)は──先を往く。

 

 

「──勝手に嫁さん幸せにして寝てろォっ!! この勝ち組がぁ────!!」

 

 

 最後の一撃が見舞われる。

 鈍い打撃音が響き渡る。

 

 ──起き上がる気配は、共にない。

 

 その静寂を以って、戦いは、ここに終結した。

 

 

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