冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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覇想継承  (〜アストレア・レコードまで)
冒険します。冒険者なので。


 少なくとも辞書において『冒険』という言葉は、その行為に危険が伴う事を、理解した上で()()()する事であると定義づけられている。

 そこから考えれば、『冒険者』とは、冒険を行った者、あるいは現在進行形で行なっている者の事を指す言葉だと言える。

 

 ……まぁ、当然ながらこんなものは説明されるまでもないことだ。

 いわゆる常識というやつに違いない。

 まだ言葉のおぼつかない幼子ならまだしも、既に言語を習熟した者にとって、こんな説明は無駄もいいとこだろう。

 

 しかし、そんな常識を根底から覆すかの如く。

 世界一の大都市にして、世界に唯一のダンジョンをその地底に持つ迷宮都市オラリオには、こんな格言が存在した。

 

 曰く、冒険者は冒険をしてはならない。

 

 矛盾も甚だしいとはこの事である。これでは冒険をしているのかしていないのかわからない。

 

 ……しかし格言の成立には得てして相応の理由があるもので、相応の意味が付随するものである。

 先程の迷言とて、当然その例に漏れない。

 

 となればまず語るべきは成立の理由だが、それはダンジョンだ。

 宝箱の中に安置されているとかそういう意味ではないので、そこは誤解しないように。

 ……ああ、ちなみに、ここで言うダンジョンというのは、迷宮都市オラリオの地下に存在する、幾つにも重なった層状の構造を持った巨大地下空間のことを指す。

 その深部に潜れば潜るほど、手に入る素材は高価で高性能なものになる、不思議空間だ。

 

 で。先ほど述べた通り、ダンジョンは地下深く潜れば潜るほど高価なモノが手に入るので、そんなダンジョンに挑む者達……ギルド曰く『冒険者』達は、出来る限り下の階層を目指すわけだ。

 しかし、そう簡単に下へ潜る事はできない。

 下の階層に行けば行くほどそこに住まう怪物(モンスター)の脅威度は増し、自身を取り巻く環境は苛烈になり、そして予期せぬ異常事態(イレギュラー)は多発する。

 ゆえに稼ぎや経験値に目を眩ませ、自分の身の丈に合わない階層へ突っ込めば、まぁ運が良いとかでもない限りは生き残れない。というか迷宮が悪意を持って殺しに来るので大体死ぬ。

 

 ただ、そんな事はわかっていても人間とは実に愚かなもので、『自分は大丈夫だ』などと慢心した結果、バタバタと死んで迷宮の養分に……或いは、怪物どもの餌になってしまうわけである。

 自分から危険に飛び込みに行ったという点で考えれば、死んでしまった彼らは冒険者と読んで差し支えないのであろうが……俺は冒険者と自殺志願者は別物だと考えるクチなので、彼らを冒険者と呼ぶ事はできない。

 

 話を戻すが──兎にも角にもそんな事情があって、それを受けたからこそ冒険者の管理組織である冒険者ギルドは、『冒険者(=ダンジョンに潜る人達)は、冒険(=身の丈に合わない危険な行為)をしてはならない』と口を酸っぱくして言っているわけである。

 ギルドとしてはあまり多くの冒険者に死なれてしまうとかなり困るのだ。

 

 ……が、しかし。

 このギルドの方針は、色々な意味で矛盾していると言えた。

 

 というのも、である。ギルドの収入は冒険者がダンジョンから持ち帰った物を加工、輸出する事で確保しているわけで。冒険者たちに冒険するなとは言っているが、冒険をしなければギルドは素寒貧になってしまうのである。

 だから現ギルド長ロイマンは「冒険者はとっととギルドのために深く潜って金を稼げ! でも死ぬな!」と言っている。

 

 だからこそ、冒険者の質の上昇は急務であるのだが……ここでさらに問題が一つ。

 

 先ほど、下に行けば下に行くほど得られる経験値も増えると述べただろうが、その経験値こそが我々の強化に必要なものなのだ。

 基本的に我々冒険者は、『経験値を得る→ステイタスを更新してそれを【力】【耐久】【器用】【敏捷】【魔力】の能力値(アビリティ)に反映させる』を繰り返して強くなる。

 しかし、能力値(アビリティ)には上限値がある。

 才能があればその限りではないが、基本的には400〜500で頭打ちになり、そしてどれだけ才能があろうと999以上にはなれない。そこが真の能力値(アビリティ)の打ち止めである。

 

 だが、そこはあくまで能力値(アビリティ)の打ち止めであり、完全なる能力上昇の打ち止めというわけではない。

『神々も認める偉業』を達成────つまり、『冒険に成功』する事によって、ランクアップ、即ちレベルアップが可能となり、圧倒的に能力が増すだけでなく、前レベルの能力値(アビリティ)を潜在的に保有したまま、能力値(アビリティ)をまたゼロから上げ直すことができるのだ。

 

 故に、冒険者が際限なく強くなるには、『経験値を得る→ステイタスを更新して能力値(アビリティ)に反映させる→ランクアップする→経験値を得る→……』を無限にループする必要があるわけである。

 

 さて、ではここで先ほどの話を持ってこよう。

 ギルドが稼ぐためには冒険者の成長が必要不可欠。

 そして成長に必要なのは冒険だが、しかし冒険とはつまり自分から死の危険に飛び込みに行く事であるので、当然ながらその死亡リスクはとても高い。

 だからギルドとしてはあまり冒険者たちに冒険をして欲しくない。

 でもやっぱり冒険者には成長して、たくさん稼いでもらいたい。

 

 ……さて、これで分かっただろうが、つまりギルドは冒険者に対して一種のジレンマのようなものを抱えている。

 そしてそれがどうにもならないので、我々に対して現在進行形でタチの悪いダブルスタンダードをぶちかましているのだ。

 普段は無茶をするなとか言って来る癖に、『遠征』とか言う強制任務(ミッション)を課して、暗に無茶をして来いと言って来るのが良い例だろう。

 

 ────とまぁ、そんな話をして来たわけであるが、当の俺は強くなりたいと願っている。

 それも心の底からだ。理由はまだ語れないが、強くなりたいとひたすらに願っている。

 だから、何度目ともわからない『冒険者は冒険をしてはならない』と言う言葉に、俺はこう返してやった。

 

 

 冒険します。冒険者なので。

 

 

「─────と言うわけで今回は『ゴライアス』に単独で挑みたいんだが、別に構わんな?」

 

 ダンジョン18階層。

 怪物(モンスター)の湧かない貴重な安全階層(セーフティポイント)の一つであり、その階層を暖かく照らす太陽の如き水晶の光と、綺麗な景観から『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』とも呼ばれるその階層。

 そこに建てられた人の街、『リヴィラ』の、とある建物の一室に、そんな声が反響する。

 

 その部屋に居たのは、二人の男。

 片方は豪華なソファに座り、ただでさえ強面な顔を更に渋くして頰をかく、見るからにゴロツキといった風体の男。

 もう片方は目を輝かせて机から身を乗り出す、銀の鎧に身を固めた銀髪の少年。

 つまり、俺であった。

 

「……はぁ……」

 

 そして、ソファの上で溜息を吐くゴロツキの名はボールス。

 レベル3の冒険者にして、このリヴィラの街を纏め上げるリーダー的立ち位置の男だ。

 

「お前、【火種(フォンカ)】っつったか? 話は聞いてるぜ。所要期間三ヶ月でレベル2になった世界記録保持者(レコードホルダー)。だが、お前だって知ってるだろう。あの迷宮の孤王(モンスターレックス)の推定レベルは4。お前だけじゃ、逆立ちしても勝てねぇよ。わかったらとっとと失せやがれ」

 

 心の底から面倒臭そうに、シッシッと手で追い払うような仕草をするボールス。

 ちなみに、【火種(フォンカ)】と言うのは俺の事で、迷宮の孤王(モンスターレックス)と言うのはこの場合、ゴライアスの事だ。

 つまりこの男は、俺ではどうやってもゴライアスには勝てないと言っているのだ。

 だがしかし、俺に言わせてみれば、その判断材料は些か古い。

 

「3だ」

「あ?」

「俺の階位(レベル)は、既に3だと言っている」

「……はぁ」

 

 ガタリと、ソファから立ち上がったボールスは、顔に影を作ってゆらりと俺に近寄って来る。

 どうやら俺を威圧しているつもりらしい。

 

「なァ、【火種(フォンカ)】よぉ。俺はそう言う冗談が一番大嫌ぇなんだ。もしお前の言葉が正しいなら? お前は前回の神会(デナトゥス)から()()()()()()()レベル3になったって事だろ? えぇ?」

「正確に言えば、レベル2になったのが前々回の神会(デナトゥス)の直後。レベル3になったのが二ヶ月前だから、四ヶ月だな」

「あぁ、そうかよそうかよ……じゃあ、これは受け止められるなっ!?」

 

 俺が事実を告げてやると、ボールスは素早く一歩下がり、そして間髪入れずに蹴りを繰り出した。

 粗暴で雑な、実に荒々しい蹴りであるが、しかしレベル3の膂力によって放たれるそれはいとも容易く音を置き去り、ほんの瞬きほどの時間も無く俺へと到達する。

 

「なッ……!?」

 

 が、俺も同じLv3だ。その軌道が見えない道理はなく、受け止められない道理もない。胸の前に置いた片手で、脚を掴んで受け止めた。

 受け止めた衝撃がじんと腕に走るが、しかしそれだけだ。それ以上のダメージは無い。

 

「……へっ。大した目と【耐久(まもり)】じゃねぇかよ。じゃあ、こっちはどうだ!」

 

 次に飛んで来るのは、腰に差した剣による居合い。もちろん振るわれる剣の刃は潰されていないので、まともに受ければ死ぬか、そうでなくても大きなダメージを受けることは間違いない。

 そんな殺意の籠った凶撃が、先程の蹴りよりもより速く空を滑り、俺の首へと吸い込まれて──俺の指に摘み止められる。

 防御せずにわざわざこのような形で剣を止めた理由は、これが【力】と【器用】の高さを見せつけるパフォーマンスだからだ。

 

「…………チッ。どうやら本当らしい。テメェが一体どんな反則(ズル)を使ったのか知らねぇが、迷宮の孤王(モンスターレックス)に挑むだけの実力だけは認めてやる」

 

 そう言って、剣を鞘へと納めたボールスは、「だが」と続ける。

 

「お前の知っての通り、ゴライアスの討伐ってのは本来、たどり着いたパーティが勝手にやるモンだ。だってぇのにウチ(リヴィラ)の許可をもらいに来たって事は……そういう事だろ?」

「ああ、ここに500万ヴァリスある。受け取ってくれ」

 

 背負っていた背嚢を机に置くと、じゃらりと音が鳴る。

 ボールスが中身を開いてみれば、出て来るのは金貨の山。

 

「……上々だ。良いだろう。テメェの戦いに他の連中の横槍は入れさせねぇようにしてやる。奴の再出現(リポップ)はもう2時間後だ。急いだほうがいいぜ」

「ああ、感謝する」

 

 俺は踵を返し、建物から外に出た。

 

「もし死んでも、骨くらいは拾ってやるぜ!」

 

 そんな言葉を背に受けつつリヴィラを出て、17階層へと続く穴へ急ぐ。

 緑の茂る森の中を駆け抜けると見える、白い外壁に空いた大きな穴がそれだ。

 俺はそこに飛び込み、急な勾配に剣を突き立てつつ登ってゆく。

 

「……」

 

 そうすれば辿り着くのは、実に異質な広間だ。

 幅は100 M(メドル) 、長さは200M(メドル)を下らないだろう巨大な長方形の空間はゴツゴツとした岩に覆われているが、しかしその片側の壁だけがのっぺりとした、滑らかな一枚の壁のようになっていた。

 

 この場所の通称は、『嘆きの大壁』。

 たった一体、この部屋の主人たるゴライアスを生み出すためだけに存在する、主の間(ボスエリア)である。

 

 体壁の前に立ち、俺はその時をじっと待つ。

 そうして何分か経つと、ビシリ、と音を立てて、そこへ一筋の亀裂が刻まれる。

 ようやくか、と。俺は口角を吊り上げた。

 

 ビシリ、ビシリ、バキッ、バキバキ。

 音はどんどん大きく響き、同時に壁に走る亀裂も大きくなる。

 そして、ついに奴は現れた。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 壁をぶち破り、もうもうと土埃を上げながら産声を上げるのは、17階層の階層主。迷宮の孤王(モンスターレックス)たる巨人、ゴライアス。

 そして、王に続くようにして四方の岩壁からわらわらと湧き出すのは、その取り巻きの怪物(モンスター)共。

 

「……行くぞッ!!」

 

 俺は剣を構え、目の前の巨人に突貫して行った。

 

 

 

 

 

 ────所要期間六ヶ月。異例にして史上最速のレベル3、及びレベル4。

 その知らせが迷宮都市のみならず、世界を駆け巡ったのは、その一週間後の事である。

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