冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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DO☆GE☆ZA

 さて、そんなこんなあって迷宮探索から帰ってきた俺たち。

 持ち帰った魔石や戦利品(ドロップアイテム)を換金し、途中で【ディアンケヒト・ファミリア】に寄った後。

 

「いや本っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ当に申し訳ない」

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)である『黄昏の館』。

 その応接間の一室で、俺は渾身の土下座を披露した。

 当然、今回の件の謝罪のためである。

 

「いやいやいやいやいや、顔上げぇ! 何でそっちが頭下げとんねん! 頭下げるべきはこっちやろうが普通!?」

 

 と、慌てた様子で声を上げるのは、【ロキ・ファミリア】の主神ロキ。

 テスカトリポカから壁の化身と呼ばれる女神である。

 正直俺としては何の事を言っていたのかさっぱりわからなかったが。

 

「いやしかし……」

「すまないねカイ。僕としても顔を上げてもらえると助かる。ロキの言った通り、今回の件で不手際があったのはこっちの方だ。君に落ち度はない」

 

 困ったような口調でそう言うのは、【ロキ・ファミリア】の団長にして俺の友人、【勇者(ブレイバー)】ことフィン・ディムナだ。

 現在、この応接室の中にいるのは俺を含めたこの3人。

 アイズはリヴェリアに連れて行かれた。多分今頃ひどいことになっている。

 

「だが、こちらの主神も……」

「ああもうええからさっさと顔上げぇ! こんな絵面誰かに見られようモンなら、ウチらの沽券に関わるわ!?」

「……わかった」

 

 神ロキによって引っ張り上げられるようにして土下座の姿勢を解く。

 

「こんなんも要らんのやからもう……」

 

 そしてロキが拾い上げるのは、俺が誠意として用意していた土産だ。

 

「あーあー万能薬(エリクサー)こんなに買ってもうて……んでこのキレーな玉ころは……」

「気をつけるんだロキ。それ一つで1億ヴァリスは下らないぞ」

「いちおっ……とっとととととととあぶあぶあぶ……ふぅ、受け取れへんわこんなモン!?」

 

 と、万能薬(エリクサー)と纏めて竜女(ヴィーヴル)の紅玉も突き返されてしまう。

 折角用意したのだが……

 

「まぁ、とにかく座ってくれ。話はそれからにしよう」

「ああ」

 

 座るように示されたソファへと腰掛ければ、俺の対面にロキがどかりと座り、その隣りにフィンも座る。

 

「はぁ〜……びっくらこいたわぁ〜……まぁええ、んじゃあ改めて……」

 

 ロキの薄い目がこちらを捉えたと思うと、彼女の纏う空気が変わった。

 おちゃらけたような雰囲気から、ファミリアの頂点に立つ主神のそれに。

 そうして、彼女はゆっくりと俺に向かって頭を下げる。

 

「今回のアイズたんの件、ホンマにスマンかった。そんで、マジでありがとう。よくアイズたんを無事にウチまで帰してくれた」

 

 そしてロキに続くように、フィンもまたその頭を下げる。

 

「僕からも同様に謝罪と感謝を。済まなかった。そして、ありがとう」

「……あー……いや、その、俺はただ…………」

 

 都市最強ファミリアの主神と団長が揃って、その決して軽くはないはずの頭を俺に向かって下げた。

 それの意味に、些か気の遠くなるような感覚を覚える。

 一体何がどうしてこんな事になってしまったのだろう……いやまぁウチの主神のせいなんだが。

 しかし向こう側が自分達に責があるとして頭を下げた以上、こちらも謝るのは向こうの面子を潰しかねないか……

 

「…………謝罪を受け入れる。ただ、こちらにも一定の過失はあることは明言しておく。会ってすぐにここまで帰しに来さえすればここまで大事にはならなかったはずだ」

「いや、今回の件は完全にこちらの不手際だ。君が言うのならそっちにも何かしらの過失があったのかもしれない。ただ、それを考慮しても彼女の手綱を握りきれなかった僕たちに責任がある」

 

 ……そんなわけがないと思うんだがなぁ……

 いや、フィンがここまでして【ロキ・ファミリア】側に全責任があると言うふうにしようとしているんだ。きっとそこに何かがあるに違いない。

 もう面倒だからそう言う事にしてしまえ。

 

「……とは言え、団長と主神が頭を下げる程では無いだろう。お前らは都市最強ファミリアだぞ」

「そんなわけが無いだろう、カイ。確かに男神(ゼウス)女神(ヘラ)無き今、僕たちは迷宮都市オラリオの顔を張る都市最強ファミリアだ。だが、だからと言って団員の過失が招いた事態に何の謝罪もせずに居られるわけじゃない。むしろそうであるからこそ、こう言った事態にはきちんとした謝罪が大事なんだ。でもまぁ確かに主神まで頭を下げるのはやり過ぎかなと思わないでも……ん? ロキ?」

「え?」

 

 フィンに釣られてロキの方を見てみれば、ロキは何やら頭を下げたままの姿勢で何やらプルプルと震えており、それはまるで立ちあがろうとして腰をやってしまった感じも見えないことは無いが、しかし超越存在(デウスデア)である神が腰をやるとは考えにくい。

 であれば、きっと何かを我慢しているのだろうが────

 

「〜〜〜〜〜〜ッカァーッ! ええ子やぁ〜〜〜〜〜ッッ!!」

「うおぅっ!?」

 

 と、俺が心配して身を乗り出したところに凄まじい勢いで飛び上がり、俺に向かって降ってくるので慌てて受け止めると、ひしっと俺に抱きついて来た。

 

「なんやすっごいええ子やんジブン! あんのイカれポンコツ唯一の眷属とは思えんわ! ってか思ったよりちっちゃいやん! 年今いくつなんや?」

「……歳なら、11だが……」

「じゅーいちぃ!? アイズたんとほっとんど変わらんやん! それでこんなにしっかりしとるとか……ホンマええ子や〜〜〜!!」

 

 そして、そのままワシワシと凄まじい勢いで頭を撫でられる。

 ……いやどうすればいいんだこれ。

 とりあえずされるがままにしているが、流石にこれをずっとはしんどい。

 フィン。どうすればいいんだ。助けてくれフィン。お前の主神だぞ。

 そんな思いを込めた視線をフィンへと送る。

 

「……ロキ。そろそろ離れた方がいいんじゃないかな? カイも突然過ぎて驚いているし」

「おん? あー……そやな。いやースマンスマン、ちょっと新たな萌えに気持ちが昂ってしもて……堪忍や」

「…………あー、まぁ、問題はないが……」

 

 すると、俺の思いを汲み取ってくれたらしいフィンがロキに離れるように言ってくれた。

 それを聞いたロキはそんなわけのわからん事を言いつつ俺から離れ、再びソファに戻る。

 

「いや本当にスマンなぁ。『ぐーたら残念年上美人のヒモを甲斐甲斐しくお世話しながら養うしっかり者で働き者のショタ』とか、ジャンルとして新しすぎてついつい……な?」

「は、はぁ……」

 

『な?』とか言われても全然わからないのだが……まぁ、離れてはくれたので良いとするか。

 

「……さて、それじゃあ場も落ち着いた事だし、また真面目な話をしようか」

「ああ、そうしよう」

 

 俺がそう答えると、フィンは満足げに頷いてから、再び話し出す。

 

「まず今回の件だけど……僕たちはこちらから正式に『お詫びの品』を君たちに渡して、そこで手打ちにしたい」

「それで良い。ウチに借りは作らない方がいいだろう」

「あ、え? それ自覚しとるん?」

「テスカトリポカだぞ」

「うん、せやな」

 

 ロキが真顔で肯定した。流石はテスカトリポカ。

 と言うか、もしやフィンが全責任を【ロキ・ファミリア】側に持って行ったのはこれが理由か?

 まぁ確かにここで【テスカトリポカ・ファミリア】側にも責任があるってなったらテスカトリポカも出て来るだろうし、色々と面倒なことになっていたかも知れん、か。

 

「……っと、そうだ。何か物品をその『お詫びの品』にするのならば、欲しいものがあるのだが」

「聞かせてもらえるかい? 出来る限りなら叶えられるようにするよ」

「では、深層域の地図(マップ)が欲しい。未完成でも複製品でも構わん」

「成程……それくらいなら丁度良いだろう。今度行く時にでもまとめて持って……ああいや、やっぱり取りに来てくれ。そっちの方が良い」

「ああ、そうする」

 

 テスカトリポカに見つかるとマジで面倒だからな……まぁ、何にせよこれでかなり助かる。

 前回、Lv4初の探索の時に一回だけ行ってみたのだが、深層域はそれ以前の層域よりも圧倒的に暗く、圧倒的に迷いやすい。

 深層の入り口であるはずの白宮殿(ホワイトパレス)でさえだいぶ迷いそうだったのだ。

 今後、冒険をしに深層に突っ込んで行ったは良いものの、迷って死にましたなどなってしまったら、洒落にならん。

 それを防げると言う点において、日常的に深層への遠征を繰り返している【ロキ・ファミリア】の地図(マップ)はありがたい。

 

「……うん、まぁ、今回の件についてはこんなところかな? 大して擦り合わせるべきところも無いし……あ、そうだった。言い忘れていたけど今回の件は────」

「他言無用。特にギルド」

「ふっ、どうやら無駄な心配だったようだね」

 

 二人して悪い笑みを浮かべ、顔を合わせる。

 

「なんや、ごっつぅ仲ええなぁキミたち」

「そうかい? まぁ、彼との会話はとても楽しいからね。あまりにも楽しすぎて、たまに向こうが11歳なのを忘れそうになってしまうくらいだ」

「あと俺がオラリオに来てまだ半年というのもよく忘れるな」

 

 話の途中でいきなりゼウスがどうこうヘラがどうこう言われても、俺は知らないから答えられないというのに、『何で知らねぇんだコイツ』みたいな顔するの本当にやめてほしい。

 仕方ないだろうが俺はその当時居なかったんだから。

 

「……そういやジブン11歳かぁ……いや11歳ておかしくあらへんキミ? アイズたんとほぼ同じやで? あんまりにもしっかりしすぎと違うんか?」

「あー……ロキ、それは彼の家庭の事情が関係しているんだが……」

  

 フィンの目線がこちらを向く。

 大方、話していいことなのかの判断を仰ぎたいのだろう。

 どうせ隠している事でもないし、普通に言って大丈夫だ。

 そんな思念を目線に込めてフィンに返す。

 

「まぁ、簡単に言ってしまえば彼は冒険者になるよう育てられたんだ。この年でこれほどしっかりしているのも、この年で冒険者になっているのも、凄まじい速度でランクアップを繰り返しているのも、その教育による賜物だ」

「そりゃあまたずいぶんとまぁ複雑そうな家庭事情やなぁ。何や、とーちゃんかかーちゃんが冒険者やったんか」

「母が冒険者だった。もう死んだが」

「……あー、そうか。スマン、ちょっと配慮に欠けとったわ」

「構わない。どうせ顔も名前も知らない母だ」

 

 俺が2歳か……3歳の頃だったか? 母が死んだのは。

 父の話のおかげで母の情報だけは知っているが、物心ついてから一度も会ったことがなければ声を聞いたことも姿を見たこともないからなぁ……

 あんまり思い入れはない。

 

「ああ、そうなんやな……ええと、じゃあとーちゃんは……」

「首を吊って死んだ」

「…………スゥーーーーーっ………ちょっとタンマ」

 

 ロキがフィンを連れ、ソファの裏へと移動する。

 

「あの子の家庭事情複雑すぎひん? 滅茶苦茶重い話でびっくりしたねんけど」

「僕だってそう思ったさ。しかし、父親の話は初耳だったな」

「いや大事なとこそことちゃうやろ!? ウチどう反応すりゃええねんこのクソ重たい話!」

「話を振ったのは君だろうロキ。責任を取れ」

「ンなこと言われても分からんもんは分からんのや! 神にだって分からん事はあるんやで!?」

「適当に話を変えればいいんじゃないかい? アイズの話とか」

「それや!」

 

 ……まぁ、丸聞こえなわけだが。

 しかしどうやら結論が出たらしい。二人が立ち上がり、再びソファの前まで戻って来る。

 

「いやぁスマンスマン。言いづらい事言わせて悪かったな。それでアイズたんの事なんやけど……」

「それは後でにするとして、カイ。一つ君に頼みたい事がある」

「ちょおっ!?」

 

 哀れ、ロキ。

 どうやらフィンに踊らされていたようだ。

 まぁどうでもいいが。

 

「何だ」

「しばらくはダンジョン探索ではなく、オラリオの警邏に当たって欲しいんだ」

「……ほう?」

 

 ロキの『無視!?』という叫びを聞き流し、俺はすっと目を細める。

 フィンの台詞はつまり、暫くの間、俺から冒険を取り上げるのと等しい。

 俺とテスカトリポカが冒険に対してどれだけの重きを置いているかはフィンも十分承知のはず、その上でそれを言い出したという事は……

 

「親指か?」

「そうだ。近いうちに何かがある。その時に君が居てくれるとありがたい」

「わかった。テスカトリポカに掛け合ってみよう」

 

 フィンの親指の疼きは確実に当たる。

 下手な占いより当たる……なんてチャチなレベルじゃない。確実に()()が起こる。

 少なくとも、フィンと知り合って以降は全て当たった。

 テスカトリポカもそれは把握している。もしかしたら許可も下りるかもしれない。

 

 まぁテスカトリポカのことだから多分却下だが。

 しかしやってみないことには分からないと言うもの。

 

「助かるよ、友よ」

「構わん。友よ」

 

 そう言って、互いにがっしりと手を繋ぐ。

 

「おおおおおおおおおい!! ウチのこと無視すんなやああああああああ!!?」

 

 空気読め女神。




Topic:実はカイには8分の1だけエルフの血が流れており、よくよく見れば耳がちょっと尖っているように見えなくもない。ちなみに【精癒】が生えたりしたのはそのせい。
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