・・・
実のところ、この国の魔法少女は100人にも満たない。
これは、少女が魔法に目覚めるまでの過程も影響している。
元々魔力を持つ生き物がいないこの世界で、魔力を扱えるようになるには魔力を大量に浴びる必要がある。
それはつまり、魔力という対抗手段が無い状態で魔物と相対するということ。運良く他の魔法少女に助けられない限りはほぼ確実に死ぬ。
そもそも魔力を持たなければ魔力に関することを記憶できないので、襲われる直前までそれを認識することすらできない。
いや、襲われた後だってすぐにはそれを認識できないのだから、抵抗することは実質不可能だ。
こうして生まれる謎の死は、認識できないなりに人々の脳が状況を勝手に補完して自然現象や事故として片付けられることとなる。
そんな不幸な事故は大抵は数人程度の犠牲であったりするのだが、稀に大規模な魔物災害が発生し数百人の犠牲がでることもある。
この中の運良く生き残った魔物の食べ残しのうち、不運にも魔力が定着してしまったものが魔法少女となるのだ。
ほとんどの魔法少女がこのようなケースで目覚めることとなる。
そんな中、『
・・・
「暇だなー」
私たち魔法少女はみんなを魔物から守るために日夜戦っている。
魔物の出現は学校の授業中だってお構いなしだ。魔力を纏えばなんか上手い具合に不在を解釈してもらえるので成績にはそこまで影響しないけど。
うん……そこまで影響は……授業全然受けてないけどもうすぐテストなんだよなぁ……。まあいいや。
とにかく、魔物は毎日どころか日に何度も現れるから私たちは大忙しなんだよね。
早朝深夜時間関係なく、ひどい時にはその日だけで5回も6回も出てくる。
もちろんこれが一箇所にまとめて出るなんてことはほとんどなくて全国の何処かしかで戦う魔法少女たちからの情報によると、だけど。
ていうか1回の出現でもまあまあ大変なのに連続おかわりはできれば勘弁願いたいかな……。
ともかく、魔物が出てこない日なんて聞いたこともないくらいで、実際私が魔法少女になってからは一度もなかったんだ。魔物が毎日出ることが、私たちにとって普通の日常ということ。
だから、
「暇なのはいいんだけどさ、逆に不安になるよね」
「? 平和なのは良いことなんじゃない?」
となりの少女……この子も魔法少女なんだけど、それとなく水を向けてみたものの反応は芳しくない。
まぁ確かにこんな日があってもおかしくはないのかもしれない。実際、起こっていることだけ見れば平和そのものなのだから。
でもつい先日まで普通だった魔物の出現が急に無くなる、ということはやっぱり気になる。
現れた魔物はほとんど必ずと言っていいほど、とりあえず叫ぶ。
なぜ叫ぶかはわからないけど、威嚇みたいなものなのかな?
ともかく、普通の人には認識できないその叫び声は数百キロ先にも届くので、各地の魔法少女のうち誰かが必ず気づいて情報共有してくれる。
その連絡が何もないということは、今は魔物が現れていないという証拠になるのだけど……。
「もしかして海外とかに現れてるのかなぁ……?」
「萌ちゃんはほんと心配性だよねぇ」
呆れた視線を感じるけど、心配するに越したことはないはずだ。
必ず現れていたものが現れない、となった時、まず考えるべきは
つまり、本当は現れてるのに気づけていないということ。
その場合の可能性としては、人が全くいない空白地帯に出現してると考えるのが普通。
なんだけど、地上では魔法少女たちが頑張って巡回してるから魔物の声を聞き逃すことはないんじゃないかな。
だとしたら、一番あり得そうなのは私たちが捕捉しえない外国。もしくは海の上か中か。
私の直感はその発想に反応してくれないから違う気もするけど、一応は調べてみた方がいいかもしれない。
「うーん? いや、萌ちゃん弱いんだからあんまり勝手に動いちゃダメだよ?」
唐突にディスられて私は傷ついた。なんてこというんだ……訴訟も辞さない。
なんて冗談はさておいて、実際私が魔法少女として弱いのは事実だから何も言えないんだよね……。
魔法少女の固有魔法ってみんなそれぞれ違ってて、簡単に分類すると干渉系と内燃系に分けられる。
干渉系魔法はわかりやすく相手に干渉する魔法で、魔物との戦闘に向いてる魔法も多い。
例えば隣にいる
内燃系魔法は自分の中だけで完結する魔法で、五感の強化とか記憶力が良くなったりとかあんまり戦闘に向いてないことが多い。
魔法には固有魔法以外にも魔力弾や身体強化、飛行などがあって、固有魔法が戦闘向きじゃなくてもこちらを鍛えて第一線で戦っている人もいる、のだけど……。
私は戦闘に向いてないタイプの内燃系固有魔法で、魔力弾も上手く出せないし身体強化も無いよりマシ程度。
空もギリギリ飛べるかどうかってレベル……ちょっと盛りました。ほぼ跳べないです。なので、トータルで見ても多分最弱候補の一人じゃないかな。
まさにトップレベルのクソザコ女というわけ。自分で言ってて悲しくなるねっ!!!
そんな私の固有魔法は『察知』の魔法。いろんなことを感じとって事実に気付くことができる。
それってただの勘の良い人では……?って最初は思ったけど、ちゃんと魔法なんだよねこれ。
発動中なら目に見えないものにだって確実に、確信を持って気付けるのだから。
聞き耳目星技能100とかって流石にチートなのでは?
この魔法は勝手に発動して自分で制御できないのが難点だけど、ほんの些細な違和感から普段と違うことを100パーセント見つけてしまえる。
そう。これは
いま感じているのは明らかな、違和感。
まだ魔力に目覚めたてのころ、特異点の存在に気づけてしまった時に似た、確信的な違和感だ。
あの時は好奇心に負けて無闇に危険に近づき、危うく命を落とすところだったけど……。
いま私のとなりにいる魔法少女に助けられなければ確実に死んでいた、かもしれない。
「とりあえず
「え、なに唐突に」
なんか感謝したい気持ちになったからとりあえず感謝してみた。
唐突すぎて困惑させちゃったけど、キョトン顔が可愛いからヨシ!
……えっと、思考が脱線したけど。ともかく、だ。
「それはさておいて……やっぱりおかしいよ」
「うーん。確認だけどそれって……
「うん。
「そっかー。じゃあ、調べてみよっか」
彼女のふわふわとした雰囲気が一気に真剣味を帯びた。
私の確信はこれまでにもさまざまな重大事実を暴いてきた実績がある。
例えば、『特異点』の存在。魔法少女にも見えないこれを証明するのは大変だったなぁ……。
ひたすら追いかけつづけて、"ほら! いまからここに魔物出ますよ!"ってみんなに見てもらうまではなかなか信じてもらえなかった。
何とか信じてもらえたら、次はこれまでの魔物の出現情報を元に他の特異点探しの旅が始まって。
その成果として、少なくともこの国には特異点が8つあるということと、相互間で魔物の出現を管理してるということも分かった。
学業がおろそかになったり散発的な戦闘に巻き込まれたり、あの時は色々と大変だったけど、みんなの戦いに結構な間接的な貢献ができたんじゃないかなと思ってる。
まぁでも分かったところで他の人には分からないから、出待ちみたいな待ち伏せはできないんだけどね。
唯一特異点を判別できる私は弱っちい魔力弾しか出せないクソザコだからまともに戦えないし、そもそも一人で各地の特異点全部はフォローできない。
それでも、データとして概ね前回魔物が出現した8箇所のどこか付近に次の魔物が出てきそうってのは分かってたらしいけど、それを確定させただけでも情報としては値千金でしょ。
さすが私。すごいぞ私。やれる子だよ私。
もっともっと評価されるべき。
「よし、頑張るよ!」
「あ、萌ちゃんは私の隣から絶対離れちゃダメだからね。本当に弱いから」
何気ない2度目のディスに私はそのまま崩れ落ちてしまう……。
たしかに……たしかに弱いけどさっ……!
・・・
始まってしまえば引き返すことなど叶わない。
すべては幸福な結末のため。選んだ運命を進むのみ。
いつかは必ず見つかるのを知っている。それは反則だから。
ならば避けられぬタイミングを、最も都合の良いものにしなければならない。
勝つのは知っている。でも、綱渡りに変わりはない。油断をしてはならない。
それは反則であり、最後の壁なのだから。
・・・
おじさんだよー。
今は東北の山奥目指して新幹線で北上中だよ。さっきまで休憩がてらちょっとだけ寝てたとこ。
ちょっと魔法の力を悪用して、終点まで誰も座らないことが確定してるビジネスシートに勝手に座ってます。魔力を帯びてりゃ誰にも気づかれないのでヨシ!
そもそもおじさん全くお金ないから無賃乗車なんだけど、普通に犯罪だから良い子のみんなは真似しないようにね。
まぁ魔法少女には普通に見つかりかねないんだけど、この車両には今いないこともこれから来ないことも観測済みなので何も問題ナッシング。
魔法少女は全国各地にいるけど、そこまで数が多いわけじゃないし割合としてはやっぱ首都圏の子が多い。
そこから離れていくわけだから見つかる可能性は普通にしてても低いはず、なんだけど……おじさんは不確定なものを信じれないのでちゃんと確認してます。
やはり乱数はクソ……固定値……固定値しか勝たん……!
あ、そういえば、昨日の戦いとも言えない戦いは無事にノルマ完走しました。
完走した感想ですが(激ウマギャグ)、気分としてはイージーモードなタワーディフェンスやってる気分でしたね。
出待ちして出落ちしてもらう。おじさんの全ての攻撃は必ず急所に当たる致命的なものだから、一回当たりの戦闘時間は本当に短い。
むしろ後片付けの方が少し面倒だったけど、これを続けてくのはそこまで難しくはないかなって感じ。作業ゲーここに極まれりってね。
ちなみに後片付けといっても魔物は核を失うと爆散して魔力に還るので、死体が残ったりはしない。ゲームみたいに素材的なものは手に入らないけどそういう汚れる事後処理が必要ないのは楽だね。
なので、戦闘後の片づけとして実際やってたのは整地。死体は残らずとも戦闘の跡は残っちゃうから。
魔物の防御をぶち抜くために攻撃力に全振りしてるから、余波だけでも結構周りが荒れ放題になっちゃうのだ。
人がいないとはいっても、穴ぼこだらけで放置は危ないもんね。なんだかんだ魔力パワーで人間ブルドーザーして30分くらいで終わったかな。
現場に向かう。
1000から1300回くらい魔物を爆散させる。
後片付けをしてから移動。
移動合間に休憩。
概ねこんな感じのサイクルをあと6回を繰り返せばミッションコンプリートでエンディングだ。
特異点さんはこの世界への魔力浸透を目的としてるので送り込まれる魔物は倒せば倒すほどだんだん強くなるのだけど、最後の最後までおじさんの方が余裕で強いって確定してるので問題ない。
そうそう、魔物を倒しても素材は手に入らないけど経験値は手に入る。倒した時に拡散する魔力の一部が魔法少女に取り込まれるのだ。
正確にいうと、魔力が定着した結果できた魔法少女の体内にある魔力核に取り込まれる。
この現象を突き詰めるとおじさんたちの魔法はやっぱり魔界由来なのだなとちょっと嫌な気持ちになるけど、これによって魔法は少しずつ強化される。
魔力が増えるというよりも魔法のスキルレベルが上がるといった方が正しくて、効率が良くなって適用範囲が広がるといった形。
おじさんの魔法は元からチートだから殲滅作業自体にはあんまり影響ないけど、最終的には強くなる必要があるので経験値大事。
……。
ところで……なんですが……。実は一つチャートに組んでなかったガバがありましてね……。
あの……生理現象のことを完全に忘れてたんだよね……別に女の子特有のあれじゃなくて聖水とかの方。
やってる最中のアドレナリンが出てるときはいいんだけど、ウェーブ間の緩急でね、だんだん、こうね、うん。
何も問題はなかったよ?
うん、おじさんは大丈夫。うん。
でも、ちょっと思うことがありましてね。
やっぱりそういう備えって必要だと思うんです。
なのでおじさん。
オムツを装備することにしました。
ああっ……! 前世でも……前世でもお世話にならなかったのにっ……!(幼児期は除く)
まぁでもどうせ誰も見てないのでプライドとか全力無視して効率最優先で行くよっ……!
んでもって、いざつけてみた感想としては、なんていうか、なんだろう、なんか不思議な気持ち、なんだけど……。
え、これで、このまま脱がずにおしっこするの……?
……、あ……。
はい、現場到着です。
これより魔物討伐を開始します。
ここでは1300ウェーブの戦いとなりますが、なんとか頑張れそうです。
……オラッ! イクぞ!
・・・
>『未来』の魔法少女
前世の記憶持ちな魔法少女なおじさん。ハッピーエンドチャートを走るRTA走者だよ。まあまあ自分を追い込むタイプだけど多分Mではないよ。多分。
本名は『
好きなものは(今世の)家族と友達。嫌いなものはネタバレとバッドエンド。あと魔物。
容姿は身長も体重も胸もないサイドテールのいわゆるメスガキ。高校のブレザーが普段着だったりする。
固有魔法は『未来選別』で、未来の選択肢を見て、その中から一つ選ぶというもの。
未来を見たり選んだりしている間は時間が経過せず、未来を見る範囲にも制限はないのでやる気になれば世界中どこであろうと起こることを覗き見できる。
けど、干渉は物理的な距離に応じて必要魔力が増えて難しくなる。でも難しいと言っても追記が増えるだけだし、魔力もどうとでも出来るので無問題。
>『察知』の魔法少女
好奇心旺盛なクソザコ魔法少女。勘のいいガキ。頭も悪くはないけど、学業の成績は悪い。興味無いことは頭に入らないタイプ。
すごく弱いのに一人でよく危険に突っ込むので最近は前もって釘を刺されることが多いらしい。身の程を弁えて?
本名は『
好きなものは読書と友達。嫌いなものはみんなの危険。
容姿はドヤ顔が似合う活発系のぱっつんセミロングJC。普段着はだいたいパーカーが多い。髪型にはこだわりがあって、パーカーのフードは何があっても被らないスタイル。
固有魔法は『異変察知』で、あらゆる違和感に確実な確信を持てるというもの。目星も聞き耳も確定成功するガチチートでアイデアスキルも高いので気付いていけないことにもよく気付いてしまう。けどメンタルも強いので耐えれるし表向き平気。
ちなみにこの魔法のような内燃系と呼ばれる魔法は基本的に自身で制御できないので勝手に発動する。しなかったりもする。
>『熱気』の魔法少女
ゆるふわ系魔法少女。ふわふわした見た目の割に結構中身は頑固で辛辣。一つのことに固執するタイプ。
しばらく前に助けた少女が魔法少女となり、相棒兼友人になった。それまで色々と辛いことも多かったけど、最近は友人のおかげで少しだけ前向きになったみたい。
本名は『
好きなものは友人。嫌いなものは無力感。
容姿は何も考えてなさそうなふんわりウェーブロングなJC。ファンシー系って感じ。中身とのギャップがかなり激しい。
普段着はフリル多めで、女の子らしいものに憧れて実際に実践もしてる行動派。
固有魔法は『熱量操作』で、周囲の熱を操るというもの。燃やせるものがあれば燃やすこともできる。
自分の熱は操れないけど、魔力変換で結果として自分の熱を下げることは可能だったりする。解熱剤要らずだけど逆に体温を上げることはできない。
この魔法に限らず、干渉系の魔法は自身に干渉することはできないからだ。