冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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『星屑の庭』

 さて、そんなこんなあって【アストレア・ファミリア】に拉致され、おおよそ2、3ヶ月振りに彼女らの本拠地(ホーム)こと『星屑の庭』へと足を踏み入れた俺であるが、はっきりと言ってしまうと俺はこの場所があまり好きではない。

 

 建物自体は良いのだ。【テスカトリポカ・ファミリア】のそれと比べれば圧倒的に広く、明るく、そして清潔であり、十分な数の部屋とトイレがあり、加えて立派な厨房と広い風呂もある。

 更には十分に体を動かすことのできるスペースまであると来た。

 探索系派閥の本拠地(ホーム)として────戦いを終えた冒険者達が帰り、その疲労を癒す場所としては、最高級であると言えるだろう。

 

 であれば何がダメであるのかと言えば、それはここが【アストレア・ファミリア】の本拠地(ホーム)であるという点である。

 というのも、だ。そもそも【アストレア・ファミリア】は現構成員11人全員が見目麗しい女性のみで固められた派閥である。となればその本拠地は女の城に相違ない。

 そんな花園とも言える派閥の本拠地(ホーム)に、生まれついての男の身であり、更には既に美の女神二柱からの『お手つき』である自分が足を踏み入れるのは些か気が引けるというもの。

 

 ……で、あるのだが、彼女達からすればそんなことは一切関係ないらしい。

 

「いやーカイがここに居るのは久々だねー!」

「わ〜! ふわふわ〜!」

「ぷにぷに……」

 

 もはや抵抗する事の一切を諦めた俺は、彼女らのなすがままに鎧を脱がされ、インナーを脱がされ、風呂で全身を余すことなくしっかりと洗い尽くされ、風呂から出ると団員の膝の上に座らされ、全身を撫でくりまわされ、突き回され……扱いがもはや愛玩人形である。

 当初の目的は『色々と話をする』事であったはずなのだが、いつの間に『【アストレア・ファミリア】のメンバーに可愛がられる』ことにすり替わってしまったのだろうか?

 

「…………………ぬぅ」

 

 ……ああ、怖い。すごく怖い。

 何が怖いって、これで帰った後のウチの主神が怖い。

 あの独占欲が強いんだか弱いんだかよく分からないウチの主神が、こんな俺にどんな反応を示すのか、想像するだけでも嫌だ。

 絶対に、絶対に面倒臭いことになる。

 

 そしてその事態の回避方法は無い。

 こうもべったりと他所の女の匂いをつけてしまった以上、俺はご機嫌斜めなテスカトリポカを相手にしなければならないことが宿命付けられてしまった。

 俺が今からできることと言えば、出来る限り早くこの場から脱出して本拠地(ホーム)に戻り、テスカトリポカの機嫌を取ることだけ。それだけだ。

 

「…………」

 

 じろり、と。

 少し離れたところからこちらを見ているアリーゼとアストレア神に視線を送り、早くしてくれと訴えかける。

 すると2人は顔を見合わせて、互いに少し笑ってから、ゆっくりと動き出した。

 

「はーいそこまでそこまで! これからカイはアストレア様と大事なお話をするから、みんなは自分の部屋に戻っていなさい!」

「えー! いいじゃんここに居てもー!」

「ダメよ! 本当に大事な話なんだから!」

「むー……仕方ないなぁ……」

 

 じゃあね、また後でね、と。なんとも名残惜しそうに少女達は自らの部屋へと戻ってゆく。

 その後に部屋に残されたのは、ぐしゃぐしゃに乱れた髪を直す俺と、対面のソファに座ったアストレア神とアリーゼ、そして部屋の隅に佇む輝夜だけになった。

 

「……で、大事な話とは何だ。色々聞きたいことがあるとは聞いたが、人払まで済ますとはな。……随分と大きな話と見受けるが?」

「あー……そう、なのかしら? えーっと……私としては本当に幾つか質問するだけのつもりだったのだけれど……どうなの? アストレア様」

「そうね……そこまで重要かどうかと言われると、そこまで重要ではないのだけれど……」

 

 顎に指を当て、悩ましげに首を傾げるアストレア神。

 

「ただ、知っておきたいと思ったのよ。あなたの事について」

「……俺の事、か。それはまた、随分と……」

 

 くだらない、と続きそうになった言葉を飲み込み、目を瞑る。

 情報の持つ価値は、常に相対的だ。欲していたもの、重要なものならばそれは千金に値し、そうでなければ二束三文にも劣る。その点で言うならば、俺自身の情報は俺にとっては後者に当たるが、かの女神にとってはそうでない、つまり前者に当たるのだろう。

 が、しかし、その上で。この神は、一体俺の何を知ってどうするつもりなのであろうか。

 

「予め言っておくけれど、これはただの私の自己満足よ。私の神としての知的探究心を満たすためだけの、ただそれだけのもの」

「……ふむ」

 

 まるで俺の心中を見透かしたかのような言葉に、成程と納得する。……というよりは、納得せざるを得ない、とでも表現すべきだろう。

 神の知的探究心であるのならば仕方がないのだ。

 大抵のことを既知とした神々にとって、未知とは蜜よりも甘いもので、何事にも代え難いものである。故に『神が知りたいと思ったから』という文言は、それだけであらゆる物事に対する十分な理由たり得るのだ。

 

「話はわかった。であればできる限り答えられるように善処するが……さて、アンタは俺に何を聞きたい?」

「ありがとう。それじゃあ、遠慮なく」

 

 コホン、と。アストレア神が咳払いをして、俺の瞳をまっすぐに見つめる。

 

「カイ。貴方は、このオラリオで一体『何』を成し遂げたいの?」

「竜殺し。それだけだ」

「「!!」」

 

 一切の逡巡の余地も無い。

 俺の最終目標はそれ以外の何でもなく、俺の全ての行動はそれに向けての準備でしかない。

 全ては竜を殺すためだ。

 強さを追い求めるのもそのためだし、犯罪行為、問題行為を起こさないのは竜殺しの妨げとなるような事態に陥らないため。

 それこそ俺が【アストレア・ファミリア】やフィンと交流を持ったのも、竜を殺すために必要な様々な事項において、幾分か良い影響が受けられると思ったからに他ならない。

 

「そうなのね……それじゃあ、重ねて質問させてもらうけど、それはどうして?」

「それを聞くか……ふむ。そうだな……色々と複雑で言語化が難しいのだが……あえて表現するのなら、父がそう望んだから……に、なるか」

「……ええと、あなたのお父さんが?」

「ああ、そうだ。そうなんだが……」

 

 本当にこの辺りは説明が難しい。

 いやまぁ、一から説明すればある程度理解できないでもないんだろうが……

 

「えーっとだなぁ……まず、俺の両親は相思相愛でな」

「……それ、話に関係あるのか?」

「ある。一応……話の根幹というか、原点に近い部分だな、ここは」

「そこが根幹なのか……」

 

 実に面倒な話だがな。

 

「話を戻すと、そんな父親と母親は別の派閥の冒険者だったそうなんだが、母親が俺を身籠ったって事で、派閥的な問題で色々まずいって事で両親共に一時的にオラリオの外で暮らす事になった」

「……出られたの?」

 

 訝しげにアリーゼが問いかける。

 と言うのも、オラリオの管理者たるギルドは内部の冒険者の……特に高位の冒険者の外部流出をとにかく嫌う。

 故に冒険者のオラリオ外への移動は任務などの場合を除いて許可されないことが多いのだ。

 アリーゼが聞きたがっているのは、許可されて外に出たのか、ギルドには知らせず密かに外に出たのか、と言う話だろう。

 

「その辺は知らん。だが、俺は実際に外で生まれ育ったのだから出られたのだろう。それで、オラリオの外で俺を産んだ母親だが、これまた派閥の問題で俺を産んですぐにオラリオへ帰還した」

「ふんふん……それで?」

「父親が男手一つで俺を育てて、俺が2、3歳の頃に母親が黒竜に殺された」

「「「ちょっと待って!!」」」

「ん?」

 

 俺の話を聞いていた3人がいきなり待ったをかけて来た。

 凄まじい勢いだ。輝夜など、そのままこちらに突っ込んできそうな程だった。

 

「殺されたと言ったか? 黒竜に? 8、9年前に?」

「そうだ。直接誰かにその話を聞いたわけではないが、母親が死んだのは時期はその辺で間違いないし、下手人に関してもその後の父の態度がそう証明していた。間違いないだろう」

「これは……アストレア様」

「ええ、恐らく間違いないでしょうけど……カイ、貴方は、お母さんの仇を討つために黒竜を?」

「いや、そう言うわけではないが」

「「「そうなの!?」」」

 

 さっきから息ぴったりな3人だな。

 

「元より顔も名前も知らず、声を聞いたこともない母親の仇など、とる気にもならん。どちらかと言えば俺にそれを決めさせたのは俺の父親だ」

 

 今思い返してみれば、あの頃の父親は本当に酷かった。

 常に憔悴しきった顔でぶつぶつと何かを呟き、突然笑い出したかと思えば金切り声を上げ、突然地面に倒れ伏したかと思えば全身を掻きむしり、そして事あるごとに俺を抱きしめ、撫でながら泣いていた。

 当時の俺はあまりにも急激な父の豹変の理由が分からなかったが、今となればあの頃に母親が死んだのだと理解できる。

 

「母親が死んでから、父親は俺に冒険者になるための訓練を課すようになった。そして、黒竜を殺せと何度も俺に言い聞かせるようにもなった。俺は母親の仇を討つつもりでは無かったが、俺の父親はそうでは無かったのだろう。愛する人、自分の全てと言って憚らない人物を殺されたのだから、当然といえば当然だが」

「それで……貴方は竜殺しを?」

「そう言う事になる。まぁ、だから父親だけのためかと言われればそうでもなくなるのだが……」

 

 母について何も知らないとは言え、母親の仇を討つと言う名目も無いわけではないし、ヘルメス神は俺がそうなってくれることを強く望んでいたし、ヘルメスと一緒にいたあの女神は……あの女神は……何だったのだろうか? 彼女は俺が竜殺しになることを望んでいるようでもあったし、その事を悲しんでいるようでもあったが……よく分からん。

 

「……ヘル、メス、が……」

 

 と、俺がそう語ると、アストレア神は愕然とした表情を浮かべていた。

 そういえばヘルメスとアストレアは同郷と聞く。何か思う事があるのだろう。

 

「まぁ、とにもかくにも、そういうわけだ」

「…………ええ、ありがとう。……それでその、貴方自身は、どう思っているの?」

「……?」

 

 出された質問に首を傾げる。

 要領を得ない。アストレア神は一体何を言っているのだろうか。

 

「すまん、どういう事だ?」

「今の話を聞く限り、貴方は親の意向を汲んで竜を殺そうとしているけれど、貴方自身はどうなの? 貴方は心の底から竜を倒したいと思っているの? 貴方が命をかけて竜を倒そうとするのに、貴方自身は何も思わないの?」

「…………? 竜殺しは、間違いなく俺の意志だが……それがどうかしたのか?」

 

 彼女の言っていることが理解できない。

 俺の意志かどうかって……よもや俺が親や神に洗脳されているとでも?

 

「そう……それならいいのだけれど……それじゃあ、最後に一つだけ」

「ああ」

「仮に本当に貴方が竜を倒したとして……その後は、どうするの?」

「…………」

 

 竜を倒した後。

 竜を倒した後、かぁ……

 

「そういえば考えたことも無かったな、そんなこと」

「…………そう」

 

 俺の答えに、アストレア神は酷く沈痛な表情を浮かべた。

 

「そう、なのね………………………………ごめんなさい」

 

 ソファを立ったアストレア神が俺を抱きしめる。

 アストレア神は、泣いているようだった。

 俺には超越存在(デウスデア)の流したその涙の意味が、微塵も理解できなかった。




Topic……カイはオッタルに負けた後フレイヤに美味しく頂かれたが、テスカトリポカが先だったし好みだったしと言うことで普通に無事(当社比)だった。
その後、割とガチでキレたテスカトリポカとなんか気に食わなかったフレイヤの小競り合い()が行われた結果、カイの女人耐性がMAXになり、美の女神に対する態度が若干キツくなった。
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