魔法少女おじさんに未来はない   作:Mckee ItoIto

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 だから、この未来はここでお終いなんだ。


終わりの日

・・・

 

 

 

 大いなる力には大いなる責任が伴う。

 

 いい言葉だ。まさしくその通りなのだろうと思う。

 世界は、意味もなく大きすぎる力を与えはしない。

 

 だけど私は何もしなかった。ただ力に怯えて逃げただけだ。

 この力でなければできないこと。

 求められていたこと。

 やるべきこと。

 

 全てから逃げた。

 

 これが私の過ち。私だけの罪。

 

 だから、これは報い。

 業を煮やした世界からの、大きな罰。

 

 私は、私の罪をはっきりと認識している。

 そして、その罰も理解しようとした。

 

 だけど、それが私への罰というならば。

 

 

 どうしてその罰は、私だけに下されなかったのか。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「おねえちゃん早く起きてください!」

「ちょっと待って……ねっむ……」

 

 散々準備しといて入学式初日から妹に叩き起こされるやつってのは、どこのどいつだい?

 

 私だよ!

 

 ちなみに妹は普通にまだ春休み。私を起こすためだけに早起きしてくれている。

 ええ子やな……これと比べると大野さんちの姉はカスや(自虐)

 

 時刻は7時。7時。セルフ時報を呟いて身体を起こす。

 まだまだ余裕はあるものの、やはり女子としては前もって準備の時間が欲しい。

 男の記憶としては、まだ準備するのか……(困惑)

 って感じだけど、実際要るのだ。最低限の身だしなみとか。

 わかるかなぁ。わかんねぇんだろうなぁ。

 朝っぱらからおじさんが出てるけど、私は女子。私は女子!

 

 準備、の前に朝食を食べにリビングに出ると父が無言で新聞を読みながらパンを頬張っていた。

 こんなテンプレ的なお父さんだが、こう見えて今の時代に専業主婦と子供2人を余裕で養っているスーパーお父さんだ。

 おはよーと声をかけ、おはようと返してもらう。昨日までと同じ、ありきたりな朝。

 母がエプロンを外して、台所から出てきた。お弁当を作っててくれたみたいだけど……。

 ごめんけど入学式、お昼までに終わるんだ……と伝えるときょとん、としてあらあらってなってる。

 普通に忘れていたんだろう。我が母ながら可愛い人だ。

 

 せっかくだしそれはお昼ご飯にするとしよう。母は料理が得意だから楽しみにしておく。

 

 顔を洗って歯を磨いて、寝ぐせはそのままにテーブルについて、パンを食べる。

 おじさん的には食べる前にも食べた後にも歯を磨くのって無駄じゃない? 食べた後だけでよくない?

 とか思ってたけど、申し訳ないが女子的に虫歯も口臭もNGなので割と頻繁に歯を磨く。

 あと個人の感想だけど朝食前にお口を綺麗にしておくと、おなかを壊しづらくなるぞ!

 でも歯磨き粉はあまり後味がしないやつにしような!

 全力ミントだとご飯の味を上書きしちゃって残念な気持ちになるぞ! (1敗)

 

 そんなこんなでなんやかんや。部屋に戻る。

 頭の片側についている寝ぐせはそのまま。ええんやこっちは適当に櫛通してサイドテールにするから。

 手抜きできるところ手抜きしないと時間がいくらあっても足りないんだゾ。

 妹が何かいってくるかもだけど、そこは姉パワーで強行突破だ!

 

 ……部屋入ったら妹の冷たい目が私を射抜いてきて一瞬ビビったものの、大丈夫。姉の威厳、見たけりゃ見せてやるよ(震え声)

 

「おねえちゃん」

「はい」

「寝ぐせはちゃんと取りましょう」

「はい……」

 

 負けてないが。やめろ、私を見るな。

 

 

 

・・・

 

 

 

 中学でセーラー服になったときも思ったけど。

 女子の制服を身にまとうと、やっぱり私は女子だなぁって思う。

 

 それにしてもやっぱ似合いすぎじゃない? マジ美少女じゃん。

 身長が低くてちょっと釣り目で生意気系な顔だから、油断するとメスガキになってしまうけど。

 無意味にクルッと回って妹からの拍手と熱い視線を頂戴する。

 

 さぁて、そろそろ少年を迎えに行かないと。

 そう妹にいうと無駄にキラキラした顔で頷かれたんだが……。

 

 まあ幼馴染が朝迎えに来るっていうシチュエーションは確かにロマン。

 でもこれ私のポジションじゃないよなぁ、とか謎の罪悪感を感じちゃう。

 もう一人の幼馴染な親友は、朝弱いからなぁ……。

 ホントはあっちの役目でしょうに。はやくおきてよ、やくめでしょ。

 といってもそれ以前に親友は学校が違って休みだから今日はまだ寝てるか。

 私はまだ凹んでるけど、あっちはだいぶ調子よくなったみたいだったから良かった。

 

 最近季節外れの梅雨みたいに雨が続いてるから傘を用意して。

 

 玄関まで見送ってくれた妹に軽く手を振って。

 

 私はすぐ近くの少年の家を目指そうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日常が壊れる音がした。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 私は、すぐに振り返ることができなかった。見る前であれば。確定させる前であれば。

 何かが起きた。でももしかしたら何も起こっていないかもしれない。

 そんなシュレディンガーじみた一縷の望みを捨てずに済む。

 

 

 

 ……今なにか、とてつもなく巨大なものが背後に落ちてきた。ように思う。

 

 響く地響き。強烈な異臭。()()()()()()()

 

 そして以前からたまに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ああそうだ。これはいつもの幻聴だ。誰にも聞こえない、私の頭のバグ。そうに違いない。

 

 

 

 そして、私は振り返ってしまった。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 そこにいたのは5メートルを超す巨大な化け物。

 

 まるで小学生の書いた出来損ないのザリガニ。

 

 16本の脚をもつ、甲殻類。まるで嘘を練り固めたような怪物。

 

 

 

 

 

 それが。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 誰か、気を失わなかった私のことを褒めてくれ。

 ザリガニもどきは私のことなんか目もくれず、周りを伺うように、執拗に足踏みをしている。

 

 

 おい、そこに、何だ、何をしている。やめろ。

 

 

 傘を取り落とした私は、咄嗟に、まったく後先考えずにビームを放ったものの。

 それは、そいつにかすり傷も与えることができなかった。

 でもようやく、そいつは私のことを認識したようで。

 

 その巨体を冗談みたいに空に跳ね上げさせる。

 私に近づこうと。あわよくば同じように踏み潰そうと。

 

 ……踏み潰す?

 同じようにって何のことだ……?

 

 私はここでようやく『未来』を開放した。

 展開される未来。私が踏み潰される未来はおよそ2割。

 違う。この未来はどうでもいい。

 

 力を収束させていく。無理やり、強引に、はち切れそうなくらいに。

 さっきみたいな弱い力では駄目だ。もっともっと、過剰なまでに注ぎ込め。

 

 腕を砲身に見立てて、極光を放つ。

 制御不能なそれは、当然そのままではまるで見当違いの方向に放たれる。

 だからそれを、無理やり当たる未来に変える。

 それだけではない。そのままこいつを確実に殺す未来にする。

 

 ……何かが凄まじい勢いで私から零れ落ちた感覚とともに。

 先ほどまでとは桁違いの光が、化け物を飲み込み、いとも簡単に消し去る。

 

 どちらが化け物なのかわからないくらい、本当にあっさりと。

 

 

 

 肩で息をする私の目の前には、嘘みたいな光景が残されていた。

 今日はエイプリルフールだ。もしかしたら嘘かもしれない。

 

 午前中ならどんな嘘も許されるんでしょ?

 嘘だっていってくれたら私は許すよ?

 

 私はフラフラと、家に帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来を、未来を探さなくては。

 

 

 私は、どんなことだってできる神様気取りの化け物。

 探すんだ。何千、何万の未来の果てに、きっとあるに違いない。

 探せ。探せ。探せ。探し続けろ。

 

 

 この、

 

 

()()()()()()()を。

()()()()()()を。

()()()()()()()()()()を。

 

 

 元に戻せる未来があるはずなんだ。

 

 

 探さなくては。

 私にはそれができる。

 できるに決まっている。

 そうじゃなきゃ、何のための力だ。

 私は何のためにここにいる。

 

 

 できるかできないかじゃない、やれ。やるんだ。

 

 

 やってみせるんだよ化け物……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、どうやら自分が思ってたより頑張れないやつだったらしい。

 何億もの未来を視続けて、私の心は折れてしまった。そんな未来はどこにもない。

 

 

 

 ……また雄叫びが聞こえた。

 

 

 

 そうだ、少年のところに行かなければ。

 今日は、少年を迎えに行くところだったんだ。

 

 力を使って身体強化をし、雨に打たれて震える足で必死に駆け出す。

 

 少年と親友は隣同士の家に住んでいる。

 私の家は少しだけ離れていて、そこにたどり着くまでに普通だと10分。

 今の足なら1分で着ける。

 

 

 

 そして私は見た。

 

 

 

 何がなんだかわからない表情のまま親友を庇っている少年がそこにいた。

 親友は、何か見てはいけないものを見てしまったかのように表情を凍り付かせていて。

 

 

 少年ごと、親友を触手で貫いている気持ち悪い化け物がいた。

 

 

 未来を視る。雑魚だ。物の数にも入らない。

 丁寧にその触手を切り離してから、本体は消し飛ばす。

 

 

 

 

 

 ほんと少年ってやつは流石だ。

 

 弱いなりにちゃんと守ろうとしたんだね。

 でも駄目じゃないか。どっちも助かってないなんて。

 ホントに駄目なやつだ。

 

 

 二人の未来は、もう視るまでもない。

 視る気力もない。ホント私は最低で薄情だ。

 

 

 だから、代わりに二人を抱きしめていた。

 自分のことを棚に上げて、二人のことを冗談交じりに怒る。

 駄目じゃないか。約束もしたでしょ。二人とも嘘つきだよ。

 

 

 

 ……背後にいくつも気配がした。あの触手は弱い分、数が多いみたいだ。

 そいつらが、一斉に私に。

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 邪魔すんなよ殺すぞ。殺したが。

 

 

 二人を、比較的綺麗な少年の家に運ぶことにする。

 ……邪魔な触手を殺す。

 ああ、そういえば少年の家に入るのって結構久々だな。

 ……邪魔な触手を殺す。

 玄関からじゃなくて申し訳ないけど。

 ……邪魔な触手を殺す。

 毛布でいいかな。借りるよ少年。

 ……邪魔な触手を殺す。

 二人をソファに座らせて、傷を隠すように毛布を掛けてあげる。

 ……触手を殺す。

 こういう時って、まぶたを閉じさせてあげるんだっけ。

 ……触手を殺す。

 こうやってみると、まるで恋人同士が寝落ちしてるみたいだね。

 ……触手を殺す。

 ……殺す。

 殺す……。

 

 

 

 

 

 

 ……雄叫びが聞こえた。

 

 

 

 

 

 ……。少年。

 

 私はやっぱりヒーローにはなれなかったよ。

 

 私はこれから、

 

 ()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は『未来』の悪魔。

 『過去』には無力な、愚かな化け物。

 

 これはただの八つ当たりだ。子供の癇癪に過ぎない。

 

 誰かを守ろうとしたわけでもない。結果として誰かが守られただけだ。

 もし、私が本当のヒーローならきっと、もっと犠牲は少なかっただろう。

 だって私は別に、誰も助けてはいないから。助けの声なんか聞く気もない。

 

 ただ、怪物を殺して回っただけ。

 声に導かれるように飛び回り、力の限りそいつを殺す。

 力が足りなくなりそうになったときに補充する方法も見つけて。

 ひたすら殺して、どんどん効率よく殺せるようになって。

 

 ほんと、どっちが化け物なんだか。

 最後まで、私にとって脅威となりえる存在はなかった。

 

 そして、そいつらの声がついに聞こえなくなったとき。

 

 

 私は家に帰ることにした。

 

 

 雨に濡れたぐちゃぐちゃのお弁当を見つけて。

 綺麗な顔の妹の隣で、それを食べた。ちょうどお昼ご飯だ。

 

 砂の味がするよ。母も料理に失敗することあるんだね。

 

 

 ご馳走様でしたと、手を合わせて。

 

 

 食卓だった場所から、降り続ける雨空を見上げて。

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、ついに私の心の糸が千切れた。

 

 

 時刻は、嘘がなくなる午後を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 近くに、私に似た力を感じた。そうか。それもそうか。

 あんな化け物がこの世にいて、私みたいな力を持った人が私だけな訳ないよね。

 

 一瞥もせずに未来を探った。万一戦闘になっても、百万回戦おうが私が勝てる。

 探った未来の中から、この少女がそれなりの実績を持っていることも知る。

 となるとやはり、この子たちから見ても私は、化け物なのか。

 

 遅れてやってきたこの子たちに対して私は何の恨みもない。

 これは全て、本当なら私だけで何とかできたことだ。

 恨むなら、私は臆病な少女の私を恨む。

 

 あの日の臆病を、幾多もの未来の中で悔やんだ。

 それに何の意味がなかったとしても。

 私はどうあがいても、過去には無力だ。

 後悔なんか意味がない。反省なんか価値がない。

 それでも思ってしまう。

 

 私にあるのは、少女の人生と大人の記憶。

 もし私の精神がもっと大人だったらと考える。

 大人の精神で、大人の知識で、大人の経験で、力を使いこなして。

 事前にみんなを守ることもできて。ついでに町ももっと無事だっただろう。

 それでこそ、ヒーローじゃないか。

 

 私は何故私なんだ。

 

 何故私は私として生まれてきたんだ。

 

 何のために。私の意味は、何なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 あの戦いは大規模な災害と事故の合わせ技として扱われるようになったらしい。

 私は被災者として病院送りとなった。

 

 もう、何もする気力がない。だから何もしない。

 だって、何かしたら、私の未来は元通りになるのか?

 私の未来は、もう未来の中に存在しない。

 私に未来はない。

 

 生きる意味もない。なのに生きている。

 それはただ、死んでしまうほどの気力すらないだけだ。

 

 ただただ、寝て、食事を与えられて、寝て、緩やかに死ぬ。

 私の未来は、もうそれでいいと思っている。

 

 いつからか私のことを的外れに称賛する馬鹿な青年がやってくるようになったけど。

 そんなのはどうだっていい。

 

 私の未来は過去にしかない。だからもういい。

 どうか私のことは放っておいてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの月日が経ったのか。

 いつも通りどうでもいいことを話していた青年が珍しくネガティブなことを零し。

 

 

 それが、暴力的なまでに私の核心を突いた。

 

 

 そうだ。私は普通の子供なんかじゃない。

 私は大人だった。一生分の記憶があり、知識も丸ごと備えて経験も持っている。

 

 私が守られる存在?

 馬鹿にするな。私からみたらお前だってまだ子供だ。

 前世は今世の何倍も生きている。

 だから。

 

 

 

 これっぽっちしか生きていない少女が私であるわけがない。

 

 私は、かつての男。おっさんだ。

 

 

 

 ……ちょっと響きが良くないな。おじさんにしよう。

 

 

 少女の未来など、初めから望むべきではなかった。

 今世は、おじさんのロスタイムなんだ。ゴールを決めるための僅かな時間。

 きっとこれがこの世界に望まれていた、与えられた記憶と力の責務なんだ。

 幸せな世界を作らなければならない。

 

 頭にフルスイングされた気持ちだった。

 久しぶりに未来を視始めた。大人の視点で。

 未来の最適解を見つけるために。

 

 そして、無限とも思える一瞬の中。

 数億ではきかない気が狂いそうになるほどの観測の果て。

 砂漠のダイヤをついに見つける。見つけてしまった。

 

 現実世界と異世界の齟齬。世界が違うからこそのでたらめな理論。

 そうか、そういうことが、できてしまうのか。

 これなら救える。みんな救える。

 だから。君たちも、ついでに救われるといい。

 喜べ。青年の夢はついでに叶うぞ。

 

 

 

 

 

 私は、英雄(ヒーロー)になる。

 

 十万億土の未来を超えて、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(で、おじさんが生まれたってわけ)(ドヤ顔)

(……)

(ちょっとー? 『伝達』ちゃんリアクションうっすいよー)

(……ぁ)

 

 あれ、通信切れちゃった。

 まあいいか、このままでもその気になられたら伝わるだろうし。

 

 次の日までの移動中、寝ようと思ってたら向こうから恐る恐るつなげてきた通信だけど。

 なんか質問されたからちょっとおじさん生誕祭の話をしたらリアクションが消滅しちゃった。

 どういうことなの……流石にちょっと話が暗かったかなーっては思ったけどね?

 ちょっぴりハートブレイクしながらも、まあ寝なきゃだし。

 

 そいじゃ、おやすみー。

 

 

 

 

・・・




 見えないものを見るためには、もしかしたら見ている人が邪魔なのかもしれない。
 次回『邂逅』

 少女は自分勝手に未来を否定する。




(最初これに曇らせタグ要らないって思ってた人がいるらしいですよ。いったい誰なんでしょうね)
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