彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。 作:美女り鯛
それから雪音はご飯の支度を整え、真昼の連絡を受け彼女の下へと向かった。
以外に早かったなと思いながら真昼の家のインターホンを鳴らす。
ガチャッとドアが開き、中から部屋着に着替えた真昼が隙間からひょこっと雪音を覗くように顔を出した。
「準備が出来たなら行くぞ」
「…」
「さっさとしろ。飯が冷める」
「…あの、」
「なんだ」
「私は今部屋着なのですが…」
「?、だからどうした」
「うぅ…恥ずかしいんです」
「知らん。ほら、さっさと行くぞ」
「あっ!待って!」
グイっとドアを引くと、まるで無抵抗のようにすんなり開いた。真昼は恥ずかしさのあまり咄嗟に自身の手で身体を隠す。淡いピンク色のネグリジェを着ていた真昼。お風呂上がりで体温が上がっているからか露出している肌がややほたっており妙に艶っぽい。
身長さから自然と雪音を見上げる形になる真昼。
彼女のこんな姿を学校の者が見たら間違いなく普段の8割増しで騒がれることに違いない。
流石に普通の男子学生に今の真昼の姿は刺激が強すぎる。
だが、今この瞬間、真昼の目の前にいる男は普通ではない。
何なら同年代よりも色んな経験が豊富な男なのである。
真昼の姿を見ても不意に綺麗だなとは思っても理性がどうこうなるような事は一切なかった。
よって雪音がする行動も通常通りである。
「その部屋着いいな、よく似合ってる。さて、飯食うぞ。いい加減腹減った」
「え!ちょっと今何を…きゃっ!」
雪音は相変わらずの速さで真昼を姫抱きにすると、真昼の手に持っている鍵で閉めるよう促す。
真昼も反論することを諦めて鍵を閉める。
「…おい」
「な、なんですか」
「お前、ちゃんと髪乾かしたか」
「…しましたよ。ちゃんとドライヤーで」
「半渇きだな。急いだのか」
「ち、違います!いつもこのぐらいで終わらせているんです!それに少し暑くて」
雪音に抱きかかえられたまま猛抗議する真昼。身体は暴れていないのに顔だけ見ると今にも暴れそうな表情をする彼女に、意外と器用だな、と冷静に分析する雪音。
そのまま部屋に入ると、食卓には座らせずソファの下に真昼を座らせる。
その行動に思わず?マークを浮かべる真昼に対し、雪音はすたすたと風呂場に向かう。
そしてすぐ帰ってきた雪音が持っていたのはドライヤーと櫛だった。
そのままコンセントに差して真昼の後ろのソファに座ると、慣れた手つきで真昼の髪を乾かしていく。
「あ、あの!別にそこまでは」
「甘えとけ。そのまま風邪ひかれても後味悪い」
「体調管理はいつもしっかりしています!」
「それに…」
宝物を扱うかのように、優しく丁寧に髪を櫛で梳かしながら乾かす雪音。その彼の表情は真昼からは視えないが、話している雪音の声音がいつもより優しさを帯びていることに気づき、そっと耳を傾ける。
「…綺麗な髪だからな。丁寧にやっていたなら今日もやらないと前のお前が悲しむ」
「っ!…ありがとうございます」
それから真昼はだんまりと、ただ雪音にされるがままになっていた。
幾分かおとなしくなった真昼に不思議がるも、まあいいかと髪を乾かす事を継続させる。
もともとある程度乾かされていたため、そこまで時間もかからずに終えられ、まだ冷め切っていない夕食を食べることが出来た。
「…美味しいです、とても」
「そうか、口に合ったならよかった」
「それにしても意外です」
「料理が出来ることがか?」
「いえ、それはこの前作っていただいたスープで分かってましたから。そうではなくて、この絵…」
真昼は一口だけ食べた手元のオムライスに目を向けた。
そこにあったのはふわふわの半熟オムレツが乗ったオムライス。そこにはケチャップで器用に描かれた可愛らしいクマのイラストが真昼を見つめていた。
「クマがどうした?猫が良かったのか?」
「いえ、そうではなくてですね。なんと言いますか、イメージになかったので思わず」
「イメージ?オムライスにはケチャップで絵を描くのがルールじゃないのか?」
「えっと…初めて聞きました」
「…そう、か」
雪音はよほどの衝撃だったのか、思わず手に持っていたスプーンを滑らせ、眉間に皺を寄せて深い溜息を吐いた。
雪音の様子からして長年騙されていたのだろうことを察した真昼は、緊張していたというのもあって話題になればとその話を聞くことにした。
「どなたかからそのようなことを聞いたのですか?」
「…妹の好物なんだが、その時にな」
「妹さんがいらっしゃるんですか」
「ああ。双子の妹だ」
「双子…ですか。同じ学校じゃないんですね」
特に深い意味もなく自然に聞いたその質問。だが、真昼がその質問をした瞬間、一気に部屋の空気が変わったことを彼女は感じ取った。もともと周りの変化には敏感だった真昼だが、それでもこの変化は今までに体験したことのないものだった
背筋が凍るような錯覚。まるで首元に鋭利な刃物が当てられているような、命の危機を感じる。
空気が薄くなったように呼吸が荒くなる。
僅かに雪音の顔を見ると、その眼は一切の感情が抜け落ちたような、どこまでも暗く深い闇を写していたように見える。
なぜ、このような顔をするのか。そんなものこの雪音の様子を見れば誰だって予想はつく。
「…妹は数年前に死んだ」
雪音の口からこぼれたその言葉は真昼が予想していた言葉のまんまだった。
「…す、すみません。失礼なことを」
「別にいい。ここまで話したら誰もが行きつく疑問だ」
「いえ、それでも軽率な発言でした。そもそも他人の私が踏みこみすぎてました。すみません」
「いや、俺も空気を悪くした。とりあえずオムライスはその妹が俺に騙していたってことだ。真昼のおかげでこれ以上恥をかかなくて済んだ。ありがとう」
「い、いえ、本当に私は何も。…あの、一つ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「私の他にオムライスを食べさせた方はいらっしゃるんですか?」
「ああ、バイト先のやつにな。時々うちに来るんだよ『♪~』…ちょうどこんな風に突然な」
雪音が話していると突然部屋のインターホンが鳴り響いた。雪音は何か注文した覚えもないため配達の線は無い。
他に来客の予定も組んでいないことから考えられる相手は一人しかいない、そう雪音は考えた。
インターホンのモニターを確認すると、やはり予想通りカメラの向こうには黄色みがかった白色のボブに赤いリボンが飾られた美少女─千束が目をキラキラさせながらカメラをまじまじと見ていた。
雪音はめんどくさくなるからと、カメラを切り居留守を使う。すると雪音のスマホに一件のメッセ―ジが贈られた
『出ろ!』
たった二文のそれは、こちらがいることがバレている証明になっていた。
何度目かの溜息を吐くと雪音は静かに通信をオンにした。
「…なんだ」
『なっんで無視するの!?』
「なんかめんどくさかった」
『ひっど!こんなに超ぷりてぃ~な千束さんがせっかく晩御飯一緒に食べようときたのにさ!』
「あいにく絶賛晩御飯中だ。そういうわけでまたな」
『ちょ~いちょいちょい待って!なら一緒に食べようよ~せっかく来たんだしさ』
「…勝手に来たんだろうが」
ちらっと真昼の方を見る。一応会話も全部聞こえているだろうから、どうするかと悩んでいると、パタパタとこちらの方へ近づくとスマホの画面をこちらに見せてきた。
私、自分の部屋に戻りましょうか?
そう書かれた画面を見せながらジッと雪音を見つめる真昼。表情は普通に見えるが、雪音からしたらそうでもない。自慢の洞察力でちゃんと見れば、少しだけその整った眉が下がっている。
わずかでもこの時間を楽しいと感じていたために、唐突に終りが来たことで寂しいと思っているのだろうか。
どうするか、と悩んでいると画面越しで何かを感じ取ったのか、見えていないはずの千束がその勘の鋭さを発揮させた。
『もしかしてさ…誰かいる?』
弱々しくでたその言葉は少し戸惑いのようなものが含まれていた。
明らかにテンションが下がっている。先ほどと声音が全く違うそれは相手の人柄を知らぬ真昼でも感じ取れた。
これは下手に誤魔化しても後でさらに面倒なことになることを昔の経験で分かっている雪音は正直に白状した。
「ああ、いる」
『…っ!だ、だれ!?』
「なんでそれをお前にいう必要がある?」
『それはっ、ないけど…
明らかにしょんぼりしている。心なしか一回りちっちゃく見える千束の様子に、雪音の良心が痛む。
というかなにか誤解を生みそうなその発言に思わずツッコミそうになる雪音。
千束の発言から表情が視えなくなった真昼は、横からちらっとモニターを覗く。
やはり彼女から見ても分かりやすく悲しそうな表情をしている千束が写っていたようで、真昼は再度自身のスマホで文字を打つ。その手は先ほどよりもどこか強く文字を打っているようで、ダッダダッダとまるでスマホが銃撃されているかのようだった。
文が出来たのか真昼はズイッと紋所を見せるかのように雪音の顔へスマホを突き出した。
もし、お二人が良ければ、一緒に食べたいです。
お邪魔なら私は自分のお部屋に戻りますので、この方を入れてあげてくれませんか?
それを読んだ雪音は真昼と千束を交互に見る。どちらも似たような困り顔を浮かべている。
今日一番の溜息を吐く。考えることを放棄した雪音は、モニターの方を向いた。
「…相手から許可が出た。入ってこい」
その言葉を聞いた瞬間、先ほどまでしょんぼりしていた顔がみるみるうちに生気を取り戻しキラキラと瞳を輝かせた。
『え、いいの!?』
「今開けたから良いからさっさと来い」
『やった~!ふひひ、ありがと!』
にっこにこの眩しい笑顔でお礼を言うと、そのままモニター外へと消えていった千束。そのタイミングで通信を切ると、雪音は玄関の鍵を開けて食卓に戻った。
「悪いな」
「いえ、私がご迷惑じゃなければ全然」
「いや、きっと喜ぶ。というか覚悟した方がいい」
「何をですか?」
「あいつのやかましさに」
「それは覚悟した方がいいですね。それより…」
「どうした?」
「
「仕事のときにな。それがどうした?」
「いえ、ただ…私は黒戸さんの事、なにも知らないな、と」
「…そうか。だが知らなくていい。お前は
「それってどうい『♪~』…」
「この話はここまでだ。ほら、うるさいのが来た」
雪音は親指を立てて玄関の方へと指した。すると、ガチャッとドアが開く音が鳴るとドタドタと慌ただしく廊下を歩く。
「入れてくれてありがとぉ~!千束で~す!!」
バンッと勢いよく廊下との仕切りが開いた。
出てきたのはパンパンのスーパー袋を手に持ち満面の笑みを浮かべた千束。
先ほどのモニター越しの表情は何だったのかと問いたい感情に駆られる雪音はなんとか我慢してスルーを決める。
対して真昼は、あまりの千束のハイテンションぶりに驚き唖然としている。
するとバチッと真昼と千束の眼が合う。
両者瞬きすること数回。流石の沈黙に耐えられなかった真昼はペコッと軽く会釈する。
一方で千束はまだ固まっていると、何かに気づいたのか、ハッと眼を見開き大きく口を開けた。
「あぁー!あの時の天使様だ!!」
真昼を指指してそう叫ぶ千束。人に指を指すなとスープを飲みながら注意する雪音。誰だこの人はと疑問が浮かぶ真昼。
三人が各々のリアクションをすると、雪音が席に立ち上がり千束から袋を奪い取りキッチンに移動する。
「お前は何を持ってきた?」
「ユキの作る生姜焼きが食べたいなって!」
「味染み込ませたいから今日は無理だ。半端なのを作るのは嫌だからな。オムライスならすぐできる」
「ほんと!?全然おっけ~!ユキのオムライス私大好きだし!嬉しい!なにか手伝う?」
「いや、こっちは良いから向こうの相手をしてやってくれ。お前は知っているかもしれないが向こうは誰だかわかってないぞ」
「ああ!そっか!ならお話してこよーっと!」
ふひひっとにやつきながら真昼の下へ向かった千束の背を見ては、なにかおかしいことしなきゃいいけど、と真昼を心配する雪音。とりあえず早く作って戻ってやるかと考え慣れた手つきで調理に取りかかるのだった。
そうしてキッチンから真昼の下へ向かった千束は、真昼の向かいに並べられた雪音のご飯を自身と真昼の間に移動させて真昼の向かいに座った。
「どーも!錦木千束です!ユキと同じバイト先で看板娘してます!歳は17歳!よろしく!」
太陽のように笑顔が眩しくて可愛らしい人、真昼が千束に抱く第一印象はこれだった。
自分の髪よりも少し色が薄い白金の髪。くりくりで大きな眼。形の整った薄いピンク色の唇。
こんなに可愛いらしい人は同じ学校にいたら絶対噂になっているはずなのに知らないってことは、同じ学校ではないのかなと色々考えている真昼。
すると千束はニコニコの笑顔を浮かべては真昼の事を覗くように見上げていた。
そこで自分がずっと黙っていたことに気づいた真昼は慌てて自己紹介を始めた。
「あ、すみません!椎名真昼です。黒戸さんとは同じ学校に通っている16歳の高校一年生です。よろしくお願いいたします、錦木さん」
「ああん!そんな他人行儀みたいなの寂しいからやめてぇ~!ち・さ・とって呼んでよ!私も真昼ちゃんって呼びたいし!どうかな?」
ズイッと顔を真昼の方へ寄せる千束。でっかい瞳が宝石のようにキラキラと輝いている。それは千束の提を受け入れてくれるという期待の眼差しだろう。
距離感近いなと思いつつ、ただそこに邪なモノなどは一切感じず、あるのはただ好奇心と仲良くなりたいっていう純粋な好意だということは伝わっていた真昼は、意外とすんなり千束の事を受け入れた。
「それでは、
「~!うん!今はそれでいいよ!ありがと!よろしくね真昼ちゃん!」
明らかに顔がデレて溶けている千束。後にこの千束の様子を見た雪音は、
「…お互い自己紹介が出来たようでなによりだ。それで、お前はただここで飯を食いに来ただけか?千束」
やがてオムライスを作り終え真昼たちの下へ戻った雪音。千束の前にオムライスとスープを出すと、彼女はその眼をまるで宝石の様に輝かせ、手を合わせるとすぐにスプーンでオムライスを掬い口に運んだ。
「ん~!美味しぃ~!やっぱりユキの料理は最高だね!」
「おい、無視するな」
平然と雪音の問を無視してオムライスを口に運ぶ千束。毎回幸せそうに食べる千束はその後も全く手を止めることなく、気づいたらあっという間にご飯を平らげていた。
途中、さらに数回千束に問いかけるも返事がもらえなかったことに拗ねたのか、雪音は眉間に皺をよせながら残りの食事を平らげた。
そんな二人のやりとりをおかしく思ったのか、思わずクスっと笑ってしまった真昼。
すると、それを待っていたかの様に千束が反応した。
「御馳走様!ねえねえ、真昼ちゃんはなにか好きなこととかあるの?」
「えっと、料理が好きです」
「おぉ~料理かぁ~!今度真昼ちゃんのご飯も食べてみたいな!ねね、今度うちでご飯一緒に作って食べようよ!ご飯パーティー!」
「…お前そんなに料理できたか?」
「失礼な!私だってやれば出来るんだよ!普段はやろうとしないだけ!」
「ほう?ならまずは俺に食わせてほしいものだな」
「ほ~いいだろう!この千束さんのミシュランレベルの料理テクニックを披露してやるぜ!」
「どっから来るんだその自身は」
二人でじゃれ合っていると、その光景をどこか羨ましそうな表情を浮かべ眺めていた真昼。
するとその彼女の様子に気づいていた雪音と千束は、言葉を交わさずにそれぞれが動く。
雪音は全員の食器を片付け、千束は自身のスマホを取り出した。
「真昼ちゃん!もしよければ連絡先交換しない?いつでも連絡できるようにさ!」
「え、はい!私で良ければ」
「お!やったね!」
リビングから二人の楽しそうな声をBGMに洗い物を進めていく雪音。真昼のことを詳しくは知らないが、声質的にお互いが本当に喜び楽しそうにしていることが分かり、その頬はわずかに上がっていた。
「あ、あの」
「ん?」
「千束さんと、その、…雪音さんってどういう関係なのでしょうか」
頬を染めながらどこか弱々しく言葉を紡ぐ真昼。彼女が二人の関係に疑問を持つのは仕方ない。
あれだけ目の前で仲良さそうに接していれば、なにか特別な関係なのではないかと勘繰ってしまうというもの。
普段の真昼なら、特にそういっ質問をするどころか疑問も持たないのだが、相手が自身の中で特別な存在である雪音と、目の前にいる学校でも見たことがない美少女で加えて明るく素敵な性格ともなれば、美男美女でお似合いと思っても仕方ない。
そんな彼女の不安の籠った表情を見た千束。
彼女の眼は他の人とは少し違う。
錦木千束は非情に優れた動体視力を持っている。それは相手の筋肉や服の動きを見て次の行動を予測することができ、彼女の前では銃だろうとなんだろうとその眼が捉える全てを予測し回避することが可能である。
もちろん例外というものもあり、今のところ千束が真正面から対峙して動きを予測できないのは雪音だけなのだが、今はその話は置いておこう。
そんなわけで、千束の前ではわずかな表情の変化など関係なかった。
「私とユキの関係か。ん~難しいね」
腕を組み、どう説明しようかと唸っている千束。そんな仕草すらどこか可愛いらしいと思う真昼だった。
「少なくとも、真昼ちゃんが心配しているような関係ではないよ。私たちは付き合ってない」
どこか寂しそうに笑う千束。先ほどまでの彼女が纏う空気が変わったことに気づいた真昼は、少なくとも千束の方は雪音に自分と同じような感情を抱いているのではないかと予測していた。
「…でも、私はユキが好き。この感情を隠したくはないし嘘もつきたくないから言うけどね」
あははっと苦笑気味に笑った千束は頭に手をのせてお茶らけていた。そんな千束の返答に真昼は(…やっぱり)と自分の予測が的中したことに気づいた。
すると千束は真昼の手に触れると、彼女の視線を自分に向けるよう誘導した。
「真昼ちゃんもでしょ?ユキのこと」
「…私は、そんな「だめだよ」…えっ?」
「私は真昼ちゃんと今日初めてちゃんと話したけど、何となく真昼ちゃんは自分のことを隠すというか後回しにする感じがしたんだよね。違ったらごめんね?でも、もしそうなら勝手だけど私は真昼ちゃんにそんな自分を後回しにするような生き方はしないでほしいんだよね。好きなら好きでいいんだよ。その気持ちを隠さなきゃいけないことなんてない。君の感情を押し殺す理由なんてそんなの存在しないんだよ」
千束は真昼の指を自身のそれと絡めて握った。
その瞬間、千束は小さく「おぉ、すべすべだ」とおっさんみたいな感想を呟きながらも、ジッと真昼の目を見つめる。
そのどこまでもまっすぐな千束の瞳に真昼は思わず見とれて言葉を発せなかった。
「ユキのこと、好き?」
「…はい」
「ふひひ、そうだよね。ユキかっこいいもんね」
「はい、とってもかっこよくて、優しくて、あったかいです」
「…わかる。
「ふふ、はい」
二人はお互いに微笑み合いながらクスクス笑い合っていた。同じ人を好きになった者同士、たくさん共感できることがあるんだろう。まだ二人がちゃんと顔を合わせてわずかなのにも関わらず、二人の距離はグッと縮まっていいた。
「…随分仲良くなったんだな」
そんな乙女の花園とも言える二人の空間にいともたやすく割って入ったモテる男─雪音は、三つのマグカップを持ってきては二人に差し出した。
中には良い香りを漂わせる淹れたてのホットコーヒー。
「まあねー。女の子の秘密だからユキには教えないよ」
「はい、私と千束さんの秘密なので」
「そうか…」
息ぴったりに雪音を揶揄う千束と真昼。この短時間で随分と仲良くなったもんだと思いながら、自分で入れたコーヒーを味わう雪音。
(お互いに良い友人が出来たようで何よりだ)
今日はやけに苦みを欲していたために淹れた自身のブラックコーヒー。
一口飲めばその味は不思議と甘みを感じていた。
どこか心地の良いその甘みを雪音は思いのほか悪くないと感じていたのだった。