僕が最悪のメサイアになるまでの物語   作:カピバラバラ

6 / 6
求める声は大きく

 

端的に言うと、僕の行動にシナリオは存在していない。

そもそもシナリオがあったのかって?んふふ、人間には自己決定の意思が存在する、なら未来をどう歩むのかをどう呼称するのかも自由さ。

もっとも僕にはそんなモノは無いし、ホワイトハウスに乗り込む時だって…ちゃんと旅先のガイドブックは読んでたからね、計画性は無くとも園児達のバスガイドくらいは役目を果たしただけ。

 

まぁ、今の所は良い感じかな、なんてったって、

 

 

「ケイオスくん!!」

 

「ん〜…やっぱり日本でカタカナは似合わないね、今度からは飛鳥って呼んで貰おうか、これからは『飛鳥』が日本ネームだ。あ、でも君は僕のことをケイオスって呼んでね」

 

「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ!なんで、あんな無茶を…!」

 

 

僕のヒーローが、僕の身体を抱えて心配してくれているからね。

腕を失った僕を助ける為に、いの一番に駆け出した。イレイザーヘッドの指示も無視してヴィランの集団に一直線だ、イレイザーヘッドが個性を消していなかったら……──連れてきてたそこらの端役に命を取られちゃってたかもなのに。

 

ああ、ついでに黒霧が困惑していたのも良かった。僕と僕が目の前で殺し合いを始めて、腕を飛ばして勝手に消えて…彼は今頃OFAくんに脳内テレパスでも喰らってる頃かな?

 

 

「ん〜…まっ、君が助けに来てくれた、それでいいじゃないか」

 

「だから!どうして…!」

 

「気分だよ」

 

「───」

 

「気分さ、緑谷くん。僕はこうしたかった、君は助けに来た、それで僕は喜んだ。それ以外でもそれ以下でもない『なんで』も『どうして』も、その中身は空っぽさ」

 

「─…君…は…」

 

「ほら!緑谷クンが僕を助ける為に個性を使って…足を損傷してしまった!森に逃げ込んだはいいけど、追手には大勢のヴィラン!更にはワープ系の異形個性に親玉っぽいのが一人!」

 

「──さて、緑谷くん。どうする?」

 

 

震えて、泣き出しそうな君の顔。

──理由が無いのは怖いだろうね、理解出来ないものは、人は皆レッテルを貼って漸く受け入れられる。

彼の目の前に居るのは真っ白な解答用紙だ、問題を解けと言われて配られたプリントには、何も書いていない。書いていないのにこれは『白紙』では無く、『問題』だと示される。

けどね、何かを問われた時には必ず正解が存在する。付箋もチェックも入れられない問題用紙でも、必ず。

 

 

「…っ、ケイオスくんの」

 

「飛鳥でいいよ♪」

 

「あ、飛鳥くん…」

 

「ケイオスって呼んでくれないの?」

 

「……──ケイオスくんの個性で包帯と煙を出せるものは作れる?」

 

「くん付けも別に要らないんだけどなぁ……止血と視界…大丈夫、作れるさ」

 

 

僕の赤でもなんでもない、黒いだけの液体が肌や服に触れようとも、緑谷出久は動じない。

いや、動じてはいる、顔は青ざめて歯はガタガタと震えているし、涙目でほぼ泣いているみたい。でも、彼は正確な判断を続けているんだ。

 

目の前の命の実在を確かめられる人間は少ない、世界の視点は自分からしから見れないんだから、今すぐにでも死にそうな人間が居たとして…それは現実?それとも虚実?

 

その判断さえ、一人の人間がつけるには重すぎる責任だ。それを彼は真正面で受け止めて尚、周囲を分析出来ている。──まさにヒーロー、まだ卵だけど。

 

 

「片足の調子はどうだい?個性の反動でボロボロでしょ」

 

「でもあと一回はいけるし、まだ左足が残ってる。いざとなったら飛鳥くんを相澤先生の方に投げ飛ばすから…もう、あんな無茶はしないで」

 

「いいよ、オッケー、今日はもう緑谷クンが悲しむような事はしない。約束するよ」

 

 

あんまりにも泣きそうな顔をするから、流石に僕もこれ以上は遠慮しておこう。緑谷くん成分の過剰摂取はやがて中毒症状を引き起こして、頭の中のみんなが暴徒になりかねないからね!

 

 

「お…!見つけたぞォ!!ガキ二人だ!片方はさっきの異形系!」

 

「わぁ、見つかっちゃった。あ、コレ包帯と発煙弾ね、包帯は自分で巻いておくよ」

 

「見つかっちゃったじゃないよ!?背負うから掴まってて…!」

 

 

彼のしっかりとした背中に体重を預ける。オールマイトの元で修行してた所もぜーんぶ見てたけど、本当によく鍛えたものだ。

対して相手は野良ヴィラン三人、街中で燻ってることしか出来なかった彼らも、彼らの人生がある。僕はここにいる全員の人生をその年数分だけ見てきたけれど。

 

──君らの32年、24年、27年よりも緑谷くんの筋トレ期間の方がまだ面白かったかな。

 

 

「死に晒せコラァっ!」

 

「っ──足を前に出せ足を前に出せ足を!前に!」

 

 

発煙弾のピンを抜いて、ひたすらまっすぐに走り出す。異形系個性持ちの触手と爪が合体したかのような腕が、すぐ背後を通り抜けて地面を砕いた。

緑谷出久の狙いは戦闘では無く逃走。自分の力量不足は自分が一番知っていて、今の状況を身一つで解決出来るとは思っていない。

ひび割れた右足の骨が激痛を訴えても、呻き声を上げるだけで止まらない。

 

 

「───カッコイイね」

 

 

その怪我は僕を助ける為に負ったものだ、その本人を背負っているのに嫌悪感の一つも感じてこない。

疑問の感情と、燃えるような強い意志。この傷で行動できる根底には、狂気が潜んでいる。

 

──頭の中が騒がしい。ヒーローを求めて仕方が無い僕たちは、求めるだけで壊れていく。過去、人類が人類らしくあるために、異常を個性と受け入れて、人類の人間性、その終着点たるヒーローが産まれてしまった。

 

僕はそれを攪拌する、誰でもない、誰かの為に。未来を求める声を、求めるままに。

 

求めているだけなのに、僕たちは、

 

 

「ごホッ、コイツちょこまかと…!」

 

「ぐっ…なんで追跡されてるんだ…!?探知系の個性が相手に…それか…──」

 

「見る限りは異形系しかいなかったから、匂いか音か、音波ってのもあるね…それと思索は良いことだけど、今はその余裕は無いよ!緑谷クン!」

 

 

隆起する地面からは木の根が、背後からは種子が弾丸のように飛んでくる。個性を発動出来ない上、僕を背負っている緑谷くんの身体能力は、あの筋トレを通しても一般人程度。

 

当たれば死ぬ、捕まっても死ぬ。足に個性を使った時点で…片腕が無い僕と足が折れた緑谷くんじゃ生還は絶望的。

 

それに、僕が力を貸すのは緑谷くんじゃなくて──、

 

 

「んふふ…──悲しむような事はしない。悲しむような事は、ね。『これくらい』かな?」

 

「ああん?…ぉ、ぬわ、ぬぉぉ!?!?」

 

 

爪を振り回すヴィランの肉体が隆起し、元々大きな身体だった彼の肉体が膨張した。筋骨隆々という表現が正しくなる、見た目だけだとオールマイトとと遜色ない大柄な姿へと。

 

まさしく異形と呼ぶに相応しい姿へと変化し、多腕の腕に付いている刃爪は強靭に、気性は更に荒く激しく振舞って、

 

 

「ナ…んだ……コレ…!ダレの…コセイ…だぁッ!!!」

 

「お、俺じゃねぇって!危ねぇからこっち寄るなよ!?」

 

「私も違うって一目で分かるでしょ!?植物系なのよ私の個性は…!」

 

「…キブンは、いい。あのガキ、サッサとオイついてコロスぞ」

 

 

──バックヤード。

世界がただ求める声を、世界がヒーローを求める声を、僕は代わりに実現する。

あらゆる物質は、空間は、概念は、個性は、命でさえもこの世は1か0の配列でしかない。ほんのちょっと弄るだけでも、この世界から細胞の一つから魂までも消失させることの出来る、『現世のルールブック』だ。

 

個性の副作用でね、僕はその本に記入も削除も出来る。あ、でも駄目だよ?僕以外が高次元世界に足を踏み入れると…圧縮情報が存在を希釈して、バックヤードの一部にコンバートされちゃうから。

 

 

「わぁ!何故かヴィランが強くなってるよ緑谷クン!どうしよっか!?」

 

「絶対君のせいだよね!?」

 

「違う違う、彼の秘めた力が覚醒したとか、きっと笑い話以下の下らないものが原因さ」

 

「っ、だとしてもこれじゃ…!」

 

「そう、追跡を撒けない」

 

 

歯を食いしばり、目線を下に。緑谷出久は覚悟を決める。

どっちにしろ、この場から離れ皆と合流する為には個性を使う必要がある。ヴィランを撤退させながら、相澤先生の元へ戻らなければいけない。

 

()()1()0()

 

──ヒーローが、ヒーローである理由。その狂気が緑谷出久の中に当たり前のようにある。

その思考を覗き見た時、僕はどれだけ楽しかったと思う?

 

 

「──ケイオスくん!」

 

「なんだい緑谷クン」

 

「僕一人じゃ、多分逃げきれない。個性の反動は強いし、腕を使ったら君を運んでいけないから、どうしても君の力が借りたいんだ!今は…──個性で身体は治せない?」

 

「やってもいいけど…気分じゃないなー。まっ、怒られるから直せる分は直すさ、それに足は無事なんだから下ろしてもいいんだよ?」

 

「…ケイオスくんの身体能力は…みんな知ってるからね…」

 

「あははは!!それもそうだね!置いてかれたら即死亡だ!」

 

「笑ってる場合じゃないよね!?」

 

 

そろそろ、ヒーローとしては何れ消える『ヒーローの僕』も、ヒーローらしい事をしよう。

──悪を砕き正義を成す、なんて、オーソドックスタイプのヒーローも嫌いじゃない。

 

いや、その機構こそ、声が求めるものでもあるのかもしれないね。

 

 

「それじゃ、僕も攻撃手段を作ろうか。おっとそんなに目を輝かせて僕の個性が見れる!ってはしゃいでも後ろは見えないよ緑谷クン」

 

「うぇ!?な、なんで考えてることが分かって…!?」

 

「ふふんっ、この状況で個性の事で頭がいっぱいだなんて、君もオタクだね……良いよ、見せてあげる。手の平に出すからよく見てて」

 

 

だらんと手を伸ばし、緑谷くんの目の前に手の平を見せつける。

 

空間が歪んだり、摩訶不思議な光景が広がるでもなく、緑谷出久の視界には──、

 

 

「いつの、まに…?」

 

 

「──『月の剣』」

 

 

「僕、射撃もやってみたかったんだよね!はは!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。