・・・
「あのさ、もし未来が思い通りになるとしたら、どうする?」
「なんだそれ。どんなことでもできるってことか?」
「あー……何でもは出来ないかな。不可能なことは不可能ってことで考えてみて。確率操作に近い感じ」
「なるほどな。なんの設定かは知らんが、そうだな……」
「……」
「うーん……どうもしないんじゃないか?」
「……何もしないの?」
「まぁ、別に今のままでも不満はないしな。そういうの、一回でも使ったら歯止めが効かなくなりそうだし」
「……」
「あと、これからどうなるかわからんからこそ面白いってのもあるだろ?」
「それはそうだけどさ……」
「いやなんでネタバレ嫌いなお前が不満げなんだよ」
「……」
「あ、でもお前らがピンチの時はすぐ使うかもな」
「……ふーん」
「なんかいざって時しか使わない方がカッコいいだろ。その時は俺のことヒーローって呼んでもいいぞ?」
「ばーか、中二病、カッコつけ少年」
「というか私利私欲で使ったら完全に悪役になるだろこの設定。……悪役ってよりむしろラスボス系か?」
「ふふん、実は私がそのラスボスなのだ」
「はいはい。ていうか、あいつまだこねぇな……」
・・・
今日も、突然殴りつけられるような頭痛で目が覚める。
この頭痛とも長い付き合いだし、もはや友達と呼んでもいいかもしれないな。
「ん、あ〜……っ」
身体もバキバキだ。まだ若いけど年齢が重ねられていく実感がある。
まぁこんなこと今そこの、クッション付きの天井で寝てる人に言ったら怒られそうだけど。
不定期にズキズキする頭の中で、寝てる間に『伝達』されていた情報を確認していく。
まず、少女の捜索に関する通信がおよそ半分。最初は数も少なかったけど少しずつ増えてきた。
あとは魔物に関する通信がおよそ2割。これは、出てこなくて平和だっていう個人の感想がほとんど。
残りは私的な通信。むしろこれは使ってもらうのが目的の一つでもあるから黙認する。
この中から少女に関する内容をざっと確認したけど、ほとんど信頼度の低い情報しかない。
あの子が似てた気がするとか、あの高校の制服がそうなんじゃないかとか。
そういえばとか、今思えばとか、こうなんじゃないかとか。
残念ながらそれは、情報じゃなくてただの感想だ。そういう区別ついてないんだろうけど。
うん……特段重要な情報はなさそう。
見る度だんだん憔悴してくスミレさんに何の成果も渡せないのが辛いな。
魔法通信の自動受信のフィルターを少し緩めてみようか。
今ぐらいの体調ならそれなりに許容できるだろうし……。
「おい」
っ……!
びっくりした、起きてたんだ……。
「お前な。その、人目が無いと思い込んでる時だけしんどい顔すんのやめろ」
「……えっと」
「頑張りすぎるなよ。朝っぱらから根を詰めるな」
天井からの視線。憮然としてるように見える表情に見え隠れする私への心配。
……自分の疲れている顔も隠せてないくせに。
私はこの人の、こういうところが、好きだけど嫌いだ。
「……私が頑張らなかったら誰が頑張るんですか」
「まぁたぶん菫だな」
「何もできない人が言うことってほんと気楽ですね」
「機嫌が悪いな。やっぱ疲れてるだろ」
「……」
……確かに、ここ最近は特に通信量が多いので眠りもとても浅い。
日中も通信とその情報をまとめることに体力を費やしている。
そんなのもはや日常の範囲だけど、まともに休めていないとは思う。
この人もこの人で、その情報を元に会議をしたり現場に向かったりしてるからそんな暇ではないはずなのだけど。
今みたいに、私が疲れているとどこからともなくやってきてそばにいたりする。
決して、孤独にはしてくれない。
まるで、家族みたいに。いつも寄り添ってくる。
それが、有り難くも、少しだけ煩わしい。でも、嫌ではない。
「……新しい情報は無いです」
「だろうな、その様子だと」
特に落胆した様子は見せないけど、多少は成果を気にしているというのも分かってしまう。
やっぱり進展がないというのはしんどいものがあるけど……。
協会に所属している人でも、やる気のある人、ない人、真面目な人、そうじゃない人、魔法少女と一口に言ってもそれぞれだ。
大抵の人たちは概ね私たち協会の指示を尊重してくれている。
だけど、ごく一部の魔法少女は非協力的だ。
なぜかこういう人たちは協会の指図は受けないとばかりにグループを作って群れてる。
そのくせに、それでいて、協会の恩恵だけは受けようとしている。ホント笑えてくる。
例えば、今だって魔法通信でおしゃべりしてる、この人たち。
脳みそ入ってるのかな?
まぁ、いいけど。これくらいならただの馬鹿だからまだいい。
いつだったっけか、もう8年くらい前になるかな。
お姉ちゃんの敵が。
私たちの味方面して。
頭の中で私のことを。
ああ、今思い出しても心が凍りそうだ。あの日を境に、私は決定的に汚れてしまった。
あの時はまだ私も幼すぎて、カナメさんにもスミレさんにも迷惑を掛けてしまったな。
本当に、反省している。今の私なら、私一人で全て終わらせることができたのに。
あの、人間の形をしているだけの魔物みたいだった少女は、もういない。どこにもいない。
そして、ここまでの悪魔的な悪意に満ちた存在は、流石にあれ以来見ていない。
そこまでいかずとも危険な存在は度々いたりするけど。
とりあえず今しゃべってるアホの子たちはただの馬鹿で無能なだけ。
別に直接的な何かをしてくるわけじゃないから害はない。
むしろ、どっちかというと他の、積極的な無能の方が厄介だ。
「いつも思うんですけど、情報とのたまって推理(笑)みたいなのを大量に送ってくる人って何考えてるんでしょうね」
「ん、ああ。多分あたしらへの、というより菫への有能アピールだろ」
「一ミリもアピールになってないしクソの役にも立ってないですけどね」
「それは、あれか? 前に本部メンバー入り狙ってたってやつか?」
「はい。ほんと笑えない冗談ですよね」
「ほんとにな」
私たちの仲間は、私たちだけなのだから。
それにしてもだけど、意外にもスミレさんはモテる。いや、意外でもないか。
ほとんどの魔法少女は、魔物に襲われてから協会に保護されるという形を経ている。
それ故に心に傷を負っていることも多く、そんな時に顔も悪くない年上男性が優しくしてくれるのだから。
まぁそりゃ勘違いする子も出てくるよねって話。
そんな感情も、協会の保護を卒業するまでに覚める場合も多いけど、そのまま引きずってるケースも割と少なくなくて。
それが本当に純粋な気持ちであれば、
ごくたまにとんでもないのが爆誕しちゃってたりして。
最終的に私が
といってもこれはまぁ、
いやそれでも色々疲れるから、軽率にヤンデレを量産するのはホントやめていただきたいな……。
この協会本部メンバーで戦えるのは私しかいないのだから、魔物以外の危険を勝手に作ってこないでほしい。
そんな今までのアレやコレを考えると、カナメさんなんて可愛いもんだ。というか実際可愛い。
私は別にスミレさんに恋愛感情は持っていない。多分、亡くした父親を重ねてるのだろうと自覚してる。
でもこの人の反応が面白くて年上なのも忘れ、ついつい揶揄ってしまうんだよね。
「……なんか変なこと考えてないか?」
「なんのことでしょう?」
「まあいいや、調子戻ってきたみたいだしな」
「あ……さっきはすみませんでした」
「いやいいよ、事実だしな」
「事実でも、言って良いことと悪いことがありますから」
「……」
「?」
ん、あれ、いまなんか間違えたかな……。
私はカナメさんのこの、チベットスナギツネみたいな表情も好きだけど。
・・・
そのあと、スミレさんも起きてきたので全員揃ってリビングで朝食を食べる。
朝食の時はスミレさんがパンを持った手を上に伸ばして、カナメさんに手渡してるのだけど。
この構図、何かに似てるなーって思いながら最近見てたけど、今わかった。
そうだ、パン食い競争だ。
上下逆さまだからむしろおさるさんへの餌やりの方が似てるかもだけど、イメージ的に可愛くないのでそれはNG。
手を使わずにアーンする形なら、構図的にはかなり近いんじゃないか。
「また変なこと考えてるだろ」
「あ、よくわかりましたね。二代目『察知』さん名乗ってみます?」
「無茶いうな」
「ところでカナメさん、このパンを手を使わずに食べてみてくれませんか?」
「……なんかよくわからんが断る」
「えぇーお願いしますよぉー」
なんだかんだ嫌がっているけど、こうして掲げたパンをしつこくフリフリしておけば。
……ほら、いたたまれなくなったのか、おずおずとやってきて、かぶりついてくれる。
ほんと、ほんと可愛らしいなぁ。猫みたい。
姿も声も性格もまるで違うけど。
こういうところはやっぱり、
「彩芽」
寝不足寝起きでさっきからボーっとしてたスミレさんが、いつの間にかこっちをみていた。
……あれ? もしかして私怒られる?
「僕もやっていいかい?」
「おい」
「……ふふ」
思いがけないリアクションに思わず笑ってしまった。
まさかまさか。珍しいこともあるもんだ。
クソ真面目なのが取り柄のスミレさんが私たちのじゃれあいに混ざるなんて。
ちょっとにやけながらも新しいパンを渡してあげる。
「おい、聞けって」
「要、……ほら」
困ったように私を見て、
スミレさんを見て、
視線を泳がせて、目をぐるぐるさせたカナメさんは。
……パクリ。と。
ああああああああああああああっ!! やばいですよめっちゃいい!!
推しが推しに照れながらアーンされてるとか脳内スクショ百連発ものですよ!!
例えそれがパン食い競争じみたちょっと間抜けな感じでも、むしろめっちゃいい!!
「おい」
ああ、どうしよう、このスクショを魔法通信で拡散したい……!
このカナメさんの可愛らしさを是が非でもみんなに布教したい……!
きっと『察知』さんとか気持ちいいリアクションしてくれるに違いない!
「おい……」
「ついにカナメさんアイドル化計画を開始する時が来たようだ……」
「やめろ!?」
「あ、ちょっと待ってください。今から真面目な話をします」
あれ、なんだっけ。噂をすれば陰で刺すだっけ?
そりゃ私のことか。ふふ。
良い気持ちになってたところに水を差された形だけど。
水は水でも呼び水。とても良い水だ。
『察知』の魔法少女が、
彼女には悪いが、朝からフィルターを解除したままチャンネルを開けといてほんと良かった。
ほんと流石だ。やはり彼女は凄くてずるい。一発で一足飛びに核心的な情報をもたらしてくれる。
「『察知』さんが手掛かりを見つけました。今からこっちに来ようとしてます」
「いつ来る」
「1時間後くらいですね」
「思ったより近いな」
「それとなく連絡して打ち合わせをしておいてほしい」
「わかりました」
ようやく進展して、スミレさんも、どことなく元気になったようにみえる。
よし。これでようやく私たちも先に進めそうだ。
・・・
二人は『察知』さんと『熱気』さんと合流し、現場に向かうこととなった。
スミレさんが三人の魔法少女を愛車のハイエースに乗せて走っていく。
……変な意味はない。うん。
今回、私はお留守番だ。あのあと急に細々した情報が増えてきたからまとめなきゃいけないし。
戦えない二人の護衛としては『熱気』さんが十分すぎるくらい有能だから問題ない。
彼女は歩くサーモセンサーだからね。下手したら私より護衛性能は高いかもしれない。
さて、仕事をしなきゃな。
……。
……。
……。
「やあ」
……?
「
「!?」
ここは私の部屋。仮にも魔法少女の協会本部の一室。そこに。
いるはずのない、見知らぬ少女がいた。
……いや、知っている。一方的に。つい最近、幾度となく写真で見た。
その写真では横たわった入院着姿だったけど。
高校の制服を着た、サイドテールの小さな女の子。
私たちがずっと探していた女の子が、ボストンバッグを持ってそこに立っていた。
「あ……なたは……」
「いや、君とは先にフラグを立てとかないと詰みかねないからね。こっそり会いにきたんだよ」
「何が……?」
「それに君はさ、
この一瞬のやりとりだけでわかった。この子はおかしい。
会話をしているようで、会話が成立していない。
私の頭も最大限の警鐘を全力で鳴らしている。
「残念なんだけど時間がないんだよね。私も次に行かなきゃいけないからさ」
やる、か……?
いや先に二人に連絡をしたほうが……。
「じゃあ早速、
違う、無力化が先だ。
あまりにも唐突すぎて隙を晒してしまったけど、この子がその気なら危なかった。
もう既にこの子の魔力核は掌握している。
これで、いつものように────
(手っ取り早くいうけど)
っ!?
魔法通信の使い方を知られてる? 何故? この子は一度も協会と関わってないのに?
やっぱり駄目だ。危険すぎる。この少女は駄目だ。
後で怒られてもいい。このまま処理を、
(君はもう一度、─────────?)
──え?
・・・
「あなたは一体……」
「私はただのおじさんだよ」
意味がわからない。
纏っている雰囲気は得体が知れないけど、見た目はただの少女だ。
「……あなたは、なんなんですか。名前は」
「名前とか、呼ぶ気ないならおじさんで充分でしょ?
……そんな心まで知られている。気持ち悪い。
私たちはこの子のことは何も、名前すらも知らないのに。
「もしくは、『未来』」
少女がバッグを持ち上げて、部屋を出ていく。
私はそれを見送る形で、フラフラとついていく。
「私は『未来』の魔法少女」
バッグからローファーを取り出して玄関で履く。
そういえばこの子は、結局どこから入ってきたのだろう。
「絶望の『未来』の全てを否定するもの」
玄関を出て、こちらを振り返る。
「なーんてね」
得意げな表情で笑った少女は、その一瞬だけ、年相応に見えた。
・・・
疑問はまだいくつも残っている。
それでも、今の時点の情報だけで、私は止めようと思えば彼女を止められる。
……止めてどうする?
これからも、終わりの見えない戦いを続ける?
これからも、誰かの涙と血と命を零しながら?
それよりも、彼女がもたらす救いを大人しく待つべきでは?
彼女が世界を救う。その結果、
彼女は……そこに触れなかった。
でもきっと、彼女の末路は名も無き英雄だ。
……スミレさんは悲しむんだろうな。
それでも。私はきっと動けない。
私は、これからどうすればいい?
どうすれば、いいんだろう……。
・・・
責務を果たさない者は責められて当然なのだろうか。
次回『始まりの日』
嘘みたいな未来が始まる。
(実はこのラスボス感出してる少女、おむつを穿いてます)
>『魔法通信』
『伝達』の魔法少女によって構築された『情報伝達』による魔法少女の情報ネットワーク。
協会に所属すると使えるようになる。というか、使う人は自動的に所属扱いになる。
脳内の情報を貼り付けるような形で送信するので、映像以外に音声やテキスト、画像も送れる。
使い方は、送りたい情報を思い浮かべて、送信!と念じるだけでいい。
慣れると電話のように使うこともできる。
使用するための条件は『伝達』の魔法少女に直接対面することだけ。
この時、『伝達』の魔力の一部が譲渡され、その魔力を介して通信が行われる。
ここまでが他の魔法少女に開示されている内容で、実は情報を思い浮かべた時点で既に送信はされている。
それが相手に届かないのは中継サーバー役である『伝達』の魔法少女が弾いてるだけ。
もちろん、その気になった『伝達』の魔法少女には筒抜けとなる。
相手の魔力も利用するので意外と通信の消費魔力は省エネだが、規模が規模だし元の基本消費がでかいので魔力不足になることもあったり、極度の通信過多になると本人のコンディション次第で稀に昏倒することもあったりして鯖落ちする。
魔力変換は使って代償が起こると魔法通信自体が破綻する可能性が高いので使えない。
というかそもそも使えたとしてもトラウマ的に多分使えないと思われる。
また、『情報伝達』の魔法による情報の受信は基本的に拒否ができない。
『伝達』本人は不要なノイズを魔法操作によるフィルターで弾いているが、意図的に大量のそれをぶち込むことで相手の脳を直接攻撃することもできる。
強制的に洗脳まがいのこともできるし精神汚染もできる。実際はかなりダーティな魔法。
>『魔法少女協会』
この国のほとんどの魔法少女が名前を連ねており、魔法にまつわる費用の資金援助、魔法通信と情報、いざというときの保護、などなど様々な恩恵を受けている。
所属条件は魔法通信を使うということだけ。来るものは拒まず、去るものは追わずに監視、危険な輩はこっそり処理。
魔法少女の必須義務は情報提供のみで、魔物との戦いは努力義務。魔法通信の裏仕様も考えれば、はっきりいえば実質何もしなくても何も言われはしない。
ただし、協会の指示に従わずとも罰則はないが目をつけられやすくはなる模様。
正式メンバーは現在本部にいる3名だけで、かつては『熟考』と『幸運』の2名だった。
その後、『幸運』と入れ替わるように『比重』が入り、しばらくして『伝達』が入る。
そこからずっと三人体制だったものの、活動規模的にメンバーを増やすべきかを考えているらしい。
次のメンバーの最有力候補は『察知』だが、勧誘はまだされていない。まだ先の、もうこない話ではある。
あと、これ以上同居人が増えるのを内心でめちゃくちゃ嫌がってる人がいるので、仮に加入したとしてもリモート体制になる。