「ぬぅ……」
25階層に突入してから、体感時間で──訓練したので極めて正確に──2日ほどの時間が経った。
俺は今回の目標をアンフィス・バエナに定めて、
「居ない……」
どうやら丁度
どれだけ探し回っても影すら見当たらず、遂には食糧の方が先に尽きてしまった。
元々余裕を持って5日分は持って来ていたはずだったのだが、アイズに結構食わせていたせいで思いの外早く消費してしまったのだ。
まぁ何にせよ、食糧も無しに潜ってはいられない。
仕方がないので撤収する事にする。
「アイズ、帰るぞ」
「うん、わかった」
丁度マーマンとの戦闘を終えたアイズに声をかけ、歩き出す。
「どうだった、下層での戦闘は」
「敵が強かった」
「そうか……」
まぁ、そうは言ってもだいぶ無双してたがな、アイズ。
何だあの
レベル一つ分くらいの差であれば簡単にひっくり返せるのではないだろうか。
まぁ、俺の
天才の力と言うものをまざまざと見せつけられた気分だ。
「カイは」
「ん?」
「カイは、どうだった?」
「あー……まぁ、水中戦闘は中々に楽しめたな」
水の抵抗で身動きが取りにくい中、逆に地上にいる時よりも生き生きとした怪物どもが群がってくるのには中々にヒヤヒヤさせられた。
何なら中層で強化バグベアーと戦った時よりもヒヤヒヤしたかも知れん。
「ただ、本命がなぁ……」
いや本当にアンフィス・バエナと戦いたかった。
こればっかりはタイミングの問題なので仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでもヤツとは一度でいいから戦っておきたかった。
「はぁ……」
「……どんまい?」
「……それ、ロキからか」
「うん」
「意味は?」
「わからない。けど、落ち込んでる人がいたら言ってやれって」
「そうか……」
天界の言葉だろうか。後でテスカトリポカにも聞いてみよう。
「……お?」
「?」
と、その時の事だった。
ゴゴゴゴゴ、と。轟音を立ててダンジョンが揺れる。
ビシリ、ビシリと巨大な亀裂が入る音がありありと聞こえ、そして─────
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
『
凄まじいまでの水飛沫が飛び上がり、豪雨となって降り注ぐ。
大瀑布を突き破り、現れたのは一匹の怪物。
それは最強種たる竜の一角にして、二つの首を持つ『双頭竜』。
27階層が階層主、アンフィス・バエナであった。
「……!」
素晴らしい。最高のタイミングだ。
諦めかけていたところによく来てくれた。
自然と口角が釣り上がる。気持ちが昂ってゆく。全身の血が沸き立つ。
本当によく来てくれた、
「……アイズ」
「うん。隠れてる。」
アイズに
その姿が階段の下へと消えて行ったのを確認して、俺はヤツが現れた滝壺へと駆けた。
「『燃え立つ意志よ、湧き上がる闘志よ、我が大願を今、ここに』」
走りながら魔法を詠唱する。
出し惜しみは無しだ。最初から本気で行く。
「【ブラウフラムダス・トゥーダス】」
疾駆する俺の肉体が、蒼い炎を纏う。
その瞬間。俺の魔力の奔流を感じたのか、アンフィス・バエナがこちらに気付いた。
ぐりんと二つの頭をこちらへ向け、左側の首がその咥内に蒼い光を宿らせる。
ヤツの代名詞、水上でもお構いなしに燃え盛り、数多の冒険者を焼いた『
「まずは……挨拶がわりだッ!」
それが放たれる前に、俺は炎を剣へと纏わせ、アンフィス・バエナ目掛けて振るった。
すると蒼い炎は斬撃の軌道をなぞった三日月状の矢となって一直線に飛翔し、左の頭部に着弾……する直前。右の首が矢に向けて紅い霧を放った。
そのまま紅い霧の中を進んで矢は着弾するが、モロにくらったはずの左首があまり動じた様子を見せない。
それもそのはず、アンフィス・バエナ第二の
「オオオッ!!」
アンフィス・バエナは間違いなく格上の竜であり、『
先程の炎の矢はLv5後半相当の火力を持っていたはずだが、アンフィス・バエナの生来併せ持った炎に対する高い耐性と、竜種故の強靭な膂力、数十
「ッ!」
左の首が俺目掛けて
それに対して俺は対抗するように炎の矢を放ち、それはある程度の『
散らす事の出来なかった蒼い炎の濁流が、俺に押し寄せて来た。
「……『爆ぜよ』ッ!」
二射目を放って時間を稼ぎつつ、剣を地面に突き立てて爆裂させ、その衝撃で以て幾らかの地面と共に上空へと退避。
上空に逃れた俺に合わせてアンフィス・バエナはブレスの方向を変え、俺をこんがりと焼こうとするが、それを読んでいた俺は一緒に飛んで来た地面を蹴る事で横方向に逃げ、そのまま地面に着地する。
「……ふむ」
さて、どうやって殺すか。
着地地点付近にいたらしい
炎の矢こそ効かないが、あの感じならば多分
今の俺は『
『
「…………邪魔だな」
作戦自体は立てられたのだが、それをこの
Lv4の視力と聴力、それと
仕方が無いので、少々場所を移す事にしよう。
「『爆ぜよ』」
再び地面に剣を突き刺し、爆裂させ、アンフィス・バエナに背を向けるような形で後方に見える通路の方へと飛ぶ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
するとアンフィス・バエナはその巨体を器用に、そして実に力強く動かして追い縋って来た。
「ふむ……今なら矢でも効くか?」
くるりと体を翻し、顎を大きく開いて迫って来るアンフィス・バエナに向け、炎の矢を数発ほど叩き込んでやる。
移動しながらの
右のアンフィス・バエナが普通に『
まぁ、普通に考えてみればヤツには呼吸できる口が二つあるのだから、どちらか片方だけを使う程度ならば走りながらでも余裕なのだろう。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
しかし余裕とは言え、癪には触るものだったらしい。
怒りの咆哮をあげて、通路の水路を無理矢理に押し広げ、その道中に居た同胞の数々を潰し、轢き殺し、自らの体と通った道を赤く染めながらヤツは迫って来る。
「派手にやりやがる……ッと!」
そうして辿り着いたのは、中心に大きな池のある
池にポツポツと浮かんだ幾つかの小さな小島が目立つその
曰く、この小島を足場にしてヤツと戦うのだそうだ。
と言うわけで俺も先人たちに倣い、同じようにこの小島を足場としてヤツと戦う事にする。
しかし、いつも通りと言うわけではない。
「短期決戦だ。
剣を突きつけ、宣言する。
別にいつも通り長期戦に持ち込んでも良かったんだが、生憎と今は人を待たせているからな。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
そんな俺の心の声を知ってか知らずか、アンフィス・バエナは大きく吼えた。
右の咥内には紅い靄を、左の咥内に蒼い光を宿らせ、それを同時に放ち────
「『爆ぜよ』ッッ!!」
俺は、蒼い爆炎で以てそれらを纏めて吹き飛ばした。
解放式と共に放たれた蒼炎は、着弾と共に爆裂し、鋼であろうとも容易く融解させる超高温で以て周囲を消し飛ばす、蒼い砲弾と化す。
『
「『爆ぜよ』ッ! 『爆ぜよ』ッッ!! 『爆ぜよ』ッッ!! 『爆ぜよ』ォッッ!!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!??」
そして、ヤツに驚愕する暇も与えず、次々と砲弾を撃つ。
アンフィス・バエナはもはやただその暴威の前に叫び、のたうち回ることしか出来ない。
撃っているこちらもだいぶキツいが……しかし、向こうのほうが圧倒的に厳しいはずだ。
剣を振る手を止めず、ひたすらに砲弾を撃ち続ける。
「『爆ぜよ』ォォォォォッッッッ!!!!」
「オオオオッッ!!??」
そして、遂にヤツが大きな隙を見せた。
砲弾が丁度両方の頭部に命中し、大きく後ろへと仰け反ったのだ。
「ふッ!!」
地面を強く蹴り、小島を弾け飛ばしながら、俺はアンフィス・バエナへ突撃し────
「らァッ!!」
無防備な胸部へ、深々と剣を突き刺した。
そして、そのまま────
「『爆ぜよ』ッ!!!」
解放、そして爆発。
アンフィス・バエナの肉体が、その内側から弾け飛ぶ。
これまた真っ赤に染まった池に浮かぶのは、幾ばくかの
「……ふぅ」
爆発の衝撃で吹き飛ばされ、壁に背中を預けて座っているような格好のまま、取り出した
「……思ったより、大したこと無かったな」
普通に倒せたし、何なら無傷だ。強化バグベアーの方が手応えがあったまである。
この分なら普通にアイズに見せても……いやダメだ。アイズがあの
やはり28階層に行かせて正解だ。
で、今回かなり楽勝だったのは、十中八九『
しかしこの分だと、まだまだランクアップは期待できなさそうだ。
「……よっ……と」
帰るか。
ステイタスの伸びが悪くても、テスカトリポカには思ったよりアンフィス・バエナが弱かったとでも言っておこう。それでとりあえず機嫌は……
……ってかそうだ。帰ったらまず【ロキ・ファミリア】だ。
…………あー……行きたくねぇー…………
ちなみにアイズは28階層に行ったフリして普通に岩陰で見てました。
とは言っても最初のほんの少しだけですが。