彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。 作:美女り鯛
よろしくお願いします!
『貴方は本当に
頭の中でずっと繰り返されるその言葉が、まるで毒のように体中を侵食していく。
自分が両親から愛されていないことは幼いときから気づいていた。
なにも期待されず、ただ生んでしまったから仕方なく育てているだけ。
それでも、いつか私の事を見てくれて、褒めてくれると信じて、ただひたすらに努力した。
いつか、いつか、いつか、いつか…
そうして勝手に期待しては、突きつけられる現実に心を砕かれる。
それでもと無駄に足掻き続けた結果、贈られたのは…あの言葉。
もう、全てがどうでもいい。
自分の居場所もなく、最早生きていていいのかも分からない。
そんな私は雨の中、傘も差さず廃人同然の状態でフラフラと歩いていた。
自暴自棄になっていたからか、私は信号が赤になっていることにも気づかなかった。
大きくクラクションを鳴らしながらこちらに向かってくる大型トラックへと視線を移す。
(あぁ、このまま死ぬのも悪くないかもしれないですね…)
このままいけば即死だろうか。痛いのは嫌だな。そんなことしか考えられない。
恐らく急ブレーキをしているのだろうが、雨の影響で道路が滑り、全く止まれる気配がない大型トラック。
徐々に自分の死が明確に感じてきた私は、もう手遅れだとわかっていてもその胸の奥から後悔と恐怖が込み上げてきた。
(い、イヤ!死にたくない!)
もう視界には迫り来るトラックしか見えない。それほどの距離しかもう空いていない。
恐怖のあまり声も出ず、私はただこれから来るであろう衝撃と痛みの恐怖でギュッと目を瞑った。
『きゃああぁぁー!』
周りにいる通行人の誰かが叫ぶ声が聞こえた。私が出なかった声。それが聞こえて初めて私は、ああもう手遅れなんだと実感した。
死ぬ。これでもう頑張らなくていい。寂しい思いはしなくていい。
…そう思った。
何も見えない暗い世界で、私はただ自分の人生が終わる瞬間を待った。
あたたかい。
私が感じたのは、大型トラックに撥ねられた重く冷たい衝撃でも、自分の人生が終わる事を知らせる痛みでもなかった。
まるで捨てられた子猫を抱きしめるような、そんな優しいあたたかさだった。
トントントンっと少し早いリズム音がどこか心地よく、壊れ物を扱うかのようにソッと優しく頭を撫でるその手は、生まれて初めての感覚で。
「もう大丈夫だ…安心しろ」
「ちょいちょいちょい!…大丈夫!?急に…」
その気持ちよさと安心からか、徐々に意識が薄れていく。
最後に聞こえたのは、優しい男性の声と慌てている女性の声だった。
「ちょいちょいちょい!ユキ大丈夫!?急にもの凄い速さで走ってったからびっくりしたよ!」
「悪いな、声をかける余裕がなかった。それより早く行くぞ千束。運が良かったからか、大きい事故にもなっていない。早くこいつを着替えさせないとこのままじゃ風邪引く」
大型トラックに轢かれそうだった少女を間一髪なところで抱きかかえて助けたスーツ姿の青年は、後からやってきて現在事故になりそうだったトラックの運転手や周りの通行人と話していた、黄色みがかった白色の髪をボブカットに切り揃えて赤いリボンが特徴的な美少女ー錦木千束に声を掛けた。
「はいよー!それじゃ皆さんお騒がせしました〜!にしてもその子すっごい可愛いね、天使様みたい!制服とか見たことあるし、ユキの知り合い?」
「名前は椎名真昼。うちの家の隣に住んでる、同じ学校の後輩だ。その整った容姿から天使様って言われているとか」
ユキのスーツジャケットに包まれ、おぶられている美少女の名前は椎名真昼。亜麻色の綺麗な髪はその艶もあってキラキラと輝いており、その整った美しい容姿から、学校で天使様と呼ばれているらしい。
そして、その天使様こと椎名真昼をおぶっている男の名前は
ただ、裏で真昼の天使に合わせてなのか女神様と呼ばれ、親友である者から聞かされた時はとても不快そうな顔をしていた。
色々と過去にたくさんあり、現在は千束と一緒に喫茶リコリコという喫茶店でバイトをしている。
「天使!?まさかこの地に2人目の天使が現れるとは…この千束様でも予想外だったぜ」
「2人目?もう1人はどこにいる」
「いるでしょ!こぉ・こぉ・にぃ!」
真昼をおぶる雪音に向かってきらりと笑顔を向けサムズアップする千束。
それをジト目で見る雪音。
ウィンクする千束。
ジト目の雪音。
ポージングする千束。
ジト目の雪音。
「・・・」
「・・・」
雪音は何かを決意したかのようにそっと目を瞑り、無言のまま移動を再開した。
「おぉい! 言いたい事があるなら聞くぞコラぁ!」
「随分と気性の荒い天使様だな」
うがぁー!と突っかかる千束。それを真昼が起きないように静かにかわすユキ。
容姿が非常に整っている3人の光景はとても絵になっていたと、少し話題になった。
目的地の雪音と真昼が住むマンションに着いた3人。
玄関の鍵を千束に探させ、真昼の家へと入る。
「おぉ〜!めっちゃ綺麗!そして良い匂い!なんかちょっと美少女の部屋に入ってるって実感してドキドキしてきたわ」
「やめろ変態」
「だって同年代の女の子の家なんて入った事ないし!?なんかいけない事してるみたいでソワソワするじゃん!」
「まあ確かにな。それに自分の家と違って整理整頓が完璧で綺麗ときたもんだ。それもあって余計に落ち着かないんだろ」
「ほほう…貴様遠回しに喧嘩を売ってるな?良い値で買ってやろうじゃないか」
「やるだけ無駄だ。それより千束は椎名を着替えさせてやってくれ。雨で身体が濡れて冷えてるだろうから、ホットタオルで拭いてやると良い。制服は乾かすから置いとけ。その間、俺はあったまるものでも作っておく」
「りょーかい!結構ぐっすりだし軽くドライヤーもしちゃうね。…覗くなよ?」
「アホ言ってないで早くやれ」
千束たちが寝室に行ったのを見送り、雪音はキッチンの方へと向かう。
他人のキッチンを勝手に使うため、少し申し訳ないと思いつつも仕方ないのですぐに切り替え、一通りの調理器具があることを確認する。
(日頃から使っている感じだな。しっかり手入れされてる。食器の数からして一人暮らしか。立派だな)
冷蔵庫にある食材から何を作るか考える雪音。
あまり使いすぎても悪いと感じ、簡単にたまご粥とスープに決定。
雪音も普段から自炊をしているため、手際よく調理が進んでいく。
「ねーユキ、真昼ちゃん、ユキのジャケットが落ち着くのかギュッと掴んで離さないんだけどどうする?一応軽く拭いたけど」
「…どうせ安物だ。椎名が風邪をひかなそうならそのままにしていい」
「30万したオーダーメイドを安物て…じゃあそのまんま置いてっちゃうよー?」
「おう、ありがとな。こっちももう終わるから休んでてくれ」
残りの調理工程を終わらせ後片付けも済ませると、簡単にメモを書いていく。
「ほんっとーにユキはマメだねぇ~。お金まで置いていくなんて」
「材料費だけだ。それに顔も分からないやつが作ったご飯なんて怖いだろ。最悪捨てても良いことを伝えておかないとな」
「ふひひっ!私ユキのそういう不器用な優しさ好きだよ?」
「…さっさと行くぞ」
「あ!今照れたでしょ!ねぇ~照れてるでしょぉ~!」
からかう声を無視して歩く雪音。それをニコニコな笑顔で追いかけていく千束。その頬はほんのりと赤みががっていた。
これから様々な出会いや事件が起きることを、この時の二人は知る由もなかった。
モチベはあるがこの豆腐メンタルが持つかどうか…(笑)
とりあえず、私頑張ります!