冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

19 / 54
突然の悲劇

「炊き出しよ!」

 

 つまりはそう言う事であった。

 北のメインストリートの一帯を大胆に使った、農業系大派閥(デメテル・ファミリア)含む有志連合による大規模な炊き出し会である。

 道のあちこちに屋台が立ち、料理が作られ、美味しそう匂いが充満する様は、人の食欲を強く惹く。

 天気にも恵まれて人も大勢集まり、北のメインストリートは普段の寂れ具合が嘘であったかのように賑わっていた。

 

「相変わらず騒がしい奴らじゃのう」

 

 遠くでキャイキャイと姦しく騒ぐ【アストレア・ファミリア】を眺めながら、【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロックは呟く。

 

 「そう言うな。今のオラリオが必要としているのは彼女のような底抜けに明るい人物だ」

 「お主は逆に落ち着きすぎじゃのう」

 

 俺たちの任務は、このギルド主催で行われる炊き出し会場の警備だ。

 闇派閥(イヴィルス)共がこんなものを見逃すはずがないという確信めいた予感の下、俺たち以外にも数多くの上級冒険者たちがその目を光らせていた。

 

「落ち着きすぎ、と言われてもな」

「少しは年相応にはしゃいでおけと言うておる。11歳の子供がフィンと話が合うなぞ、異常事態にも程があるわい。一緒になってはしゃげる友人はおらんのか」

「……居ないな。強いて言うならアレンか?」

「それ、本人には絶対に言うでないぞ」

 

 一緒になって街中ではしゃいだ(殺し合った)仲ではあるのだがなぁ。

 ただまぁ、本人に言ったらまず確実に槍が飛んでくるのは俺も予測できるところである。

 

「しっかし、聞いたぞ。()()()、気付いたのはお主らしいのう」

 

 あの件。闇派閥(イヴィルス)構成員による自爆特攻の可能性である。

 

「フィンにも言ったが、俺の今までに得た知識がそう言う可能性を導き出しただけだ」

「普通の者にはそれが難しいと言う話だ。お主が示した可能性のおかげで、救える命はある」

「そうだといいんだがな」

「うむ」

 

 あの件に関する情報は素早く、そしてフィンの言う通り秘密裏に、【ロキ・ファミリア】主導の下、特定の派閥にのみ通達された。

 大規模に公表しなかったのは公表すれば何処から情報が漏れるかわかったものではなかったからだが、ギルドを通さなかったのは単純にギルドが信用ならないからである。

 

 闇派閥(イヴィルス)の対応でただでさえ忙しいのに並行して迷宮探索も進めろとか、わけわからん事をほざいているのが今のギルドだ。

 変な事をしない確証などどこにも無いし、杜撰な緘口令のせいで逆に情報が広まってしまうなんて事態になったら目も当てられない。

 いつだって戦術家にとって最大の敵は無能な味方なのだ。

 

「ところでカイよ。連中はいつ仕掛けて来ると思う」

 

 嬉しそうな顔で飯を頬張る民衆たちを睨め付けながら、ガレスが俺に所感を問う。

 

「……まだ、だな」

「ほう、何故じゃ」

「俺が向こうの立場だったとすれば、民衆が腹一杯になったところを狙う」

 

 腹の膨れた人間はどうしても動きが鈍重になる。

 狙うのならまだ炊き出しが始まってそれほど時間も経っていない今ではなく、もう少しした後。

 人々の腹が膨れつつ、しかし人々がまだ帰っていない頃合いだ。

 まだ、今では無い。

 

「……ただ、何人かそれっぽいのは見つけている」

「何じゃと?」

「アイツと、アイツと、アイツと……」

 

 群衆の中に紛れた闇派閥(イヴィルス)であろう人物を指差す。

 

「何故そう思う」

「飯を食ってない。周囲を警戒している。そして何より、目つきが違う」

 

 闇派閥(イヴィルス)の連中は自分たちが正義であり、オラリオが悪である事を信じて疑わない。

 故にオラリオの中で作られた料理など口にしないし、周囲の人間は全員が敵だし、他の人間全てが憎くて憎くてたまらない。

 そんな態度が、ハッキリと表に出ているのだ。

 

「……ふむ、言われてみれば確かにのう。成程、儂は歩き方に注目しておったが、そもそもが冒険者も民衆も入り乱れる場所。見分けがつかぬはずじゃ」

 

 そんなガレスの呟きをよそに、俺はガチャリと鎧の音を立てて動き出す。

 

「何をするつもりじゃ」

闇派閥(イヴィルス)の構成員が紛れ込んでいるとわかった以上、この炊き出しは中止せざるを得ん。問題は出るだろうが、主導権を握られるよりは何倍もマシだ。……ガレス、出来るだけ多くの冒険者に今から俺の伝える事をそのまま伝えてくれ」

「ぬ……わかった。やってやるわい」

「いいか、こう伝えるんだ──────」

 

 

 ■

 

 

 そうして俺が指示を出してから、仕込みは10分とかからずに完了した。

 冒険者たちはすでに配置についており、後は俺が起動させるだけである。

 

「【燃え立つ意志よ、湧き上がる闘志よ、我が大願を今、ここに】」

「【ブラウフラムダス・トゥーダス】」

 

 とある民家の屋根へと飛び乗り、魔法を発動させて蒼い炎を纏う。

 そして。

 

「【爆ぜよ】!」

 

 ズドン、と。蒼い大爆発が轟く。

 炊き出しの喧騒は一瞬で静まり返り、皆の視線がこちらへと集まった。

 

「この場に闇派閥(イヴィルス)が紛れ込んでいる! 全員逃げろ!!」

 

 俺の警告に、ほんの一瞬だけの静寂が訪れ────

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 悲鳴が大爆発となって、民衆が一斉に動き出す。

 そんな中で、闇派閥(イヴィルス)の構成員たちは少しでも民衆に被害をもたらそうと剣を抜き、魔法の詠唱を開始するが、しかしそれよりも前に待機していた上級冒険者たちによって取り押さえられてゆく。

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!?」

「がああああああああああああああああああああっ!」

 

 しかしそれでも全員を抑える事はできず、そこかしこで爆発音が鳴り響き、断末魔が上がる。

 この大混乱の中では、雑踏の中で踏み潰されてしまう者も数人では収まらないだろう。

 熱々の料理の入った皿や寸胴を被り、大火傷を負う者、調理の火が燃え移り、焼け死ぬ者も、決して少なくはないだろう。

 決して被害をゼロに抑える事はできない。

 しかし、向こうに主導権を握られるよりかは圧倒的にマシであることに違いはないはずだ。

 

「む」

 

 ドンッ、ドンッ、と立て続けに音が鳴り、俺の方へと魔法による攻撃が迫る。

 このように目立つ真似をした上、連中の狙いをめちゃくちゃにしたのだ。

 標的にされることなど、予測していないわけがない。

 

「ふっ!!」

 

 剣を振い、迫り来る魔法を炎の矢で以て迎撃する。

 

「テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

「ッ!!」

 

 すると、すかさずその隙に飛び込んで来たのは、長外套(ロングコート)革脚衣(レザーパンツ)を穿いた、鬼のような形相を浮かべる薄紅色の短髪の女。

 俺は咄嗟に剣を掲げ、大上段よりその一撃を防ぐ。

 ガキンと音が鳴り、衝撃が俺の体を駆け抜けたその瞬間、俺は自身の身体能力値がグンと上昇したのを自覚する。

 

「Lv5か!」

「よくもやってくれやがったなぁ!? てめーのせいでパーティが台無しになっちまっただろうがよぉ!」

「そうか! それは最高だな!」

「テメェッ……うおぁっ!?」

 

 絶え間ない剣戟の合間に挟まれた脚撃(キック)を防ぎ、そこに空いた隙に反撃を差し込むと、女はすんでのところでそれを避けるが、しかし体勢を大きく崩ししてしまう。

 無論、その隙を見逃してやる理由はない。俺はすかさず攻勢に出た。

 

「ぐっ、うおっ、なっ、てめっ、Lv5かぁ!? 私は知らねぇぞてめぇみてぇな小人族(クソチビ)!」

「そうか、残念だったな!」

 

 後方へ倒れ込むようにしながら、しかし器用に剣戟を凌ぐ女が汚い声で喚き散らす。

 無論、まともに会話なんてしてやる義理はない。ただひたすらに、急所に向けて殺意の籠った攻撃を絶え間なく繰り出してゆく。

 

「クソがッ、何だこの剣はぁッ! 太刀筋がクソみてぇに気持ち悪いッ……! こんな小人族(パルゥム)なんざ……ハッ、そうか、てめぇが、てめぇが【蒼き猛火(アズール)】だなぁ!?」

 

 成程、どうやら流石に知られていたらしい。

 面倒なことだ、と。そんな事を無感動に思いつつ、俺は再び剣を振り下ろす。

 

「クソがああああああああああああ!? オイ! オイ! てめぇ等! 加勢にきやがれ!」

 

 とうとう追い詰められた女が唾を吐き散らしながら喚く。

 すると、すぐに飛び出してくるのは剣で武装した闇派閥(イヴィルス)の構成員。左右の両脇から現れた二人は、俺を討ち取るべくその手に持った剣を俺目掛けて同時に振るう。

 女に対してかかりきりになっていた現状、俺にその攻撃を避ける術はない。……ので、仕切り直す。

 

「【爆ぜよ】!」

「ぎっ!?」

「ぐわぁッ!」

「ぐおおっ!?」

 

 詠唱による魔法の解放。

 それによって生じた蒼い炎の爆発は、闇派閥(イヴィルス)の構成員を吹き飛ばし、攻撃を防ぐ事には成功したが、しかし同時に女までもを吹き飛ばし、倒す好機を損ねてしまう。

 

「ヴァレッタ様、どうか今のうちに!」

「うるせぇっ! 言われるまでもねぇ!」

 

 そんな台詞を吐きながら、ヴァレッタと呼ばれた女はこちらに背を向けて逃げ出した。

 瞬間、格上──少なくともLv的には──が戦闘を放棄したことで、俺のスキルが解除され、能力値(アビリティ)が元に戻った。

 

「貴様の相手はこのぉぐぅっ……」

「おい! 止まれ! この女のいのぎゃああああああああ!?」

 

 後ろから飛びかかってきた構成員を裏拳で。人質を取ってきた構成員を地中から伸ばした炎によって吹き飛ばす。

 俺の炎は焼くものと焼かないものを選べるので、人質に怪我はない。

 どうやら気絶はしているよう……いや、もう既に死んでいたのか。姑息な手を使ってくれたものだ。

 

「【蒼き猛火(アズール)】!」

 

 と、人質にされていた女の生死を調べていると、同じく警備に当たっていたらしい【ガネーシャ・ファミリア】の団員がこちらへ走って来た。

 一応、この場は俺がフィンから預かっていると言う扱いになっているので、ひと段落がついて報告に来たのだろう。

 

「状況は」

「殆どの構成員は既に確保した。残りも直に片付くだろう。【勇者(ブレイバー)】率いる本隊も上手くやってくれたようだ」

 

 そう言われて空を見上げてみれば、確かに東と西からそれぞれ煙が上がっている。

 立ち上る魔力の残滓から見るに、魔法によるものに違いない。

 

「被害は」

「……思ったよりもデカい。初っ端に半数程度は抑えたが、残りの連中が魔剣で武装していた。例のあの件もあり、迂闊に俺たちが近づけないところを……」

「……ああ、そう言えば」

 

 その辺に伸びている闇派閥(イヴィルス)の構成員の服を剥ぎ取る。

 するとその胴には、見るからに怪しい装置が巻き付けられていた。

【ガネーシャ・ファミリア】の団員が、その仮面越しからもわかる程にその顔色を青くさせる。

 

「……大正解と言ったところだな。フィンには後で俺から報告しておく。こちらが気付いている事を気取られないよう、全員を収容房へ押し込め」

「わ、わかった……」

 

 そう言って、【ガネーシャ・ファミリア】の団員は踵を返し……たかと思えば、すぐに再びこちらへ向き直った。

 

「あー、その、感謝する。【蒼き猛火(アズール)】。アンタが居てくれなかったら、きっと被害はもっと凄いことになってた」

「……被害をゼロに抑えられなかった時点で、俺は無能の誹りを免れん」

「そ、そんな事は……!」

「民衆からはそう見られると言うだけの話だ。こちらこそ感謝する。お前のおかげで少し気が楽になった」

「あ、ああ!」

 

 そう返事して、今度こそ【ガネーシャ・ファミリア】の団員は去ってゆく。

 さて、それでは俺も救助活動に当たるとするか。

 

「取り消してくださいッ!!」

 

 と、行動を開始しようとしたところに飛び込んできたのは、ただならぬ雰囲気を纏った怒声……聞いた限り、リューの声だ。

 この状況でトラブルは面倒だ。早急に何とかしなければと思いつつ地面を蹴り、声の聞こえた方へと駆ける。

 

「……あ?」

 

 そうして現場に辿り着けば、そこに居たのは凄まじい剣幕のリューと、胸ぐらを掴み上げられて尚ヘラヘラと笑う、一柱の男神だった。

 その光景を見た時点で、俺は頭カッチカチポンコツエルフのリューが、神が冗談まじりに言ったことを真に受けてまた激昂しているのだろうと、そのように予想をつけた。

 だがしかし、その考えは外れていたらしい。

 

「貴方はあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 リューが拳を引き、それをそのまま男神に叩きつけようとしたのだ。幾ら激情家なリューとは言え、尋常な事態ではない。

 故に俺は地面を爆裂させ、その勢いで以てリューの近くまで急接近。その手首を掴んで、行動を事前に阻止する。

 

「ッ!?」

「おやぁ?」

 

 瞬間、肌を触られたことによる拒否反応を起こしたリューが俺を投げ飛ばそうとするが、しかしこちらはLv4。彼女のそれを大きく上回る膂力で以て、それも抑え付ける。

 

「やめろ」

「ッ……カイ・グレイル……ッ!!」

 

 俺が言葉を投げ掛ければ、リューはギリと歯を食い縛り、剥き出しの敵意と共に俺を睨め付ける。

 

「リオン! 何してんだ!」

「それにそこに居るのは……カイだと!? 何をしている、こんなところで!」

 

 すると、状況に気づいた【アストレア・ファミリア】の二人がこちらへと声をかけた。

 

「少し所用がある! すぐに戻るので、状況に集中してくれ! ……お前は行け。回復魔法を持っているだろう」

「ッッ………………!!」

 

 俺のその言葉にリューは逡巡を見せるが、しかし優先順位の差は明らか。

 神をその場に投げ捨て、アリーゼたちの方へと走って行った。

 

「……さて、アンタ」

「ん? 何かな?」

 

 くるり、と。男神の方を向く。

 明らかに覇気のない神だ。黒髪は男にしては長く伸び、前髪はその一部が灰に染まっている。

 

「……いくら神とは言え、時と場合は考えて欲しいものなのだが」

「いやぁ、俺としては、そこまで変なことを言ったつもりはなかったんだけどなぁ……」

 

 へらへら、へらへらと。

 黒い男神はその態度を一向に変えようとしない。

 やはり神は神。まともに相手をしようとするだけ無駄か。

 そう思い、踵を返そうとする。

 

「あぁ、でも、念のため君にも聞いておこうかな、【蒼き猛火(アズール)】」

「……何だ」

「君にとって正義とは、何だい?」

「…………成程」

 

 リューの怒った原因が分かった。

 どうせ彼女の言う正義を小馬鹿にでもしたのだろう。

 彼女の言う正義は、確かにあまりにも高潔で、夢物語のような部分があるのは間違いない。

 つい気になって、状況も考えずに好奇心の赴くままそこを突いたのだろう。全く度し難い。

 

「……俺にとっての正義、と言う話だったな」

「うん。俺は今、正義っていうものについて考えていてね。答えがわかったと思ったんだけど、彼女に否定されちゃって……」

「ならば答えよう。……俺に答える義理はない、と」

「ええぇ〜? 何でぇ〜?」

「黙れ。『空気を読めないフリ』も、そこまですれば誰でも気づく」

 

 地面を蹴り、神から遠ざかる。

 あんなのよりもまずは民の救助だ。急がねば。

 

 

 ■

 

 

「……アレが英雄の最有力候補、ね」

 

 黒い神は遠くに輝く蒼い光を見つめながら独りごちる。

 

「うん、【剣聖(ソードマスター)】と【天姫(てんき)】のハイブリッドだ。だがプロデュースしたのはヘルメスだな? 相変わらずアイツは……ハァ、趣味が悪い」

 

 深い侮蔑を込め、吐き捨てる。

 

「だが……確かにアレは『英雄』に成り得る。それだけの素質はある」

 

 にぃ、と。神の口角が吊り上がる。

 

「素晴らしいじゃあないか。カイ・グレイル。楽しみだよ。君は、この試練をどう乗り越える?」

 

 




Topic:後々になって自分が戦っていたのが【殺帝(アラクニア)】だと知ったが、恐れられている割には滅茶苦茶弱かったのでびっくりした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。