「…あの野郎……」
教室で初めて見た時は、異形系の個性だと思っていた。
「……」
複製、所じゃねぇな…【製図作成】か…。
『やぁ、爆豪くん…君にも会いたかった、主役よりも輝く一番星くん』
『なんだテメェ』
確実に実技試験は一位を取るつもりで壊して回ったが…あの半分野郎にも負け、アイツに至ってはダブルスコアだ。
何を言って突っかかってものらりくらりと訳わかんねぇ事言ってばかり、期待も出来ねぇ奴だったが、それでも首席だ。
個性把握テスト、クソデクのせいで忘れかかってたが…亜人系の見た目して身体能力はさほど。特別な近接能力はねぇな。
…5月上旬、体育祭に向けて考える事が多い。
「ハッピー君お疲れ様!!凄かったね!まさか最後は時間切れで終わらせるなんて…でも最後のは…一体」
「ケイオ…あぁいや、皆にはまだ言ってなかったっけ…ハッピー少年!!見事な立ち回りだった!だがやり過ぎだ!これはあくまで訓練だぞ?」
デクにも、オールマイトにも囲まれて返す返事も適当。オールマイトから褒められてんだぞ、せめて向き合えや。
アイツは……頭が回る、ハッタリだけで展開を作った、クソ半分野郎はアイツが嘘を付いていても居なくても、【出来る】って事は知ってる。
……わざとらしく教室で自分の個性の話をペラペラと愉快そうに話していた理由はコレか。
訓練結果は引き分け、時間切れの時は両チームの残存メンバー数で決まる。そして最後にコイツは複腕に自分を気絶させやがった。
『さて、君は選択が出来る』
『物語にリアリティーを追加出来るんだ、今回は〜そうだな、最善の選択なんてものは無い、主役の君が選んだ道が最適解』
『君が僕を気絶させなければ、爆弾は本物へと変わってしまう、するとどうかな?《思いもしなかった展開》このビルで雄英高校の生徒の死体三人分が出来上がる』
『……天下の雄英高校でそんな事が出来る筈が無い、そんな前例も無い』
『そして訓練の私物化も初めてだ』
『……』
『あ〜…そうだな、僕はヴィランでも無いし、ヒーローでも無い、だからね?障子クン…ヴィラン役である君が選ぶんだ、君がその『前例』を守るんだよ』
『………分かった』
…つくづく気に入らねぇ。
「やぁ、爆豪君」
「……」
「おーい、見えてるー?」
「殺すぞ」
「良かった話もできる」
「これが会話に聞こえるおめでてぇお前の脳みそぶちまけてやるよ…!!」
「返事も返せるんだ……驚いた」
「テメェッ…!!」
「あぁそうだ、爆豪くん、次は君の番だ…とっても楽しみにしておくよ、この世界はなんと『リアル』が面白い!何にだってなれるし何でも起きる可能性がある、歴史の本に子供は皆んな釘付けだよ」
「僕が脚色するまでも無い、だけどね…それでも僕は存在している」
「だからね、爆豪くん」
「■■■■■■■■■■■」
「ーー…」
BOM❕
「おわ〜っと」
「ハッピー君!?」
なんでッ!吹き飛ぶ時までふざけた見た目なんだよ!!ひっくり返ってモニターに張り付いてんじゃねぇッ!!
……まて。
…なんで今俺は手を出した?
「コラッ!爆豪少年!!訓練以外での対人への個性行使はイケナイぞ!」
「……チッ、分かってる」
「……ッチッッ!!!」
「…すんごい舌打ちして控え室に行ってったね……」
「……」
さっきの言葉が思い出せねぇ、なんつった?アイツ…。
「爆豪君!作戦があるんだがーー」
「うるせぇ、勝手にやってろ」
…取り敢えず、クソナードを潰す。
何故か個性を持って、オールマイトみてぇなパワー関連の個性。
「チッ…愚図の木偶が…」
ボコボコにして聞き出す、勝つ、当たり前の様に勝って首席のアイツにもエンデヴァーの息子にも勝つ。
勝つんだ。
《訓練開始ッ!》
「デェェェクゥぅッ!!!」
「っ!?待ってくれ爆豪君!!」
■
『君が!!凄い人だからッ!!勝って、超えたいんじゃないかッッ!』
《ヒーローチームの勝利!爆豪少年は後々職員室に来るように!!》
「…良いね、本当にこの世界は最高だな」
「ねぇ、緑谷くん」
「う、うん」
ケイオスが保健室で緑谷の怪我を治している、リカバリーガールの視線は日に日に強くなるばかりで、医療系のヒーローに推薦される日も近くなっているかもしれない。
試合結果は、緑谷くんが勝った。腕を犠牲にして勝利をもぎとった。
「緑谷くん、個性が無い世界は想像できるかな?」
「…ーー個性がない世界?」
保健室は既に2人の対談が行われる場所と化していて、保健室である意味は失われつつある。
「人間の関係からは個性が消失、奇跡も無い運命のレールに乗り続けるだけの人生、世界には絶対的に決められた運命がある、それでも人は存在する以上意味があるけれど、その意味に目を向けられるとは限らない」
「まっ、あんまりこの世界と変わらないけれどね、でも、けれどだ…個性には未来がある、さっきの言葉と矛盾する様だけど僕は運命ってのが大嫌い、面白くないから」
「個性はね、本来の人間の未来なんだよ…勿論無個性を否定する訳じゃない、でも個性はより濃く、よりにその『濃度』を増していく」
「それは君が一番実感してるんじゃないかな?緑谷くん?」
目と目が合うが、緑谷はその目を背けることは無い。
「………ハッピー君、えっと…君は…ーー」
「『ハッピーケイオス』僕の本名だ、嘘ついてごめんね?今度からはケイオスって呼んでくるかな」
「…うん、ケイオス君……その、ケイオス君はオールマイトと…」
「なんにも関係は無いよ?でも君を見ればわかるんだ、さぁ君はどう思う?個性が無い世界」
胸を撫で下ろした表情を引き締めて、ケイオスの問に答えようとした。
「うーーーん…その、えっとぉ…質問も難しいし、考えをケイオス君にちゃんと伝えるのは難しいけど、個性が無い世界でも分かることはあるんだ」
「それはぁ…何かな?」
「きっとヒーローは現れるよ、『助けて欲しい』って人がきっといるから」
「……」
「ねぇ、緑谷出久くん」
「ヒーローとヴィラン、どっちが先に産まれたと思う?」
「…それは…ヒーローかな」
「どうして?」
「助けて欲しい人も、助けて欲しくない人も、ヴィランの様に悪い事をする人も……人は、手を差し伸べて、繋ぎあって生きているからって思う」
「ヒーローの本質は、余計なお世話なのかなって…だから、個性が無い世界でも、どんな世界でも…ヒーローは現れて、最初に手を差し伸べるんだ」
その発言を聞いたケイオスが、固まったまま動かなくなった。
「……ケイオス君?」
「緑谷くん」
「次の訓練を見に行こう、2人でね」
■
翌日。
一日が終わり、また次の日が始まる。
ーーより、前。訓練後の下校時間。
夕日が差し込む世界で、縛布を握り締めながら橙色の温かさに包まれている。だがその温もりも、目の前の青い肌の少年の冷たさに打ち消さていた。
「……」
「特段、危険な行動は無い」
「…だが、やはり入学させ続けるのは危険だ」
体育館裏、相澤先生がケイオスとの会遇。
「いいね、相澤くん…君は徹底的な合理主義、でも人の心を動かせる人間だ、判断も早い……正直僕は後3ヶ月位は無干渉かなって思ってたんだ、それが何と一日目、面白いね」
「相澤『先生』だ、反省文書かすぞ」
「反省は出来ない、否定は出来てもね」
個性抹消は異形の個性には通らない、万が一の事がある。
この場にいるのは俺だけじゃない、シンリンカムイとマイク、オールマイトも引き連れてきている。
「……」
「…俺はお前を生徒として見れない、分かるか?」
「酷いなぁ…たった一日で退学だなんて、パパやママが『貴方のためよ!』とこの学校に入学させてくれ…ーー」
「そろそろ真面目に話せ、ケイオス」
「僕は何時だって真剣さ、でも僕は…病気にかかってる、だからリアリティーが無くなるんだ、なんの病気か分かる?サウナに入ってオルナミンCを飲みながら水風呂に浸かっても治らない病気」
「……」
「あたまからっぽ病、からっぽな頭から出てくる言葉には、からっぽな意味しか無い」
「…はぁ…なぁ、ケイオス」
「それともこう言った方が良いかな、『家賃』を払うのにいっぱいいっぱいなんだ、いっぱいだから、からっぽ…分かる?」
「いい加減にしろッ…!俺は、俺の生徒を危険に晒す訳にはいかないんだ、お前の様な悪意から生徒を守る役目がある」
「……」
「なら、挨拶からやり直そっか、相澤くん」
ーー空間にモニターが現れた。
「……っ!」
機械、器具は無い、個性の仕業?だがコイツの個性が不明な以上何も分からない、だからこそ先手を打たれる前に一旦捕縛して…!!
「……」
「……ケイオス…!!」
モニターに写っているのは……。
「『ハッピーケイオス』僕の名前」
「そんな訳で、僕の目的から話そうか」
同時に身体に突如違和感が湧き出した。
個性だ、身体が動かせない…!何の個性だ?いやそれよりも他の皆は……。
「僕の目的は、『体験』する事」
「とっても簡単、これだけ」
「言っちゃえば…学友と明るい人生を満喫したい」
「…そ……んな…奴が、書類…偽装を…!!」
「あ〜…あれは必要経費なんだ、ごめんね、でも志望理由は嘘じゃないよ?雄英高校でたくさんの事を学んで、沢山の学友達と時間を過ごし、いつかは最高の救世主になりたいんだ、最高のヒーローにね、それだけ」
「ぐっ…」
「これを君に渡そう、相澤くん」
拘束されている相澤先生に手渡されたのは、ケイオスが腰にぶら下げているおかしな見た目の拳銃。
拘束は解かれ、自由な状態へと戻る。
「ぶっちゃけ自己紹介はこれで終わりなんだ、それ以外には何も無い、ただ僕は『体験』出来ればいい、子供が素敵なアニメを見てあやされる様に、僕の『住民』に家賃の代わりに家を提供する、白くて狭い牢獄をね」
「さて、君は教師だ」
「学びを待っている子供に対して、どんな事をすればいいと思う?」
「……」
「未来を与えることだよ……相澤くん、それじゃ僕が3つ数える間にモニターに映るどちらかの映像を選んで引き金を引くか、僕を入学させ続けるか選んでくれ」
「…なっ」
「聡い君は理解出来てるだろうから付け加えておくと、3秒以内に選べない場合は両方を射殺す…ーー」
ーーバンッ、と重く響く射撃音。
弾丸が貫いたのは……ケイオスの額だ。
「驚いた」
「君は本当に面白いな、相澤くん」
「チッ…!」
「素晴らしいね、秒数を数える暇も無かったよ……調子が戻ってきたかな?相澤くんはこの状況で天秤に乗せるべきものを理解していた、後は行き当たりばったりだけど…僕もそうだから何も言えない」
「もう一度、もう一度だけ自己紹介をやり直そう」
「『ハッピーケイオス』僕の名前だ」
今度モニターに映るのは…『地球』。
つまりは、全人類だ。
いくら非現実に身を置くものだとしても、嫌でも青ざめてしまう現状、それでもヒーローは選択を辞めないんだろう?
「……分かっ…た、お前の在学を、認める…」
「んふふふ」
渾身のニヤケ面だけど、普段と変わらないかなぁ?
「ありがとう相澤くん、また1歩…教師の鑑に近づいたね、君は君の手で新しい未来のヒーローの有精卵を羽化させたんだ、誇っていいよ」
「…っはぁ…はぁっ……化け物め、お前は一体何が……」
「何度聞いても同じ返事しか返せないってのは、NPCか人間か、分からないよね」
「……」
「それじゃ、さようなら相澤先生…また明日」
「そして明日からはきっと!素敵な毎日が始まるよ!」
「僕の目を見て?目を見てくれれば分かる、楽しみなんだ…雄英高校が、だからね今日まではお喋り禁止、明日にもこの事は忘れておこう」
「おやすみ、相澤先生」