魔法少女おじさんに未来はない   作:Mckee ItoIto

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 私のこれっぽっちの未来なんて、欠片だけでいいからね。


始まりの日

・・・

 

 

 

 未来とは何だろうか。

 

 私たちの前にあるのは常に過去だ。

 だから私たちは、未来に進んでいるのではない。

 決して目を離すことができない過去から遠ざかっているだけ。

 

 もし、背後の先が気になっても絶対に振り向いてはいけない。見てはいけない。

 そこにあるのは果てしない混沌の海。現実になる前の、無限の虚実。

 現在を起点にあらゆる過去となり得る可能性の闇。

 

 そう。未来とは、過ぎ去った瞬間に未来だったとようやく理解できるもの。

 過去の行き先でしかなく、過去となる前のもの。

 

 では、私たちにとって未来とは何だというのか。

 私たちは何を思って、それに夢や希望を託すのか。

 

 それは分からない。

 でもきっと、分からないからなのだろう。

 

 夢が無くたって、暮らしていける。

 希望が無くたって、生きていける。

 

 それは、未だ来ることのない未来の中に。

 まだ見ぬそれが、あるかもしれないと思えるから。

 

 だとしたら。

 

 もしも未来が決まり切ったものでしかなくて。

 それを全て見ることができてしまうというのだとしたら。

 

 

 それは、あまりにも、救いが無さ過ぎる話なのではないか。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 私が私のことをおかしな存在だと気づいたのはかなり早い時期だったのだけど。

 それでも自分で気づくのが遅かったようで、いつの間にか周りからは頭がおかしい子供として扱われていた。

 

 それもそうだろうなと思う。

 大人びた子供は、マセてて可愛いと思われるかもしれない。

 でも、大人そのものの子供は、気味が悪いだけだ。

 

 私には前世の記憶がある。

 かつて無為に生き、無為に死んだ男。

 豊かな生活の中で、孤独に死んだ寂しい男。

 

 この一生の記憶があるせいで、()()()()()()()()()()()()()()

 

 生まれ変わって女になった男なのか。

 男の記憶を持っているだけの女なのか。

 

 果たしてどちらなのか。どちらにしても、気持ち悪く、普通ではない。

 

 

 それでも。

 

 

 こんな私を、両親は普通の子供のように扱ってくれた。

 こんな私を、妹は心の底から慕ってくれていた。

 こんな私と、友達になって一緒に笑ってくれる人がいた。

 

 だから私は、家族と友達がいれば他に何も要らないと思ってた。

 

 

 

 全ては過去のもの。私の未来には何もない。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 小学校で、とある少年と友達になった。きっかけは大したことではない。

 少年が馬鹿なことをして、思わず私がツッコミを小さく呟いた。たったそれだけのこと。

 それに反応した少年とたまに言葉を交わすようになり、いつの間にか大体一緒にいるようになっていた。

 その少年は、普通に馬鹿で、臆病だけど意外と我慢強くて、割と熱血の癖にクール気取り。

 

 そして、私なんかと最初の友達になってくれた、物好きだ。

 

 別に趣味が合うわけでもない。話のレベルも全く嚙み合わない。

 子供には何もわからないだろうことを私が延々と話してしまっていた時もあった。

 それでも少年は、一回たりとも私の話から逃げたことがない。

 いつだって真剣に聞いてくれて、ちゃんと子供なりに考えてくれていた。

 他の子とは何か違う。一緒にいて心地よい存在。

 

 だから、この少年のことをもっと知りたいと思えた。

 少年が好きな話もたくさん仕入れて、楽しくお話がしたいと思えた。

 少年が好きなことはとりあえずやってみて、好きになろうと思えた。

 

 私はそれまで一人でも平気だったけど、この少年のせいで何だか弱くなってしまっていたようだ。

 

 ある日、少年に私以外の友達がいると知ったとき、よくない胸のざわつきを感じたのを覚えている。

 私には少年しかいなかったというのに。少年には私以外の他の人がいたんだ、と。

 

 だけど、その友達はとても素敵な女の子だった。

 そして、私の二人目の友達になってくれた。少年もそうだけど、もはや親友といってもいい。

 この子も、私の話をちゃんと聞いてくれて、気持ちよく反応を返してくれる。

 控え目に言ってちょっとおバカだけど、好きなことならすぐに覚える。

 好きなこと以外は右から左だけど、意外に覚えてはいて、後から聞き直してきたりもする。

 活発な子でよく身体を動かしていて、走るのがとても速い。

 だけど誰かを置いて行ったりは決してしない。むしろ滅茶苦茶待たせる。

 本人に悪意はないけど、悪いことしたと思ったらすぐに謝ってくれる。

 嘘が苦手で、すごくまっすぐな女の子。

 

 

 そして、()()()()()()()()()

 

 

 ああ、これは応援してあげなければいけない。素直にそう思えた。

 この子はいい子だ。私とは違って、可愛らしくて、少年にお似合いの、普通の女の子。

 

 いつの日か、こんな私はこの二人から離れなければならないだろうな、と。

 なんとなく、それでいて、確信的な未来を思い描いていた。

 

 

 子供の恋愛が実を結ぶことは滅多にないけど、もし親友の恋心が成就して、そのまま結婚したのなら。

 その時は二人の幼馴染として、()()()()、お幸せにね。と言ってあげるのだ。

 

 私はきっと、上手に笑えるだろう。

 

 

 二人の話を聞きたいと妹にせがまれて話しているうち、そんなことを少しこぼしたら怒られたことがある。

 大人になったらそういう別れも必要なんだよ。と言ったらそのあと何故か本気で泣かれた。

 機嫌を取り戻すのに大変苦労したけど、ホント純粋で可愛いらしい妹だ。

 

 

 そして、妹だって、最初から私のことを慕っていたわけではない。

 といっても嫌われていたというわけではなく、むしろ私から妹を遠ざけていた。

 

 この子には真っ当に、普通の女の子になってほしいと。

 両親にとっての、()()()()()()()になってあげてほしいと思って。

 

 だけど、なぜかいつも私の後ろに、見えない尻尾を振ってついてきていた。

 いつだって一緒にいて、置いていこうとしても泣きそうになりながら必死についてくる。

 そのうち、私は妹を遠ざけることを諦めた。両親に真剣に怒られたというのもある。

 私の言動の真似ばかりするのでそれは無理やりやめさせたけど……まあギリギリ大丈夫だろう。

 

 表向きは可愛いものが好きで、お姫様に憧れているどこにでもいそうな女の子。

 頭が良く状況を弁えていて、変なことは変なことを言っていい時にしかしゃべらない。

 両親の前ではちゃんと普通の女の子になってくれている、とても良い子だ。

 

 見た目もよく、周りも見れる、そんな妹だというのに友達は少ない。

 幼いころから身体が弱くて病気がちで、小学校をよく休んでいたからだろう。

 だから私の友達が、そのまま妹の友達にもなってくれたときは本当に嬉しかった。

 

 

 遊ぶときも少年と親友と、私と妹の、四人で一緒が多い。

 最初は妹も遠慮がちだったが、連れまわすうちにそれもほとんど無くなった。

 

 四人で冗談を言って笑いあって、遊びまわって、こんな平和な青春を味わっているとまるで。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 私は変わらずおかしなままだったというのに。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 ただでさえおかしい私がもっとおかしい存在になったのは、中学生になってすぐのこと。

 ちゃんと覚えてはいないけど、おそらく最初の異変は、友達と別れて一人で帰宅しているときだったと思う。

 

 河川敷を歩いていて何か大きな音がしたなと思ったら、何故かいきなり川に落ちているということがあった。

 何が起こったのか、この時はよくわからなくて、ちょっとうっかりボーっとし過ぎたなと思っていたのだけど。

 

 

 それからしばらくして、あれは確か、道端の猫を眺めていたときだった。

 この猫は一体この後どこに行くのだろうな、と考えたその時。

 

 

 唐突に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてその中に、猫が車に轢かれて死んでしまう、というものがあった。

 それの映像は一つだけではなく、いくつも。いくつも。いくつも。いくつも

 それは悪趣味なスプラッタ動画のように、何度も視点を変えて、死に様を変えて、入念に猫を殺し続けた。

 

 

 凍り付いた私の目の前を、まだ生きていた猫が、急に走り出す。

 私は声なき声で叫ぶ。やめろ。とまれ。やめてくれ。とまってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたら私は自室のベッドの上で震えていた。

 あれからどう帰ったかもはっきりと覚えていない。

 この日からしばらくの間、私の日常は地獄となる。

 

 

 近所の優しいお爺さんが急死することも。

 両親がサプライズで用意してくれたプレゼントの内容も。

 学校のプールの工事が延期して今年はプール授業がないことも。

 隣に引っ越してきた新婚夫婦が不倫していてすぐ離婚することも。

 駅前の交差点でニュースになるような大きな交通事故が起こることも。

 可愛い妹が実は笑顔の裏で、いじめにあっているということも。

 

 

 全部、全部、下らないことから隠し通されたことまで、全てわかってしまった。

 気になってしまったことが、その瞬間にわかってしまう。こんなもの、恐怖でしかない。

 何にも期待できない。何も夢を見れない。

 

 未来を見れるようになった私は、未来を見失っていた。

 

 

 もう誰とも会いたくなくて、だんだんと引きこもるようになった。

 そしたら、いつしか部屋にいながらも未来が見えるようになった。

 

 頭がおかしくなりそうだ。このままでは狂ってしまう。

 

 もう見たくない。何も見たくない。

 でも、目を閉じても未来からは逃れられない。

 

 

 この異常に拍車を掛けたのが、この力が()()()()()()()()()()()()()とわかってしまったとき。

 

 

 いじめが突然エスカレートし妹が同級生に川へと突き落とされる、という未来が見えてしまった。

 苦し紛れにそれをどうにかできないかとあがいていたら、幾多もの突き落とされる映像の中に見つけてしまう。

 様々な偶然が重なって、妹は落ちず代わりにその同級生が川に落ちる未来が、そこにあった。

 躊躇わずにそうなればいいと願い、何かがごっそり身体から抜け落ちる感覚とともに、私は倒れて意識を失う。

 

 

 その日、妹は無事に帰ってきた。

 代わりに落ちた同級生も、優しい妹がすぐさま助けを呼んだので無事だったようだ。

 

 

 この力の本質に気付いた瞬間、不覚にも私は高揚感を覚えてしまった。それとともに改めて戦慄する。

 なんだこれは。何様のつもりだ。私は神にでもなるつもりなのか。

 

 それでも、力の使い方に気づいてしまったからには試さずにいられなかった。

 サイコロの1の目を連続で出してみること。

 当たり付き自販機を必ず当てて売り切れにしてみること。

 虫を一つの大きな花に群がらせて枯らすこと。

 卵を何個も放り投げてすべて割れないように地面に落とすこと。

 トランプを投げて飛んでいるハエを殺すこと。

 妹の身の危険をすべて回避すること。

 

 ほんのわずかでも可能性があるならば、それは可能だった。

 考え得る何もかもが、思い通りになってしまう。

 

 幾度となく未来を選択する内に、消費される何かそのものを操ることもできるようになった。

 体内を巡らせれば身体能力が上がり、空だって飛べてしまえる。

 そのまま放出すればビームのような強力な光線にもなる。

 

 ……この力でいったい何をしろと?

 こんな強すぎる力で、何を求められている?

 世界でも救えばいいのか?

 それとも世界を壊せばいいのか?

 立ち向かうべき敵はどこにいるというんだ?

 

 

 思えば、小学生の私はまだまだ普通の範疇だったのかもしれない。

 

 

 だけど、今の私はもう、ただの化け物だ。

 

 

 言い表しようのない嫌悪感の中で、使うたびに私の力は成長していく。

 皮肉なことに、成長したことで力を制御することが容易くなった。

 ようやく、ついに地獄を抜けて普通を振舞えるようになったのだ。

 

 そしてこの時になってやっと私は、自分がとんでもない大馬鹿者だったことに気付く。

 

 

 

 妹のいじめはいつの間にか治まっていた。

 

 関わると不幸になる、()()()()と中傷されるようになった代わりに。

 

 

 

 私は力を封印することに決めた。こんな力、あってはならない。

 残念ながら使わないようにしていても、僅かに未来が見えることはまだある。

 それでもその程度なら、多少察しが良すぎるといっただけに留まる。

 

 ずっと避けていたが、やっとのことで友達ともちゃんと向き合うことができるようになった。

 たくさん心配をかけたけど、もう大丈夫だ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 私は日常に帰った。

 そして、あの時とは違う気持ちで、思う。

 

 

 やはり私は、みんなと一緒にはいられない。

 

 

 だから、少しずつ距離を取っていくように考えて……でもそれは上手くいかなかった。

 というより、距離を取るとその分詰めてくるのだ。ぐいぐい、ぐいぐいと。

 みんながそういう人たちだとはわかってはいたつもりだったものの、かなりしつこかった。

 詳しい事情は聞いてこない。ただ、気遣いをするだけ。

 

 なんでこの人達は、私の友達でいてくれるのだろうか。

 私は、普通の人間ではない化け物だぞ。

 

 それとなく伝えてみたこともある。

 私のことを不気味に思わないのか。

 離れた方がいいんじゃないかと。

 

 

 そしたら、くっっっそ怒られた。私たちは、結局それからも友達のままだ。

 

 

 というより実際のところ、本当は私が友達のままでいたいだけなのだ。

 いつまで続くかわからない、仮初の日常。これを長く味わっていたいだけ。

 化けの皮が剝がれないように気を付けながら、そんなぬるま湯のような青春を送る。

 私がただの子供として振る舞っても許されている、嘘みたいな日々を。

 

 

 1年も経てば仮面を被るのもかなり上手くなった。

 

 2年も経てば普通と見分けがつかないレベルにもなったと思う。

 

 私はずっと、みんなと一緒にいることで、普通でいられた。

 

 ずっとあの恐怖を味わっていないと、ふとした瞬間に力を使いたくなる誘惑が顔を覗かせることもある。

 でも、使うわけにはいかない。

 私は、この力はみんなを守るいざというときの一回しか使わないと例外的に決めたんだ。

 その時の私は、少年のいうヒーローのようには多分なれないだろう。

 その日が、きっと私の日常の最後の日になるはずだ。

 

 化け物が化け物だとバレたなら、羊の群れを抜け、一人で生きて、一人で死んだ方がいい。

 たまにみんなの様子を覗いて、幸せそうにしていてくれたら、それで満足だ。

 

 そうなるまでの間、できるだけ長く平和な青春を過ごせたなら、それでいい。

 

 夏休みに海で親友と一緒に少年を悩殺してみようと試みてみたり。

 修学旅行の班がみんなと分かれてしまったので自由時間で合流して勝手にグループで観光してみたり。

 妹のいじめが教師を巻き込んで中学で再燃してしまっていたのでそれを平和的に鎮圧したり。

 親友に勉強を教えたのに上手く教えられてなくて、まさかの受験不合格を必死に慰めながら凹んだり。

 

 中学時代もあと少しで終わる、といったさなか、私はずっと考えていた。

 

 

 

 そんな、間の抜けた考えを。ありもしない希望を。

 

 

 

 私はあの時、怯えきって必死に力を抑え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その先にどんなことが起こるか、知ろうともしなかった。

 

 やはり私は、とんでもない大馬鹿者だったんだ。

 

 

 

・・・




 仮初は不運にいつか必ず壊される。それは避け得ぬ運命。
 次回『終わりの日』

 そして未来が終わりを告げる。

(※この物語には、残酷な描写が含まれます)
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