彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。 作:美女り鯛
読みにくいと思います!ごめんなさい!
「それで、新しい子はどうなんだい?確か…たきなちゃんだっけ?」
「身のこなしは良いし仕事は出来る。だが、接客中の表情が少し硬めだ。話すのが緊張するとかってよりは今まで必要性を感じなかった奴特有のだな」
「あはは、なるほどね!」
「なんでそこで笑いが出る」
「ごめんごめん!あの雪音が、まさか他人の愛想の話をするからね。だいぶ変わったなと衝撃を受けたんだよ」
「……うっせぇ」
プイっと視線を逸らし、最終的には机の上で伏せて眠りに入ろうとする雪音、そしてそんな彼を心底楽しそうに眺めているのは前の席にいる秋奈。
今二人は絶賛三時間目の授業中なのだが、残り時間は全て問題を解くことになっているのだが、学年トップ2の成績である二人からしてみれば高校生の問題など朝飯前である。
一度もペンを止めることなく問題を解き終え先生に採点もしてもらい終えた雪音と秋奈は、雑談に花を咲かしていた。
話題はもちろん喫茶リコリコに入ってきたたきなのこと、そして近況報告といったところだ。
「そういえば、美奈ちゃん先生から伝言預かってるんだけど聞きたいかい?」
「聞かない選択肢があるならそれで」
「ないから言うけど、今度3年生が午後登校の日、可能なら雪音には事前に来て一年生の授業を手伝ってほしいんだって」
「…なぜ?」
「3年の成績トップだからってのは建前で、実際は雪音の出席日数が低いというのが本音だってさ。いくら僕たちは校長の契約で自由にできていると言っても、他の生徒たちのことも考えると多少はね。だからこれはほぼ強制だから、サボらず来なよ」
「…だから学校はめんどくさいんだよ」
「まぁまぁ!僕も一緒に参加できるようになってるからさ、楽しもうじゃない!」
「はぁ…お前はいつも楽しそうだな」
瞳を輝かせる秋奈に呆れつつも、先ほどの秋奈ではないが、雪音もまた秋奈がこうして人生を心から楽しそうに満喫している姿に思う所があった。
(昔は人形みたいに感情の無い笑みを浮かべてた奴がこうも変わるか…)
脳裏に流れる当時の秋奈と今の目の前にいる同一人物を重ねた雪音は僅かながら笑みがこぼれた。
「あ、それともう一つ。君が遅刻していなかった今朝のHRで3年生全体に連絡が入ってね。なんでも今後の授業カリキュラムが大きく変わるみたいだよ。なんでも副教科の授業を前期の内に終わらせるよう1年と合同でやる機会が増えるらしいよ。受験対策の時間を作るためと学年間の交流が理由だってさ。良かったね?」
「なにが良いんだよ。ウチのクラスはともかく、下はうるさいだろ。授業すら満足にできなくなったらどうすんだよ」
「そこは上手くやるんじゃない?それに秋や冬には学校がほぼ終わると考えればラッキーでしょ?」
「…あたかも俺が来る前提で話すな。なにか他にあるだろ」
雪音は明らかになにか別に隠しているだろう秋奈を睨む。すると、その視線を受けてまるで絵文字にあるにっこりスタンプかのように微笑む秋奈。
「流石に全クラスと合わせるわけにはいかないらしくてね。合同するクラスは固定、そして僕たちのクラスが合同するい一年生のクラスは…」
分かりやすく言葉を研ぎらせると、その意味に気づいた雪音は心底嫌そうな顔で浮かべた。
「…お前、なにか仕組んでないだろうな」
「もうわかった?ちなみに僕はなにもしてないからね。本当に偶然だよ。縁があるね!」
「もう黙ってろお前…」
「あの~お二人さん?」
「ちょっと私たちを助けてほしい!」
「「ここの問題を教えて下さい!!」」
二人が楽しそうに(実際は一人)話していると、二人の席に男女数名が教科書とノートを持って集まってきていた。
今回の問題は受験対策の内容が多く含まれており、真面目に授業を聞いていてもなかなかに難易度が高かった。
そのため、こうしてすらすら解いてみせた雪音と秋奈に教えを乞う生徒が多い。
「全然いいよ~。ほら雪音も起きて!みんなで速攻で終わらせてのびのび休もう!」
残り時間を寝て過ごそうと伏せてからまあまあな時間が経っているのにも関わらず、その先を実行できない雪音のストレスゲージは上昇していた。
そんなこともあってジトッと秋奈と周囲の同級生を見る。
相変わらずニコニコの秋奈と、いかにも助けを求めている同級生の面々。
「…」
ニコニコ秋奈と捨てられた子犬のような眼で雪音を見る同級生たち。
「……」
ニコ秋奈と捨てられた同級生s。
「……一回で理解しろよ」
「やったー!ありがと黒戸君!」
「もう好き!俺黒戸のそういうところほんと好き!」
「黒戸様~!!」
根負けした雪音は重そうに身体を起き上がらせると、眼鏡をかけて意識を切り替える。
雪音がやってくれると知り、迷える同級生たちは、ぱぁー!!っと顔を輝かせ雪音を面白可笑しく称えていた。
「そういえば、この後の体育は合同初回だって」
「…は?」
雪音は速攻で帰る支度をし、早退を試みたのだった。
「今日バレーなんだって?」
「そうだね。久しぶりだから楽しみだね」
「間違えて顔面に行ったら悪いな」
「殺害予告かなんかかな?」
「心当たりがあるのか?」
「全く。だから不安で仕方ないから同じチームになって僕を守ってね」
「巻き込まれたら嫌だから遠慮しとく」
「あーあ、これじゃ僕の死は確定だね。怖いなー怖いなー!」
「稲川○二やめろ」
着替えを終えた雪音と秋奈は休み時間ぎりぎりに体育館へと向かう。残り時間と距離的に確実に開始のチャイムが鳴ることは確定なのだが、二人の様子から最初から間に合わせる気はないらしい。
もっとも、二人の遅刻理由は廊下でたまたまあった数学の美奈ちゃん先生の荷物運びを手伝っていたからであり、同じクラスの人にしっかりと伝言を伝えているため、叱られることは無いだろう。
だが、だからと言って大幅に遅刻をすると、個人で準備体操をするというシュールかつ虚しい時間を送らないといけなくなる為、出席確認が終わるころぐらいを見計らって移動しているのである。
そうして狙い通り、全体の出席確認が終わるころに体育館に入った二人。
「黒戸と白幹だな。遅れた理由は聞いてるぞ~。黒戸は今日もしっかり来て偉いぞぉ!ほら早く並べ!!」
「は~い!」
「……ども」
体育担当の剛本─通称、剛ちん先生が入ってくる雪音たちを見つけてはごつい太腕を振っている。
明らかに二人が入った瞬間に騒ぎ始める一年の女子生徒たちを完全にスルーしながら、剛ちん先生に秋奈は手を振り返しながら、雪音は軽く頭を下げながら一旦列の後ろへと並ぶ。
並ぶ時、他の生徒たちと違い一際熱い視線を感じた雪音。
興味本位でそちらの方を見ると、そこにいたのは普段の大きな瞳をこれでもかとまん丸にした真昼がいた。
最初の出席確認でいなかったからてっきりサボると思われていたのか、どちらにしてもそこまで驚くことかと雪音は若干不貞腐れながら列に並び座った。
「えー、朝のHRで聞いたと思うが、今後の授業は1年と3年が合同で行うことになった。目的はザックリ言うと3年のカリキュラムの都合もあるが、他学年との交流を深めるというのが大事だと俺は思っている。
社会に出れば年齢等関係なしにコミュニケーションは取っていかなければならない。
俺はお前たちに今のうちからそういった環境に慣れてほしいと思っている」
「おい、剛ちんが珍しくまじめなこと言ってんぞ…」
「なんかおかしいバナナでも食ったんだろ」
「あいつ雨の中傘も指さずバナナ食ってたらしいから元からおかしいぞ」
「「ただの本物ゴリラじゃねえか」」
「よーし、岡本、佐々木、山田はあとで体育教官室来い。野生の力を見せてやる。…ウホォン、話を戻すが今日はこの体育では初めての合同授業だ。俺も手探りでやっていくから至らぬところがあった場合はすまない。それと、3年生はもういい加減慣れただろうが、というかそうであってほしいんだが、この学校にはやたら人気がいる。
騒ぎたい気持ちはわかるが、最低限授業の時は勉学に集中するように。それはこの体育でも同じだ。
観たいならやることをやって休憩している時だけにしろ!変に浮ついているとケガをするぞ!!」
剛ちん先生がやたらと雪音と秋奈を睨みながら話している為、その場にいる全員が誰の事を言っているのかが分かり、思わずその件の人物たちへと視線を移した。
秋奈は相変わらず笑顔で対応しているのに対し、雪音は一気に不機嫌MAXになり、前にいる秋奈の背に頭を押し付ける。
「あはは、そう怒らないでよ。最初のうちだけでみんなすぐ慣れるよ。だから体育もサボるなんてしないでね。剛ちん泣いちゃうよ」
秋奈がなんとか宥めるも雪音のイライラは増すばかり。だが、そんな二人のやり取りを見慣れていない一年生たちはキャーキャー騒ぎ、一部のものは開けてはいけない扉をこじ開けてイケない表情を浮かべていた。
そんな中、秋奈はたまたまこちらを見る真昼を見つけると、彼女の表情を見てどこか悪い笑みを浮かべた。
(もの凄い嫉妬の籠った眼…これは千束ちゃん不味いかな?)
自分が観察されていることに気付いたのか、秋奈と視線が合った真昼は顔を真っ赤にしてとてつもない勢いで視線を逸らしたのだった。
~真昼side~
私はいつもの通学路を歩きながら、今日の時間割にある体育の事を考えて少し憂鬱になっていました。
別に運動が苦手というわけではありません。むしろ得意ですし進んで運動をするくらいには好きです。
ただ、学年が上がるにつれ、同じクラスの男性方の下心が混じった視線が集まるようになり、それがどうしても苦手でした。高校生になり、今まで以上に自分の容姿で騒がれる事が増えたことで、自分の容姿が普通よりも整っていることは自覚しました。今までだって努力をしてきたし、その結果だと私自身胸を張って言えます。
でも、それはあくまで自分の為であって、好意もない相手からそういった視線を集めたいわけではありませんし、いい気分もしません。
なのに、普段の学校生活の中でも、特に体育の授業だけはそれが露骨に増してしまうため、私は学校の体育がある日は少し憂鬱なのです。
所がその日の朝、そんな憂鬱な日が一気に楽しみになる出来事が起きました。
朝のHRで担任の先生が話した、今後の一部授業内容の変更。
3年生の事を考え、体育や家庭科等の副教科に限り、3年生と1年生での合同授業体制が決定したとのこと。
そして各クラスの合同先リストが張り出され、私はまず自分のクラスを探した。
…あった。基本は同じ3年と1年同じ組がそのままくっつくんですか。
体育という普段から2クラスでやっていた分は3年生も2クラスでくっつくらしく、それ以外は1-1は3-1というふうになっていくらしい。
そこで私はあることに気付いた。
雪音さんのクラスって確か…
自分で思い出す前に、同じクラスの女の子たちがいち早く答えを話していました。
「ねえねえ!同じ組が相手ってことはさ!!」
「そうだよ!!あの白黒王子様と一緒だぁ!!」
「うちこのクラスで本当に良かった~!!」
「毎日なにかしら副教科あるってことは…」
「毎日1回は一緒に授業を受けれる!」
「「「「「学校さいこぉぉぉ!!!!!」」」」」
女の子たちのテンションが上がりすぎて担任の先生が慌てている。
少し気の毒だなと思う反面、私も内心で彼女たちと同じ様に喜んでいました。
いままで嫌だった体育の時間が、一気に楽しみで待ち遠しくてたまらない。
こんな単純さに自分自身で笑いそうになりながらも、でも特別に想っている人と一緒に居られる時間が増えたのだから仕方ない、そう自分に言い聞かせることにしました。
それからというもの、体育の時間が待ち遠しくて、あっという間に時間が過ぎていき、次はついに待ちに待った体育の時間。
邪魔にならないよう、いつも通り髪を後ろに束ねて早めに着替えを終えると、私はいつも以上に髪型などを携帯している手鏡でギリギリまで確認し、万全の状態で体育館へ向かいました。
1年生だからか、まだ開始まで余裕のある段階で続々と1年生の男女が集まっていく。
その中でも、女の子たちは先ほどの私と同じ様に鏡で念入りに確認していました。
理由はもちろん雪音さんたちでしょう。
やはりあの人たちはみんなの憧れなのですね。
こうして開始時間が迫り、私たち1年生よりもどこか大人っぽく見える3年生の方々が体育館に入ってくるたび、あの二人が来るのを今か今かとソワソワしている女の子たちが増えていきます。
恥ずかしながら、私もその中の一人になっていますが、なんとか表には出さずに平常心を保っていました。
まだかな、まだかな…浮つく心を必死に抑えるも時間が過ぎるたびにそれは増していきました。
やがて授業開始を告げる鐘の音が鳴った。
結局雪音さんどころか秋奈さんすらいないことに、私は自分でも驚くくらい気分が沈んでいました。
今日はお休みなのでしょうか…
せっかく会えると思ったのに。あの時、教室の窓からという遠い場所からしか眺める事が出来なかった雪音さんを、今度は同じ場所で見れるかもしれないと楽しみにしていただけに心のショックが大きいですね…。
一気に気持ちが沈んだまま、体育担当の高山(剛ちん)先生と女子担当の葉山先生が来るとそのまま合同で出席確認が始まりました。
一年生は一人ひとりやるのに対し、3年生の場合は先生と生徒との間に関係性が出来ているのか、いない生徒は誰だ~という大雑把な出席確認が始まった。
「わかりやすいやつでいないのは…白幹と黒戸か?黒戸はまあいつも通りサボりかもしれんが白幹がいないのは珍しいな。休みか?」
「あ、言うの忘れてたわ!剛ちん、秋奈と雪音は数学の美奈ちゃんの手伝いで遅れるかもって!多分もうそろそろ来ると思うわ~」
3年生の雪音さんと同じクラスの方が高山先生に二人の事を話していた。
その話を聞いた瞬間、大きく心臓が跳ねると、そのまま頭まで鳴り響くように鼓動を続けた。
また田中(美奈ちゃん)先生と一緒なのか、と一瞬こぼしそうになるもなんとか抑え、それ以上に先ほどまで沈んでいた心が一気に元の調子を取り戻し、すぐさま晴れやかなものへと変わっていく自分の現金らしさに苦笑しつつも、これは仕方ないとなんども言い聞かせることにしました。
やがて体育館の出入り口で物音がし、そちらへ全員が振り向くと、そこにいたのは私がずっと会いたいと思っていた人でした。
どうして同じ学校指定のジャージを着ているはずなのに、雪音さんが着るとああも良いブランドっぽく見えるのでしょうか。
ジャージ姿の雪音さんを見た時にまず抱いた感想がこれでした。
もともと背も高い為、サイズは大きめなのでしょう。下はともかく上のゆとりがある格好はどこか新鮮に感じました。
隣にいる秋奈さんも雪音さんと同じ190cmほどの身長ということもあり、二人がああして並べば他の子たちが言うように他のアイドルよりも一段と華やかに見えるでしょう。
高山先生が二人と一言ずつ交わすと、そのまま二人は列の最後尾へ。
雪音さんが少し怒っていることに気付いた私は、そのまま雪音さんを見続けていると、彼も私の視線に気づいたのでしょうか、タイミングよくこちらを見る雪音さんの宝石のような瞳と視線が合い、思わず固まっていると、雪音の方から視線を逸らされたので仕方なく私も前を見る事にしました。
それから、高山先生からこの合同体制について説明されると、何やらその説明の中に雪音さんたちの事を言っているかのように露骨に二人を睨む先生。
それにつられて次々と皆の視線が雪音さんたちに集まりました。
その目立ってしまう容姿のせいでまったく叶わないが、雪音さんは普段から学校生活を大人しく過ごしたいという人です。静かな環境を好み、特別はしゃぐこともなく、いつも1人か、秋奈さんと一緒にいる。
そんな彼と最近僅かな時間だが話す機会が増えたからか、私は雪音さんが周囲の視線に敏感であることに気付きました。
人の気配を感じるのが上手というか、どこに誰がいるのかを瞬時に見抜くのです。
それはずっと一緒にいる秋奈さんも一緒の様でした。
そのためか、一気に視線を浴びたことでストレスが溜まり、雪音さんは見るからに不機嫌になって現在、秋奈さんの背中に頭をぐりぐりと押し付けていた。
か、かわいい…なんでしょうかあれ。凄いかわいらしいです!普段男らしいというか大人っぽい雪音さんからは想像もできないぐらい、こう小動物感があって、なんかもうすごいです!(小並感)
雪音さんがあれをするぐらい心を許している秋奈さんが羨ましい。
いつか私にもああやって甘えてくれるでしょうか。
いつも甘えさせてもらっているから、たまにはお返しをしたいのですが…
なんて一人で脳内会議を行っていると、なにやら秋奈がよろしくない笑顔を浮かべてこちらを見ていることに気付きました。
なにかと人の心情を察するのが上手な方なので、今の私がどんなことを考えていたのかが分かったのでしょう。
私はみるみる体温が上がっていくのが分かり、一気に恥ずかしくなると勢いよく視線を逸らしてしまいました。
み、見透かされた!?いやでも私の気持ちまではまだ…いやでも多分…
するといつのまにか男女に分かれて男子はバレー、女子はバドミントンをやることになり、グループに分かれることになりました。
私は雪音さんにカッコ悪い姿を見せないよう、気持ちを切り替えることにしました。
「バドミントンの方がいいな」
「それ出番を譲ってサボれるからでしょ?」
「3年だけならまだしも1年も一緒は無理」
「仕方ないよ。自分で言うのもあれだけど、僕たち容姿整ってるし。テレビとかに出てるイケメン俳優とかアイドルとか見るけどさ、正直僕たちの方が数十倍はイケメンだよ?そういう意味ではうちの組織って顔採用とかしてたのかね?
「…筋肉ゴリラもいたろ」
「あれはあれで野性的な昭和のイケメンだよ。なんだか懐かしいね」
「…別に」
「早く会えるといいね」
「…そうだな」
「…殺せそうかい?」
「……当たり前だろ。あいつらは俺の大切なものを奪った。どんな手を使っても探し出して一人残らず殺す」
「…そうだね。陽菜ちゃんを殺した。それ以外に理由はいらないね」
「…言いたいことがあるならハッキリ言え。お前らしくない」
「……そうだね、僕らしくない。だから言わせてもらうけど…雪音、復讐をやめないかい?」
「……………は?」
「……そんな睨まないでよ。殺気も抑えて」
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ。理由はなんだ」
「僕は君の実力は組織の中でもトップだと思っている。成績での位置は№2でもね。でもだからと言って君と僕だけで彼らと殺り合うのは無理がある。実力じゃない、数だ。ナンバーズは僕と君を抜いて3名、それだけならまだいいけどそこに
「仮にやめて、俺にどうしろと?」
「今の生活に目を向けるべきだ。リコリコのみんなやフェイがいてそして真昼ちゃんがいて。そういった普通の日常を送ってみても」
「それがお前の理想なら勝手にしろ。俺は一人であいつら全員を殺す」
「それはどう頑張ったって無理だよ。さすがに君一人では彼らに勝てない」
「だからって諦めて今あるものに目を向けろと?…ふざけんな」
「……」
「よく覚えとけ。陽菜が死んだあの日から、俺の日常も死んでんだよ。俺の復讐を邪魔するならお前らも殺す。リコリコのやつらもどうでもいい、もともとあいつらはDAの人間だ。優先順位が違うだけであいつらを殺したら、その次はDAというあの半端な組織も壊すさ。さんざん陽菜の恩恵を受けていたくせに最後は陽菜をやつらに売り見殺しにした、その報いは受けさせる」
「…ユキ」
「お前もだアキ。今こうしてお前の
「僕は君に死んでほしくないんだよ。僕だけじゃない、他のみんなだって」
「しつこいな。言われたことも理解できないのか?」
「………ごめん、冷静じゃなかった」
「…はぁ、次はない。…おら出番だぞ、顔面差し出しとけよ」
「…あはは、ありがとね」
「…きもちわる」
~真昼side~
私はいま、目の前で起きている光景に驚きを隠せないでいました。
時々テレビで大会などが放送されていると観る程度だが、プロ選手たちのプレーというのは知っています。
特に男子バレーはボールの速度やスパイクの音など全てが強烈でよく覚えています。
それを踏まえても、今目の前で繰り広げられている、ある二人の戦いは常軌を逸していると言わざるを得ません。
プロ顔負けの綺麗なフォームで到底人から発生しているとは思えない、まさに大砲のような轟音を出しながら放つスパイクと、それを涼しそうにレシーブし味方のトスをもらい再び轟音。
まるでアニメか何かの様な常人離れの激しい攻防を繰り広げるのは、雪音さんと秋奈さん。
羽でも生えているかのように軽々と飛んでいますが、実際のその高さは2mを優に超えており、なんならネットを飛び越えてしまいそうなほどでした。
明らかに二人の身体能力は周りと逸脱していました。
3年生の方々はもう慣れていたのか、二人とそれぞれチームになった方々は二人の戦い見たさにわざとトスに専念しており、観戦側では3年生の女子は黄色い歓声を上げて、男性陣はどっちが勝つかお昼ご飯を賭けていました。
対して、1年生の男女は初めて観る二人の激しい戦いに開いた口が塞がらない状態で、私もその一人でした。
ただ、その時ちょうどいつかの早朝に観たある光景を思い出しました。
雪音さんが住む隣の部屋のベランダから、黒いスーツを着た雪音さんが飛び降りるその瞬間を。
最初は私がただ寝ぼけていただけかもしれないと思っていましたが、その後もの凄い速さで屋根を飛び移る彼の後ろ姿を見て、そして目の前で起きている普通ではありえない光景を前にして、私は確信しました。
あの二人には何か、他の人に隠している秘密がある、と。
先ほどもお二人が隅でなにやら言い合いをしていたのを見ました。
最初は楽しそうには話していたのに、秋奈さんがなにやら話すと、それを聞いた雪音さんの表情が、どす黒い何かに覆われたかのように、一気に見えなくなりました。
その瞬間、私の身に訪れた全身の体温が一気に下がり、蛇に睨まれた蛙のように一切動けなくなりました。
雪音さんの顔が見えなくなったのも、無意識に恐怖で顔を認識できなかったから。
憶測ですが、雪音さんが隠している秘密は私たちと根本的に違うナニカではないか、と考えています。
私たちの常識では考えられない秘密。そう思えば、いくらか雪音さんの不思議な部分も納得がいきます。
だからと言って、雪音さんの秘密を無理に知りたいとは思いません。
人には他人に隠していたいことの一つや二つはあるものです。
かくいう私も、雪音さんに知られたくない事はありますしね。
もちろん、話してくれたら嬉しいし、どんなことも受け入れたいと思います。
なので今は、話してもいいかなって思って頂けるように、少しずつ関係を深めていきたいです。
だから雪音さん、覚悟していてくださいね。
…あ、雪音さんの強烈なスパイクでボールがコートを打ち付けてそのまま体育館の天井へ。
……ああやって体育館の天井にボールが挟まるんですね。
そんなことを考えていると、試合が終わったらしく雪音さんが一人で体育館を出ていくのが見えました。
今なら少しお話しできるでしょうか。
私は少しドキドキしながら雪音さんの後をついて行きました。
外にある水道に向かっていたのか、雪音さんの大きな背中を見つけた私は、つい悪戯心が出てしまい、後ろから驚かそうと足早になっていました。
距離がどんどん近づいてもバレないので、このまま勢いに任せてみましょう!
「わ、わあ─きゃっ!?」
先ほどまでバドミントンをしていて足に疲労がたまっていることを忘れていた私は、思わず足が縺れてしまいました。このままだと確実に転んでしまう、そう思って来る痛みを耐えようと誤って目をつぶってしまいました。
「ふぎゅ!」
自分の口から情けない声が漏れる。やってきたのは硬い地面の痛みではなく、硬いながらも人特有の肌の柔らかさが感じられるものでした。
私はフローラルな中にどこか甘さがある、とても良い匂いに包まれました。
「……お前そんなお転婆だったか?」
無意識に癒されていた私を現実に戻したのは、どこか呆れが籠りつつも優しい声でした。
そこでやっと私はいま雪音の胸に抱きついてしまっていることに気付きました。
「す、すみません!!つい出来心で私!」
「疲れてこけたのにそう慌てるとっ」
運動した後で汗をかいていたということもあり、恥ずかしくなった私は急いで雪音さんから離れようとしました。
ですが、それが良くありませんでした。
ガクッと膝の力が抜け、また倒れそうになった私を、雪音さんは今度は私のお腹に腕を回して受け止めてくれました。
大きくて硬い、がっしりとした腕…。
私の
「パニくるのは勝手だが、次倒れそうになっても助けねえぞ」
「は、はい。すみません…」
「……もういい。少し影で休むぞ」
「も、もう自分で歩けます!だから降ろしてください!!」
「この短い時間で二回もこけたやつの言葉は信じられないな。もう諦めて持たれてろ」
「うぅ、すみません」
雪音さんは水道に行くのをやめると、私をお姫様抱っこに持ち替えてそのまま体育館を背にして休むことにしたようです。この体勢、雪音さんと近いのは大変嬉しいのですが、自分の運動後の汗の臭いが不安で仕方ないです…。
そして日陰になっている場所まで移動した雪音さんは、私を抱えたまま体育館の外壁を背もたれにして腰を下ろしました。
体格差が40cmほどあるからか、雪音さんが胡坐をかいてその上に座っても凄い安定感と、包まれている感じがしてとても安心します。
「水分は大丈夫なんですか?」
「なんの話だ?」
「先ほど水道に向かっていましたよね?私が邪魔しちゃったので行けなくなってしまったのではないかと…」
「軽く顔を洗いたかっただけだ。汗かくの嫌いなんだよ」
心底いやそうな顔をしながら、ズボンのポッケからまだ開封していない水のペットボトルを取り出した雪音さん。
汗を流そうとしたと言っていましたが、こんなに近くで見ても汗一つ見えないため、そこまで神経質にならなくてもいいのでは、と私が思っていると、さすがに見すぎてしまっていたか、ジトっと目を細めてこちらを見る雪音さんと目が合ってしまいました。
「…ったく、欲しいなら最初からそう言え」
そう言うや、雪音さんは新しいペットボトルを開けるとそのまま私の前に差し出してくれました。
どうやら雪音さんを見ていたのがバレたのではなく、私が飲み物を欲していると勘違いしたようです。
確かにまだ水分を取っていなかったので喉は渇いていたのですが、これは頂いていいのでしょうか。
そんなことを考えていると、飲むなら早くしろ、と目で訴えてくる雪音さん。
「い、いただきます」
根負けして雪音さんから水を頂くことにしました。姿勢を直そうとしたその瞬間、私のわずかな動きでなにをしようとしたのかわかったのか、雪音さんは私の背中と膝裏に腕を回して軽々持ち上げそのまま姿勢を起こしてくれました。
「…ありがとうございます」
「ん」
気をつかってくれたのか、顔を背ける雪音さん。長いまつ毛で肌も綺麗。本当にお人形さんみたいですね。
…触ったら怒られますかね。
「…えい」
私は勇気を振り絞って雪音さんの頬を指で押す。ふにっとした感触が癖になりそうです。それから数回ツンツンしていると、さすがに痺れを切らしたか、体格差や体勢などもあって雪音さんが無表情で私を見下ろしていました。
スゥッと雪音さんの大きな手が伸びてくる。や、やりすぎてしまいました!?
「…す、すみまへぅっ!?」
私の両頬を片手で掴み包んだ雪音さんはふにふにと何度も軽く押しつぶしては戻してを繰り返していました。
絶対におかしくなっている顔に恥ずかしくなり、なんとか抵抗を試みるも、素早く両手を雪音さんの掴まれてしまいました。
「ゆ、ゆひねひゃん!わひゃひがわるひゃったでひゅから!」
「案外楽しんでそうだな。反省が見えないから継続だな」
「ひょんにゃあ!?」
「…ふっ、間抜けな顔だな」
今にも消えそうな、不意にこぼれた雪音さんの笑いは、確かに私の耳に届きました。
眼を細めて笑う彼の顔は見ているこっちが照れてしまいそうなほどきれいで、いつまでも眺めていたいと思いました。
雪音さんは私の頬を掴み包んでいた手を離すと、そのまま頭の方へポンポンっとおいては優しく撫で始めました。
「不思議とお前がそばにいるのは落ち着くな」
いつもの大人っぽいクールな表情とは違い、どこか年相応の少し意地悪さが混じりながら微笑む雪音さんから、私は目が離せませんでした。
ただ、私も思ったことを伝えなきゃ、そう考えていたら、いつの間にか私は雪音さんの頬に手を添えて、まっすぐ彼を見ていました。
「私も!…私も、雪音さんがこうしてそばにいてくれて、凄い落ち着きます。
「…そうか。それは良かったな」
「ええ、それはもうとてもよかったです。これからはこうして雪音さんと一緒に授業を受けられるんだと思うと尚更です」
「毎回は出席しねえよ。うるさいのは嫌いなんだ」
「それでしたら学校には来てください。サボったときのお話しを聞きたいので」
「寝る、ボーッとする、以上。これでわざわざ学校に行って説明する手間は省けたな」
「むぅ、意地悪ですね…来てくれないのですか?」
「意地悪なんでね」
「私は雪音さんと一緒に授業を受けたいですし、またこうして少し抜けて一緒に休憩したいです」
「随分と意思を主張するな、なにが狙いだ?」
「狙いなんてないですよ?ただ雪音さんはなんだかんだで優しい方なので、私がこういえば最後には一緒にいてくれるんだろうなと思っているだけです」
「さようで」
「それに言いたいことがあるなら言葉にしろと言ったのは雪音さんですからね」
私の言葉に雪音さんは一瞬驚いたように目を見開くと、小さくため息をこぼすと、すぐさま目の色を変えました。
まるで獲物を前にした肉食動物のように、鋭くこちらを捕らえた
知らない彼の表情に驚き身体が跳ねる。それが引き金になってしまいました。
雪音さんの右手が私の腰に周り、左手が首筋をなぞりながら後頭部に添えられ、グイっと全身が引き寄せられました。
「……くそがき」
耳元でささやかれたその言葉に込められた感情は、言葉ほどトゲトゲしいものではありませんでした。
ただ今の私はそんなことを考える余裕はありませんでした。
彼の触れた腰や首筋、そして囁かれた耳からじわじわと心を侵食するかのように熱が上がり広がっていきました。
本日何度目かのあまりの恥ずかしさに私は雪音さんから飛び降りて距離を取りました。
その際、頂いたお水を落としてしまうも、雪音さんはそれを立上る際に拾い、ゆっくりと体育館の方へ数歩進むとこちらへ振り向いて手招きをしました。
私はそのまま、彼の手招きに誘われるまま、小走りで駆けて隣に並んだ。
「…たまにはサボりに付き合えよ」
「っ…仕方ないですね。怒られたときは庇ってくださいね」
「はは、くそがき」
雪音さんは笑いながら、手に持つペットボトルに口を付けて一口飲み込んだ。
それは私がさっき飲んだものと一緒のもの。
ただのお水なのに、なぜかカルピスや炭酸の抜けたラムネの様に甘かったお水。
あなたはどう感じているでしょうか。
私と同じ様に甘く感じているのでしょうか。それとも普通のお水でしょうか。
答えは聞いてみないとわかりませんが、今はまだ聞かないことにします。
質問するタイミングはこれからいくらでもありますから。
今までどこか憂鬱だった体育の時間。
ですが、こうしてこれから雪音さんと一緒に居られるのなら、また甘いお水を飲めるのなら、もう憂鬱ではありませんね。
私は体育のある時間が学校生活の中でも特別楽しみになりました。
(…この水、なんか甘ぇ)
ただ甘さを出したかった…!!