・・・
幸運か、それとも不運か。ただ生き残り、取り残されて。
だけど、夢も、希望も、未来も、もう何にも無くなって。
だけど、そのまま死んでしまえるほどの気力もなくって。
なんで、『私』は生きている。
なんで、『私』は生かされている。
なんで、『私』だけが、生きている。
誰か、教えてほしい。
なんで、『私』は生まれてきたのだろう。
・・・
ここは魔法少女協会本部……とは名ばかりの一人の男の自宅。
まあ割りかし大きな一軒家なのでそれなりの人数が集まっても大丈夫なのだけど。
あたしがその家の天井に住み着いてから、早くも10年が経った。
天井裏、じゃないぞ。文字通り天井に張り付くように暮らしている。
ヘリウム風船みたいに、な。……自分でいっててもなんなんだろかこれ。
かつて持っていた、『比重』の魔法。
周囲の重さを自在に変化させる強力無比なあたしの魔法。
10年前に大規模な魔物の出現があった時も、この魔法は大活躍してくれてた。
今でこそ分かるけど、あの時は特異点が近くにいくつも集まっていたのか、とにかく連戦に次ぐ連戦で。
何日もみんなで戦い続けて、コアブレイク……魔力変換の使いすぎで自身の魔力核を壊してしまう魔法少女が何人もいた。
あたしもその一人だ。魔力核が壊れる、ということは固有魔法を使う資格を失うだけに留まらない。自身が持っている
だからといって魔力自体が無くなるわけじゃない。魔力弾や身体強化などはまだ使うことはできる。
ただしその出力は大幅に下がるし、魔力変換を使わなければならない状況ということは魔力も搾りかすみたいな量しか残されていないわけで。
しかも魔力の自然回復もかなり悪くなるので、戦闘を続行するのはほとんど不可能に近い。
そもそも魔法の属性によってはその喪失の反動でそのまま死んでしまうことも少なくはない。その点で言えばあたしはまだマシだったんだけど。
『比重』の魔力変換の代償は重さが減ること。身体が軽くなることは戦いではむしろメリットの方が多かったから、だからこそ引き際を見誤ってしまった。
一線を超えてしまったのが屋内で戦っていた時で、ちょうど戦闘が終わったタイミングだったからまだよかった。
その時はそのまま天井に叩きつけられただけで済んだんだけど、これがもし外なら、あたしは
戦いが終わったあと、あたしはなんとか地面近くまで
その時は他にも何人か壊れた魔法少女が協会にいたけど、みんなそれなりに障害を受け入れて卒業し、あたしはあたしでなんだかんだ居着いてしまったってのが事の顛末だったりする。
まぁ魔法少女歴がそれなりに長いから協会の話に首を突っ込んだりしてるうちにアドバイザーみたいな立場として居座ったってのも多少はあるんだけど。
協会本部には現在三人の魔法関係者が詰めている。というか住んでいる。
メンバーはあたしと協会長である菫、そしてもう一人。
ある意味最も重要な役目をしている魔法少女。
『伝達』の魔法少女。
魔法少女たちの戦いを劇的に変えた偉大な魔法少女。
なんて本人に言ったら調子に乗るから絶対に言わないけど、彼女が居なければ今の協会は成立してないと言っても過言じゃない。
ぶっちゃけると10年前の魔法少女たちは携帯電話をトランシーバー代わりに繋げながら戦っていたから色々と問題も多かった。
まだ自分の携帯電話を持っていない少女も多くて、協会で貸し出しとかもしてたのだけど、これは全部協会長のポケットマネーで賄われてた。
というかそもそも協会の活動費自体全て協会長の懐から出てるのだけど、こんなんお金がいくらあっても足りないだろう。
第一、携帯でのやり取りも効率が悪く、魔法少女間で勝手なやり取りをして連携が乱れたり、とにかく上手くいかないことが多かった。
これを、自身の魔法一つですべて解決してしまった革命的な天才魔法少女。それが
彼女は、10年前に孤立無援で戦い続けて壊れ死んだ魔法少女の、妹だった。
彼女が居れば誰一人欠けることなく戦いに必ず勝つことができる。
文字通りの、勝利の女神。
そんな彼女の末路。それは。
不運にも、携帯の通信障害により市街地の一角に分断され、
不運にも、彼女を中心として取り囲むように魔物が出現し、
不運にも、たまたま近くへ妹が母親と買い物にやって来て、
不運にも、そのとき妹に魔力が定着してしまったことで、
不運にも、その場で家族を守るためにボロボロになりながら戦う姉の姿を目撃され、
不運にも、何とかギリギリの勝利を得て妹と母親に微笑みかけたところを、
不運にも、老朽化したビルの巨大な看板が直撃する。
といったものだった。
彼女の死体は原形を留めていなかったそうだ。
姉の無惨な死に様を直接見た妹も、
違う現場で戦っていた私たちは後からそのことを知る。そして、彼女を失ったあたしたちは徐々に仲間の犠牲を増やしていくのだが……。
戦いが終わり1年後。
保護された病院から退院した、彼女の妹が協会の扉を叩く。
その目は。
「うへへぇ……スミレさんの背中あったかいなりぃ……」
あれから9年の歳月を経たこいつは、なんかキモくなっていた。
というか何乗っかってんだ早く離れろ。殺すぞ。
「殺すぞ」
おっと、口からも漏れてしまった。
「まったまたぁ、カナメさんのそれって実行された試しがないじゃないですかぁ」
なんだぁてめぇ。殺すぞ。
……しかし残念ながら、実際にこいつを殺すわけにはいかないのだ。
だからせめてぶん殴る……にしてもこの家は無駄に天井が高いので手が届かない。
扉の上に逆階段を設置する形でバリアフリー化?されてるから部屋の移動にはあまり不便しないんだけどな。
でもどうせリフォームするならそもそも天井を低くして欲しかったんだが。
できれば高さ2メートルも無いくらいで。そうすれば、あたしもこいつみたいに……。
「……オラァ!」
「ぅお、あっぶなっ! スミレさんに当たったらどうするんですか!?」
「当てねぇよ!!」
とりあえずこいつの挑発的ドヤ顔がウザかったので軽めの魔力弾を撃ち込んでおく。
もし仮に当たったとしても、今のあたしに相手を怪我させるレベルの魔力弾は相当頑張らないと出せないから問題ない。
ぶっちゃけ怪我させたいなら物投げた方が手っ取り早いからな。ほんと重力って偉大だ。
大体、菫はなんで急にのし掛かってきたこいつに何も言わないんだ。
「……」
あ、ダメだこの男。すごいキリッとした顔しながら真剣に背中の感触を味わってやがる……。
いかにも「僕は今、魔法少女たちの未来を考えてます」とでもいうような真面目な顔をして、後ろの陰キャ女の胸を堪能してるだろこれ……。
ていうかさっきまで真面目に魔法少女のこと話し合ってた最中だろうが。さっさと正気に戻れよ。
「おい」
「……」
「おい、そこのムッツリ」
「僕はムッツリじゃないよ」
どう見てもムッツリなんだが? 鏡見るか?
「早くそのバカをどかしてさっさと話に戻るぞ」
「あ、ちょっと。私を無視しないでくださいよー」
「というかそもそもお前は何をしに来たんだ」
あたしたちの二人の時間を邪魔しに来ただけなら殺すぞ。残念ながら殺せないが。
「えっとですね、今からすぐスミレさんに会いたいって人がいるんですけど」
「後にしろ。そういう時はアポを取れと言っておけ」
「……『察知』さんの
……なに?
「
「……なんだ」
「この話は改めてしよう」
「……」
最近魔法少女になったという、『察知』の魔法少女。
彼女の魔法による確信は、必ず重要な事実を見つけてくれている。
……これを無視することは難しいな。
さっきまでの話も大事なんだが、流石にこちらを優先せざるを得ないだろう。
「ところで、今からすぐってあとどれくらいの時間なんだい?」
「えーっと、3分も無いくらいですかね」
「いや近すぎだろ」
最近の若いやつにアポを取るという発想は無いのか。
いや、若いっていってもあたしもまだまだ若いんだが。
魔力のおかげなのか少なくとも見た目は未だに少女のままだし。いわゆる合法ロリってやつ?
いやぁ、歳だけは菫と釣り合ってんだけどなー。
というかこの小娘はいつまで菫に乗ってるんだ殺すぞ。早くどけよ。
「お……お邪魔しまーす」
「お邪魔するよー」
件の魔法少女が到着したみたいだ。というか来るの二人だと言ってたっけか?
言ってなかった気がするけど、言ってたような気もする。……まあいいか。出迎えてやろう。
「よ、久しぶりだな」
玄関口にいた二人をリビングまで迎え入れる。
そういえば『察知』の萌香とは、通信で話したことはあるけど初対面か。
『熱気』の灯とは前に直接会ったことがある。
「うわぁ、本当に天井に立ってる……」
「……お久しぶりです」
以前に色々あったからか、相変わらず灯からは少し壁を感じるな……。
それでも昔に比べればかなりマシになっているように見える。
「えとえと! ちょっとお聞きをしたいのでありますが!!」
「なんだ」
「身体の重さが空気より軽いから天井に立っているってことだと思うんですけど」
なんか謎な口調で萌香の方から質問が来た。
「なんで髪の毛は逆立ったりしてないんですか?」
「まあ髪もあたしの身体の一部だからな。でも抜けると床に落ちるぞ」
「服は重さがあるんですよね、だから男の子みたいなピッタリ系の半ズボンとワイシャツを着ている」
「そうだが?」
「もしワンピースとか着たら……?」
「アホみたいなことになるぞ」
「どんな感じになるかもう少し具体的に!」
「アホみたいな質問はやめろ」
ふと灯の様子を見ると、微笑ましそうに隣を見ていた。少しだけ落ち着いた様子だ。
なるほど、このアホみたいなやり取りはわざとか。
「リボンとか髪留めとかつけるとどうなるんです?」
「それは重力に負けるから髪が逆立つな」
「それは残念ですね……シャワーとかで髪が濡れるとどうでしょう?」
「それも濡れている間は髪についた水分で逆立つ。ドライヤーも使えば速攻で髪が乾くぞ」
「中途半端に乾いてる時すごいおもしろ髪型になってそうですね」
……いや、もしかしてこれ単にあたしのことバカにしてないか?
あれ、気のせいか?
「あと、お手洗いってどうやって……」
「怒るぞ?」
ちなみにこの家にはあたし専用の天井が低いトイレがある。
最初の頃は天井に寝転がって尿瓶を使ってたのでかなり間抜けな状態だった……いや誰得なんだこの話。
「おまたせ」
部屋着からスーツに着替えた菫がようやくやってきた。
こいつは人と会う時は基本、スーツに着替える。無駄なまでに真面目なのだ。
家の中でも自室以外ではスーツを着てるから、部屋着姿を知っているのはあたしと彩芽だけってことになるな。
ちなみにこの場に彩芽はいない。あたしが殺した。いや殺してないが。残念ながら。
まぁ、単に菫の部屋に隠れてるだけだろ。
多分初対面の萌香がいるから人見知りしてるんじゃないか。散々通信では話してるだろうに。
「さて、いきなりだけど話を聞こうか」
「あ、はい」
リビングのテーブルについた菫が早々に切り出す。
あたしは一応、アドバイザー的な立場で通ってるからそのまま同席する。
ま、席には着けないんだけどな。天井に直立不動なんだが。
「えっとですね、どうも魔物が現れてないみたいなんですけど」
うん?
何を話すかと思いきや、それの何が……。
「
……うん?
あ、いや、ちょっと待て。それは流石におかしい。
ここ数日色々あって気づかなかったが、確かに魔物の報告はなかった気がする。
というか何で彩芽はこれを報告……いや何もなかったからしてないだけか。
出現特異点間の距離によっては一日程度何も起こらないことは、まぁたまにある。
そもそも全ての特異点が日本にあるわけではないらしいので、そのときは一時的に国内以外で出現しているという可能性が高い。
そういう時、あたしたちにできることは何もない。
まずそこがどこかもわからないし、魔物は長くても4、5時間暴れたら消えてしまうからだ。
だからもうそういう時は割り切って、休暇としてしまう。
……菫はいちいち原因不明な災害を調べていたりするから強引に休ませるのだが。
それでも、丸二日間以上まったく魔物が現れないということはまずありえないといえる。
特異点という存在が完全に明らかになってまだ半年程度しか経ってないが、魔物の出現場所は分かる限りずっと記録されている。
過去の記録を元に菫が計算したところ、ここ数十年は特異点の大半がこの国に居座っているのが分かっている。
そして特異点間の距離によるインターバルもおおよそ計算方法が定まった。
あたしたちには特異点そのものは見れないからあくまでおおよそ、だが。
魔物出現のインターバルは特異点間の距離およそ500キロメートルに対して約3時間。
過去10年以上の記録にある限り、特異点からの魔物の出現が24時間以上あいたことはない。
つまり捕捉外の特異点が国外にあるといっても、それはインターバルが8、9時間になる程度の距離内にしかない。
これを元に計算すると、国外の特異点はこの国のどの特異点からでも最長で1500キロ程度までしか離れていないということになる。
果たして48時間以上この国に現れない出現パターンはあるのか。
一応、考えられるパターンはいくつか存在する。
まず、国外の特異点から出現し、同一特異点で連続出現。
とはいえ、これはまずないだろう。そもそも同一特異点での連続出現自体そんなにない。
今のところは、次の出現箇所はおそらく特異点それぞれで均等確率だという仮説が立てられている。
そうだとすると、行き戻りのインターバル18時間を除いた30時間を5で割って6回。
把握している特異点の数が8個で、仮に協会が把握していない特異点が1個だけだったとしても9分の1を6連続。
……ちょっとちゃんと暗算はできないな。81の3乗として、54万分の1ぐらいか?
一日当たりの出現数が大体5回前後くらいだから……10万日以上?に1日の確率になるか。
絶対に、とはいえないがこの確率はまずないだろう。
次の可能性としては、2個以上国外にあって、そこ同士か同一特異点での連続出現。
これは把握していない特異点の数が増えれば増えるほど確率は上がる。
ただし把握外の数が増えるほどこの国の特異点に出現しない確率も同時に上がるし、記録から考えると把握外の特異点はどんなに多くてもせいぜい2、3個程度に留まる可能性が高い。
というかこれ以上数が増えられても困るから、あるとしてもできれば1個に留まっててほしいのが本音だが。
あとは特異点そのものが数を増やした可能性。
可能性がゼロとはいえない。けどこれは考えない方がいいだろう。
だとしたら、対処のしようもない。
そして、あたしたちの認識と仮説が全て間違っている、という可能性も考えるべきではない。
そうなるとあたしたちの行動基準が全てがひっくり返ってしまう。
もちろん、特異点の不具合?とかで魔物が急に現れることができなくなった、という可能性もあるし、それなら歓迎なんだけどな。
ないだろうけど。……ないかな。かつて急に魔物が現れるようになったように今度は急にいなくなる、なんてこともあってもいいのかもしれない。
まあ……この中だと2番目の説が有力か。
色々考えてみたけど、案外こんなとこだろうか。
滅多に無いおかしな話であるけどなんだか別にそこまで大きな問題はなさそうだ。
萌香もそこまでに至る考えを色々話してるが、自分でもこれのどこに問題があるのか分かりかねている様子だ。
さて、菫はどう考えただろう。
「……。一人、行方不明の魔法少女がいる」
……?
ついさっきまで話し合っていたことだ。
1年前の魔物災害の被災者としてずっと入院していた魔法少女がいた。
菫は月に1度ほどその魔法少女を見舞っており、3日前にも面会に向かっている。
今までの面会中その少女は一度たりとも何の反応も返さなかったそうなのだが……。
面会が終わってからしばらくして突然、何の予兆もなく姿をくらましたらしい。
それに気づいたのが一昨日。何故その時間まで誰にも気づかれなかったのかは不明だが、とにかく慌てて色々と手を回したそうだ。
だがどこにも見つからず、どうしたらいいか途方に暮れている、という話をさっきまでしていたところだった。
話の結論としては彩芽に魔法通信で告知してもらい、手の空いている魔法少女にも捜索してもらう、という方向でまとまりそうだったのだが。
魔法少女の協会としても保護対象の魔法少女が行方不明になったというのは初めてのケースだし、その事実を広めるのはかなり大きなダメージになってしまうだろうが、仕方あるまい。
それでなんで今その少女の話を……、
うん?
3日前……?
「いやいや、突飛すぎるだろう」
いや、一瞬だけ考えてしまったが。
3日前にいなくなったその魔法少女が、
そんなことこそ、あり得るわけがない。
魔物の出現情報が無い。
ということは、魔物の声が聞こえない離れた距離に出現している。
または、そもそも魔物が声をあげていないか、のどちらかだ。
だが魔物は出現後に一度も叫ばないことは無いので、実質的に可能性は前者しかない。
もし万が一後者だとしたら。
特異点の前に待機し、魔物が出現したら
現役の時のあたしなら『比重』全開で魔物を秒殺すること自体は可能だが、それでも無音は流石に無理だ。
いくらこの魔法少女が大規模魔物災害から3000人もの人々を守った英雄であったとしても……絶対に不可能。
そして国内8つの特異点を常にフォローしておく必要だってある。
つまり、どこに出るかを常に把握して前もって先回りしその場に待機、出現したら無音で瞬殺。次に移動。無理だ。不可能だ。
これならまだ、無音の瞬殺という不可能ができる魔法少女を8人用意してそれぞれ待機させる方が現実的といえるだろう。
いやそもそも特異点が見えないのだから普通に非現実的なんだが。
可能性はゼロじゃない?
こんなん最早ゼロだろ。
「……僕たちはあの子のことを何も知らない」
え、えぇ……その方向で考えてくのか……?
確かにあの災害での戦闘は現着時点で既に終わっていて、それから一言も発していないその魔法少女について、どんな固有魔法を持っているかもあたしたちは分かっていない。
本人に怪我は全くなかったという話から、戦闘に特化した強力な干渉系魔法なのは間違いないとは思うんだが。
だけど、どんな魔法だとしても無理なもんは無理だろ。いったいどんな魔法なら可能だと?
そんなの例え……今は亡き勝利の女神でも、不可能だ。
「あの……」
「菫さん、萌ちゃんが困ってる。それって何の話なの?」
ん、ああ。そういえば話してなかったな。
「一年前の魔物災害、覚えているな」
「ッ……!」
一瞬だけ表情を変えた灯を、一瞬チラリと萌香が見た。知っているのか?
1年前のあの魔物災害の後、灯はしばらく空回りし続けていた。魔力変換の使いすぎでぶっ倒れたこともある。
精神的にも追い詰められていたのかうわごとを言いながらフラフラしてる時もあったし、この出来事は灯の中で強烈なトラウマになってるのだろう。
それでも戦い続け、いや、以前よりも積極的に戦うようになった灯を何度も諌め、その度に言い争ったものだが。
久しぶりに会ったが、ずいぶん落ち着きを取り戻したように見える。
それはきっと、隣にいる新人の魔法少女のおかげなのだろう。
その災害に関わる話。萌香は一瞬だけ躊躇ったようだったが……。
「……何があったんですか」
「その時の魔法少女が行方不明だ」
それだけで菫の考えを何となく察したようだ。
以前に通信で話していた時から思っていたがやはり話が早い。
流石『察知』の魔法少女……といいたいがこれはこれで生きづらそうに思えるな。
今度それとなく悩みでもないか聞いてみるか?
……逆になんか悩みを聞かれてしまいそうで怖いな。
少し考え込む様子の萌香を、灯が不安そうな雰囲気で見つめている。
「その魔法少女について、色々教えてください」
「……少し、長くなるよ」
・・・
既にあたしは聞いた話だったが、萌香が度々質問を挟んでより細かいところも語られた。
特に面会時の様子などは何度か聞き返している。菫は大体月一で1、2時間面会していたらしい。
最初は当たり障りない声掛けをしていたらしいがあまりにも反応が無いので最近はほぼ独り言を聞かせるような形になっていたそうだ。
……いや、というか反応の無い少女に2時間も喋り掛けてるって、思ってたよりこの少女に対して菫の感情重たくないか?
というか病室個室だろ。その絵面若干犯罪染みてるぞ。……大丈夫か?
そんなことを思いながら話を聞いていたら、いつの間にかすっかり夜も更けてしまっていた。
「何か気になったことはあるかい」
「うーん……あんまり関係ないことで気になる点はいっぱいあるんですけど……」
まぁ、あたしもこの少女に対しては色々謎に思っているところはある。
例えば、何故この少女はこれほど大規模な戦いをコアブレイクせずに戦い続けられたのか。とかな。
だけど面会時の様子でそんなに気になること、あったか?
「とりあえず、その子がいなくなったのは菫さんが原因だと思います」
「うっ……」
どうやら確信しているようだ。菫は崩れ落ちそうになっているが何とか耐えている。
「みなさん、その子を探してるんですよね?」
「というかこれから改めて探すところだったんだがな」
「急いだ方がいいかもしれないです」
うん?
「どういうことだ?」
「なんか嫌な予感が……」
考えがまとまっていないのか、歯切れが悪い。
「でも悪いことにはならなそうな……でもでも良いことにも繋がらなさそうな……!」
「萌ちゃん、落ち着いて」
何かは分からないが何かがある、ということを確信して戸惑っている萌香の手を灯が握った。
……まったく場違いな感想だが、お前たちなんか距離感すごい近いな。
「わかった、さっそく取り掛かろう」
菫からアイコンタクトが飛んできたのであたしも通信を開始する。
(おい、彩芽。どうせ聞いてただろ)
(…………はい聞いてましたよ)
(その前の話し合いも、聞いてたな?)
(聞いてました)
正直でよろしい。
実は彩芽はその気になれば、一度会った相手が思っていることを全て傍受できる。
魔法通信の使い方で、送ると念じれば伝達される、と言われているが……
全部受信してたらキリが無いので送信!と念じられていない情報はフィルターみたいなものでシャットアウトしているそうだが。
それに傍受自体、負荷が強いのでその気になった時にしかしていないみたいだが。
ちなみに『伝達』の仕組みとしては、相手に渡した彩芽の魔力を媒介して相手の魔力が使用される形らしいので単体の魔力消費的にはそこまででもないそうだ。
この、魔法通信の真実を知っているのはあたしと菫だけ。
まぁ頭を勝手に覗かれるかもと思ったら使ってもらえないもんな。
協会にはさまざまな魔法少女が所属しているが、決して一枚岩ではない。
むしろトップが戦力的に貧弱なので、統率が取れているとはお世辞にも言えない。
だから魔法少女同士でのトラブルも結構多かったりするのだが、その中には到底洒落では済まないものもあって。
彩芽の姉もそれに巻き込まれていた、のだが。
……まあいい。それは
(全体に告知してくれ)
(いいんですか……?)
こいつの本当の意味での味方は、恐らくあたしと菫しかいない。
だから協会に傷を付けることになる判断を躊躇っているのだろう。
(聞いてたんだろ?)
(……わかりました)
さて、これで謎の少女が見つかるといいんだが……。
(あ、そうだ。駅前のホテル予約しておいたので使ってください)
(え?)
(かなり遅くなっちゃったのであの二人、このままだとこの家に泊まることになりますよ?)
(……え、あ、そういうことな!)
(部屋はいっぱい余ってるので別に私も菫さんも困りませんけどねぇ。ん、あれれ、そういうことってどういうことなんですかー?)
(うっざ……)
・・・
・『比重』の魔法少女
引退済。今は協会本部の天井で気ままにごろごろして暮らしている協会のアドバイザー。
年齢は非公開だが10年前に現役バリバリの古参魔法少女だったので、お察し。
元々は最強格の魔法少女だったが魔力変換を使いすぎて属性を失い、固有魔法が使えなくなった。
自身の重さも全て失ってしまい屋外に出ると大空に放り出されてしまうため、一生屋内生活を余儀なくされている。
とはいえ別に車を出してもらえれば家の外に出れなくもないし、その点に関して今ではあまり気にしていない。
本名は
好きなものは肉と菫。嫌いなものはダイエットと魔物。
悩みは人と同じ地面で暮らせないのであんまり上手くアプローチ……コミュニケーションできないこと。
固有魔法は『比重変化』で、周囲にある物体の重さを変えることができる。今はもう使えない。
容姿はショートヘアなボーイッシュ系JC(合法)。若干お腹周りと太もも周りの体型を気にしている。
身体は重力を無視するが服は普通に重力に引っ張られるので服装は基本的にタイトめな半ズボンとワイシャツ。たまにオーバーオール。
仮にワンピースを着るとチラリズムを通り越してギャグみたいなことになる。前が見えねぇ。
・『熟考』の魔法使い
元魔法少年。実年齢30歳。18歳で協会の代表となって12年もの間、魔法少女をバックアップしている。
最近の悩みは白髪が増えてきたことと、油物が最近ダルくなってきたこと。
だんだんと「あれ、もしかして僕はおじさんになってきてるのか?」と思うようになってきた。
本名は
好きなものは野菜と魔法少女。嫌いなものは年月の流れと魔物。
固有魔法は『高速熟考』で、考え込むと勝手に時間が止まる。実質時間停止おじさん。
ただし止まっても自分も動けないのでエロいことはできない。
魔法の特性上、本当に考えている時は見た目一瞬で結論が出るので、
考えているように見えている時は逆に何も考えてなかったりする。
性欲は普通にあるし同居人2人が隙だらけで誘惑が多いがなんとか頑張って耐えていて、
用事がない時はできるだけ自室に避難してる。
が、2人とも普通に凸してくるので逃げ場がない。どうすればいいんだ。
容姿は中肉中背前髪長め、中性的な草食系エロゲ主人公。
・『幸運』の魔法少女
かつての勝利の女神。10年前に死亡。当時14歳。
本名は
固有魔法は『幸運調整』で、周囲の運を良くしたり悪くしたりする。
戦闘に直接的な影響を与えられるほどの効果を出すには素の魔力で全然足りなかったのでほぼ常に魔力変換しながら戦っていた。
最期には全ての運を失い、家族の前でミンチになる。その後、当時8歳だった妹は姉の後を追って一年後に魔法少女となった。
母親は精神を病んで入院。父親は過去の魔物災害で既に亡くしている。
容姿はポニーテールのトランジスタグラマー。年齢に見合わないくらいのムチムチボイン。