彼岸花の妖精と天使は死神のそばに。   作:美女り鯛

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前にもお伝えしたかもしれませんが近作品での真昼ちゃんたちの家の配置は、
周、真昼、雪音(角部屋)となります。

今回、真昼ちゃんのキャラ崩壊が若干あると思いますので、苦手な方がございましたら申し訳ございません。
次回からたきなちゃん登場なので、キャラ崩壊苦手な方は次回をお楽しみに!


9話

「ん…ふぁわぁ」

 

大きなベッドがモゾモゾと動くと、布団の中から真昼が眠たそうに欠伸をしながら起き上がった。

一瞬、見知らぬ部屋の内装に動きが止まるも昨晩のことを思い出し、自分がどこで寝泊まりをしたのか思い出した。

 

(そうだ…確か私は雪音さんのお家に泊まらせてもらって…)

 

いつもよりも脳が覚醒するのが早く感じる真昼。

隣を見ると、一緒に寝た千束が気持ちよさそうに寝言を呟きながら眠っていた。

幸せそうな彼女を見てクスっと笑うと、真昼はそのまま静かに布団から出ていった。

 

生活リズムが整っている椎名真昼の朝は早い。

今現在独り暮らしということと彼女本来の真面目な性格も合わさり、彼女は日頃から早起きをして朝の支度をてきぱきと進める。

それは今回の雪音宅に泊まったとしても変わることは無かった。

むしろ好きな人の落ち着く匂いに包まれたからか、普段よりも寝覚めがよく心身共にスッキリしていた。

寝室を出た真昼がまず先に向かったのは、自分たちが泊まるからとベッドを譲ってリビングのソファで眠った雪音のもとだった。

 

「…寝てても綺麗」

 

ふと眠る雪音の姿を見た真昼が呟いた。

雪音はソファということもあって寝苦しかったのか、少しその綺麗な顔に皺を寄せていた。

そんな状態でも真昼が綺麗だと思ったということは、それだけ雪音の基が良いということだろう。

真昼はもう少し間近で見たいと思ったのか、ソファ側に回ると腰を覗くように雪音の顔を見つめた。

 

「ふふ、なんだか大きな子ども見たいですね。…可愛い」

 

普段の大人っぽい雰囲気が消え、どこか幼さが感じる雪音に真昼は微笑むと、好奇心からか柔らかそうな頬肌をツンツンと触る。

 

「…んぅっ」

 

くすぐったそうに身じろぐ雪音。すると、彼の着ている緩めの部屋着が所々はだけ、首元から覗く鎖骨や下腹部の筋肉が露わになり妙な色気を放った。

思わず身体が固まり釘付けになる真昼。一気に心臓の音がうるさく鳴り響いた。

彼女にとって初めて見る異性の身体の一部、しかもそれが想いを寄せる相手であり、その相手の身体は他の異性たちと比べてもしっかりと鍛えられている。

最早男の肉体の中でも最上級と言っていいほどの肉体美を誇るそれは、真昼にとってはあまりにも刺激が強いというもの。

艶めかしい雪音の姿を見て真昼の身体の熱が一気に上がる。

僅かに呼吸が浅くなる真昼は、しかしその場を動けないでいた。

すると、眠っていた雪音の手が真昼の手を掴みグイっと引っ張った。

 

「きゃっ!?」

 

軽々と引っ張られ、あっという間に真昼は雪音の抱き枕となった。

大きな雪音の身体にすっぽりと収まった真昼。

まだまだ眠っている雪音は力加減が出来ずに強めに真昼の身体を抱きしめた。

一層強まる雪音の香りと温もり、そして初めて感じる男性の力強さに真昼の心臓は破裂しそうなほど鼓動を大きくした。

すると、真昼は昨晩、意識を手放すまで我を忘れてまで何をしていたかを思い出した。

一種の興奮状態になりながらただひたすらに雪音の匂いを肺に入れていたことを。

そして現在、再びその状態になりそうになりながらもなんとか理性を保っていた。

だが次の瞬間、その均衡が崩れ去る。

今二人の体制は、雪音が後ろから真昼を抱きしめる体勢になっている。

雪音は真昼を抱き枕かなんかと間違えているのか、さらに密着するように抱きしめた。

すると、真昼は背中越しに雪音の筋肉質な身体を感じていると、自分のお尻になにやら硬いものが当たっていることに気づいた。

その感触に何度目かの身体が固まる。

 

ここで改めて椎名真昼のことについて振り返ってみよう。

彼女は容姿端麗で運動神経も抜群、そしてなにより頭脳明晰だ。

中学生の頃も常に学校の定期テストは全教科で学年1位をキープしてきた。

そんな彼女は当然保健体育の成績も優秀である。

当然性的な知識も年相応に知っている。

それに、そういった話は真昼と同じ年齢である男の子たちの方がオープンである。

もちろん女の子同士でもそういった話はするが、場所関係なく誰もが聴こえる声で話すことが多いのは男子だ。

そのため、直接話をせずとも嫌でもそういった話は聞こえてくるのだ。

つまり、真昼はこれまで異性の友人がいなくともその男性ならではの知識も持っている。

 

そこで話を戻そう。

今、雪音はしっかりと眠っている。

男性が眠っている時、生理的現象で何が起きるかも把握している真昼は、今自分のお尻に当たっているものが何なのかを正確に理解していた。

もしこれが見知らぬ相手やなんとも思っていない相手なら不快でしかないそれも、何度も言うが想い人のものなら話は変わってくる。

不快感や嫌悪感などは一切感じず、むしろその真逆とも言える感覚が真昼の胸の奥底から湧き上がるも、それよりも早く、先ほどから感じる雪音の香りや筋肉の質感、温もりなど様々な刺激的情報が合わさって真昼を襲っていた。

そうなれば、知識だけで全く異性と触れ合ったこともない真昼のキャパは限界を迎える。

 

「っ~~~~~~!?!?」

 

顔を真っ赤にし、目をグルグル回す真昼から声の鳴らない叫びがあふれ出た。

プシュゥ~っと頭から煙を出し、ただの抱き枕へと成り果てた。

 

それから数分後、やっと目を覚ました雪音は自分たちの状況を見て頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

「…朝は悪かった」

 

「い、いえ!私の方こそご迷惑をおかけしました」

 

あれから雪音に起こされた真昼は身支度をするためと恥ずかしさから逃げるように自分の家に帰っていった。

足を怪我していたはずだが、一日安静にしていたこともあって回復が早かったようだ。

それから朝食以外を済ませると、雪音から朝ごはんのお誘い連絡が来たことで再度雪音宅に入り、二人で朝食を取っていた。

ちなみに千束は今だ夢の中である。

 

「もうそろそろ時間か」

 

「そうですね。雪音さんは今日は学校行かれないのですか?」

 

「3限から行く。それまでは仕事だ」

 

「…そうですか」

 

「どうした?」

 

「いえ、もしかしたら一緒に登校出来るのではないか、と」

 

「…悪いな、朝はなるべく学校の奴らには会いたくない」

 

雪音はどこかめんどくさそうな表情を浮かべながら自分で入れたコーヒーを啜る。

そんな彼を見て真昼は雪音の言葉の意味を考えるとすぐに納得した。

 

「…確かに、道中騒がしくなりそうですね」

 

「そういうことだ、あまり朝っぱらからうるさいのは好きじゃない。学校でもあんな騒がれてたら行きたくなくなるのも分かるだろ」

 

「確かに大変かもしれませんが、だからって欠席しすぎるのも良くないですよ?白幹さんもいらっしゃることですし」

 

「アイツは別にどうでもいい」

 

雪音は再びコーヒーを啜る。

 

(あっ、どこか嬉しそう?)

 

ふと雪音の表情が僅かに緩んでいる気がした真昼。

他の人なら全く気付かないだろう雪音の僅かな変化を感じ取ったのは、恋する乙女の成せる技だろうか。

だが確かに、真昼の感じた違和感は当たっており、今の雪音は口では秋奈に対してツンケンしているが、内心ではしっかりと友人に対する思いが存在していた。

 

「ふふ、仲良しなんですね。羨ましいです」

 

「…は?なんでそうなる」

 

「何でもないです」

 

「…楽しいならいい」

 

楽しそうに微笑みながらも羨望の込められた真昼の顔に思う所があったのか、しばしの沈黙を得て雪音は軽く息を吐いた。

 

「…今度な」

 

「え?」

 

「今度、一緒に学校行ってやるよ。朝から行くのは気が乗らないが、一緒に行きたいなら付き合う」

 

「…い、良いのですか?」

 

「俺は朝があまり強くない。かといって他の奴と同じ時間に登校は騒がしくて無理。それでもいいなら(・・・・・・・・)な」

 

自分と真昼の食べ終えた食器類を片しながら話す雪音。その言葉の本当の意味を理解した真昼はみるみる表情を明るくしていくと、誰もが分かるぐらい嬉しそうに雪音を見上げた。

 

「っはい!私がしっかり起こして差し上げます!」

 

「…頼んだ」

 

それから登校時間となった真昼を玄関まで見送った雪音。

そのまま足取りは自身の寝室へと向かう。

いつまでたっても起きてこない千束を起こそうと部屋に入ると、下着姿で大胆に布団を蹴り飛ばし気持ちよさそうに眠る千束がいた。

 

「(真昼が何も言ってこなかったってことはこいつの寝相の悪さが改善されたと思ったんだがな。恐らくアイツが起きた後にこうなったんだろうが…)……はぁ、おい」

 

今回みたいに千束が雪音の家に泊まりに来ることはよくある。千束はよく任務帰りやリコリコの帰りにお泊り会と評して勝手に家に突撃訪問してくるのだ。そして長い付き合いである二人は、今回雪音はソファで寝たが千束と二人なら同じベッドで眠る。

これは主に千束のわがままである。その度に千束は自慢の寝相の悪さを披露し、寝る前はしっかり来ていた服も時間が経てば勝手に脱ぎ散らかし、こうして人によっては魅惑的な恰好で眠っている。

ちなみにその度に雪音が起こして注意をするのだが、千束は毎度顔を真っ赤に染めて悲鳴を上げながら枕などを投げつけるのだ。まるで雪音が千束を剝いていると言わんばかりに。なんとも理不尽な話である。

その時の雪音の顔は最早虚無に近い。

まあ仕事の都合上、女性との肉体関係が豊富な雪音に取って千束の存在は子ども(ガキ)に等しい。それに、雪音自身、そういった欲が疎いというのもある。生理現象以外で言えば、そういった行為も仕事の時でしか行わないのだ。

それゆえの無反応なのだが、千束からしたら面白くはないだろう。

雪音が仕事で大人の女性とそういった関係になることを納得はしたくないが知っている千束は、事故だとは言え自分の下着姿を見て何も思わないのは、思春期を迎えている女の子の心情的にはよろしくない。

しかもそれが長年の想い人が相手ならなおさらであった。

最近、雪音の反応が気にくわない千束はかなり攻めたデザインの下着を購入している所をたまたま通りかかったミズキに目撃されてひと騒ぎあったという珍事件があったが、巻き添えを喰らいたくない雪音は早々に去っていた。

 

 

そして現在、雪音はまた同じことの繰り返しになるのだろうと相変わらずの虚無顔になりながら千束を起こしている。

 

「んぅ~あとごふ~ん」

 

「またミズキに怒られるぞ。それに今日はなるべく早く店に来いってミカにも言われてただろ」

 

「むぅ~りぃ~ゆきぃ~」

 

ガシッっと寝ぼけているのか、千束は雪音の手を掴むとグイっと引っ張った。

ちょうど先ほどの雪音と真昼と同じような出来事。しかし、致命的に違う点と言えば、雪音を手繰り寄せた千束が誘導する先がベッドではなく、自身の胸元だということだ。

変に抵抗してさらに状況が悪化しないよう、雪音は流れるままに従う。

すると、雪音の顔はまっすぐ千束の大きくふわふわな胸に吸い込まれた。

女の子特有の柔らかさと甘い匂いが雪音を包む。

千束ほどの美少女にこんなことをされようものなら雪音と同年代の男子なら卒倒ものだろう。だが、真に大人な雪音はこんな誰もが羨む状況でも顔色一つ変えない。

むしろこの状態で千束が起きた近所迷惑になることを察した雪音は、この窮地を脱しようと動く。

 

左手を千束の顔に伸ばす。ゆっくりとその手は綺麗な肌を撫でる─ことは無く、小さく綺麗な鼻へいくと、そのままきゅっと抓んだ。

 

「…んがっ!?」

 

呼吸が出来なくなり反応した千束。すると、その瞬間力が緩み、雪音の頭を抱きしめていた手がほどける。

その瞬間をプロの殺し屋が逃すことは無い。わずかな隙間をシュンっと抜けると、そのまま流れるように千束の身体を布団に納めて、そのうえで再度彼女の鼻を抓んだ。

 

「…ふががっ!?がはぁっ!!ちちょっとなに!?めっちゃ苦しんだけど!?」

 

「起きろ、遅刻するぞ」

 

「おい貴様、もしやあたしの鼻を抓んで起こしたわけじゃあるまいな…」

 

「起きないのが悪い」

 

「サイッテェー!!乙女の鼻を簡単に触るなっての!!生まれて初めてじゃこんな起こされ方は!?!」

 

「別に今更だろ。俺はお前がボーちゃん並みに鼻水を垂らしてたところも見たことあるんだぞ」

 

「あれはまだ小さかったし、なにより風邪ひいててくしゃみした時の反動で出ちゃったことで仕方ないでしょうが!?てかそういうの思い出すな!」

 

「いや、去年俺に鼻水を付けたこともあるだろ。しかもそれもお前にティッシュを当ててチーンってさせたのも俺だ」

 

「それは!…その節はありがとうございました。お見苦しいモノを…てかそう考えると私結構ひどいな?」

 

「よくわかったな。それよりもうそろそろ時間だからさっさと支度しろ。バイクで乗っけってやるから」

 

「わ~い!あ、朝ごはんは?」

 

「お前用にサンドイッチな。店で食え」

 

「おぉ~!ユキのサンドイッチ!!今日は良い一日になりそう!ふひひ!」

 

千束は話しながら布団の中で雪音に拾ってもらった服を着て、上機嫌に鼻歌を歌いながら洗面台へと向かった。

それから雪音も千束の髪などを手伝い、割かし早く家を出ることが出来た。

いつも通りの道を通り、店にバイクを停める。

 

「おっはよ~ございま~す!」

 

「お、来たか。おはよう、千束、ユキ」

 

「朝から元気ねぇ。てかあんたらまた一緒に一泊してきやがったな!?この破廉恥共め!!」

 

千束が元気よく店内に入ると、先に出勤し準備を進めていたミカとミズキが出迎える。ミカは相変わらず優しそうな笑みを浮かべ迎えているが、一方のミズキはケッと悪態をつきながら缶ビールを飲んでいた。

 

「…ミズキ、何もこんな朝から酒は最早末期だぞ」

 

「バカか!ノンアルだよ!!」

 

「いや、それでもだろ」

 

雪音がミズキを冷めた眼差しで見ていた。

どうやら朝から呑んでいたのはノンアルだったようだが、問題はそれ以前だろう。そんなんだから婚期が遠のくのだ、とミズキには効果抜群の言葉が出かかるもなんとか胸の内にしまい込んだ雪音。正しい判断である。

 

「着たところで悪いんだが、ユキに買い出しを頼んでもいいか?」

 

あらかじめメモしていたのだろう。ミカは冷蔵庫に貼っていた買い出しメモを雪音に渡した。

 

「…少し量が多いな。そんなに食料減ってたか?」

 

「それは今日来る新人へのお祝い用だ。これから一緒に働くことになる以上、親睦を深めるのは早い方が良いだろう。今日明日はボドゲ会もないしな」

 

「なるほど、了解した。なら俺もなにか準備しよう(・・・・・・・・・・)、隣駅まで行くからそれまでに各々食べたいものを送っといてくれ」

 

「え!ユキなにか作ってくれんの?!」

 

「それってなんでもいいわけ?」

 

千束とミズキが雪音の言葉を聞くと物凄い早さで反応を返した。

流石の早さにミカが苦笑いを浮かべている。

 

「時間がかかりすぎるのは無理だ。食材調達したら俺は学校に向かうからな」

 

「時間がかかる奴って言っても何がなんだかわからないし」

 

「がきんちょに同じく」

 

「千束はともかくミズキは少し頑張れよ。…まあいい、とりあえず何が食べたいか考えとけよ」

 

「りょうか~い!ユキのごっは~ん♪なににしようかな~♪」

 

「あたしはお酒に合うものなら何でもいいわよ!あんたの料理はなんでも美味しいしね」

 

「まあそんなところだろうと思った。ミカはなんか希望あるか?今すぐに出さなくても良いが」

 

「私もユキに任せよう。今日は私も久しぶりに飲もう」

 

「わかった。酒に合うものも考えよう」

 

「千束は着替えたらゴミをまとめて出しといてくれ」

 

「は~い先生!…それじゃみんな、今日も一日、楽しんでいきや~しょい!!」

 

千束が元気よく気合を入れると着替えるためにロッカーへ向かって行った。

 

「それじゃ俺も言ってくる」

 

「ああ、頼んだ。気を付けてな」

 

「いってらっしゃ~い」

 

そして雪音も店を出ると買い出しを達成するべく、バイクを走らせるのだった。

 

 

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