彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。 作:美女り鯛
そして真昼ちゃんのクラスなのですが、「お隣の天使様」の2年軸と同じになりますので、周くんたちは同じ教室にいます!
今後彼らも絡ませていきたいので無理やりですがそういった感じになります!
それと今回も途切れが悪く長話になりますのでごゆっくりとお楽しみいいただけたら嬉しいです!
雪音が買い出しに行ってしばらく、喫茶リコリコに一人に少女が見せ前にある看板を眺めていた。
まるで店名を確認するかのように確認すると、そのまま店内に入っていく。
来店を知らせるベルが鳴り響く。
さっと店内を眺めると、カウンター席に一人の女性が朝っぱらから酒を飲み、テレビのニュースと漫才じみた掛け合いを行っていた。
少女はそのままその飲兵衛女性に近づき声をかけた。
「あの」
「うおっ!?び、びっくりした。あんた誰よ?」
「本日配属になりました。井上たきなです」
本部から配属命令を受けた少女─たきなは端的に自己紹介を済ませる。
すると二人の声が聴こえたからか、奥から杖を突きながら男性が現れた。
「おぉ来たかたきな」
「あ~命令無視してDAクビになったっていう─「クビじゃないです」お…」
女性の発言に食い気味に否定するたきな。そのあまりの迫力に女性は押され気味である。
「あなたから学べ…との命令です、千束さん。東京一のリコリスから学べる機会を得られて光栄です」
たきなは真っ直ぐ女性を見て、今回ここに来た経緯を説明する。どうやら本部はたきなに千束から様々な知識や技をを学べと通達したらしい。
そんな彼女の発言の一部に、飲兵衛女性と男性は目を合わせてどこか疑問を浮かべている。
「ソレは千束ではない」
「ソレって言うな!!」
たきなが飲兵衛女性を千束と間違えていることに気づいた男性はすぐさまそれを否定する。
すると、たきなはハッと何かに気づき、男性の方へ視線を移した。
「そのオッサンでもねーよ!!」
どこか天然なのだろうか、たきなは男性の方を千束と勘違いしそれを女性が否定する。
すると、男性はそのたきなの様子をみて先に自己紹介をする方が良いと判断した。
「ここの管理者のミカだ。そして彼女はミズキ、元DA情報部の職員だ」
紹介されたミズキはよっと酒の入ったグラスを上げて挨拶する。ここに千束か雪音がいたら、少しは真面目に挨拶しろとツッコんでいるだろうが、今はその二人がいないためなにも問題ない。
「もと…?」
「嫌気がさしたのよ。孤児を集めてあんたらリコリスみたいな殺し屋を作るキモイ組織にぃ」
いかにもうんざりしたような表情を浮かべるミズキ。すると、ドアが勢いよく開き、来店を告げるベルが大きく鳴り響いた。
「たっだいま~!!千束が戻ってきましたよ~」
「ほ~ら、やかましいのが来たぞぉ」
赤い和風制服を纏った千束が元気よく店内に入って来た。
千束は店内に入るなり、自身のスマホ画面を全員に見せるように掲げた。
「ねー!食べモグの口コミでこの店ホールスタッフがかわいいってこれって私のことだよね~」
「いやいや、アタシのことだよ」
「…冗談は顔だけにしろよ」
「おい…今なんつった小娘ぇ…」
ゴゴゴゴ…となにやら不穏な効果音が見えてきそうなほど、千束とミズキがにらみ合っている。
すると、千束はこの場にミカとミズキともう一人見知らぬ少女がいることに気づいた。
「…およ?その制服…リコリス?」
千束は少女の制服を見て彼女が自分と同じリコリスであることに気づいた。
すると、ミカが優しい笑みを浮かべながら千束に紹介した。
「今日からここで働くたきなだ。お前さんの相棒だ、仲良くしろ千束」
ミカからの説明で事の流れを察した千束はまるで幼子の様に目を輝かせた。
「この子が!?」「この人が!?」
千束はたきなを、たきなは千束を、お互いに事前に名前を聞いていたのだろう。
すぐにお互いを認識した。
すると、千束はもの凄い勢いでたきなへと距離を詰め、ガッと彼女の手を握った。
「よろしくたきな!!ねねね、年齢は!?」
「16…です」
「おほ~一個下かぁ!でもさんづけはいらないからね!!ち・さ・とでおけー♡」
「はぁ…」
「所属はどこだったの?」
「去年京都から転属に…」
「転属か~優秀なんだね!!」
「……」
「ここの仕事は私が手取り足取り教えてあげるからねっ!心配ないよぉ!」
千束のマシンガントークに圧倒されるたきな。明らかに困惑している表情を浮かべるも、千束はそれに気づいていないのか、はたまたそれを見て見ぬふりをしているのか、真相は分からない。
「着付けは出来る?教えてあげよっか?」
「いえ、大丈夫です」
「ほらほら先生!ぼ~っとしてないで、リコリコ自慢のコーヒーいれてさしあげてっ」
「ん?おお…」
「たきなの制服は?もうできあがってるの?」
「制服はユキが取りに行ってくれてもうロッカーに入っている。今は少し落ち着け千束…」
千束は次々と話を広げており、たきなはただ千束を静かに観察していた。
(本当にこの人が優秀なリコリス…?ならなぜ本部ではなくこんなカフェで…もしかして自分はもう本部には…)
千束の立ち位置などを考え、自身がなぜここに異動させられたのか、そしてその先の嫌な未来の可能性に気付いてしまった。
思わず不安が募るたきな。すると、そんな彼女の不安を察してなのか偶然なのか、千束はにっこりとかわいらしい笑顔を向けながら手を差し伸べた。
「これからよろしくぅ相棒っ!!」
真っ直ぐ差し出されたその手を、たきなは一瞬呆けながらも、だがしっかりとその手を取った。
「よろしく…お願いします」
この瞬間、千束とたきなという二人の少女の運命が重なり合った。
「そういえば、先ほど名前が出ていた
たきなは先ほど千束達が会話に出していたユキという人物について質問する。すると、千束はミカの方を見るや視線で話していいのかを促す。すると、ミカはゆっくりと口を開いた。
「ユキ、というのは我々の協力者のようなものだ。リコリスではないし、彼は青年だ。歳は今年で20歳になるが、諸事情が合って今は一般の高校に通っている。彼もここで働いているからすぐに顔を合わせるだろう」
「協力者…大丈夫なんですか?私たちは国を守る公的機密組織のエージェントですよ?協力者と言っても一般人を危険な仕事に同行させたりするのは…」
「あはは!確かにそう言うとなんか映画みたいでかっこいいね!…にしても、ユキが一般人ってのは笑っちゃうね」
突如笑い出した千束に思わずムッとしだすたきな。自分は間違ったことは言っていないはずなのになぜそんな笑われなければいけないんだと言いたげな彼女に、千束は目元の笑い涙を拭いながら謝罪した。
「ごめんごめん、怒んないで。確かに知らなかったらそう捉えるのも仕方ないよね。たきなの考えも分かるけど、ユキはただの一般人じゃないよ。ユキは…「千束」んゆ?なーに先生?」
「本人がいないところでなんでも言うのはよしなさい。たきな、ユキのことは懸念点があるのはわかるが信じて大丈夫だ。今はそれだけわかってもらえればいい。なに、これから一緒にいる時間はたくさんあるんだ。ゆっくり知っていきなさい」
「…わかりました」
たきなはあまり納得は出来ていなさそうだったが、それでも無理やり納得させようとした。すると、ミズキが酒を飲みながら自身のスマホをいじっていた。
「千束ぉ、あんた食べモグのヤツこれほとんどユキのことじゃねえか!なに自分のとこだけピンポイントで言ってんだこら」
ミズキは画面を全員が見えるようにすると、その場の全員がその画面を覗き込んだ。
ミズキが映し出した画面にはお店の雰囲気や味の評価が高評価で描かれていた。そしてその中には明らかに女性が書き込んだのだろう、ある男性スタッフに対して書かれた内容が多く投稿されていた。
美形やら眼福やらと一部ユキのことしか書かれていない投稿もあったりと、それを見たたきなはそのユキという人物を知らずとも彼の人気が凄まじいことが分かった。
すると、ミズキが気を利かせて自身の写真フォルダを開きなにやら探している。
「確かここら辺に…お、あったあった。最近ここのHP写真を変えるかって撮った集合写真があったのよ。結局変えなかったけど…ほらこの妙に整いすぎてるこいつがユキよ。流石に顔を知らないのは気になるでしょ」
「…この人が…ユキさん」
ミズキが集合写真を出すとユキの顔をズームさせてたきなに見せた。
するとたきなは先ほどまであまり表情が変わらなかったが、ユキの顔を見た途端、思わず目を大きく開いた。
(凄い綺麗な人…あまりそういうのはわからないけど、ここまで人間離れした容姿だと流石に分かる。人口的に作られたみたいに整ってて今すぐにも消えてしまいそう…)
「にしし、お主、見惚れてるな?」
「…えっいや私は!?」
「いや~わかるよ。ムカつくけどほんと綺麗だよね。なんかもう言葉では表現できないぐらいに。まあ、こんな無表情で愛想が悪そうだけど、優しいから安心してね。きっとたきなもすぐ仲良くなるよ」
「だから私は別にっ…!」
「ほら二人とも。コーヒーを淹れたからそれを飲んで仕事に行ってきなさい。千束、案内頼んだぞ」
「うっひょ~コーヒーだ!ほらたきな!あったかいうちに飲も!今日一日この千束さんについてきんしゃ~い!」
ハイテンションでカウンター席に飛び座る千束。そんな彼女を見て思わずため息がこぼれたたきな。
これからどうなっていくのだろうか、まだ見ぬ未知にたきなの心情はすでに疲れていた。
「…色々振り回されるだろうけど頑張んなさいよ」
ミズキがたきなの溜息を聞いて同情の眼差しを浮かべながらもささやかながらエールを送った。
それに対してたきなはどこか遠い方を向く。
「ただ、退屈はしないわよ。きっとあそこにいた時にはできない色んな事が学べるわ。せいぜい楽しみなさい、あんたらはまだ酒の味も知らない子どもなんだから」
どこか優しさの籠った大人の笑みを浮かべるミズキは、そのままさらに酒を注いでグイっとあおいだ。
すぐに酒に行かなければもの凄い良い女だったのだが、そこがブレないのが我らがミズキというのものだ。きっと雪音が今のワンシーンを見たら顔を手で覆い天を仰ぐだろう。
「…わかりました」
たきなはミズキの背を眺め一言伝えると、そのまま千束の隣に座りミカの入れたコーヒーを一口含む。
(…美味しい)
素直に出た感想は彼女の本心だろう。たきなは早速このコーヒーがいつでも飲めるのは良い事かも、と一瞬過ったのだった。
「ミカ、ミズキ、戻ったぞ」
「おかえり、ユキ。ご苦労だったな」
「おかえり~」
「…客がいないからってもう一瓶開けたのかミズキは…」
買い出しから帰って来た雪音は両手に持つ大きな袋をキッチンに置くと、そのまま食材を冷蔵庫にしまっていく。
「千束は外か?」
「ああ、今は新しく来たたきなと一緒にいる。今日は夕方からこっちの予定だ」
「そうか。二人から見て千束とは上手くやっていけそうか?」
「大人しい子だが、聡明そうだった。お互いに良い影響を与えるだろうさ」
「てか千束と合わせれば、リコリスなら誰だって何かしらの影響を受けるでしょ。アイツの性格はあそこにはなかなかないもん。それより…」
ミカとミズキからまだ見ぬ新人の情報を聞く雪音。ミカの言葉的に問題はなさそうだと思った雪音は一先ず面倒なことが起きなさそうで安心していた。すると、ミズキが鋭い眼差しを雪音に向けていた。
「あんたら絶対に変に関係おかしくするんじゃないわよ。とりあえずまずは自分の面の罪深さを理解するところから始めなさい」
やれやれ、と溜息を吐きながら首を振るミズキ。そんな彼女を見て何を言ってんだと言いたげな顔を向ける雪音。そのままミカに説明を頼むよう視線を送るも、彼はどこか楽しそうにしながら首を振った。
「…意味が分からん」
思わずこぼれた雪音の不満。そのまま答えが分からぬまま、ただ黙って買い出しの品をしまい続けるのであった。
しばらくして登校時間になったのか、黒い和服制服から着替える雪音。
「それじゃ学校終わりにまた来る。なにかあったら連絡してくれ」
「ああ、いってらっしゃい」
「さっさと帰ってきてね。千束が来るまでしばらくアタシ一人なんだから!」
「…はいはい」
「ちょっ!?ほんとに頼んだわよ!?」
ミズキの声を背に雪音は店を出ると、そのままバイクに乗って一旦自宅へ帰り、学校の荷物を持って通学路へ。
流石に昼間際にもなると学生の姿は見当たらない。
すれ違う人にはいちいち振り向かれたり声をかけようか迷っている女子大生などはいるが、高校生の子らと比べるとだいぶましである。雪音は比較的満足そうに静かな街並みを歩いていく。
「…だから学校は嫌なんだ」
「ははは!まあこればっかりは仕方ないさ。それだけ人気でレアキャラなんだよ君は。これを機に学校に来続けるのはどうかな?そのうちこの扱いもなくなるかもよ?」
雪音は心底機嫌が悪そうにしながら机に突っ伏していた。それを見て秋奈が楽しそうに笑っている。
原因は毎度のことながら、雪音が学校に来るや騒ぎ出す生徒たちだった。三限が始まって数分後に来た雪音は、教室に入るまでは静かだったのだが、その三限が終わってからが凄かった。
雪崩のように他の教室や下学年の主に女子生徒が雪音の教室へ覗き込んできたのだ。
教室の外でガヤガヤと騒ぐ音にストレスを感じる雪音。基本的に静かな環境を愛する彼からしたら、このような状況は好ましくないだろう。
それに加え、面白半分でか秋奈が廊下の女子たちに向かって笑顔で手を振るファンサをして一気に黄色い歓声が廊下に響き渡る。
それがまた雪音の怒りを買っていたのだ。
「そういえば新しい子が増えたんだって?どんな感じの子なんだい?」
「俺もまだ会ってないからなんともな。ミカとミズキが言うには好印象ぽい」
「なるほどね。今度僕も挨拶に行こうかな」
「…好きにしろ。それより4限って」
「体育だね。今日はサッカーらしいよ」
「なら俺は今日休みだな。ジャージもシューズもねえし」
「そう言うと思って…ほら君の分。僕が持ってきてあげたよ」
「…母親かお前は…」
「あはは、僕たちに母親なんていないだろ?」
「ツッコミの例えだ。とりあえずさっさと行くぞ。外の方が幾分か静かだろ」
雪音はうんざりしながらも秋奈からジャージと袋に入っているシューズを受け取り席を立つ。その後ろを楽しそうに秋奈がついて行く。
教室を出るやまるでアイドルが出てきたかの様にキャーキャーと高い声が二人の耳に突き刺さる。
一瞬顔を歪ませた雪音は歩く速度を速め足早にグラウンドへ向かうのだった。
「玉蹴りの気分じゃないな…」
授業が始まり、すぐにクラス対抗戦の試合が始まった。
三年生の体育なんて基本はもうすぐにチーム分けをして試合である。
そんな中で、当然雪音や秋奈も試合に参加している。
秋奈はこういった運動も純粋に楽しめるタイプなため、先ほどから積極的にドリブルしたりシュートを決めている。経験はないがそのプレーはもはやプロ顔負けであり、敵クラスにいるサッカー部数人を手玉に取っていた。
一方、コートの端でつまらなそうに突っ立っている雪音。
その時グラウンドが見える校舎から視線を感じそちらに視線を向ける。
すると、なにやら大きな目をまんまるにして驚いた表情を浮かべる真昼がいた。
恐らく彼女自身も雪音が気付くとは思っていなかったのだろう。
あの真面目そうな真昼が慌てて前髪を整えているのが見え、雪音は思わず苦笑した。
『集中しろ』
真昼に向けて思わず口パクと前を指すジェスチャーをする雪音。それを見て顔を真っ赤にさせた真昼はどこか意義を唱えたそうにあの小さな口を動かしている。
「雪音~いったよ!」
遠くから聞こえる秋奈の声に耳を傾け前を向くと、雪音の方へクリアボールが蹴り上げられていた。
秋奈の方を見ると大きく手を振っていることからパスを要求しているのだろう。
周囲には誰もいないことから、普通ならトラップしてボールを落ち着かせてから放つだろうそれ。
だがしかし、極力任務以外では省エネで済ませたい雪音はその場で大きく跳躍する。
そのまま空中で身体を捻ると、まるでどこぞの超次元サッカーやボールと友達選手の様な綺麗なオーバーヘッドキックを行った。
人並み外れた身体能力をもつ雪音から放たれたそのパスは、もはやパスというレベルではなく、ボールの形が歪みすぎているほど。
もの凄いスピードで放たれたボールを秋奈はどこまでも涼しそうな顔でそのままダイレクトシュートを行った。
相手キーパーはサッカー部の本職でありながら、その速さに一歩も動けず、ボールはまっすぐゴールネットに突き刺さった。
雪音はそのまま宙で一回転し、見事な着地を決める。
一瞬の静寂がグラウンドを支配すると、すぐに男子生徒たちの野太い雄叫びとも言える歓声が響き渡る。
その声は校舎側にまで響いていたのだが、それと同じくらいの声量がその校舎側からも放たれた。
『きゃあー!!』
最も違うのはその声質か。グラウンドとは違い女性特有の甲高い歓声が響く。
これは雪音と秋奈が揃っていて且つグラウンドでの体育に限定される現象なのだが、どこかでこの二人が揃っているという情報を聞きづけた女子生徒たちが出回っている雪音たちのクラスの時間割を見て、こうして授業中なのにも関わらず窓側に集まっていたりする。
ちなみに先ほどの雪音と真昼のやりとり中も他の生徒はいたが、みんな普段滅多にいない雪音が秋奈みたいなファンサを自分にしてくれたと勘違いしているため、意外にもバレることは無かったのだ。
「うっさ…」
「それは仕方ないよ。今のは誰でも騒ぐぐらい素晴らしいプレーだったからね」
グラウンドと校舎の両サイドから大歓声を受ける雪音は眉間に皺を寄せて一人愚痴っていた。
するといつのまにか隣に移動していた秋奈がナイスパスと言いながら駆け寄ってきていた。
「にしてもあんな魅せるプレーをするなんて珍しいね。理由でもあるのかい?」
「…不意に来たから咄嗟に動いた」
「…へー?咄嗟にねえ?」
「なんだよ」
「別に?ただこのたくさんの視線の中に一際熱っぽくも落ち着いてる見知ったのがあるから、てっきりその子に向けたパフォーマンスなのかと思ってね」
揶揄い混じりに笑う秋奈はそのまま視線をある教室へと向けた。雪音もつられてそちらを向かうとその先にはやはり真昼の姿があった。
先ほどと雰囲気が変わりどこか惚けているような熱の籠った視線を送っている真昼。恐らく本人も自覚していないだろうそれを雪音と秋奈は確かに感じ取っていた。
「せっかくなら手振ってあげればいいのに」
「アホか。なんでそんなことすんだよ」
「雪音は深く考えすぎだよ。彼女とは先日の落とし物の件で少なからず知人にはなってるんだし。それに、君自身千束ちゃんたちリコリコの人たち以外で気を許している数少ない子じゃない?ここはその縁を大切にした方が良いと僕は思うけどね」
秋奈はそう言うや真昼に向かって手を振る。流石に方向だけで他の人が見たら真昼に向けて手を振っているとはわかるまい。それをわかっているうえで秋奈はやっているのだから意外と計算深い男である。
一段と大きな黄色い歓声が飛び交う。
各教室の先生たちが必死に窓に集まる女子生徒たちを注意しているのが見える。
そんな中、秋奈が自分に手を振っていると気づいた真昼は、周りにバレないよう軽く会釈していた。
「ほら、誰も真昼ちゃんに向けてだとは気づいてないよ。それに見てみなよ彼女の顔。あれは明らかに君からのを待っている表情だ。真昼ちゃんに思う所があるのなら応えてあげた方が良いんじゃない?」
「…」
ぐいぐい来る秋奈に押される雪音。ちらっと真昼の方を見ると、秋奈が言った通り確かにどこか羨望の眼差しを雪音に向けている真昼がいた。
「……はぁ~、んでこんなこと」
雪音はどこか照れくさそうにしながらも、小さく真昼に手を振る。それはよく見ないとわからないぐらいに小さなものだったが、他の人よりも雪音と一緒にいる時間が長い真昼は、彼の行動が自分に対して手を振ってくれていることだと気づいた。
ブワッと一気に真昼の肌が紅く染まり、体温が上昇する。
ちらちらと周囲を見渡し、誰もが雪音たちに夢中で自分に気づいていないことを確認すると、真昼は身体で隠れるようにしながら、雪音同様照れくさそうに小さく手を振った。
「なんだか初々しいカップルみたいだね!」
「お前がやらせたんだろ!?」
「さあ、可愛い後輩が観ているんだからもう少しカッコつけないと男が廃るよ?」
「だからそういうんじゃねえ。お前の見え透いた挑発に乗るか」
「そっか、サッカーで負けるのが嫌なんだね。確かに僕は戦闘面では勝てないけど、スポーツにおいては君とドッコイだしね。現に前の卓球は僕が勝ったし、また負けを味わうのが嫌ならそう言ってよね」
「今日はいつになく挑発するなお前…わかった、思いっきりやってやるよ。ミスが多い方の負けな」
「良し来た。せっかく学校に来ているんだから楽しまないと損だよね」
フンッと若干不貞腐れながらも前を歩く雪音。秋奈はそんな彼の背中を眺めながら心底楽しそうに笑った。そして再度真昼のを見ると今だに彼女は雪音たちを見ていた。
そのため秋奈の視線にも当然気付いた真昼。
それに気付いた秋奈はいたずらっ子の様にペロッと舌を出して雪音の方を指さす。
それを見た真昼は、雪音のどこか怒りに満ちた背中姿に、秋奈が雪音にやる気を出させるようなことを言ったのだろうと推察し、思わずクスクスと笑った。
それからというもの、二人のプレーは最早誰にも止められず、ある時は味方に絶妙なパスを出したり自身でシュートを決めたりと観ている方もやっている他の生徒たちも存分に楽しめるプレーを行っていた。
なんとか他の生徒は先生に注意され席に戻る中、窓際にいた真昼は結局チャイムが鳴る最後まで雪音の姿を眺め続けていた。
その結果、全く授業に集中できなかった真昼。
これほど日頃から予習復習をしていたことに感謝したことはないと、後に真昼は雪音に話すのだった。
そして体育も終わり現在はお昼休み。
生徒たちは各々好きな場所で昼食を取っている。
それは雪音たちも例外ではなく、雪音と秋奈は二人しか知らない校舎裏の誰も寄り付かない静かなベンチでお弁当を食べていた。
「あ、あの…」
「ん?どうしたんだい真昼ちゃん」
「私はお邪魔じゃないでしょうか…」
「そんなことないよ!一緒に食べようと誘ったのは僕だし、雪音もこの通り大人しいだろ?つまりはそういうことさ。真昼ちゃんさえ良ければこのまま僕たちに付き合ってもらえると嬉しいよ。ね、雪音?」
「…嫌なら嫌で無理にこいつに付き合わなくていい。学校でどういう風にしてるかわからんが、意外とこいつは性格が悪い」
パクパクとお弁当を口に入れていく雪音。今、この場には雪音と秋奈の他に真昼がいた。
彼女を呼び出したのは秋奈である。真昼の連絡先を雪音が持っていることを知った秋奈が「せっかくならみんなで食べよう!」と勝手に雪音のスマホを手に取って彼女に連絡したのである。
当然、雪音から急に連絡が来た真昼は大慌てし、すぐさま荷物をまとめて教室を後にした。
そして指定された場所に行くとすでに待っていたのか手を振る秋奈と機嫌の悪そうな雪音が待っていたのだ。
そのまま流れるように移動し、初めて見る緑に囲まれた静かな空間に見惚れている真昼。
一つしかない数人掛けのベンチに3人並んで座っていた。
ちなみに並びは雪音、真昼、秋奈という真昼を二人が挟む形である。
「それは酷い言いぐさだね。僕はせっかく仲良くなったならこのまま親睦を深めようと思っただけだよ。雪音も僕以外に仲の良い子が増えた方が学校に来るかもしれないだろ?」
「子どもかよ」
どんどん雪音のイライラゲージが上昇している。実際には見えていないだろうそれを、真昼はまるで本当にあるかのように見えていた。これには驚くほかない。
「そういえば真昼ちゃんはさっきなんの授業だったの?」
「えっと、数学です。最後の方はワークをやるようになっちゃいましたが…」
「一年生の数学ってことは美奈ちゃん先生かな?これは後で泣き付かれそうだね」
「お知り合いなんですか?」
「僕たち3年生の数学も受け持っているからね。それに新人ということもあってよく相談されるんだよ。雪音も美奈ちゃんとは交流あるよ」
「……そうなんですか」
秋奈の言葉を聞いた瞬間、進んでいた箸が止まりどこか機嫌が悪くなる真昼。彼らの話題に出てきた美奈ちゃん先生とは今年から教員になった新人教師であり担当は1年の3クラスと3年の1クラスの数学だ。大卒してすぐなためとても若く見た目もかなり美人なため主に男子生徒から大人気の女性教師である。彼女の細身なのにも関わらず大きい胸が生徒からの人気を仰ぐ原因の一部になっているのだろう。
そんな先生のことを真昼も知っているからこそ、雪音も他の男子生徒同様に好印象なのかと思い、嫉妬し不貞腐れているのだ。
「交流があるだけだろ…なにかやましいことがあるわけじゃない」
「…そうですか」
どこかホッとした表情を浮かべる真昼。止まっていた箸が進み始める。
「でもこの前、雪音の女性の好みをこっそり聞かれたけど」
「……そうなんですか」
再び彼女の箸が止まる。
「こっち睨むな。俺が知るわけねえだろ」
「とりあえずお尻の小さな子が好みだって言っておいたよ」
「おい…」
「お尻の…小さい…。多分私も小さい。…むしろ私の方が……」
ぐい~んとイライラゲージがものすごい勢いで上がった。
小さく反撃しようにも隣に真昼がいるためそれは断念。しかもその真昼は俯きなにやらぶつぶつと呟いている。
「…揃っておバカ共だな」
今だに壊れている真昼と楽しそうに笑う秋奈を見て、呆れつつもどこか楽しそうに微笑む雪音。
それからしばらくして雪音たちは元に戻った真昼と一緒に楽しそうに昼休みを過ごすのであった。
長い話を読んでいただきありがとうございました!
これからはなるべく字数を一定に出来るよう努力します!笑
それと私は暖かい応援コメントなどいただけると大変モチベーションになりますので、よろしければ書いてほしい話などありましたらお気軽に書いていただけると嬉しいです!
※作者のメンタルはお豆腐です。
これからも【彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。】をどうぞよろしくお願いいたします!