魔法少女おじさんに未来はない   作:Mckee ItoIto

14 / 16
 こんなにみすぼらしいのにお姫様だなんて。まるで乞食みたいじゃない?


番外編
『幸運』のお姫様


・・・

 

 

 

 幸運って何だ。不運って何だ。

 そんなことばっかり考えてる。

 

 幸運と不運は差し引きゼロだっていうけれど。

 それなら。

 

 誰かの不運で、誰かが幸運になるのか。

 誰かの幸運で、誰かが不運になるのか。

 

 そんなことはない。絶対にない。

 もしそれなら。

 

 

 魔物災害に巻き込まれて亡くなったお父さんの不運で。

 

 お父さんを目の前でバラバラにされた私の不運で。

 

 

 一体どこの誰が幸運になったっていうんだ。

 不運はどこまで行っても、純粋に不運なんだ。

 

 だから私たちには不運なんて必要ない。

 あいつら以外の不運なんて、存在する必要がない。

 

 不運が私たちを否定してくるなら。

 私は、私たちの不運をすべて否定してやる。

 みんなが不運に嘆くことのない世界を、作ってみせる。

 

 

 私は、『幸運』の魔法少女。

 

 

 

 魔物に不運を。

 

 みんなに幸運をもたらす。

 

 

 

 

 勝利の女神だ。

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 私は今、本日早々の不運を嘆いている。

 

 

「お姉ちゃん……」

「あやめちゃん……」

 

 

 否定してみせても、不運は変わらずそこにある。

 

 不運が私を嘲笑っている。

 

 

 

 なんて、ちょっとカッコつけてみたけど。

 

 今回のこれは単に私が私の朝ごはんのトーストをうっかり落としただけの話だ。

 バターを塗った方を下にして。悲しい。嘘だと言ってよマーフィー。

 

 まああの法則は本来、失敗する可能性のあるものは失敗するっていうものだからね。

 トースト云々は拡大解釈されたギャグでしかないと私は思うんだけどさ。

 

 それはともかくとして、私は運が悪い。

 不運に愛されてるとしか思えないくらい悪い。

 半分くらいは私のうっかり気質が原因な気もするけど、残りの半分は理不尽そのものだ。

 

 いや、今のトーストは完全に私のうっかりなんだけどね。

 あやめちゃんのトーストが無事で良かった。

 

 ああ、私は新しいトースト焼くからあやめちゃんは気にせず自分のを食べるんだよ。

 分けようとしなくていいのに。かわいいなぁ。

 

 まぁ、そういっといて新しいパンは出さないんだけどね。勿体ないし。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 休日。親がいない二人だけの食卓。

 

 お母さんは、今日も仕事だ。

 我が家ははっきり言って貧乏だから、たくさん働いている。

 亡くなったお父さんの代わりになってくれている。

 

 私は、家にいないお母さんに代わって、家事をしたり、あやめちゃんのお世話を承ってる。

 

 きっと、私は周りの子と比べて早熟なんだろう。

 大人の代わりにならないといけないから。

 でもそれでいい。私はもっと早く大人になりたい。

 

 背もかなり伸びた。身体つきだってもうほとんど大人の女性みたいだ。

 いっぱい勉強して難しい言葉も覚えた。その気になれば大人とも対等にしゃべれる、と思う。

 

 

 だけど()()()()()()()だ。

 例え来年中学生になるとしても、今は妹と同じ小学生。

 

 

 問答無用で、子供なんだ。

 

 

 例え子供が読まない難しい本を読んでいたとしても。

 それが大人でも苦労するような専門書であったとしても。

 

 例え私のランドセル姿がコスプレのように思われていたとしても。

 その姿を先生が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は大人として認められていない。

 それは、揺るがない事実。私も認めるしかない。

 

 だけど。

 今の私には、大人のように振る舞っても許される場が、一つだけあった。

 

 

 

 

 ……いま、()()()()()()が聞こえた。

 そして隠し持った携帯電話が、静かに震える。

 

 

 

「お姉ちゃん、ちょっとだけお外に行ってくるね」

「お買い物? 一緒に行っていい?」

「んー、すぐ帰るからお留守番してて」

「……わかった。じゃあちっちゃいチョコ買ってきて」

「おっけー待っててね!」

 

 あやめちゃんは聞き分けのいい子で本当に助かるね。

 

 

 

 さぁ、行こうか。

 

 勝利の幸運をもたらしに。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫! 私が来たよ!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドセルしょったでっかい小学生は世を忍ぶ仮の姿。

 

 その実態は、この街と、ついでに近くの街も守る魔法少女お姉ちゃんなのだ。

 

 本当はもっと遠くの敵も倒しに行きたいけど、仮の姿とはいえ私小学生なので……。

 悲しいかな、交通手段も無ければお金も無い。あと妹を置いて家を空けるわけにはいかない。

 遠くの街と家族を天秤にかけたら、そりゃ勿論家族が優先になるよね。

 街の人たちも大事だからニアリーイコールだけど。今日は近かったので迷わず即出動。

 妹にも、ちゃんと()()()()()()()()()()()()からきっと大丈夫。

 

 

 そして今日も今日とてピンチらしいピンチもなく戦いは終わった。

 

 

 私の『幸運』は一人でも強力だけど、仲間がいればさらに強い。

 とんでも性能のバフとデバフをばら撒いてるようなものだからね。

 もしもゲームだったら人権間違いなしだね。

 

 でもこの魔法って、本来は戦闘に使えるようなものではなかったりする。

 ()()()使()()()、ちょっと運が良くなる、悪くなる、程度でしかないから。

 出力を無理やり上げることもできるけど、代償があるからあまり使えない。

 

 

 そう、代償。

 

 

 私は元々運が悪いけど、『幸運』を使いすぎると私はもっと不運になる。

 とはいっても最近は()()()()()()()()()()()()()()()()ので割と大丈夫だけど。

 

 この裏技に問題ないのかってことはよく分かってないし、できることなら無駄遣いはするべきじゃない。

 そういうわけで、裏技を使った強力なブーストは極力戦闘でしか使わないようにしている。

 戦いはちょっとした不運で取り返しのつかないことになるからね。そっちでは出し惜しみは出来ない。

 

 日常生活で魔法を使うのは、ちょっとしたおまじない程度だ。

 例えば妹に、例えばお母さんに、いつもよりちょっとだけいいことが起こればいい。

 

 本音を言えば、裏技でゴリゴリにブーストした『幸運』を使って家族を幸せにしてしまおうとも考えていた。

 

 だけど、それって本当に幸せなんだろうか。

 無理やり、身の丈に合わない幸せを押し付けられることが。

 

 ある人がそれを、そう言って止めてくれた。

 その人はこの裏技のこともよく思っていないみたいだけど、使わなければ私は戦えなくなってしまうからそれは無視だ。

 

 その人は私の大事な相棒で、私もその人の大事な相棒、だと思ってくれてると思う。

 私が本当は小学生だと知らずに、大人扱いしてくれる人。

 

 

 私の悩みに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それが、『熟考』の魔法少年。すみれさん。

 彼は私の6つ年上で、もう18歳だから()()と呼ぶとちょっと微妙な顔をするけど。

 魔法少年ではなく魔法使いと言ってあげた方がいいかもしれない。

 

『熟考』の魔法使い。うん、かっこいいね。

 

 まあ本人はかっこいいというより可愛い系だし。

 子供っぽいとこもあるからやっぱり少年でもいいかも。

 

 

 

 

 

 さておき、私と彼は今、ある大がかりなことを考えている。

 

 もっと、効率的に戦う構想。

 もっと安全に、もっともっと魔物を殺す計画。

 

 今の私たちは魔物が現れたら近い人がバラバラに現場に向かう、といった感じで戦っている。

 まるで、ボールに一斉に群がる小学生のサッカーみたいな戦い方。

 ほんと信じられないことに、こんなやり方が何十年も続いているのだという。

 非効率極まりない。だけど、仕方ない面もあるんだ。

 

 私たちは、何の後ろ盾もないただの力を持った個人に過ぎない。

 お互いに何の関わりもないし、戦うのは周囲と自分の身を守るためだけ。

 そんな子ばかりだ。

 

 だから、みんなを結びつけて連携させる。

 彼が調査した限りでは、機会さえ与えれば戦ってくれる魔法少女は、予想以上に多かった。

 

 だから、みんなに示す。私たちの有用さを。

 私たちについてくれば、もっと魔物たちに思い知らせてやれるということを。

 私は戦いの場で。彼は戦い以外の場で。

 

 私たちをトップとした、魔法少女の組織を作る。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「うっさんくさ」

「えぇ!?」

 

 

 

 その計画、さっそく頓挫しかけてるけど……。

 

「今なら会員ナンバー3番だよ!?」

「いや、中途半端だなおい」

「だって1番と2番は彼と私だし……実質ナンバーワンだから!」

「魅力を一ミリも感じられない」

 

 拒否が思いの外きつくて泣きそう。悲しい。

 

「大体お前、騙されてるんじゃないのか? どうみても胡散臭いだろその男」

「いや大丈夫だよ。私頭いいし、彼もそういう人じゃないし」

「現在進行形で騙されてる女にしか見えんのだが……」

 

 むしろ私がこの人のことずっと騙してるんですが……。

 この人は高校生だけど、私のことを小学生とは知らないから同年代のように接してくれている。

 にしても、過保護な気もするけどね。たぶんそういう優しい性格なんだろう。

 

「いま加入してくれたら携帯電話もらえるし、何かあっても病院代とか出してくれるよ。彼が」

「話が進むほどに胡散臭さが増してくな……」

「じゃあお試しでいいからさ、形だけでも加入してくれない?」

 

 条件を下げて譲歩。ドアインザフェイスだ。

 正直、この人の名前を借りれるだけでも今後の勧誘が有利になる。

 

 これでダメならなんとか実績を作って改めて、という形になるけど……。

 

「今は無理だな。お前のことは信用してるが、その男は信用できん」

「そっかぁ……」

「というかやっぱお前あたしのグループに入れって」

「うーん、ごめんね」

「……」

 

 それじゃあ意味ないからね。

 私たちの目標は、全国の魔法少女を一つの集団にすること。

 個人グループの傘下に入ってしまってはそれが難しくなってしまう。

 なので逆に、グループを私たちに引き入れる形にしなければならない。

 

 『比重』の魔法少女のグループは有名で人も結構いて、活動範囲も広いから少しだけ期待したけどやっぱりまだ難しそうだね。

 何回か親交があるからって、いくらなんでもいきなり欲張り過ぎちゃった。

 

 一旦諦めて次のグループのリーダーにあたってみるかな……。

 

 

「……今度その男と会わせろ。クズだったら潰してやる」

「ありがとう。また来るよ、かなめさん!」

 

 

 とりあえずすみれさんをお煎餅にするわけにはいかないので逃げるようにその場を後にする。

 というか何故か話せば話すほどすみれさんがすごい悪人みたいになっちゃったから、何とか評価を回復させてからじゃないとこの人に会わせられない……!

 

 ほんと。人を動かすのって難しいな……。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 お母さんが普段家にいないからといって、小さな妹を放置してあっちこっちに気軽に行くわけにもいかない。

 そんなわけで私の勧誘活動はなかなか上手くいっていない。

 

 すみれさんもすみれさんで、やっぱり男の人が少女の集団をまとめるってのは体裁が悪いみたいで上手くいってないみたい。

 ままならないなぁ。というか、まだ時期尚早なのだろうか。私がせめて高校生に、いや、でも流石に時間がかかり過ぎる。

 

 

 そんな思いを抱きながら、私の足であたることができる最後のグループと接触することになった。

 

 

 

 

 

「どうも、初めまして。私は『幸運』の魔法少女」

「あなたがあの……。わたしは、『隠蔽』の魔法少女です。どうぞお見知り置きを」

 

 丁寧な人だ。グループ人数は少なめ。悪い評判は、()()()()()()

 目の前にいる、すごく綺麗でそんじょそこらのアイドルでは相手にもならないほどの美少女が、そのリーダーだ。

 

 

「早速だけど」

「入ります」

 

 

 話が、はっやーい!!!

 

 

 なんかあっさり第一目標達成したけど。え、なんか、いいのこれ。

 

「わたしたちは、菫さんに助けられた人の集まりですから」

 

 

 ああ、なるほど、()()()()()()()()

 ほんのちょっとだけ親近感湧いた。

 

 

 あの人は弱い癖に必死に人助けするから、こういう人も実は珍しくはない。

 行動力もある。何気にお金持ちだから財力もある。

 そして、信念があって、誠実。悪い人ではない。

 

 だから私は彼のことを信頼してるし、その理想も応援してる。

 その理想が、()()()()()()()と衝突しないという前提があってのことだけど。

 その理想を叶えてあげたいと思っている。

 

 

 ともあれようやく、私たちの組織が。

『協会』が一歩前に進むことができたんだ。

 

 

「……」

「そういえば名前を聞いてもいいかな。私は、つばめ。『幸運』のつばめ」

「わたしは、乙木(おとぎ) 莉乃(りの)です」

 

 私は、にっこりとお人形みたいな完璧な笑みを浮かべた彼女の、手を取った。

 

 

 

 

 

「これから、よろしくお願い致します」

 

 

 

 

 

・・・

 こんな、小汚い小娘が。あの人の。

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから1年が経ち、私は中学生となった。

 全然似合わなかったランドセルともついにお別れだ。

 

 『協会』もまだまだ問題は多いけど、少しずつそのメンバーを増やしている。

 特に、最初にメンバーになったあの人たちが精力的に動いてくれているので助かっている。

 

 なんとなく、本当になんとなく。

 あの人のことをほんの少しだけ疑ってしまったけど、これまで特に怪しいことは()()()()()()

 

 やっぱり人のこと悪く思っちゃダメだね。

 疑わしきは罰せず。反省しないと。

 

 一人はみんなのために。みんなは一つの目的のために。

 今では立派な、私たちの仲間だ。

 

 私たちの活動範囲はいつの間にか首都圏を越えて東北や中部の方にまで広がっている。

 このペースなら近いうちに全国へ波及させることができるかもしれない。

 

 これでようやく。

 

 私たちは反攻することができそうだ。

 

 全国に網を張り、かかった魔物を連携して叩く。

 私たちはずっと後手だったけど、やっと、こちらから狩る側に回れる。

 

 

 駆逐しないと。

 

 

 魔物という名の不運を。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 私が魔法に目覚めたのは、10歳の頃。

 思い出したくもないけど絶対に忘れてはいけない、最悪の日。

 

 

 私の、誕生日だった。

 

 

 我が家では誕生日、毎年お父さんが買い物に連れて行ってくれていた。

 私と妹のことをお姫様と呼んでくれる、気さくで、優しいお父さんだ。

 私はいつも、お父さんと二人で行くこの買い物を楽しみにしていた。

 

 その帰り道。

 人通りのない道を歩いていたときのことだった。

 

 

 いきなりお父さんに、力一杯突き飛ばされた。

 

 

 全幅の信頼を置いていた相手からの突然の暴力に、一瞬放心したのを覚えている。

 アスファルトを思いっきり転がって、遅れてやってきた場違いな痛みに戸惑いながら見上げると。

 

 

 

 

 

 朧げにしか見えなかったけど。

 

 ロープのようなものをたくさん垂らしたとても大きな猿の足元で。

 

 お父さんが()()()()()

 

 

 

 

 

 ここからはあまり語る必要もない。

 

 魔物が、何が起こったかわからないまま咄嗟に私を逃したお父さんを、ゆっくり食べただけの話だから。

 

 私は、この世界にはこんな不運がありふれてると、知ってしまった。

 あの時の私は、自分の日常がどれほどの幸運によって保たれていたのか知らなかった。

 幼かった私には、それがどれほど貴いものだったのか、その瞬間まで理解できていなかった。

 

 

 郊外で巨大な熊らしきものに襲われた。

 そんな有り得るわけない猛獣の襲撃事故だと解釈された、父の葬式の日。

 

 ()()()()()()()()()()()の前で泣く、母と幼い妹をじっと見ながら、ぐちゃぐちゃに壊れた心の中で思った。

 

 

 幸運って何だ。

 不運って何だ。

 

 

 お父さんが、燕ちゃんを守ってくれた。

 

 

 それは、事実。

 お父さんのおかげで私は助かった。

 

 

 お父さんは、運が悪かった。残念だった。

 燕ちゃんは運が良くて、良かった。

 

 

 ……。

 

 

 お父さんが、燕ちゃんの代わりに、不幸を持って行ってくれた。

 

 

 ……何それ。

 お父さんが不幸になったおかげで、私が助かった?

 

 理解できなかった。よくわからなかった、けど。

 

 よくわからない何かが、私の一線を、超えた。

 ずっと我慢してた涙が溢れ、私は全力で暴れた。

 

 親を亡くした子の癇癪だと、周りに思われただろうけど。

 私は心の底から求めていたんだ。

 

 切実に。力が欲しかった。

 

 あの時のお父さんを守れるような、圧倒的な力が。

 

 嫌だった。

 守られるばかりな子供の自分が。

 理不尽。不運に無力な、弱い自分が。

 

 

 

 気が付いたら、私には魔法が宿っていた。

 

 

 

 普通に使っても役立たずだけど。

 使い方次第では。まさしく神様の如き強大な力。

 

 

 

 

 私は、今までお父さんが守ってくれていた家族を見て、思う。

 不運の被害者たちを見て、思う。

 

 

 私たちの平穏が、幸運によって保たれているというのなら。

 私はこの『幸運』の力で、それを守る。

 

 私たちの日常が、不運によって壊されるというのなら。

 私はこの『幸運』の力で、それを守る。

 

 

 私にとって一つだけ幸いだったのが、不運が、魔物という触れられる形をしていたことだった。

 

 いるなら、殺せる。消してしまえる。

 

 

 

 

 

 

 もう不運(まもの)に、誰も奪わせはしない。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 私は今日もさっそく、どうでもいい不運に嘆いている。

 

「……」

 

 やめて、私をそんな目で見ないで、すみれさん……。

 とか冗談めかして呟いてみるけど、多分耳に届いてないかな。

 

 ちなみにどんな目してるかというと。

 完全に無の状態な、悟りを開いている目です。

 私はすみれさんのこれを、賢者アイと名づけています。

 

 そして私の今日の不幸のお品書きは。

 

 通りがかりの散歩中の大きなお犬さまに突然後ろからのしかかられてマウンティングされる。

 ついでに持ってた飲みものが思いっきり掛かってべっちょりとシャツが濡れる。

 四つん這いになってスカートが盛大にめくれる。

 

 です。多くない?

 

 いや、わかるよ。すみれさんが何を思ったか。

 咄嗟に思考停止させてそれ以上考えないようにしたんだね。えらいね。

 

 でもフリーズしてないで早く、必死に謝りながら引き剥がそうとしてる飼い主さんを助けてあげてくれないかな……。

 

 頑張って四つん這いの状態で大興奮ブンブン丸なお犬様を引きずり、すみれさんを再起動させようと近づいて。

 

「……」

 

 と。ふと背中が軽くなったと思ったら、お犬様がキョロキョロして何かを探しに何処かへ向かった。

 飼い主さんも戸惑いながら引っ張られていく。

 

 

「大丈夫、でしたか?」

「ありがとう、りのさん……」

 

 気配もなく近づいてきたのは、りのさん。

 彼女はいつもどこからともなく現れるのでびっくりするのだけど、今回は何となく前もってわかった。

 私を、魔法で隠してくれたから。ほんと、助かった……。

 

 すみれさんにぺちぺちと、フェザータッチビンタで再起動かける。

 それをニコニコ可愛らしい笑顔で見守っている、りのさん。

 

「……」

 

 平和だ。こんな平和が続けばいいのに。

 

 残念ながら私たちの敵は大人しくしてくれない。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()。魔物だ。

 

 

 

 

 ……ほら! いくよ!

 すみれさんの頭を引っ叩いて強制再起動させ、手を引いて走る。

 りのさんもそれに続く。

 

 これが今の私たちの、日常だ。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「おう、遅かったな」

 

 なんか現場に行ったら終わってた件。

 ひとけのない綺麗な河原が、見るも無惨な穴だらけになってるんですが……。

 

 キラキラと光る魔力残滓の中で。

 かなめさんが、ひしゃげた金属バットを持って得意げに笑っている。

 素敵な笑顔だけど、ちょっとこわいッスかなめさん……。

 

「ザコだったから女神様の出番は無かったぞ」

「そ、そうッスか……」

「なんで引いてるんだよお前」

「なんでもないッス」

 

 バットをポイっと捨ててこっちに歩いてくるけど、思わずちょっと後ずさりしちゃった。

 

 重さイズパワー。

 戦闘でアドレナリン出してる状態の物理最強魔法少女はやっぱ少し怖い。

 その気になれば空気の重ささえ支配して敵を押し潰しちゃうからね。

 本気のかなめさんと対峙したら、すぐにお煎餅が出来上がるよ。

 あと空気の重さをいい感じに変化させたら実質風も操れるぞって聞いた時は、なぁにそれぇってなったね。

 

 もし万が一、かなめさんと敵対したら、どうなるだろう。

 戦闘になって目の前に立った時点で、良くても相打ちかな。

 

 まあ()()()()()()()()()()()し、そもそもそんな最悪なこと自体有り得ないだろうけどね。

 

 

 

 そんなめちゃつよな魔法少女率いる、かなめさんのグループもやっと私たちの仲間になってくれた。

 一騎当千のかなめさんによるワンマンチームだけど、人数は多い。

 戦えない子達でも、各地で目、というか耳の役目は果たしてくれる。

 

「なんだ、今日はクソザコも一緒か」

 

 相変わらず、すみれさんには厳しいけど……。

 まあ思ったより穏やかに交流できてるんじゃないかな。お煎餅にはならずに済んでるし。

 

「お前の居場所は前線じゃないだろ。危ないな」

「まあ僕は戦えないけどね。でも燕がいれば大丈夫だよ」

 

「……」

 

 その通り。私がいれば大丈夫。危ないことなんか、私の力があれば何もない。

 私一人でも十分だけど、すみれさんがいればもっと効率的に戦えるからね。

 すみれさんもすみれさんでクールぶってて意外と血気盛んだったりするから割とノリノリで作戦を指示してくれたりする。

 最近は、りのさんがよく参戦してくれるから、もっと楽になってるね。

 

「堂々と守ってもらう宣言してるのは男としてどうなんだ……?」

「いてくれたら助かると言ってもらえるのは、それはそれで冥利に尽きるもんだよ」

「開き直るなザコ」

 

 ふと、視線を感じた。

 りのさんがちょっぴり悲しそうな顔でこっちを見てて、呟く。

 

「私も守りますよ?」

「……そうだね」

 

 ……少し気になっていることだけど。

 すみれさんは、りのさんをまだ警戒している。

 割と疑心暗鬼の擬人化みたいなところある人だからそう簡単に心を開いたりはしないのだけど。

 それにしてもどうも頑なな気がする。考えすぎじゃないかな。

 

 私だって最初の最初はやっぱり不安だったけど、そんな不安を消し飛ばすくらい彼女は完璧に動いてくれている。

 そこに何も、()()()()()()()()()()()()()()

 

 でも私がいくら、大丈夫じゃない? って言っても受け入れてもらえないんだよね。

 私の主張がここまで通らないのは珍しいことだ。今回の疑心暗鬼はかなり重症みたい。

 

 

 いや……ひょっとして美少女に冷たくして悲しい顔をさせるっていう性癖に目覚めたとか……?

 

 

 ないか。

 私と一緒にいてちょいちょい賢者になるくらいにはムッツリな人だけど、無闇に相手を傷つける人じゃないもんね。

 無意識に傷つけることは、まあ誰しもあるだろうけど。

 

 じゃあ、なんなのだろう。何に、違和感を感じてる?

 すみれさんのそういう態度を見るたびに、それとなく、りのさんを見る。

 でも何もわからない。私に見えているのは、なんの傷もない、文字通り完璧な少女。

 

 ……まあ時間が解決してくれるのを待つしかないかな。

 彼女が頑張っていれば、いずれ認めてもらえるだろう。

 

 事実として、私たちは彼女の献身に助けられている。

 彼女たちがもたらす成果で、『協会』はここまで大きくなった。

 それは、それだけでも、認めるべきだ。

 

 私たちの『協会』の、いわゆる幹部メンバーは未だにすみれさんと私しかいない。

 他の子は全員、単なる会員でしかない。平等で、その扱いに何も差はない。

 戦っても戦わなくても、最低限、網の目の役目を果たしてくれるなら問題ない。

 

 すみれさんがたくさん考えてそうすべきと言ったから、私はそれに従っている。

 他の子がどれだけ頑張っても、私以外を隣に置こうとはしない。

 

 そんな私だって、待遇にそんな特別扱いがあるわけでもない。

 他の子と同じく平等に、『協会』の恩恵を受けているだけだ。

 

 ただ、彼の隣に早くからいて、少し長く一緒にいるというだけ。

 私は単なる、有用なだけの初期メンバーに過ぎない。

 

 だから私は彼女のグループの人たちがいうように。

 りのさんを私と同列に扱うようにすべきというという声に、異論は特段ないんだ。

 

 私は彼の特別なんかでは決してないのだから。

 私と彼は、互いに互いを利用し合っているだけの関係。

 初めて会って、内心を話し合う機会があって、私たちはこの関係をそう定義した。

 

 すべては一つの目的のために。

 みんなの平和な世界のために。

 

 彼女が有用だというのなら、私と同じく扱うべきだ。

 そうでなければ、周りは納得しない。

 私は自分を、()()()()()()()

 

 だから早く納得してほしい。

 そこまで頑なに、私以外の子を退けたりしないでほしい。

 

 私は彼を大事な相棒だと思ってるけど。

 彼の相棒は、このまま私だけじゃ多分ダメだから。

 

 

 

 予感がしているんだ。

 きっと近い将来、私のこの、途轍もない力が。

 

 

 いつか逆罰となって、私を滅ぼす。

 そんな確信。

 

 

 その日がいつになるかはわからない。何が起こるかもわからない。

 私がその時までにできることは、それを私一人の範囲に留めることと。

 私がいなくなっても彼をひとりぼっちにしないこと。

 

 私は私を、誰かに引き継いで貰わなければならない。

 私の理想を、誰かに託さなければならない。

 

 それに彼女が相応しいかは、わからないけど。

 その候補になる資格は十分にあるんじゃないかな。

 

 かなめさんもその一人だ。

 今はちょっとギクシャクしてるけど、彼を上手く支えてくれる気がする。

 

 

 

 

 

「おい」

「……?」

「大丈夫か」

「あ、ちょっとボーッとしてた」

 

 ちょっと考え込み過ぎたみたい。

 すみれさんも少し心配そうにしてる。

 りのさんも、心配そうな顔を()()()()()

 

 あれ、そんなに私、やばい顔してたのかな……。

 

 失敗失敗。

 私は、幸せを運ぶと書いて『幸運』の魔法少女だからね。

 

 うん、気を取り直して。笑顔で頑張らなきゃ!

 

「……なんかあったら、言えよ」

「ありがとう、かなめさん。でも私は大丈夫だよ!」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 更に1年が経った。

 

『協会』のメンバーは、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地に広がった。

 魔法少女の網はほとんど完成したといっていいだろう。

 

 これで完全に、私たちが優位に立ったと思った。思っていた。

 

 

 甘すぎたんだよね。そんな話が簡単にいくわけがなかったんだ。

 現実は、不運は、いつだって私たちを嘲笑うかのように、すべてを台無しにする。

 

 

 何が、間違っていたのだろう。

 もしかしたら、最初から間違っていたのだろうか。

 

 

 わからない。

 それでも私は、幸せを運ぶ。

 私のすべてを使って、幸運をもたらす。

 

 

 それが私の、存在意義だから。

 

 

 

 

 ……それすら、間違っていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっきりいって我が家は貧乏だ。

 もちろん、下を見たらもっと貧乏な家はたくさんあるんだろうけど、客観的に見ても中の中は無い。

 精々、下の上と言ったところじゃないかな。

 

 明日の食事に困るほどではないけど、決して贅沢は出来ない。

 家にあるものは全て安物。娯楽はお金の掛からないものだけ。

 

 お母さんは頑張って働いてくれてるけど、この生活を維持することで手一杯。

 私もアルバイトしたいって思ってるけど魔法少女やってると中々ね……。

 

 まあでも、悪い生活ではないと思ってる。

 毎日は無理だけど、食卓に家族がそろうことも珍しくはないし、笑顔も多い。

 最初は、もっと『幸運』を注がなきゃと思ってたけど、そんなの必要ないくらい私たちは十分幸せだ。

 

 すみれさんは、隙あらば私のことを援助しようとする。私はそれをずっと、突っぱねてる。

 

 私がすみれさんの隣にいるのは、そんなことのためじゃないんだよ。

 それに。それを受け取ってしまったら対等な関係じゃなくなるでしょ。私は嫌だ。

 私が受け取るのは、他の子と同等の報酬のみ。

 

 

 私は、みんなに幸運を与えるもの。魔物以外からは何も奪いたくはない。

 

 

 それに、私は十分に貰っているんだ。

 これ以上貰うわけにもいかない。

 

 

 

 

 

 

「誕生日のプレゼントくらい良いんじゃないか……?」

「他の子たちが貰ってないなら不平等でしょ」

「ほんと強情だなお前」

 

 今月私は14歳になる。

 年齢は秘密だけど誕生日は知られてるので、この人たちはここぞとばかりに私に色々渡そうとする。

 

 かなめさんはもう物で贈るのはやめて、さりげなく何か手伝ってくれたりとか、そういう方向にシフトしてる。

 すみれさんは諦めが悪くて、あの手この手で私を祝おうとしてて……優しいけどホントそういうところがダメな男だよね。

 

 

 

 そもそも私の誕生日は、祝ってもらうようなものでもないんだ。

 

 私の、原点の日だから。

 

 楽しい思い出なんか、作るべきではない。作ってはいけない。

 

 

 

 あ、でも、あやめちゃんの誕生日は別だ。

 この子の誕生日は、良い思い出で満たしてあげたい。

 お母さんはお父さんみたいに、この日だけ好きなものを買ってあげている。

 私も、この日は目一杯あやめちゃんを甘やかしている。いやいつもだけど、いつも以上に。

 

 だけど最近、あやめちゃんが遠慮というものを覚えてしまって……。

 いい子だなぁ……でももっと祝わせてくれよぉ……。

 

「というわけで、私はどうでもいいので今年のあやめちゃんには何を贈ったらいいかの作戦会議を始めたいと思います」

「……お前なぁ」

 

 呆れた目をされるけど、これが私なんだから諦めてほしい。

 ちなみに私とあやめちゃんは同じ誕生月。あやめちゃんが少し先だ。

 かなめさんは面倒見いいから、割とこういう相談には的確なアドバイスをくれる。助かるねぇ。

 

「私は今回髪留めなんかいいと思ってます! 可愛いヘアゴムとか!!」

「まあいいんじゃないか? 遠慮せず受け取れそうだしな」

 

 

 

 そんな、平和な会話も。唐突に打ち切られる。

 

 

 

 ……二人の携帯電話が同時に震えた。魔物だ。

 

 

 

「声、聞こえた?」

「いや。だとすると今回は遠いな」

「場所は……車で送ってもらっても着いた時には終わってるかもだね」

「一応向かうか」

 

 現地には数人魔法少女がいるみたいだけど。どうだろう。

 私の『幸運』を送れたらいいのだけど、調整は近づかないとできないからこういう時、少し不安になる。

 前もって送っておけばいいかもだけど、そんな長続きしないからね。

 一応会う機会がある子にはその度におまじないをかけてるのだけど、今回の子たちはもう切れてしまってるだろう。

 

 すみれさんに連絡を取って、車で拾ってもらって、現場に向かう。

 助手席が私。後ろにかなめさんだ。

 

「……あれ、りのさんは?」

「現場にいるそうだよ」

「あ、じゃあ一安心だね」

 

 彼女はなかなかの戦闘巧者だから、今回の現場は心配いらないかな。

 絶対に気付けないトラップで嵌め殺されて、ちょっと可哀そうになるくらい魔物が何もさせてもらえないからね。

 一応確認はしに行くけど、たぶん到着前に終わってることだろう。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「あら。皆さんお揃いですけど、もう終わってしまいましたよ」

「そのようだね。お疲れ様」

 

 やっぱり終わってたね。他の子たちも全員無傷みたいだ。

 今回現場にいたのは、全員りのさんのグループ。問題は何もなかったようだ。

 現場も綺麗だ。魔力残滓も少ないから、かなり早めに片付いたのかな。

 

「私はまだしばらくここに残りますから、後処理も任せていただいて構いません」

「……分かった、お願いするよ」

 

 そういうわけで、私たちはUターンする。その前にすみれさんの調査があるんだけどね。

 今回は終わってたけど、すみれさんは毎回こうやって各現場を回って記録を取ってるので決して無駄足ではない。

 どこで、どれだけの数で、どういう魔物が出たか。誰が現場にいて、どういう戦闘をしたか。

 このデータがどう役に立ってるのか私にはわからないけど、きっと彼の頭の中で熟考の材料となってることだろう。

 

 私はその考えに、従うだけ。

 

 

 

「……」

 

 

 

 聞き取り調査も終わり、帰る途中。

 私はふと、最近ずっと不運に見舞われてないなと思った。

 

 禍福は糾える縄の如し。っていうけど。

 経験則からして、こういう時の不運は大きいものになる。

 自分の『幸運』は調整できないから、そろそろ心構えをしておかないといけないかな。

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 甘い考え。そんなことを呑気に思ってた。

 

 

 

 妹の誕生日も無事に終わり、私は可愛いヘアゴムを送った。喜んでくれた。

 この日は何も起こらなかった。

 

 次の日。魔物を袋叩きにした。

 この日も何も起こらなかった。

 

 次の日。何も起こらなかった。

 

 何も起こらなかった。

 

 

 そんな日が続き、私は誕生日を迎えた。

 

 全てが終わって、始まった、私が生まれた日。

 

 

 

 

 

「私は……ずっと考えていました」

 

 

 地面に転がっている私を遠くから見ている人がいる。

 私は痛みの中で、()()()()()()()()()()

 

 

「あなたに有って、私に無いもの」

 

 

 人生の末路は、その人の積み重ねの果て。

 であれば私が積み重ねてきたことは、何だったのだろう。

 

 

「わかりませんでした。あなたを観察し、調べて、あなたのように人を助け、彼を助けました」

 

 

 私は、みんなに幸せを運ぶ、『幸運』の魔法少女。

 みんなを幸せにするために、頑張ってきた。

 

 

「でも駄目でした。私は完璧だったはずなのに」

 

 

 でも、私の存在が誰かを不幸にしていたなら。私はどうすればいいのだろう。

 私はどうやったら、この人を幸せにできたのだろう。

 

 

「だから、考えたのです。その場所は、一人限りなのだと」

 

 

 誰かに私の代わりになってもらう。

 その考えが、傲慢過ぎたのだろうか。

 

 

「奪い取らなければ、手に入らない」

 

 

 何にしても。

 こんな形は絶対に駄目だ。誰も幸せにならない。

 私はこれを、全力で否定しなければならない。

 

 

「だから、私は()()()()()()()()。跡形もなく、消えてください」

 

 

 今更遅すぎるかもしれない。でも、抗うんだ。

 立ち上がれ。『幸運』をもたらせ。私は勝利の女神だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()にも、必ず勝ってみせる。

 

 

 

・・・

 

 

 

 私の誕生日は、とても静かに始まった。

 お母さんは休みの日で、妹を連れて買い物に出かけた。

 

 魔物の声もなく、電話が震えた。

 魔物の出現情報だ。

 

 声は聞こえなかったけど、その場所は思ったより近かった。

 単に聞き逃しただけと思って、私は単身そこに向かう。

 

 

 場所は人通りのない、広い路地だった。

 

 

 

 

 ()()()()()()

 

 

 

 

 疑問と、警戒心が頭をもたげた瞬間。

 視界に映るすべてが、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 そして、私は何かに思いっきり吹き飛ばされて、何か、恐らくビルか何かの壁面に叩きつけられた。

 ここで思ったよりダメージが無かったのは、珍しく運が良かったということなのかもしれない。

 

 痛みに霞む視界のなかで、私は悟った。理解してしまった。

 

 私の終わりが始まったのだと。やはりこの日は、こういう日なのだと。

 

 

 

 全てが隠された世界の中で、たった一つだけ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は、何を間違えたのだろう。どこから、間違っていたのだろう。

 

 なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 考えることは私の仕事ではないけど、考えずにはいられない。

 でもそれは考えても仕方ないことだ。

 

 だって、もう始まってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 誰も幸せにならない戦いが、始まってしまった。

 

 

 

 

 

 ……でもさ、りのさん。

 この程度で私を封殺できると思ったのかな?

 

 私は『幸運』の力を全力でブーストし、()()()()()()()()()()()()

 この力の対象は、人だけじゃない。人以外のすべての運を操れる。

 

 例え。

 隠された魔力機雷も。()()()()()()も。

 実体があろうがなかろうが、そこに目的が存在するなら、()()()()()()()()()()()()()()

 何も見えてなくても、私の近くに存在するなら関係ない。

 

 この場は、私の領域だ。

 

 そして、私の放つ魔力弾は、百発百中。

『幸運』は私の運を操作できないけど、魔力弾は別だから。

 相手に当たるという目的は、()()()()()()()()()()()

 

 

 仮にも私は、神と呼ばれる魔法少女。

 

 

 この程度の不運なんか、役者不足だよ。

 

 

 

「知ってますよ?」

 

 全てが隠されていて、何の手ごたえも返してくれない戦い。

 分かるのは、無差別に作用させている『幸運』が何とか機能しているということだけ。

 

 唯一存在が分かる彼女に、干渉することはできない。『幸運』の距離制約を正確に見切られている。

 離れた距離なのに話していることがはっきり聞こえるのは、周りのすべてが隠されているからだろうか。

 それとも、『隠蔽』の代償なのだろうか。代償が発生しているのだとしたら、この戦いは長くはならないけど。

 

「まともにやってもあなたをどうにかすることはできません。ですので、考えました」

「……」

「消耗戦ですよ。そんな強すぎる力、無限に使えるわけないですよね?」

「……」

「私はたくさん準備しました。『幸運』の残量は、足りるでしょうか?」

「……」

「頑張ってくださいね」

 

 この力の限界は、私にもわからない。ただ、限界があることは感じている。

 対象も指定せずに無差別に使ってるから、いつもよりずっと消耗も激しい。

 応援も期待できそうにない。たぶん、私の携帯電話も隠されてて通信できないだろう。

 

 孤立無援。それでも、勝たなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 戦い続けて、どれくらい経っただろう。私はまだ、戦えている。

 そして、彼女の『隠蔽』は、少しずつ剝がれ始めている。

 

「ほんと、化け物ですね」

 

 見えるようになって改めて、分かる。

 この人が私をどれだけ本気で消したがっているか。

 

 彼女のグループには、相手を眠らせたり、遅くしたりする魔法少女がいる。

 その力を利用して、()()()()()()()()()()()()()

 

 数えるのも嫌になる、数十体の魔物。

 隠れている間のも合わせたら百は優に超えてたかもしれない。

 

 魔物は、私たち魔法少女の共通の敵じゃなかったのだろうか。そんな魔物すら利用して。

 

 

 ……懐の携帯が震えた。

 恐らく、ようやく隠蔽が解かれ始めた魔物の声を、聞き取った魔法少女が通報したのかもしれない。

 

 あと少しだ。加勢が来る。そうすれば私の勝利だ。

 

 このまま戦い続けて、

 

 

 

 

 

 

 

──パキッ。

 

 

 

 

 

 

 何か、致命的な感覚があった。

 壊れてはいけない何かが、壊れた。

 

 ……今までかすることもなかった、魔物の爪が、私の髪の毛を何本か持って行った。

 

 まずい。どうする。まずい。

 

『幸運』が切れている。代償、いや、まさか……コアブレイク?

 

 

「……勝ちました」

 

 

 目の前には、数十体の魔物。

 私の魔力は、ほとんどない。

『幸運』も、尽きている。

 

 

 遠くで、作られていない心からの笑顔を浮かべている彼女を見て。

 私は私の終わりを悟ってしまった。力が抜けてしまった。

 

 

 ああ、私には何もできなかったんだな。

 

 彼との約束も。私の理想も。何も果たせずに終わってしまうんだ。

 

 

 

 ごめんね、すみれさん。

 

 

 

「私は、こちらに来る子と合流してまた来ます」

「……」

「人は少ないですが、周りに被害を出さない程度には、抗っていてください」

「……」

「それではどうか頑張ってくださいね。()()()

 

 

 

 立ち去っていった。そして魔物が襲い掛かる。

 私は搾りかすのような魔力で応戦するけど、どうだろう。

 応援が来るまで、どれくらい? 10分? 30分? 1時間?

 

 持つわけがない。でも、戦わないわけにはいかない。

 魔物の被害を出さないために。

 

 傷つき、転げまわり、1体、また1体と魔物を倒す。

 私の素の能力だって、決して弱いわけではない。

 私は不運だから、『幸運』に頼らないでも戦えるように鍛えてきた。

 

 

 でも、無理だ。限度がある。

 

 

 諦めかけた。

 そして、視線を感じた。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「え」

 

 隙を作ってしまった。魔物の腕が身体を掠めて私は地面を転がる。

 

 なんで、ここに。

 なんで、()()()()()

 

 今さっき、確実に目が合った。妹は怯えていた。

 明らかにこの、魔物たちも見えている。

 

 

 魔物は、自身を認識しているものを優先して襲う。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……っ! あ、あああっ!!!」

 

 

 

 

 勝て。立ち上がれ。

 私は勝利の女神だ。勝ってみせろ。家族を守れ。

 

 私は、みんなを幸せにするんだ。

 

 そうだ。何の被害もなく、私が生き残ってさえしまえば、りのさんだってまだやり直せる。

 私は『幸運』を失ったから、私はもう有用じゃないから、すみれさんの隣にはいられない。

 そしたら私が生きていたって自動的に彼女の目的は叶うはずだ。

 

 私は許す。もうずっと前に納得してるから。

 彼女の罪だって、元より彼女のことだ。証拠なんかどこにもないだろう。

 バレなければいいという話ではないけど。私さえ身を引けば、すべてが丸く収まる。

 私の理想を私が叶えることは出来なかったけど、それはきっと彼が叶えてくれる。

 

 だから、何の問題もないはずだ。大丈夫だ。バッドエンドなんかにならない。

 

 

 希望が、見えた。

 それが例え、偽物の光だとしても。

 私はそれを掴むために。

 

 

 魔物を倒す。血を流しながら。

 

 魔物を倒す。命を零しながら。

 

 魔物を倒す。倒す。倒す。

 

 

 

 

 

 最後の……、一体を……倒す。

 

 

 ……なんだ、私ってやればできるじゃん。

 

 

 ずっと固まっていた妹が、涙を零した。

 お姉ちゃん、頑張ったよ。えらいでしょ。

 

 お母さんが遠くから駆け寄る姿も見えた。

 ああ、なるほど。あやめちゃんは迷子になってたんだね。

 良かった。ほんとに良かった。

 

 

 私も帰るよ。私の家に。

 

 

 私は笑って、二人のもとへ、足を、一歩──

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

幸運が剥がれ落ちてしまえば、あなたなんてただの、灰色の汚い女。




(中途半端なところで切れてますが、本編『薄命』参照)


・『隠蔽』の魔法少女
 まだおじさんじゃない時代の熟考おじさんに脳を焼かれた集団のリーダー。
 もちろん本人も焼かれている。
 好きなものは、自分のために頑張ってくれた人。嫌いなものは、悪い虫。
 本名は乙木(おとぎ) 莉乃(りの)。本当は魔法名よりも名前で呼んでほしいと思ってる。
 固有魔法は『秘密隠蔽』。隠したいと思ったことを完璧に隠す。でも自分のことは隠せないので割と欠陥魔法。
 戦闘方法は素の魔力弾を鍛えまくって機雷のように浮かべたり、味方を隠して芋砂にしたり。
 固有魔法の欠点を補うために演技を猛勉強し、言動だけなら完璧な深窓の令嬢。
 服装コーデなども完璧な美少女となるために研究されつくされている。全ては一つのために。





 次回
 終末を告げる『伝達』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。