留学生の先輩は不可思議な話をたくさん知っている。


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先輩の異常な話に相槌をうつだけの簡単な部活

「よくゲームとかで呪われた装備って出てくるだろ」

 

 

 放課後。

 たった二人のためにあてがわれた部室で本を読んでいると、憂鬱げに曇空を見ていた先輩がなんの脈絡もなく問いかけてきた。見た目は小学生でも敬うべき年上であるため無視する訳にもいかず、読んでいた本を栞を挟んで閉じ、先輩のいる方を向く。

 

 

「……いつもの与太話の導入ですか?」

 

「与太話ってひどいな。私の熱い説得によって我が部に入部してくれたキミのために、またとっておきの話をしてあげようとしているのに」

 

「はいはい。先輩の泣き落としで入部させられた私のために早く話してくださいよ」

 

「むっ、あしらわれているような気がするがまあいい。せっかくこうして私達は言葉を交わすことが出来るのだから、うんうん唸っているよりか、キミの言う通りさっさと本題を話しはじめたほうがずっと有意義だ」

 

 

 そう言って先輩は楽しそうに笑う。スロバキア出身の先輩の髪は白みがかったとても綺麗な金髪で、スタイルはともかく顔は人形のように整っていて美しい。ゆえにこうして笑っている姿はまるで絵画の一枚のようだった。

 

 

「今日の本題はとある自殺した人物の家から家から異常な性質を持ったある装飾品が見つかったことからはじまったんだ」

 

「ある装飾品?」

 

「種類は私にも分からない。指輪なのかもしれないしイヤリングの可能性だってある。あるいは首飾りかもね。強いて言うなら、その装飾品を研究していた博士は高く売れそうだと思ったらしいよ」

 

 

 高く売れそうな装飾品。私はそういうのに疎いのでよく分からないのが、まぁ、宝石がたくさんついてるとでも想像すればいいか。

 

 

「話の流れ的にその装飾品が呪われた装備なんでしょうけど、ゲームみたいに素早さや防御力をゼロにするんですか?……いや、自殺ってことは身につけた人間に恐ろしい幻覚を見せる、とか?」

 

「いい考察だけどハズレだ。この装飾品はね、()()()()()()()()んだ。力自慢の大男だろうが、サイボーグだろうが傷一つ付けられない」

 

「…………………………」

 

「それだけだよ」

 

「えっ、それだけ? 動き出したりテレポートしたりしないんですか?」

 

「残念ながらしなかったよ。博士もキミと同じことを考えて色々と調べたが、結局、何も新たに判明することはなく博士は死んでしまった」

 

「急展開ですね」

 

「不幸な事故だったからねー、ちなみに死因はトカゲだったよ。あぁいや、悪魔だったかな。とにかく博士は死んじゃったんだ。情けないことにあっさりとね」

 

 

 いくら創作だからといって死因が悪魔やトカゲは適当すぎじゃないだろうか。博士が死んだことさえ分かれば、死因はなんでもいいんだろうけど、それにしたってトカゲはない。

 

 

「不幸な事故の後、博士と同じ場所で働く職員が事故現場を掃除していると、ある物が転がっているのを発見した。それは博士の研究対象であり死ぬ直前も胸ポケットに入れていたあの装飾品で、何気なくソレを拾った職員は摩訶不思議なことを言いだした──自らのことを死んだ博士だと主張しはじめたんだ」

 

「……まさか、それって」

 

「時にキミはテセウスの船を知ってる?」

 

 

 テセウスの船。

 確か大きな船の部品を徐々に新しい部品に取り替えていって、最終的に全ての部品が新しい部品に取り替えられた時、出来上がったその船を最初の船と同じだと言えるのかどうかを問う思考実験だ。

 

 

「この装飾品は所有したまま死んだの意識を閉じ込めて、以降に触れた人間の意識を乗っ取ってまさにテセウスの船の思考実験と同じようなことを仕掛ける代物だったんだ」

 

「置き換わっちゃうんですか?」

 

「体はそのままだが、触れたまま三十日経つと中の部品(脳機能)は完全に博士と()()のものに置き換わる」

 

「じゃあ、三十日以内に手放せば」

 

「途中で手放しても脳死状態になるだけで元の人間の意識や人格はもう二度と戻って来ない。逆に三十日後に手放しても脳死はしないが独立したコピーのように振る舞いはじめる」

 

「触ったら最後ですか。救いがないですね……」

 

「いかにも呪われた装備って感じがするだろ?」

 

 

 にやりと先輩はニヒルに笑う。

 ……悪ぶっているようだが、ただただ可愛いだけだった。

 

 

「仮に乗っ取った人間が死んでしまったとしても博士の意識は装飾品に戻るだけで、また新たに誰かが触れば復活することができる。要は死ねないんだよ。装飾品がなにをやっても壊れない以上、博士はこの装飾品によって不死の人間となってしまったのさ。体はないから不死()ではないけどね」

 

「それは恐ろしいですね」

 

「……相変わらず、淡白な奴だなキミは」

 

「いやまあ、興味深いなとは思いますけど、所詮は作り話ですし」

 

「おおらかというか大雑把というか。キミだったら目の前に異常がいても変わらなそうだな。結構、怖がられるよりかは気分がいい。……ところで前の所有者のことは覚えているか?」

 

「……前の所有者……あっ、そうですよ。なんで装飾品に意識を閉じ込められたのが先に死んだ前の所有者じゃなくて博士だったんですか?」

 

「恐らくこの装飾品が真の異常を発揮するトリガーは所有者の()()()()()で、所有者の()()は対象外だったからだろうね」

 

「なるほど……前の所有者は、自分の持っていた装飾品が人間の意識を閉じ込めて不死にすると知っていたんでしょうか?」

 

「さぁ? そこは死人に口なしってやつさ。……でも、もし、前の所有者が装飾品の真の異常性を知っていたとするなら……」

 

「するなら?」

 

 

「長生きしたいと思って勇気をだして起こした行動が、結局自分の寿命を遥かに縮める結果に繋がるなんて、ひどく人間味の溢れた滑稽な話だよね」

 

 

 そう言って、先輩は手に持っていた首飾りを胸ポケットにしまった。

 

 

 


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