冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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『戦いの野』

 地図にも載らないような辺境の地でひっそりと育てられたその子供は、知れば知るほど実に()()()()()子供だった。

 

 優秀な両親より授かった肉体は確かな才能を秘めている。

 幼ないながらも絶妙に整ったパーツは将来の美貌を想起させる。

 教えた物事をまるで海綿(スポンジ)の如く覚えられるだけの記憶力があるし、それを応用するだけの知能もある。

 

 それだけじゃない。彼の境遇も最高だ。

 都市最強派閥の母と中堅派閥の父との熱愛の果てに生まれ、人の手の及ばぬ場所でひっそりと育ち、幼い頃に母が竜によって殺され、父の嘆きを受けて竜殺しを決意する。

 

 思わず笑い声が出てしまう。

 仕組まれたかのように、()()()()()いるじゃないか。

 まるで英雄になるために生まれて来たかのような子だ。

 偶然とは、下界の可能性とは、やはり神にも分からないものだ。

 

 ……しかし残念な事に、メインプランは彼ではない。

 確かに彼は女神(ヘラ)の系譜であるが、男神(ゼウス)の系譜ではない。

 別にどちらが英雄になってくれてもいいが、より()()()()()いるのはやはりメインプランの方に違いない。

 

 だが、サブプランとしてはこれ以上なく優秀だった。

 

 舞台には案内してやった。

 メインヒロインだって用意してやった。

 英雄として覚醒するための、最低限の下地は作ってやった。

 アレ(テスカトリポカ)に拾われたのだけは些か想定外だったが、まぁ、結果オーライというものだろう。

 後は勝手にどうにでもなってくれるのを期待して、オレは自分のやるべき事をさせてもらう。

 

「精々頑張ってくれよ。どっちに転ぼうが、君の頑張りは、オレ達が決して無駄にはしないさ」

 

 羽根つき帽子の神は最善を尽くした。

 どこの(だれ)が悲しもうが、涙を流そうが、そんなことは知ったことではない。

 世界は英雄を欲しているのだ。

 神の手によって造られたモノだろうが、空虚(からっぽ)なハリボテだろうが、関係無い。

 世界は英雄を欲しているのだ。

 

 

 ■

 

 

 あの後は、これまた大変だった。

 とめどなく涙を流されるアストレア神を慰めるのは勿論、なんか凄い顔をしているアリーゼと輝夜を宥めるのも大変だったし、その後なだれ込むようにしてやって来た【アストレア・ファミリア】メンバーの相手も大変だったし、帰った後のテスカトリポカの相手も案の定大変だった。

 で、今現在俺はどうしているかと言えば────

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

「ぬぅンッ!!」

 

【フレイヤ・ファミリア】の本拠地(ホーム)、『戦いの野(フォールクヴァング)』にて、猛者(おうじゃ)オッタルと真剣を用いた模擬戦(ガチバトル)を繰り広げていた。

 こうなった経緯としては、テスカトリポカが「売女(ビッチ)どもの臭いは血と汗と泥で上書きして来い」と翌日になって俺に『戦いの野(フォールクヴァング)』遠征を命じ、どうせ門前払いを喰らうんだろうなーと思いながら門を叩いたら何故かオッタルが俺を迎え入れてそのまま戦闘開始となった、という具合である。

 

「フーッ……!!」

 

 既に戦闘を開始してから数時間が経過した。

激戦熱闘(グランド・バトル)】は十全に発動し、【乱斬連打(ラッシュ・ラッシュ・ラッシュ)】は幾重にも重ねられている。

 その上で【英雄願望(ジークフリート)】の効果も乗った俺の能力値(アビリティ)は、既にLv5のそれすらも大きく超え、Lv6の領域にまで高まっていた。

 

「ラァッ!!」

 

 煌々と光を放つ蒼き炎を纏った鉄剣が轟と音を立て、空を裂き、大気を灼きながら振り下ろされる。

 Lv6並みの膂力で以て繰り出されたそれは計り知れぬ威力を持ち、まともに当たれば人体など鎧を着込んでいようと完全に両断し、その全身を完全に燃やし尽くすだろう。

 

「ッ!」

 

 しかし相対する(オッタル)は、女神フレイヤの誇る『強靭な勇士(エインヘリヤル)』である。並大抵の人間と同等に扱っていい存在ではない。

 実際、オッタルは絶対防御とも称される鉄壁の守りで以て猛火の一撃を容易に退け、そして返す刀で切り上げるようにして反撃の一撃を狙った。

 現都市最強の男の放つ、巨大な質量を伴った斬撃である。

 俺が受ければ、挽肉よりも酷い有様になることは想像に難くない。

 

「オオッ!!」

 

 故に俺は体を回転させ、衝撃を分散させつつ剣を滑らせ、受け流す。

 ギギギと耳障りな金属音が轟き、ぶわりと周囲に熱風が吹いた。

 

「……ッ」

 

 一瞬、ギラギラと輝きを放ち、こちらを見下ろすオッタルと視線が交錯する。

 その目は、『まだ足りない』と雄弁に語っていた。

 ……成程、Lv6の領域ですら、今までの俺の到達したことのない領域ですら、まだ足りないと。

 そんな態度に、何だか無性に腹が立つ。

 ギリと歯を噛み締め、吠える。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

「ふッ…………………………!!」

 

 何十、何百と、互いに剣をぶつけ合う。その一つ一つが必殺の一撃。ほんの一度の失敗が致命に繋がる、殺意の応酬だ。

 剣同士が衝突する度に衝撃波が放たれ、熱風が吹き、そして俺の【力】は上昇する。

【連戦】と【再生】の発現した俺に、最早疲労など存在しない。

【精癒】の生えた俺に、精神疲弊(マインドダウン)は遥か遠い。

 であるのならば。ひたすらに、全力で、最高出力をぶつけ続けるのみだ。

 

「【爆ぜよ】!!」

「ぬぅッ!!」

 

 蒼い炎が爆裂する。

 その衝撃は凄まじく、オッタルはじりと後退を余儀なくされる。

 

「【爆ぜよ】ォッ!!」

「グ……ッ」

 

 蒼い炎の爆裂が、オッタルの体をほんの少し、地面に沈めた。

 好機だ、と。俺は確信する。

 

「【爆ぜよ】ォォォォォォォォォッッ!!!」

 

 三度目の爆裂。

 この一撃で以て、奴を粉砕する。

 それだけの気概で打ち込んだ一撃は────

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 しかしそれをも上回る暴力で以て。真っ向から、完全に打ち破られた。

 

 

 ■

 

 

「────と言う具合だ。スキルが十分に発動するまで待たれたが、それでも負けた」

「……だが、中々に危うい勝利だった」

「魔法も獣化も使ってない奴がほざくな」

「ははは……流石と称賛するべきか、越えるべき壁は高いなと悲観するべきか……」

 

 とある営業前の酒場の中。

 一つのテーブルを囲うのは、俺と、オッタルと、フィン。

 都市最強派閥がトップ二名と、近頃話題の冒険者が一名という、異色の組み合わせであった。

 

 経緯を説明すると、まず俺が『満たす煤者達(アンドフリームニル)』の方々からの治療を受けた後、オッタルに少し話がしたいと連れられて、『豊穣の女主人』なる酒場に移動。

 すると『豊穣の女主人』とやらが【ロキ・ファミリア】の懇意にしている酒場ということで、通行人から通報を受けたフィンがすっ飛んできて、今に至ったわけである。

 

「しかしオッタル。君は女神フレイヤから離れていていいのかい? 今は特に危険な時期だと思うけど」

「……気にするな。問題はない」

「うーん、そうなのかな?」

「コイツが大丈夫だと言えば大丈夫なのだろう。というか多分、幹部陣の殆どがフレイヤ神の護衛についている」

 

戦いの野(フォールクヴァング)』でどの幹部にも会わなかった事は元より、俺を見かけたら真っ先に殺しに来そうなアレンが突っ込みに来なかった。

 恐らく【白妖の魔仗(ヒルドスレイヴ)】以下幹部勢は皆、バベル付近で護衛に当たっているものと思われる。

 

「そうなのかい?」

「……ああ」

「じゃあ、どうして君は『戦いの野(フォールクヴァング)』に?」

「…………………………………」

「だんまり、かな」

「やめろフィン。下手にフレイヤ神の神意を探ろうとするな」

「……そうだね。ありがとう、カイ」

 

 にこりと微笑むフィンだが、しかしそんな中でもオッタルへの警戒を全く緩めない。

 どうやらコイツらは本当に仲が悪いらしい。

 いやまぁ、派閥的にも互いの在り方的にも、仕方のない所はあるが。

 

「そんな事よりもだ、オッタル。俺をここに呼んだのは一体何の用だ」

「差し支えなければ、僕にも教えてくれないかな」

「……先日」

 

 オッタルが実に重々しく口を開く。

 

「俺達はギルドからの要請を受け、襲撃を受けたとされる工場へ向かった」

「南西の大工場だろう? 君たちが出たという話は聞いている。それで、どうなったんだい? 確か第二級冒険者で固められていたという話のはずだけど……」

「……全滅だ。俺達が辿り着いた時には、既に全員が瀕死だった」

「……それで、どうした」

 

 俺が問うと、オッタルは一度瞑目し、そして先程よりも重々しく口を開いた。

 

「……全て、一撃だった」

「!」「ほう」

「たった1人の襲撃者の、大剣、或いはそれに類似した武器による、たった一撃。回避を許さず、防御も許さず。鎧も、武器も破壊しながら、しかし誰の命をも奪っていない」

「それは……凄まじいな」

 

 決して不可能というわけではない。

 だが、だからといってそうそう出来る事でもない。

 隔絶した実力の差がある事は勿論、それだけのことが出来る【力】と【器用】、そして【敏捷】の能力値(アビリティ)が絶対的に求められる。

 

「更には超硬金属(アダマンタイト)の壁すら、一撃で破られていた」

「……冗談だと思いたい話だね」

 

 絞り出すように、フィンが嘯く。

 本当に冗談と思いたい話である。超硬金属(アダマンタイト)を一撃で粉砕したという事は、不壊属性(デュランダル)の付与されている武具でもない限り、物理的防御がほぼ意味をなさない事を意味する。

 最硬精製金属(オリハルコン)を一撃、と言われるよりも多少は現実味があるが、しかし間違いなく生半可な【力】で出来る芸等ではない。

 力自慢で知られているLv5のガレス・ランドロック、或いは目の前にいるこの男で、ようやく出来るか出来ないか、と言った具合だろうか。

 そうなると────

 

「敵はLv6、ないしLv7と見ていいかな」

「ああ。俺もそう読んでいる」

「まぁ、そうなるか」

 

 Lv8以上は無い。もしLv8以上がいるというのなら、こんな回りくどいことをせずとも、真正面からオラリオを破壊できるからだ。

 Lv8がいないとしても、冗談だと思いたい話ではあるが。

 

「……しかし、成程。そういう事だったのか」

「え? どうしたんだい?」

「いや、オッタルが俺と戦った理由だ。Lv6、Lv7並みの【力】との戦闘を見据えた事前演習、と言ったところか」

「………………ああ」

 

 現在、このオラリオにおいて最も素の【力】の能力値(アビリティ)が高いのは間違いなくオッタルで、恐らく次点がガレスになる。

 だが、これにスキルまで含めた場合、能力値(アビリティ)の最高は上限の無い青天井である俺だ。

 だからこそ、オッタルは予め自分以上の【力】を持っている相手との対人戦闘を経験しておきたかったから、俺と対戦したのだ。

 

 ……というか、色々な事に合点がついた。

 テスカトリポカが俺に『戦いの野(フォールクヴァング)』に行けと指示したのも、『戦いの野(フォールクヴァング)』にオッタルがいたのも、最初から仕組まれていた、と。

 いやまぁテスカトリポカがキレてたのは仕込みじゃなくてガチっぽいが。

 

「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

 

 そして唐突に訪れる沈黙。

 俺達はオッタルの話の続きを待つが、しかしオッタルは何も喋らない。

 

「……え? 終わり?」

「……そうだ」

「ここまで連れて来られた意味は?」

「………………………………」

「えぇ……」

 

 なんだコイツ。いや本当に何なんだコイツ。

 

「まぁ、うん。有意義な情報は得られた……のかな、うん」

「……はぁ、そう思うことにするか。それじゃあ俺は帰らせてもらう。フィン、ついでにいつか言っていた地図(マップ)を受け取りたいが、いいか?」

「大丈夫だよ。それじゃあね、オッタル」

「………………………」

 

 寡黙なオッタルを放置し、席を立つ。

 

「ん? もう帰るのかい?」

 

 すると声をかけて来たのは、この酒場の主人、ミアだ。

 佇まいからして少なくとも只者では無いが、まぁ、特に触れないようにする。

 

「ああ、特に何事も無かったからね」

「そうかい。……そこの坊主、今日はすまなかったね。いきなりあんなのに連れ回されて大変だったろう。今日は何も振る舞ってやれなかったが、ま、今度は営業時間に来な。美味いもんをたらふく食わせてやるよ。勿論代金はもらうけどね」

「機会があれば、来させてもらう」

「ん。それでいいよ」

「では」

 

 そう言って、店の外へ。

 その後は一度『黄昏の館』へ立ち寄り、地図(マップ)を受け取ってから、帰路についた。

 

 

 

 ────しかし、Lv6か7の敵、か。

 成程、実に良い冒険になりそうだ。




Topic:戦いを見物していたフレイヤは3回くらい絶頂した。
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