彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。   作:美女り鯛

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あれやこれやと書いていたらめちゃくちゃ長くなってしまいました…
千束と真昼のキャラ崩壊がありますが、どうぞお楽しみいただけたら嬉しいです!


8話

「…お前はいつ帰んだ」

 

「んー今日はもう泊まろっかなぁ~」

 

「…おい」

 

「真昼ちゃんも今日はもうこっちで寝ようよ~パジャマパーティー!」

 

「お前着替えねえだろ」

 

「ふっふっふ…私を誰だと思ってるのさ。カバンにお泊りグッズ入ってるよ」

 

「決定事項じゃねえか」

 

「あったりめえよ!てかユキはこんな夜中にこの超絶美少女千束さんを帰らせようとするの?」

 

「俺の前にはただの千束さんしかいないな」

 

「どこに目ん玉つけとんだぁ~?いるでしょここに!ナイスバデぇ!で、プリティぇ~!なおなごが!!目の前にっ!!!」

 

「足の調子どうだ?」

 

「え、あ、湿布が効いて少し楽になりました」

 

「そうか。痛みが完全に引くまではあまり動かすなよ」

 

「ちょおぉぉい!ナチュラルに無視すんなぁ!」

 

食後の真昼を足の手当をするためにソファへ座らせると、雪音は彼女の足元に座り自身の膝に真昼が痛めてる足を乗せ慣れた手つきで手当てをしていく。その間の千束との会話を無視したためか、雪音の背後に回ると彼の首に手を回し羽交い絞めする。

だが、そんな千束の攻撃を強靭な体感で一切ぐらつかない雪音。それを面白がったのか、千束はさらに両足を雪音の腰に巻き付ける。その間に雪音は真昼の手当が終ったために救急箱を片付け、棚にしまおうと片付けるために立ち上がる。

 

「お?おぉ!」

 

千束を負ぶっているのに平然と立ち上がる雪音。一気に視界が高くなったことで驚きつつも感動で声が漏れる千束。すると千束は真昼の方を見て「ねえねえ見て真昼ちゃん。…ナぁマぁケぇモぉノぉ」と首に回した手を離して足の力だけで雪音にぶら下がり、動きが遅いで有名な動物であるナマケモノのモノマネを披露した。

 

「…」

 

「…」

 

一気に空間の音が消えた。それはまるで消音ボタンを押したテレビのように。急に自分の子どもが明日お弁当がいると告げた時の様に。静寂が場を支配した。

思わず救急箱をしまおうと歩いていた雪音の歩みは止まり、背中から感じる体温が一気に上昇したのを感じた。

 

 

無言で見つめ合う千束と真昼。

 

 

見つめ合う千束と真昼。

 

 

千束と真昼。

 

 

…わずかに鼻をひくつかせ、目を中心に寄らせる千束。

 

 

真昼の身体が僅かに震えた。

 

 

「……ふひゅ

 

真昼の口から少し変な音が小さく漏れた。突然へんてこな音が聴こえ、雪音と千束は目が点になりながら真昼へと視線を移した。

変な音が漏れてしまった張本人である真昼は、千束のおふざけと自分から出た音に耐えられなかったのか、雪音たちに顔を見られないよう逸らして耐えるように身体を震わせていた。

だが、長い髪から覗く小さな耳が信じられないぐらい赤く染まっていたのを見て、よっぽど恥ずかしいのだろうと察した雪音。

 

「あ!今笑った!私の勝ち~!」

 

「…お前絶対変顔したろ」

 

「私のナマケモノが面白かったんだよ。持ちネタにしようかな」

 

「楠木を笑わせたら俺はお前を讃えるよ」

 

「お、言ったな?コンビで頑張ろうねユキ」

 

「アホか」

 

千束を下ろしてから救急箱をしまいに行く雪音。そのうちに千束は今だ笑いから帰って来ない真昼に詰め寄って犬の様に戯れている。

それを楽しそうに逃げようとする真昼。部屋に二人の楽しそうな笑い声が響く。

 

(意外に相性がいいのか。ミカが知れば泣いて喜ぶだろうな)

 

いつも甘味などをサービスしてくれるミカに対して、たまにはお返しをするかと雪音は自身のスマホで彼女たちの楽しそうな所を写真に収めた。

 

『カシャッ』

 

普段からあまり写真を撮らないためか、思いのほか大きなシャッターが出たことに驚いた雪音。そして珍しい音が聴こえたためか、千束がピタッと真昼と戯れていた手を止め、ソファから顔をひょこっと出した。

それに釣られて真昼もソファから顔を覗かせた。

どこか二人の姿がミーアキャットみたいで先ほどの真昼の様に吹き出しそうになるもなんとか耐えた雪音。

 

「珍しいね、ユキが写真撮るの。…はっ!もしかして美少女二人がいちゃいちゃしてるのがめちゃくちゃ絵になってて思わず撮っちゃった?」

 

「いや、ミカに見せてやろうかなって」

 

「あの、ミカさんって?」

 

「えっとね、私たちのバイト先の店長で私のお父さんみたいな人。見た目は厳ついけど、すっごく優しくてコーヒーがめちゃくちゃ美味しいの!そーだ!真昼ちゃん近いうちにうちのお店来てよ!たくさんサービスするよ!ユキもいるし!」

 

「い、いいんでしょうか?」

 

「いーのいーの!うちのお店ね、制服が和服なの!私は赤でユキは黒!すっごい可愛いから今度一緒に着てみようよ!ほんと雰囲気良いところだから!後で予定決めよ!」

 

「千束落ち着け、椎名さんが圧倒されてるぞ」

 

あまりにも千束の勢いが凄かったからか、目をぱちぱちさせて放心状態の真昼。そんな彼女を見るやあまりの可愛らしさにキュートアグレッションでも起きたのだろうか、悶絶しながら千束は真昼に抱き着いた。

 

「あわわっ!?ち、千束さん!?」

 

「か~わ~い~い!」

 

とろけた表情で真昼に頬ずりする千束。そんな彼女を少し困った顔をしながらも真昼は微笑み千束の頭を撫でていた。

撫でながらも真昼はちらっと雪音を見つめる。

 

「あの、私がバイト先に行くのはお邪魔ですか?」

 

僅かに不安がる真昼は弱々しく真昼を見上げていた。

もしかしたら断られてしまうかもしれないと真昼は思っているのだ。

そんな彼女の心情を察した雪音は軽く息を吐くと、真昼の頭にポンッと手を置いた。

 

「お前が来たいなら来ればいい。当日構ってやれるかはわからないが、空気が落ち着いた良い喫茶店だ。きっと気に入るだろ。まあこいつがいると騒がしくなるが、それでも良ければおいで。千束の相手をしてくれるなら俺からもなにかサービスしてやる」

 

落ち着いた声音で話しながら、優しく真昼の頭を撫でる雪音。その表情は仲の良い千束や秋奈に向けるそれとはまた違う、どこか切なさが籠った優しい顔。まるで壊れ物に触れるかのように、そっと丁寧に慎重に撫でる手。

真昼の視界にはそんな雪音しか映っていなかった。

 

「…行きます。行きたいです、お二人のいるお店に」

 

「ん、楽しみにしとく」

 

「やったぁ~!それじゃ後で早速予定決めようね!」

 

「ふふ、はい!」

 

「んでユキはその写真を私に送ってね!真昼ちゃんと仲良くなった記念!」

 

「はいはい」

 

雪音はスマホを操作して千束に先ほどの二人の写真を送った。ピロン♪っと可愛らしい音が千束のスマホから鳴る。

 

「お、来た来た!おぉ~めちゃくちゃ綺麗に撮れてんじゃん!流石ユキ~才能マン!」

 

「写真に上手い下手もねえだろ」

 

「それがあるのよ。ね、見て見て真昼ちゃん、めちゃくちゃ綺麗じゃない?」

 

千束が隣に座る真昼に自身のスマホを見せると、真昼はその画面に写った自分たちの姿を見て思わず身体が止まった。

 

「…凄い、楽しそう」

 

そこに写っている千束と真昼は弾けるような笑顔で楽しそうにしていた。お互いに明るい髪色だからか、髪の一本一本が光に反射して二人はどこか煌びやかだ。

真昼はこんなに自分が楽しそうに笑えることに驚いていた。

幼い頃から、ただ親に自分を見てほしくてひたすら努力していた。

勉強も運動も家事も人望も、自分が出来る全てを完璧にしようとただひたすらに。

だが、そんな彼女の健気な努力が報われることはただの一度もなかった。

完璧になれば親はきっと自分を見てくれる、そのために本来の自分を隠して生きてきた。

他人が求める完璧な存在である天使の仮面をつけて。

その仮面をつけてから彼女が本当の意味で笑うことは無かった。

面白くなくとも笑顔を見せないとそれは天使ではない。

天使とはいつでも慈愛に満ち、優しく微笑む完璧な存在だ。

それ故に、椎名真昼は本当の笑顔の作り方を忘れていた。

それはなぜか…理由は簡単だ。

 

求められていないから。

 

万人が求める彼女の姿は天使の椎名真昼だ。ただの椎名真昼は求められていない。

 

だから彼女は仮面をつけていたのだ。

 

それなのにこの写真に写る椎名真昼の笑顔は。

 

 

「良い顔してんな」

 

真昼の目を真っ直ぐ見ながら雪音は優しく溢した。

 

「え…」

 

思わず大きな瞳をさらに開けて雪音を見る真昼。

一体今何を言ったのだと、口の出さずとも彼女の表情がそう訴えていた。

 

心の底から(・・・・・)笑ってる顔だろ、これ」

 

そう、笑えているのだ。天使の仮面をつけた笑顔ではなく、椎名真昼本人の心の底から漏れた笑顔。

それを真昼自身もこの写真を見てから気づいたのだ。

 

「これからもそうすればいい。椎名さん自身の好きな時に笑えばいい」

 

「……どうしてあなたは…」

 

小さくこぼれた言葉の続きは出ない。それはあまりの驚き故か。

 

「てか今思ったんだけど、なんでユキは真昼ちゃんを苗字で呼んでんの?」

 

「そういえばそうだな、よくわからん」

 

「えーなにそれ?真昼ちゃんはどっちがいいの?」

 

「私は…もし雪音さんが良ければ、」

 

「おー!だってユキ、呼んであげなよ!」

 

ほれほれ~っとまるで中学生の冷やかしのマネをする千束。

若干のやかましさを感じる雪音だったが、最早千束に限ってはいつものことなのでスルーすることに決めた。

そして真昼の呼び方に対して、いつまでもさん付けするのはめんどくさいと思っていたため、この際切り替えるのも丁度いいかと結論付けた。

 

「それじゃ改めて、よろしく真昼」

 

極めて自然体に彼女の名を呼んだ雪音。その落ち着いた声音を聞いた真昼は、脳内で自身の名を呼ぶ雪音の声が繰り返し響く。そしてみるみる顔を紅くし、プシュ~っと音を出しながら頭から大量の煙を噴き出していた。

 

「あっ、うぁ…」

 

「あ、真昼ちゃん言語力失ってる…」

 

「意味わからなすぎだろ…」

 

 

 

 

 

 

 

「結局泊まるのか」

 

「もちのろん助!ここまで来たら朝までゲーム三昧じゃい!」

 

「俺も真昼も明日学校だぞ」

 

「ゲーム…」

 

「お前も食いつくのか…」

 

ゴロゴロしながら今夜は雪音の家に泊まることを決めた千束。そして勝手に雪音の家にあるゲーム(主に千束しかやらないので実質千束用)を準備していた。すると、その様子を見ていた真昼はどこかウキウキしたようで落ち着きがない。

なぜなら真昼は今までこういった娯楽とは縁がない生活を送っていたため、ゲームという未知に興味があったのだ。

それを察知したのか、雪音はもういいやと諦めた。

 

「何やるんだ?」

 

「んー3人だからマリコパーティー?」

 

「…長くなるな。お前は先に風呂入って来いよ、それまで真昼にある程度教えるから」

 

「えぇ~なんかもうお風呂めんどくさぁ~い。私も一緒に遊びた~い!」

 

「良いからさっさと行け」

 

「うぅ…ふぁ~い」

 

とぼとぼ肩を落として風呂場に向かう千束を見送りながら、雪音は千束の代わりにゲームをセッティングしていく。

その様子を静かに隣で観察する真昼。その眼はジッと雪音の手元を見ていた。

 

「…最初からやるから覚えとけ」

 

「…どうしてですか?」

 

「興味があるんだろ?ここに来ていつでもできるようにしとけ」

 

雪音の発した言葉に身体が跳ねた真昼は驚いた顔で雪音を見つめる。

 

「それはどういう…」

 

「そのまんまだ。どうせ今後もお前はここに来るだろうから暇潰せるようにしとけって言ったんだ。千束に気に入られたらずっと付きまとわれるからな」

 

そう言うや雪音は真昼に自分の手元を見るよう促す。その意図を理解した真昼は無意識に綻ぶ口元を隠すことなくゲームのセッティングを眺める。

大きな瞳を輝かせる真昼を見てバレないようにクスっと笑う雪音。

その後も真昼が覚えられるようにゆっくりと作業を進め、この後千束と一緒にやるゲームを起動した。

 

「色んなゲームがあるのですね」

 

「このゲームはもともと集団で出来るすごろくがメインで、その中に色んなミニゲームがあんだよ。んで今からお前がやるのはそのミニゲームだけだ。簡単だし色んな遊び方が出来るから初心者も慣れやすい」

 

「…なるほど、私に優しいってことですね」

 

「そうだな。これがお前のコントローラー」

 

「…あ、ありがとうございます」

 

真昼にゲームのコントローラーを渡す雪音。それをどこか思うことがあるのか歯切れが悪い真昼。

突然様子が変わった彼女に疑問を抱いた雪音は眉間に皺を寄せ彼女の顔を覗き見た。

 

「なにかあったか?」

 

「…なんで先ほどから…名前を呼んでくれないのですか」

 

何かを訴えるように、けれどどこか寂しそうに雪音を見上げる真昼。ギュッと自分の裾を握って告げた不満の無い様に、一瞬雪音がフリーズした。

彼女の目を真っ直ぐ見る雪音は思わず口を紡ぐ。彼の中でその眼がある人物と重なった。

 

「…悪い、良くない癖だった」

 

居た堪れなくなったのか、彼女の頭に手を置き優しく撫でる。

宝物に触れるかのように優しく丁寧に。

それが気持ちよかったのか、雪音が手置いた時は驚いていた真昼だったが、撫でられ始めて今は目を細め気持ちよさそうにしている。

そんな彼女に小動物的なものを感じながらも、今はゲームをさせてやろうとすぐに手を止めた。

雪音が手を離した瞬間、真昼からどこか切なそうな声が漏れる。

 

「甘えたか?」

 

「そ、そういうわけでは!?」

 

思わず食い気味に否定した真昼だったが、直後に俯いてなにやらモジモジしている。

 

「言いたいことがあるなら口に出せ」

 

「…もう少し」

 

「ん?」

 

「もう少しだけ、甘えさせてもらっても良いですか?」

 

「ふっ、言い回しが遠いな」

 

「ひゃっ?!な、何を!?」

 

「甘えたいんだろ?ならやり方はこっち流だ」

 

雪音は真昼を抱きかかえるとそのまま移動し、ソファ下にあるクッションの後ろに真昼を抱きかかえたまま腰を下ろした。そしてクッションの上に真昼を下ろす。

するとそのまま雪音は後ろから真昼の首元に手を回すと、そのまま自身の方へ引いていく。

ポスっと軽い音が鳴った。

 

「これなら練習しながら甘えられるだろ」

 

真昼の頭をを軽く撫でながら話す雪音は、そのまま彼女が持つコントローラをその手の上から持つと、ボタン一つ一つを一緒に押しながら操作の説明をしていく。

その様子を真昼は先ほどから黙りこくって眺めていた。

 

「…おい、惚けてないで操作覚えろ」

 

「ぷぅっ」

 

真昼の様子に気づいていた雪音は、彼女の頬を片手で押して、クイッと彼女の顔をこちらに向けさせた。

可愛らしくも間抜けな顔をしている真昼を視てクスクスと笑う雪音。そんな彼を見て、やっと自分が変な顔をさせられていることに気づいた真昼はみるみる顔を紅くさせた。

 

「…な、なにするんですか!?」

 

「操作方法を覚えようとしないお前が悪い」

 

「そんなことありません!ちゃんと覚えようとしています!」

 

「ならこれ出来るよな?」

 

「ええできますよ!その証拠をどうぞご覧になってください!」

 

半分やけくそ状態でミニゲームをプレイした真昼。

流石成績優秀者なだけあって、見事なプレイを披露する…。

 

「ってわけにはいかないのがゲームの面白い所だそうだ」

 

「うぅ…こんなはずでは…」

 

現実は上手くいかず、結果は悲惨な結末を迎えた。

真昼はあまりの自分の不甲斐なさに膝を抱えて俯いてる。

長い髪からちらっと覗く小さな耳が真っ赤に染まっていた。

 

「これで認めろよ?話聞いてなかったこと」

 

「…すみません」

 

「ははっ、正直になってきたか」

 

「揶揄わないでください!」

 

「大きい声がでて何より」

 

またも真昼の頭を撫でる雪音。その手は先ほどとは違って少し雑さが混じるも、真昼はその雑さがこれまで経験したことがなかったため、くすぐったくも気持ちいいと感じっていた。

無意識に雪音の胸に身体を預けた真昼。その行動が意味するのは、もう少しこの気持ちよさを堪能させろというのと、このまま続けろという意思表示だ。真昼自身、それを自覚していないが、長年千束の相手をしていたり、妹がいたことから何となくこの状態の彼女の気持ちを察した雪音は、思わず笑いがこぼれた。

 

「…ふっ、それじゃ正直に甘えてくるようになったし、千束が来るまでこのまま教えてやる」

 

真昼の身体をさらに寄せてもたれかからせた雪音。先ほどよりもさらに身体が密着されたことで、体温だけでなく雪音自身の香りまで真昼を包み込んだ。

 

(甘い匂い…香水でしょうか。そして微かに混ざる雪音さん自身の匂い…全部いい匂いで落ち着きますね。まるで全身が雪音さんに包まれてるみたい…あったかくて、ずっとこうしていたい)

 

よほどリラックスしているのか、真昼は足を伸ばして全体重を雪音に預けていた。

 

「あの…コレ、ちゃんと教えて下さいね」

 

「はいはい」

 

ある日を境に人の温もりを知ることが多くなった真昼。今まで孤独に過ごしていた彼女は心の底から笑うことが出来なかった。だが、雪音に包まれている今の真昼は、ごく自然体に笑顔を浮かべていた。

その表情は普段の彼女が見せる仮初の天使様ではなく、本物の天使様の様に美しいものだった。

 

 

 

 

 

「はいは~い、千束さんが出ましたよ~…ってちょおいちょいなにやってんだ君たちはっ!」

 

お風呂から上った千束はバスタオルを首にかけながらリビングへやってくると、彼女の目の前には雪音の間に座り彼の胸にもたれかかる真昼がいた。そして二人で対戦形式のミニゲームで遊んでいた。

 

「見ればわかるだろ。特訓だ」

 

「いやそれはわかるわアホんだら。私が言いたいのは、その距離感だよ!私がお風呂行ってる間に何があった!?」

 

「人を座椅子にする趣味があったらしい」

 

「な、なにを言っているのですか!?決してそれは違います!信じてください千束さん!」

 

「いいんだよ、真昼ちゃん。人の趣味は様々だからね。ちなみにユキは人の椅子になるのが趣味だよ」

 

「おい」

 

「そして私はかわいい子を抱きしめるのが趣味~!っというわけで、ユキはいつも通り任せた!そして私は真昼ちゃんの趣味に付き合いま~す!」

 

「千束さん!?どうか誤解を解いてください!」

 

「隙あり」

 

「ああっ!?」

 

「失礼しま~す!」

 

千束は手に持っていたドライヤーをユキに見せ、自分の髪を乾かすよう伝える。そしてあらぬ誤解を千束から受けていることに気づいた真昼は思わずテレビから視線を外し、千束に異議を唱えた。だが、その隙を突いて雪音は真昼を追い抜き勝利を収めた。

途中まで優勢で初勝利間近だっただけにショックがでかい真昼。そんな彼女に「要練習」と頭を軽く撫でて立ち上がった雪音は後ろのソファに座り、千束がその隙間に素早く入り込んだ。

 

「俺も風呂入りたいんだがな」

 

「髪を乾かしてからどぅぞぉ~」

 

「ウザ」

 

「髪を自分で乾かさなくて良いし目の前には絶世の美少女!極楽じゃ~!ガッハハハハ!」

 

「どこの悪代官だよ…」

 

「にしても真昼ちゃんふわふわでいい匂い!シャンプーどこの使ってるの?」

 

「えっと、最近あの女優さんがCMをしているやつで…」

 

真昼がドライヤーで千束の髪を乾かしている間、二人はゲームをしながら楽しそうに話している。

真昼よりも髪が短いからか、千束の髪を乾くのが早い。慣れた手つきで千束用のオイルをつけて櫛を使いドライヤーを済ませる。

 

「終ったから俺も風呂入ってくる。ゲームするなり好きにしろ。なにかあったら呼べよ」

 

「はーい!」

 

「い、行ってらっしゃいませ!」

 

わざわざ振り返って見送る彼女たちを見て、まるで姉妹だな、と内心で呟く。

そして脱衣所で服を脱ぎ、カゴに入れようとしたところで雪音の動きが止まった。

彼の視線の先には可愛い装飾の赤いランジェリーが乱雑に置かれていた。

こういったことはこれが初めてではないのだが、毎度注意していた雪音。

案の定、今回も彼の額には血管がビキッと浮かび上がった。

 

「千束ぉ!毎度泊まるのは良いが下着類は単体ですぐ洗うか自分のカゴに入れろ!今度また失くして変態扱いしたら一か月飯奢りだぞ!」

 

「いやあぁぁぁ!ごめんごめん!すぐ洗います!」

 

「はぁ…ネットの位置はわかるだろ。好きに使え」

 

リビングにいる千束に向け怒鳴った雪音は、そのまま洗濯ネットを目の見える場所に置いて風呂へと入った。

シャワーを頭から浴びていくと、脱衣所に千束が入ってくる気配を感じた。

 

「お、ネットありがとね!他に洗うもの在る?」

 

「お前が洗うものだけでいい」

 

「ほいほーい。あ、お詫びに背中でも流そうか?」

 

「良いからさっさと行け。変態()

 

「へんたっ!?こ、これは覗きとかではなくてっ!」

 

「真昼ちゃんバレた!逃げよ!」

 

脱衣所のドアから小さく覗く人の気配を感じた雪音は、千束のバカな提案を拒否しつつ二人を指摘する。

隠れながら覗いている人物は現在この家にいて風呂に入っている雪音自身とドア越しにいる千束の他にはあと一人。そのため、容易に覗き魔を特定できた。

生まれて初めて変態呼ばわりされた真昼は一気に顔を紅くさせあわあわとパニックになっている。

そんな彼女を千束は笑いながら回収し、リビングへと慌ただしく戻っていった。

 

千束(アイツ)に関わるとバカにでもなるのか…」

 

呆れつつも、どんどん楽しそうにしている真昼を思い出してまあいいかと笑った。

それから手短に髪や身体を洗い流し、浴槽に浸かる。

全身の力が抜け、完全な脱力状態になった雪音は、それからしばらく風呂を満喫した。

 

バスタオルで水気をふき取ると、ドライヤーで髪を乾かそうとするも、目当てのものが所定の位置にない。確かに先ほど千束の髪を乾かした後にこっちに持ってきてしまったはずだと考えるも、目の前に突然現れるわけではなく。諦めてタオルで乾かすことを決めた雪音は、そのまま髪をガシガシと拭きながら楽しそうな声が響いているリビングへと向かった。

どうやらまだ二人はゲームをしているらしい。

先ほどと違い、ソファに仲良く並び座っている千束と真昼。

 

(今のところゲーム歴が長い千束がやはり優勢か…)

 

気配を消して二人の戦いを眺めていると、今二人がやっているのは色んなキャラとマシンを選んでレースをするゲーム。千束はリコリスということで運転技術を身に付けている分、コース取りが上手い。ゲームに現実の運転技術が関係あるのかは一旦置いておく。

一方、真昼はゲーム初心者ということもあってアイテムを使うタイミングとかがなかなか分からないらしい。それぐらいならいいのだが、今の真昼はそのアイテム云々以前の問題だった。

 

「ほっ」

 

「よっ」

 

「わっ」

 

左右にカーブするたびに身体がそちらの方へ傾く小さな背中。なかなか見ていて飽きないな、とクスっと笑った。

今の千束の順位は1位で真昼は7位。ラスト一周で結構な差が開いている。

千束の顔を見て見ると、もう勝ちを確信しているのか、ニヤついていた。

 

(初心者にはアシストが必要だな)

 

雪音は真昼の背後に移動すると、上から被さるようにして、真昼の手の上からコントローラーを握った。

 

「ひゃっ!?雪音さん!?」

 

「わぁ!ユキ!?出てたの!?」

 

「二対一だぞ千束。ほら、よそ見するな」

 

「うおっしゃーかかってこいや!」

 

「そ、そんなこと言われてもこの体勢は色々とドキドキします!」

 

「知らん。覗きした罰だな」

 

「あれは誤解なんです!」

 

慌ただしく抗議する真昼を無視し、彼女の手越しにスティックを操作する雪音。カーブするごとに傾きかける真昼の身体を無理やり固定させる。

みるみる順位を上げる真昼&雪音チーム。あっという間に順位は3位まで上昇し、千束を追いこし圏内に捉えた。

 

「うげぇっ!?キラーに金キノコ!?やばば!ちょおサンダーはこのタイミングでダメでしょ!?」

 

最後のアイテム場所で真昼たちが得たアイテムはどれも強力な効果を持っている物だった。

 

「雪音さん!これ凄い奴なんですか?

 

「めちゃ凄い奴だな。よし、アシストはもう終わりだ。勝ってこい」

 

「は、はい!あの、タイミングだけ教えてください!」

 

「3秒後に一回、元の姿に戻ったらアイテム連打しながらひたすらドライブ」

 

「わかりました!」

 

「なんで私はコインしか出ないんよ!?」

 

「日頃の行い。」

 

「ちょっとまってぇぇぇぇ!?」

 

残り数メートルで颯爽と現れた真昼は千束を追い抜き1位でゴールした。

千束は2位。

 

「や、やりました!初めて勝ちましたよ雪音さん!」

 

「おーおめでとう。最後上手くショートカットしてたな、上手い」

 

「くぅぅ、悔しいけど喜ぶ真昼ちゃんが可愛くてなんかもういい…」

 

よほど初勝利が嬉しかったのか、ソファから飛び降りてぴょんぴょん飛び跳ねる真昼。そんな彼女を悔し涙なのか喜ぶ真昼が眩しくて泣いているのかは判別できないが、顔をぐちゃぐちゃにしながら崇めている千束。

 

(こいつら、見てて飽きないな…あ、ドライヤー)

 

千束の背中から現れたのは、さっきまで雪音が探していたドライヤー。どうやらさっき脱衣所に来た時に持って行って隠していたようだ。

 

「ドライヤー隠すなよ」

 

「あ、そうだ!ちょいちょいユキ、こっち座って」

 

「あ?なんで「雪音さん…」…真昼?」

 

いつのまにか喜びの舞から帰ってきていた真昼がクイッと雪音の裾を掴む。

 

「座ってくれませんか?」

 

「…わかった」

 

二人に促されるまま、ソファの下に座った雪音。そしてその後ろに千束と真昼が座り、ドライヤーと櫛をそれぞれ持っていた。

 

「真昼ちゃんに聞いたんだけど、さっき真昼ちゃんの髪を乾かしたんでしょ?だから今度は私たちが真昼の髪を乾かそうかなってね!いい?」

 

「よろしいですか?」

 

「…んじゃ頼む」

 

二人に髪を任せた雪音は、手持無沙汰になったためぼーっと目の前を眺めている。

頭の方では、少女二人が一生懸命に髪を梳かしドライヤーを当てている。

 

「相変わらずユキの髪はサラサラだね」

 

「どうやったらここまで綺麗になるのでしょうか…羨ましいです」

 

「男のわりにはだろ。髪質とか手触りは二人の方が俺は好きだ」

 

「…そういうところだぞ、この誑し」

 

「す…え…うぇ…」

 

髪を乾かしている間にぶちこまれた雪音の爆弾に、千束は頬をうっすら染めながらもまだ免疫があるのかジト目を送りながら手を止めなかったのに対し、真昼はピタッと手が止まり口をパクパクと声が出せずにいた。

 

「金魚みたいだな」

 

そんな真昼の様子を見てふと呟いた感想を聞いた千束はゴンッと雪音の頭を一発殴る。

なぜ!?っと言いたそうな顔を千束に向けるも、彼女はそれを華麗に無視した。

それからなんとか復活した真昼も再び動き出し、なんとか雪音の髪を乾かすことに成功した。

 

「おお、自分でやるより触り心地が良いな」

 

「そりゃ美少女二人がやったんだもん!ユキの髪も大喜びするってもんですよ!」

 

「はいはい。真昼もありがとな。おかげで良い感じだ」

 

「いえ、私もやっていただいたので!」

 

「なんで真昼ちゃんにはそんな優しいだよぉ~」

 

「気分」

 

一言吐き捨てながらも真昼と千束の頭を撫でてからドライヤーなどを片付けに行く雪音。

そのままリビングに行き、二人分のココアと自分にコーヒーを淹れ、三人仲良くゲームを行った。

戦績は意外にも真昼が1位で2位に雪音、3位に千束という結果に。ミニゲームでも練習の成果がでたのかいい順位を叩き出していたのだが、何よりも凄いのがすごろく本来の運要素がミラクルの様にいい方向へ進んでいた。この結果には流石の雪音と千束も驚きを隠せないでいた。

真昼はよほど楽しかったのか、見えない尻尾が見えてはブンブン振っているかのように上機嫌だった。

その後、千束が雪音の家で泊まることが決定しているからか、千束がぐいぐい真昼を誘い込み隣の部屋だが真昼も泊まることに。

 

「狭いかもしれないがベッドはお前らで使え。俺はソファで寝る」

 

「3人でも行けるんじゃない?ユキのベッドでかいし」

 

「あほかお前。流石に3人は狭すぎるし、今日は真昼もいる。長い付き合いなのと言っても聞かないからお前だけはよかったんだ。分かればか」

 

「明らかに言われすぎでしょ」

 

「とにかくお前らはそっち、俺はソファな」

 

「はーい」

 

「あの、やはり私は御迷惑なのでは?」

 

「今更だ。悪いが今日は一緒にいてくれ」

 

「は、はい。…お邪魔します」

 

「だから言い方ぁ!!」

 

優しく微笑みかける雪音とそれを見て顔を赤らめて俯く真昼。

そしてしっかりツッコミ役が板についてきた千束。

それから時計の針が11を過ぎたあたりで千束と真昼は明日のことも考えて雪音のベッドに入り込んだ。

 

「お~ふかふかだ!」

 

「凄い高級そうですね…」

 

(それに、当たり前だけど雪音さんの匂いがする…いけないことしてるみたいでドキドキするけど、…いい匂い)

 

真昼は初めての異性のベッドに入るという事実に最早パンク寸前。そのためか普段なら絶対にしないだろう布団を顔までかけてはその雪音の残り香を嗅ぐという暴走に出ていた。

そんな彼女の光景を、隣にいる千束が気付かないわけもなく。

 

(おぉ…目の前で美少女が堂々とユキの香りを嗅いでる…なんだこの見てはいけない光景…いや凄いな)

 

千束は結構ガッツリ真昼を視ているも、彼女はそれに気づかず、見える目元がうっとりしている。

それからしばらく真昼の暴走は続き、千束はそれをずっと観察しながら時折自分も真昼のマネをして雪音の匂いを嗅いでいた。

いつの間にか隣から静かな寝息が聞こえた千束は、先ほどまでの自分も含めた変態行動を振り返り、このことは墓場まで持って行こうと決意しながら、ゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

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