彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。 作:美女り鯛
なんか書いているうちに文がおかしくなっていく病にかかったので、おかしい点が多いかもしれませんので、注意してお読みください!
徐々にお気に入り数が増えていてとてもうれしいです!もっと頑張ります!
家に帰り、制服に着替えた雪音は気分が乗らないからか、重い足取りで学校へと向かっていた。
時折来るメッセージにうざったるいと感じながらもちゃんと返信する雪音。彼は世間で言うツンデレというやつなのだろうか。その答えはまた後ほど判明するとかしないとか。
のんびり歩いているせいか、まだ学校まで距離がある。暇を潰そうと、音楽を聴くためにヘッドホンを着ける雪音。何を聴こうかとプレイリストを見ようとしたその瞬間、雪音のスマホが鳴った。相手の名前は…
『もしもしもしもし〜貴方の愛しの千束さんですよ〜』
「…働け」
『だってお客さん来ないんだもぉ〜ん!ひーまー!ねぇ〜学校着いたー?』
「アーツイタツイター」
『絶対嘘でしょ!?大根にもほどがあるわぁ!』
「終わったら直ぐそっち向かってやるからしっかり働けよ、またな」
『え!ちょm…』
無理やりに通話を切った雪音。そのせいなのか、もしくはよっぽど暇なのか千束からのイタズラなスタンプ連打が来た。
それに対しての雪音の対応は…もちろん無視。
気を取り直し、今度こそ音楽をと思った瞬間、再度通話が飛んできた。
その瞬間、彼の額に浮かぶ血管。嫌なタイミングばっかかけてくる相手を確認せずに通話を開始した。
「…お前なぁ『やあ雪音、学校向かってるかい?』…なんだ秋奈か」
『なんだって失礼だね。声音からして怒ってるみたいだけど、…もしかしてまた千束ちゃんかい?』
「ああ。そしてお前もな。なんでこうもお前らはタイミングの悪い時に連絡してくる」
『ははは!まあ"愛"だよ。あ、それより一つ聞きたい事があるんだけど、今いいかい?』
「…嫌だ」
『それは良いって事だね。それで本題なんだけど、雪音は1年生の
「…顔はわかる」
『へー?それなら何故、彼女は君のスーツと学生証を持ってうちの教室に来たのかな?』
「…げっ」
『お店に忘れてった学生証を仕事終わりに千束ちゃんから受け取ってそのまま、その後に彼女と関わる出来事があった、って感じかな。偶に出るドジっ子がここで発揮されたね』
「…なんでそう具体的にわかる…それよりその物は受け取ってくれたのか?」
『もちろんそうしようと思ったんだけどね、本人が直接渡したいって言うから、昼休みに来るからその時がいいよって伝えておいた。ほら、もう直ぐ昼休みだから急いでおいで。一応言っておくと、こっちはもう授業終わってるからサボってないよ』
「…はぁー。もう着くから、切るぞ」
『はーい、待ってるね』
秋奈からの連絡に更に足取りが重くなる雪音。もう帰ってしまおうか、という考えが頭をよぎる。
だが、残念なことにもう校舎は目の前。これからなにかめんどくさい事が起きそうだなと感じ、再度深いため息を吐きながら校門を通った。
目的地である自身の教室へ向かう。すれ違う生徒たちが雪音の姿を見ては頬を赤らめどこかうっとりとしていた。それを完璧に無視し、久しぶりの登校のため教室の札を確認する。【3-A 】と記されているそれを見てちゃんと自分の教室であるため後ろドアから入る。
「やあ雪音。やっと来たね」
教室に入ると一番窓側の列の後ろから二番目の席で、こちらに綺麗すぎる笑顔を向けながら手を振る青年がいた。
彼の名前は白幹秋奈。綺麗な黒髪に青目で常に優しい笑顔を振りまく、どこか儚さもある爽やか美青年である。
その見た目と名前から学校では白王子として通っている。雪音と合わせて白黒王子と言われており、この学校で知らぬ者はいないと言われているほど有名である。雪音を学校に行かせるよう巻き込んだ張本人であり、雪音の腐れ縁兼親友をやっている。
雪音が滅多に登校してこないため、二人揃って学校にいることは珍しい。そのため、こうして今日みたいに二人が揃うと…
「…こういう騒がしいのが嫌いだから来たくないんだ」
「まあまあ、こうして僕たちがいることを喜んでもらえるなら嬉しいじゃないか。過去の僕たちからしたら考えもしなかっただろ?」
現在、二人の視界には、教室の前の廊下で二人の姿を一目見ようと人だかり(女子生徒しかいない)が出来ていた。それでも決して中に入って騒がないのは、二人のファン民度の良さからか、またはその顔面偏差値の高さゆえに二人の空間だけ創造物のような圧倒的美に包まれているからか。
ともかく、他に生徒たちは二人に近づけないでいた。
「マジで顔面強すぎねえか…」
「ああ…同じ人種だと思えねえ。FFの新キャラだろあれ」
「あそこだけすごい良い匂いしそう。ていうか現にしてる」
「ほんと綺麗…」
「私、雪音先輩初めて見たけどなにあの圧倒的なほどの美!」
「やっぱりこの高校きてよかった…どのアイドルよりも推せるわ」
周りの生徒がそんな話をしていても二人は気にせずに話している。そして話題は件の天使様へと移った。
「それで、件の椎名真昼はいつ来る」
「さあ?お昼ご飯でも食べてから来るんじゃない?」
「…秋奈、あいつのクラス知ってるか?」
「1-Aって言ってたかな。行くのかい?」
「この状況じゃ入りずらいだろ」
「君が行っても大して変わらないと思うけど…どうやら無駄なお世話だったみたいだよ」
「は?それはどういう…」
秋奈がクスリと笑みをこぼし、教室の後ろドアを指さす。雪音もその先を見ると、来るまでに人をかき分けてきたのか少し疲れ気味な、そしてこの状況にとても困惑しているような表情をしている椎名真昼がいた。
さすがにこの状況で渡すのはまずいと悟ったのか、困った顔をする真昼。周りの生徒も1年生の有名人・天使様こと椎名真昼の登場に驚いている。その整った容姿から学年問わず告白をたくさん受けている真昼だが、どれも断ってきているため、すでに彼氏or好きな人がいるのではないかと噂されていたり、そもそも恋愛に興味がないのかなんてことも言われている。そんな人物がこの大人気な二人の前に現れたことで、いろいろ変に考える者もいるだろう。現に、ところどころでヒソヒソと見当違いな話しをしている声が聞こえてきた。
「…やあー椎名さん!こっちこっち!わざわざ
状況があまり良くないと察した秋奈が、手招きしながら真昼を呼ぶ。雪音と違い、しっかりと学校に来ている秋奈はモテる真昼を妬んでいる子が少なくないのを知っている。それに自分たちも人気があるのを自覚している。
そのため先に先手を打つことにした。
秋奈に呼ばれた真昼は紙袋を両手で持ちながら、てってってっと少し小走り気味に二人のそばに向かった。
「っ…。あ、あの…」
「あ、二人は面識なかったよね。椎名さん、こちらが黒戸雪音。雪音、こちらが椎名真昼さん。君の
手早く二人の紹介を済ませると、今回の目的を少し協調して話した。真昼が来た理由と持っている紙袋の正体を悟らせるその言葉に周りの生徒も理解したのか、どこか納得した顔を見せていた。
「あ、改めまして、1年の椎名真昼と言います。こちら、黒戸さんの持ち物でお間違えないですか?」
真昼も秋奈の意図に気づき、落とし物というていで話を進める。持ってきた紙袋を雪音に渡しつつ、秋奈の方を見て軽く会釈した。
「…俺は雪音。黒戸雪音です。ああ、俺の物で間違いない。わざわざ届けさせて悪いな、助かったよ。ありがとう」
「…いえ、こちらこそ渡せてよかったです」
「二度手間にさせちゃって悪かったね椎名さん。雪音、君あとでちゃんと彼女にお礼しときなよ?」
「わかってる。椎名…さん、今度改めてお礼する。今回はありがとう」
「お礼なんてそんな…当たり前のことをしただけですので」
それでは、と二人に会釈しその場をあとにしようとする真昼。歩き始めようとしたとき、来るときに人をかき分けてきたからか、彼女の方に糸くずのようなものが乗っていたことに気づいた雪音はすかさず真昼の手を掴んだ。
「おい、肩に糸くずが…」
何も気にせず彼女の手を掴んだ雪音。だが、その手を掴んだ瞬間、ビクッと震えたと思ったら明らかに平熱ではないだろうその体温に思わず言葉が詰まる。
急に掴まれたことに驚き、バッと振り向いた真昼の顔は先ほどまでの冷静な顔など見る影もないほど、赤く染まっていた。突然のことで動揺しているのか、やや潤んでいるその瞳と赤く染まる頬が合わさったその表情は、どこか色っぽく、その場で見ていた周りの男女関係なく見惚れていた。
「っ…」
「体温が高い…大丈夫か?」
「雪音…君は相変わらずだね」
この白黒王子たちを除いてだが…。
秋奈は雪音の発言に苦笑している
なんにも気にしていない雪音はサッと真昼の肩の糸くずを取り、身長差が30cm以上あるためかその場に跪き、真昼の額に手を添えて体温を測る。
あまりにも自然なその動きに固まる真昼。自分の今の状況に頭が追い付かず、グルグルと完結しない思考がとうとうキャパを超えたのか、ボンっと頭から煙を出してその場に倒れた。
椎名真昼は緊張していた。
昨日、目が覚めるといつ着替えたのかもわからない部屋着でベッドで寝ていた。どうやって帰ってたのか記憶がない。思い出そうと振り返ると、自暴自棄になって人生を諦め死のうとしていたところを誰かに助けてもらったことを思い出す。
初めてだった。あんなにあたたかくて優しい抱擁は。
あの時初めて、ここにいていいんだって、自分を見つけてもらえた気がした。
いつまでもこの優しいぬくもりに包まれていたいとそう思った。
あの時の感覚が鮮明に思い出され、胸の奥からじわじわと心地の良い何かがあふれてくる。
同時にカアァッと熱くなる顔。あまりの恥ずかしさで思わず両手で顔を隠す。
すると自分の手がなにか持っていることに気づき視線を移すと、それはいかにも高級ですというような見た目と質感の黒いスーツだった。誰のものか、答えはすぐに分かった。
(私を助けてここまで送り届けてくれた人のだ…)
分かった途端、なんて醜態を晒してしまったんだろうと後悔する。他人に迷惑をかけて最低だと自分を責める。
だがそれでも、いけないとわかっていても助けてくれたあの時のぬくもりを思い出しては嬉しくなってしまう。
助けてくれた、自分にとってのヒーローのスーツを見た。
拭いても落ちなかったのだろう、うっすらと泥はねの汚れがぽつぽつとあった。
自分を助けるためについてしまったその汚れ。そんなただの汚れが、今の彼女にとっては何ものにも代え難い大切なものに思えた。
そっと優しく愛しそうにスーツを撫でる。
フワッと香る甘い香水のような、どこまでも誘惑する甘い蜜のような匂いが彼女の脳を刺激する。
その時、気を失うその瞬間に微かに聞こえた声を思い出した。
『もう大丈夫だ…安心しろ』
優しくどこまでも落ち着くような声。いつまでも聞いていたいほど心地いいその声音をもう忘れないようにとしっかり記憶する。
自分がどこかおかしくなっているのはわかっている。だがそれでも、今はこの初めての感覚にただ溺れていたい。
物心着く前から決して満たされることのなかった器が、あの一瞬の出来事がキッカケで溢れそうになるまで満たされていく。自分はどうしてしまったんだろう。もう過去の自分には戻れない気がする。今までは興味がないと言い聞かせて求めないようにしていたのに、一度知ってしまったらもう無理だ。
思わずスーツを抱きしめる。心の奥底がじんわりと暖かくなる。甘い蜜の匂いに包まれる。満たされる。ああ、やっぱり無理だ。もう一度もう一度と求めてしまう。歯止めが聞かなくなりそうな所で、ふと今何時何だろうと気になり時計を見る。
【18:50】だいぶ寝てしまったと思ったところで、このスーツをどうするか考える。
(返さなきゃ…ダメですよね。少し残念ですが、持ち主の方も困っているでしょうし。そうと決まれば、クリーニングですが、確か近くのクリーニング屋さんの営業時間が…)
その瞬間、あることに気付いてバッと立ち上がる。
(営業時間、19時まででした!い、急いで行かないと!)
バタバタと外に出る支度を整え、スーツを綺麗に畳み紙袋に入れて自室をでる。
すると、何やら良い匂いがキッチンの方からする。気になるがスーツが優先だと思い、玄関に行こうとするもテーブルの上に何やらメモと1000円札が置いてあることに気付く。
ここに送り届けてくれた人が書いてくれたのかもしれないと、思わずメモを見る。
そこには綺麗な字で、キッチンに手作りのたまご粥があるので食べれるなら食べて、知らない人が作ったものだから捨てても良いという事、そして勝手に食材を使ってしまったからその分のお金。というような内容が書いてあった。
律儀な人だなと思った。ここまで送り届けてくれた人であり、そもそも命の恩人が作ってくれたものなら疑うなんて事はない。後でありがたく頂こうと決めて、閉店まで残りわずかであることを思い出して、急いで家を出た。
その後、無事にお店に着き、開店する朝の8時には出来ているらしいので登校時に寄ることにした。その時、スーツの内ポケットにこのスーツの持ち主の学生証が入っていたらしく、受け取った。
(黒戸…雪音さん。綺麗な人。学年は…3年生。同じ学校の先輩だったんですね。
良かった、明日しっかりお礼が言える)
黒戸雪音。私でも聞いたことのある、うちの学校でも凄い容姿が整っているとかでかなりの有名人だ。
そして、滅多に学校に来ないらしい。なんでも、バイトで忙しくしているんだとか。
あとは、ご友人も大変綺麗で周りからは白黒王子と呼ばれているらしい。有名人だとか王子だとかは特に興味はない。ただ、この人が私を助けてくれたんだ。
あの優しさを、温もりをくれたんだと思うと、恥ずかしさと嬉しさが込み上げてきた。
トクンッと胸が高鳴るのがわかった。明日会える、それがただ嬉しくて。私はその学生証を大事に抱えながら家に帰った。
色々支度をして、黒戸さんが作ってくれたたまご粥とスープを頂く。それはもう今まだ食べた中で1番美味しくて、安心する優しい味だった。
私はただ黙々と食べた。途中、何故か涙が流れて来ちゃったけど。
何故だか、今まで頑張ってきて良かったと、そう思えた。
洗い物を済ませ、お風呂も入って寝る支度を整えると早々にベッドへと向かう。
明日はいつもより早く起きて、しっかりと準備しようと。少し騒がしい鼓動をなんとか落ち着かせながら、私はゆっくりと意識を手放した。
チュンチュンと鳥の可愛らしい鳴き声で目が覚めた。設定していた目覚ましよりも早く起きれて、どこかスッキリとした。朝日を浴びようとカーテンを開ける。
すると目の前に見えた光景に思わず言葉を失った。
(…えっ、今お隣のベランダから黒戸さんが。そ、それより!今飛び降りて…!?)
特徴的なその綺麗な白銀の長髪が朝日に照らされキラキラと輝いていた。
私が昨日持っていたスーツとおそらく同じだろうジャケットを羽織って、黒いスーツに包まれた彼の他にはシルバーのアタッシュケース、そして脇にさしてあったのは…
(あれは、刀…ですか。いや、まさかそんな。…ありえない。一般の人が刀を持っているはずがないですし…。それよりも)
ベランダを空けて彼が飛び降りた方を見る。
ぴょんぴょんと屋根を飛び移りながらものすごい速さで移動している。
明らかに常人の動きではないそれに私は呆気に取られていた。
(…黒戸さん、貴方は一体、何者なんですか?)
全く情報の整理がつかないまま、私は身支度を整えクリーニング屋さんでスーツを受け取り、学校へ向かった。
朝のHR開始まであと20分。私はスーツを返そうと、3年生の教室へと向かった。3年生のフロアに1年生の私がいるのがよっぽど珍しいのか、たくさんの視線が集まって、少し居心地の悪さを感じる。だがそれよりも、黒戸さんにこれから会うと思うとどこか緊張して。途中で黒戸さんの教室を聞く。
3-Aへの教室へ着き、中を覗いてみる。…いない。まだ来てないのかなと考えていると、窓側の後ろに座る男性と目が合った。
綺麗な人だな、と内心思っていると、その男性が席から立ち上がり、こちらへと向かってきた。
「誰かをお探しかい?僕でよければ呼ぼうか?」
「あ、はい。あの、黒戸さんは来ていますでしょうか」
「え、雪音の知り合いかい!?珍しいね!」
「い、いえ!お知り合いではなく、貸していただいた物を返しに来たんです」
「貸していたもの?それって一体…」
「スーツなんですけど、それと中に入っていた学生証も一緒に」
そう言って紙袋の中身をその男性の方へ見せる。すると、一瞬だが優しそうな笑顔が絶対零度のごとく冷たい無の表情へと変わった気がした。気のせいかもしれないが。
「なるほど!わざわざ悪いね。ただ今日はあいつお昼休みぐらいから来るんだよね。どうする?僕が預かろうか?」
「そうなのですか。いえ、お気持ちは嬉しいですが、お礼もしたいのでまたお昼休みに伺おうかと思います。ご迷惑じゃないですか?」
「そっか!うん、それが良いね。あ、自己紹介がまだだったね。僕は白幹秋奈。君は…」
「1年生の椎名真昼です。…白幹さんって黒戸さんのご友人でよくお話に出てくるあの?」
「あはは、どんなお話か気になるけど、多分その白幹だね。雪音の友達は僕しかいないからね」
「黒戸さんとはお付き合いが長いのですか?」
「んーそうだね、もうずっと一緒だね。腐れ縁みたいなものかな。…もうそろそろ時間かね。雪音になるべく早く来るように伝えておくから、お昼休みにまたおいでね」
「あ、はい。ありがとうございます。それではまた後ほど伺います」
「あはは、椎名さん堅いね。うん、待ってるね」
ヒラヒラと優しい笑顔で手を振る白幹さん。私は軽く頭を下げて教室をあとにする。
黒戸さんが来るまでだいぶ時間がある。昼休みになったら確実に会えることが分かり、緊張がさらに高まった。
ああ、早く会いたいな…
結局、昼休みまでの授業全部集中できなかった。こんなことは初めてで、でもどこか楽しかった。私は悪い子になってしまったのかもしれない。
授業が終わるチャイムが鳴り昼休みに入った。
まだ、黒戸さんが来ているかわからないので先にお昼ご飯を食べようとお弁当を取り出す。
ふと周りに注意を向けると、どこか学校が騒がしい。特に女子生徒が。周りの声に集中すると、どうやら黒王子が学校に来ているとのこと。
それを聞いた瞬間、私は勢いよく立ち上がってしまい、椅子を倒してしまう。突然のことで視線が集まる。
私は恥ずかしさと、何より黒戸さんに早く会いたい気持ちが溢れて、紙袋を持って3-Aの教室へと向かう。
ひ、人が多い…。この人たち全員、黒戸さんを見に来たのだろうか。凄い人気…。
3年生のフロアには、手前の教室ですら見えないほどの人が集まっていた。
ここを通らないと黒戸さんに会えない。行くしかない。
私は紙袋を大事に抱え、気合を入れて黒戸さんの待つ教室へ向かった。
恐らく3分、体感ではそれ以上に感じたがなんとか教室の前についた。ぱぱっと髪を整え教室を覗く。
視線の先に見えるのは、楽しそうに話す白幹さん。そしてその話し相手が私が会いたかった人。
白幹さんが私に気づき、手招きをして声をかける。
「…やあー椎名さん!こっちこっち!わざわざ
初めての経験だった。人を見て息をするのを忘れるなんて。周りは私の事を天使だなんて言うけれど、全くそんなことない。あの人こそが本物の天使だ。そう思うほどの圧倒的な美。輝く白銀の髪に宝石のような赤い目。雪のような白い肌。あの人のすべてが、作り物のように整っていた。
ああ、やっと会えた。私のヒーロー。
私は早く彼のそばに行きたくて、少し駆けてお二人の下へ向かった。
近くで見れば見るほど、綺麗で。この人があの時私を助けてくれたんだって思うと、さらに緊張する。
白幹さんがお互いの紹介をしてくれている。どうやら、この件を落とし物として話しをするらしい。
確かに、この二人の人気からして、今の私の立ち位置はあまりよくない。それを察してこのような対応をしてくれたのだろう。白幹さんたちには感謝しかない。
いけない!…このままだと黒戸さんから見たら私は悪い印象しかない!すぐに私からも自己紹介をしないと!
「あ、改めまして、1年の椎名真昼と言います。こちら、黒戸さんの持ち物でお間違えないですか?」
私はすぐに自己紹介をすると持ってきた紙袋を黒戸さんへ渡す。
まつ毛長い…綺麗…。本当にお人形さんみたい。
「…雪音。黒戸雪音です。ああ、俺の物で間違いない。
わざわざ届けさせて悪いな、助かったよ。ありがとう」
心地の良い声音。あの時助けてくれた声と同じ、優しくて落ち着く。ああ、まただ。もう何回目かわからないこの感覚。胸の奥がじんわりと温かくなってくる。もっと話したい。その気持ちは全く止まる気配がない。
だけどこのままだとお二人の邪魔になってしまう。それだけは避けたいので名残惜しいがもうそろそろ戻ろう。
そう思い、私は教室をあとにしようとする。
その時だった。不意に手を掴まれる。その手はやっぱり男性のそれで。初めて異性に触れられたことで思わず体が跳ねてしまった。黒戸さんが私の肩に触れる。その瞬間、さっきまでの緊張と合わせて、最早私の耳には自分自身の鼓動しか聞こえない。身体の隅々があふれ出るその熱に侵されていく。やっぱり心地いい。
ああ、手放したくないな。そう思いながら、私は緊張の限界を迎えたのか、意識を手放した。