僕が最悪のメサイアになるまでの物語   作:カピバラバラ

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幸せな混沌

 

 

「僕は存在している」

 

 

頭の中に響く声。それは一つじゃない。

 

 

二つでもなければ三つでもない、無数に存在している。

 

 

「僕は、存在している」

 

 

自我、というものが物理的に立証できる様になったとしよう。

 

 

自己は規定され、存在は確定し、人の心を持つものだけを自我とする。

 

 

そして、自我とは人だ。

 

 

だけどね、自我っていうのは薄まってない原液のカルピスなんだ。人は奇跡的なバランスで自我を確立してる、理性、本能、生理的な示準。

 

 

じゃあ自我しか無ければ?

 

 

自我そのものであるのに、自我はそれ自体では成り立っていない。

 

 

そんな矛盾を抱えた人間が産まれたとしたら?

 

 

もし沢山の人間の『自我』とも言える日常で積み重なった『報われたい』『救われたい』という願いそのものが、このヒーロー社会が作り上げた『救世』という願いそのものが宿った人間が、産まれたら?

 

 

 

「それでも僕は、存在している」

 

 

 

そんな人間は、人の見た目そっくりの蝋人形(無生物)と何が違うのかな?

 

 

 

【個性:ヘイロー】

 

 

 

「ん〜…だから、そうだなぁ…」

 

 

「主役に会いに行こう」

 

 

「舞台を作り上げるのは、いつだって脚本と主役なんだから」

 

 

 

名は無い、名を付ける者はそれより前にこの世を去っている。

 

 

そして元より名に意味は無い。

 

 

だが名前にはドラマがある、受け継がれ、託され合ってきたリアリティーそのものがそこには存在している。

 

 

だから、託された者として名を名乗ろう。

 

 

「ガンスリンガー……うーん、ジャンクメサイア?」

 

 

「いいね、これ、ヒーロー名にしよう」

 

 

「だけど名前じゃない、僕にピッタリの名前は……そうだな」

 

 

指で机を叩く。

 

 

ハッピー(幸せな)ケイオス(混沌)

 

 

 

「イイネ、気に入った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主役が必要だ。そしてこの世界には主役が居る。

 

 

何時でも、何処でもウェルカムな最高の主役が必要なんだ。主役が溢れているこの世界で、とびっきりの主役足り得る人物。

 

 

ーー手を伸ばせば、触れられる距離に居る。

 

 

 

「こんにちは、緑のもじゃもじゃ君」

 

 

「わっ!?え、えっと…こんにちは!」

 

 

「元気な返事ありがとう、結構緊張してるみたいだね?僕は…あだ名だけど、ハッピーと呼んでくれるかな?ほら肩の力を抜いて、握手をしよう」

 

 

「う……うん、宜しくハッピー君」

 

 

(青い肌…?それに、角…なんの個性だろう)

 

 

「な、なんか凄い勢いの凄い見た目の子に絡まれてるなぁ出久くん…」

 

 

「君!初対面の方には余り急かさない方が良いぞ!それとその眼鏡は何だ!」

 

 

「もう初対面じゃない、僕らは握手をして名を呼び、そして共に試験を受ける友人さ、宜しく麗日くん委員長くん」

 

 

「…いいんちょう?」

 

 

「いいんちょ…ーーぶふっ、確かに飯田君って委員長っぽいね…というか私の名前は何処で……あれ?」

 

 

誰も目を離していない、三人とも先程まで会話していたハッピーが目の前から消えていた。

 

 

「それじゃ先に試験会場で待ってるよ、出久くん」

 

 

「あ!もうあんな所に……いつの間に?」

 

 

「それじゃ〜ね〜…」

 

 

「君ィッ!待たないか!人の名前を覚えていってからモゴモゴ…」

 

 

「飯田くん抑えて抑えて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、しまった、どうやって攻撃しようか」

 

 

複数体のロボットに囲まれて、そのまま思考にふける。

 

 

周囲からは人の悲鳴や勇ましい声が聞こえてきており、それが今まさに実技試験中である事が分かる。

 

 

「…メサイア、ガンスリンガー……ねぇ君、何がいいと思う?」

 

 

「え!?私に聞いてる場合なの!??」

 

 

「何故君に聞いてるか分かる?それは君が透明人間で、僕は君の壁になってるからなんだけど」

 

 

「うぅ…ごめんなさい、でもウチは攻撃力も無いし…その引っ提げてる拳銃っぽいのは使えないの?」

 

 

「あ〜…良いね、僕も銃は大好きなんだ、狙いを付けて指を引くと弾丸が出る、ただそれだけの行為に辿り着くまでに星の数よりも輝くドラマがあるからね」

 

 

「急に語るね!?」

 

 

「そうだな、コレにしよう」

 

 

いつかは忘れたけど、拾った銃を手に取って…銃口を『魔法』で周囲全ての機械くん達の頭の中と繋げる。

 

 

「集中…【デウス・エクス・マキナ】」

 

 

かっこいいポーズ(自分作)を取りながら引き金を引いた。

 

 

それだけ、たったそれだけの行為でも命を奪い去ることは容易。だけど僕じゃドラマが無い。だから物語に参加する為の必要経費だ。

 

 

「イイネ、巻きでいこう」

 

 

「うっわぁ…すっごい」

 

 

たった一発の弾丸は『魔法』の力で周囲のロボットのみならず、試験会場の約半分のロボットの主要機関を貫いた。

 

 

周囲で銃を向けていたロボットも、そのまま鉄くずとなる。

 

 

 

「…そろそろかな、面白いものが見れるよ、葉隠くん」

 

 

「へ?面白いもの?」

 

 

「主役の登場さ」

 

 

 

視線の先には、ビルよりも巨大なロボットが登場し会場の人間に襲いかかっている。

 

 

 

そう、ビルよりも巨大な、だ。単純に考えれば視界に入った時点で未熟な学生であれば誰もが逃げ出す怪物。

 

 

 

それに立ち向かう少年が居る。

 

 

 

空を翔け、涙を流しながら拳を振りかぶる少年だ。

 

 

 

「スマァァァーーッッッシュ!!!」

 

 

 

会場に響く雄叫びに違わず、巨大ロボットは拳の一撃で破壊された。

 

 

 

「やっぱり君はさいッこうだね、緑谷出久くん」

 

 

「誰よりも、どんなドラマよりも、君は輝いている、最高のドラマだ」

 

 

「行こうか葉隠くん、君も役者さ…合格しないといけないだろう?要救助者のポイントを稼ぎに行こう」

 

 

「ちょ、ちょちょちょっとまってーー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日の試験を終わり、コスチュームの一部を脱いで椅子へと腰掛ける。

 

 

カラカラと移動式の椅子を転がして、ひでぇツラをしてる友人の背中をつついてやった。

 

 

「……」

 

 

「相澤、どうしたよそんな顰めっ面して…いや変わってねぇか!!」

 

 

「……マイク」

 

 

「あん?なるほどすまねぇな、本当にどうした?」

 

 

「新入生の話だ、コイツだよ」

 

 

相澤の手から渡された合格者一覧の資料、その一番上に置かれてある人物に対して顔を歪めている事が見て取れる。

 

 

「……すんげー顔色の悪いヤツ…さっきの会議中もお前突っかかってたけど、コイツに何か問題が?」

 

 

「ちゃんと資料を確認しろ」

 

 

「つっても特別なんかある訳でも……志望理由が巫山戯てるくらいか?筆記試験全問正解、実技試験も最高得点で総合首席、文句ねえだろ?」

 

 

目元に指を起きながら、苦虫をすり潰した様な声で呟いた。

 

 

「そいつの……個人情報は、9割9分捏造されている」

 

 

「……はぁ??」

 

 

阿呆で馬鹿みたいな話だ、天下の雄英高校に偽装書類を通すなんて…。

 

 

いや、まさか…?

 

 

「なぁ相澤、そんなの根津校長が許す訳ねぇだろ?オールマイトもコイツに目付けてんだし」

 

 

だが確信めいたものがある。

 

 

雄英高校にこの資料が来たのにも関わらず合格者一覧として載せられている違和感。

 

 

 

「『目を付けたから』分かったんだ、というより元からこうなればバレる様に準備がされている風にも感じれる、そこに加えて…その志望理由」

 

 

 

イライラしながら資料に写る人物の詳細を指さす。

 

 

 

「『最高の救世主になる』だとよ、名前も住所も身元も偽ってる奴が素面で書いてるのかは知らねぇがな」

 

 

「そんじゃあ落としたのか?」

 

 

「いや、それも否決された」

 

 

「お前が提案したのかよ…相変わらずだなぁ相澤…てかなんでだ?否決する理由も無い…ーー」

 

 

 

「公安だよ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「お前が試験監督してる間に事は全て終わった、一応伝えておいたが……俺は納得してない、山田、お前もコイツから目を離すなよ」

 

 

 

「分かった、再来週が楽しみだな……コイツがどんな人間なのか、見極めてやろうじゃねえか」

 

 

 

マイクがイレイザーの肩を組む。旧友の肩組み程、友愛を感じる場面はそうそう無い。

 

 

 

そうだろ?イレイザー、マイク、そして…白雲朧

 

 

 

「「ッ!!」」

 

 

 

「……」

 

 

 

「……空耳じゃ、ねぇよな」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「…コイツぁ…本当にヤベェもんが紛れ込んで来ちまったか…なぁ相澤、さっき9.9割つったよな?残りの0.1割は?」

 

 

 

「それは…」

 

 

 

 

 

 

「名前だ」

 

 

 

 

 

 

『ハッピーケイオス』

 

 

 

 

 

 

 

ーー入学まで、あと少し。

 

 

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