冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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闇派閥対策会議

 都市北西のメインストリート。別名『冒険者通り』。

 そこに聳える万神殿(パンテオン)を彷彿とさせる造りのそれは、迷宮都市が管理機関、『ギルド本部』である。

 

「各【ファミリア】代表、揃ったな。ではこれより、定例の闇派閥対策会議を始める」

 

 そんなギルド本部の奥、百人以上の同席さえ可能とする巨大な会議室の中に据えられた、これまた巨大な円卓に着くのは、錚々たる顔ぶれであった。

【ロキ・ファミリア】からはフィン、リヴェリア、ガレスの三名。

【フレイヤ・ファミリア】からはオッタルとアレンの二名。

【ガネーシャ・ファミリア】からはシャクティの一名。

【アストレア・ファミリア】からはアリーゼと輝夜の二名。

 そして【テスカトリポカ・ファミリア】からは、俺ことカイの一名。

 

 ……こうして列挙すれば、なんかもう場違い感が凄まじい。

 いかにもオラリオを代表する派閥のトップですよ〜みたい感じに座ってはいるものの、明らかに一つだけ格が違うのが居る。

 参考までに言えば先ほど挙げた派閥の等級はそれぞれS、S、S、B、Eである。

 

 そして、上座に腰掛ける丸々太った豚のようなエルフが、ギルド長のロイマンだ。

 権力の椅子に座るのが大好きで、権力を傘に他人に理不尽を押し付けるのがもっと大好きな、有能なのか無能なのかよく分からない豚。それが彼という人物評価である。

 

 そんな彼が手を組み、粛々と開会の宣言をし終えた瞬間。

 彼はカッと目を見開き、椅子を蹴って立ち上がると、バンと円卓を叩いて怒鳴り始めた。

 

「その前に! 現状の体たらくは何だ貴様ら! 連日のように襲撃は絶えず、昨日など大規模侵攻を許しよって!!」

 

 口角泡を飛ばし、贅肉を揺らしながら喚く豚。

 醜いことこの上ないが、まぁ、彼の不満は一般民衆を代表したものであるとも言える。

 工場襲撃を始めとした闇派閥(イヴィルス)連合による被害は確実に迷宮都市を蝕んでおり、彼の言う通り、先日の炊き出しでの事件では多くの死傷者も出てしまった。

 民衆は今、今まで以上の不安と恐怖を抱いていることだろう。

 これは冒険者としては重く受け止めるべき問題である。

 

 しかし、これを言っているのがギルド長、つまるところ『派閥や冒険者含む、都市のトップたる役職』の人物が言うのには納得がいかない。

 

「こちらの無能を咎めているところ悪いが、俺からすれば現状のギルドの指針に疑問を呈さざるを得ん。都市の安全云々を言うのならば、何故ギルドは都市の門を開く。何故ギルドは都市外との交易を続ける。自ら敵の侵入口を用意して、そこから敵に攻められれば冒険者だけの責任か。ギルド長の役職が泣いているとは思わんか?」

「黙れ! 貴様をこの場に呼んだのは先日の襲撃事件、その責任を問うためであって貴様に発言は許されておらん!」

 

 ビシリとこちらを指差し、これまた唾を飛ばしながら怒鳴るロイマン。

 そして俺がこの場に呼ばれたのは先日の襲撃事件の責任を問うためとか言っているが……まぁ、うん。実に面倒臭い事に、どうやら俺は都合の良い責任の擦り付け先に選ばれてしまったらしい。

 まぁロイマンから直々に絶対に来いと言われた時点で正直そんな気はしていたので、気を荒立てる事もない。

 もし俺がただのEランク派閥のトップだったのならばこのまま押し切られてしまうところだったが、しかしこちらには実に頼もしい味方がいる。

 

「その発言は、流石に聞き捨てならないな、ロイマン」

 

 大きく声を張り上げて、フィンが発言する。

 チラリとフィンの方を向いてみると、フィンの方からもこちらにアイコンタクトがあった。

 やはり彼は俺の味方をしてくれるらしい。持つべきものは友である。

 

「確かに先日の襲撃事件には我々の落ち度もあった。本命のためとは言え、民衆たちを囮のようにしたのは認めよう。だが、先日の襲撃事件も、その本命の存在も、ギルド主催の炊き出しが原因だ。そうであるのならばロイマン。責任の所在は君にこそあるのではないか?」

「何を言うか! 私が許可を出したのは確かだが、警備を頼んだのは貴様ら冒険者だ! その冒険者の不手際で被害を被った以上、責任はそこの冒険者にある!」

「それこそおかしな話というものだろう、ロイマン。普段、君は冒険者はギルドの管轄下にあると言って憚らないじゃないか。ギルドが派閥に強制任務(ミッション)懲罰(ペナルティ)を課すことができるのも、実際にそのような関係性にあるからだろう? となれば冒険者のトップは君で、つまり責任を取るのもやはり君だ。違うか?」

「いいや違う! 違うに決まっておるだろう! あの者に現場指揮権が渡った時点で、その場で起きたあらゆる不祥事の責任はあの者に移っている! 魔法に関する権限まで渡したのだから、あの場における全ての被害の責任はあの者が取るのが道理だ!」

 

 絶対にロイマンに責任を取らせたいフィンの追求に、絶対に責任を負いたくないロイマンが吠える。

 二人とも一歩も譲らないであろう争いに、場にいる面々は「あー、これ長くなるなー」と、半ば諦めた表情を浮かべていたが、しかし幸運な事に、この場にはこの言い争いに水を差せる人物が居た。

 

「いいや、それは違うぞ、ロイマン」

「「!」」

 

 凛とした声が会議場に涼しく響き渡る。

 皆が声のした方向へ視線を向ければ、そこに座るのはリヴェリア・リヨス・アールヴ。

 翡翠色の長髪を流し、女神さえも羨む美貌をたたえる彼女は、そのアールヴの名が示す通り、エルフ王族の出身である。

 オラリオにいるうちはあまりその身分をひけらかしたくないようではあるが、しかし己の目の前に傲慢かつ傍若無人な同胞(エルフ)がいると言うのならば話は別。

 

「カイ・グレイルは己のすべき事を全うした。であるのならば、お前も負うべき責任を負え。それとも貴様は自らの責任を年端もいかん子供に擦り付けるつもりか?」

「リ、リヴェリア様……しかし、私はギルド長として────」

「ギルド長であるからこそ、その責任を負えと言っているのが分からないか! 貴様も誇り高きエルフの同胞であると言うのならばそのような浅ましい真似をせず、潔く責を受け入れろ!」

「そうだそうだ!」「リヴェリア様の言う通りだ!」「恥を知れ!」

 

 凄まじいのは王族の力。

 リヴェリアの怒号に呼応して、会議室中にいるエルフ達が一斉にロイマンに罵声を浴びせる。

 ロイマンはすでに汗まみれだ。

 

 ……しかし、何だか収拾がつかなくなってきた気もする。

 このままだとまずいな。さっさと何処かしらで落とし所を用意しなければ。

 

「────はいストップ!」

 

 と、俺が口を開きかけたタイミングで、パンと乾いた音が会議室に響く。

 突然のことに驚き、頭に血が昇っていたエルフ達も口を噤んで、声のした方へと振り向いた。

 すると、そこにいたのはアリーゼ・ローヴェル。

【アストレア・ファミリア】が誇る団長(バカ)が、胸を張って立っていた。

 

「こんな話はやめましょう! 私はこんな不毛な話、聞きたくないわ! 嫌な気持ちになって、お菓子をやけ食いしてしまいそう!」

 

 ……何言ってるんだ、アイツ。

 恐らくそれが議場に居た全員の総意であろう。俺もそう思った。

 

「だってそうじゃない! みんな都市を守るのに最善を尽くしているのに、それを責め合うなんておかしいわ!」

 

 ……成程、これ以上無いド正論だ。反論の余地すら無い。

 だが、それをしないでいられるほど、人間というのは賢くない。

 だからこそ腐敗が生まれ、このような言い争いが起こるのだ。

 ……しかし、この会話が今この場でするべきでないものというのは、確かな事実である。

 

「反省するところはする、いいところは称え合う! それが正しい話し合いというものよ! 子供だってわかるわ!」

 

 ……静まり返った円卓の中、一部の人間の視線がこちらを向いた。

 いやまぁ、うん。言いたい事は分かる。言いたい事は分かるが。そこは今気にするべきところではない。

 

「くっくっく、ハッハッハ! 相変わらず全く物怖じしない娘よ! だがその通りだ!」

「チッ。正論かよ」

「正しいから正論なんだ。大人しく受け入れてくれ」

 

 ガレスが笑い、アレンが悪態を吐き、フィンが諭す。

 アリーゼの鶴の一声……否、鶴というよりは太陽の如き一声に対する不満は、何一つとして出なかった。

 

「清く正しい私の前に第一級冒険者までひれ伏したわね! フフーン!」

「団長、頼むからこの場で調子に乗るのだけはやめてくれ……」

 

 ……うん、良いこと言ったと思ったが、やはりバカはバカだった。

 頑張って手綱を握ってくれ、輝夜。お前にしかできない。

 

「はは、生憎と明るい話はないが、うん。彼女達のいう通りだ。建設的な話をするとしよう。ではまず、シャクティ達が制圧した『悪人共の違法市(ダーク・マーケット)』について情報共有を──」

 

 フィンが議長となり、ようやくまともな対策会議が始まった。

 議題として上がったのは、都市内のこと、都市外のこと、迷宮内のことまで多岐にわたる。

 それら一つ一つについてまとめ、話し合う会議は長丁場を極めた。

 しかし、どれだけ会議が長くても俺には全く苦にならなかった。もたらされる情報の全てが。俺にとっては宝物とすら言えるだけの価値を持っていたからだ。特に、【ガネーシャ・ファミリア】からもたらされた情報は、非常に大きい吉報であった。

 

 何と、正体不明の女魔導士、ないし魔法剣士が、【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭三十人を手玉に取ったらしい。

 それが闇派閥(イヴィルス)の構成員かは分からないが、ほぼ確定という事だ。

 戦うのが実に楽しみである。

 

「さて、それでは最後になるが……『本題』に入る」

「「!」」

 

 議場が静かになったタイミングで、フィンが切り出した。

 

「【ヘルメス・ファミリア】によって、闇派閥(イヴィルス)の新たな拠点が見つかった」

「「「!!?」」」

 

 冒険者達が驚きをあらわにする。

 

「廃棄された施設を利用しているようです。これまでのものとは異なり、かなりの規模……それも三つ。詳しい調査はできませんでしたが、一般人を装った見張りの量から見ても……恐らく、本拠地かと」

 

 椅子から立ち上がって情報を話すのは、【ヘルメス・ファミリア】の……アスフィとか言ったか。確かヘルメスのお気に入りだったはずだ。

 

「【ヘルメス・ファミリア】の情報を精査し、ギルド上層部もこの三つを敵の棲家(アジト)と判断した。そこで、この三つを同時に叩く」

「一つは【アストレア・ファミリア】が行くわ!」

 

 フィンが言い終えるか言い終えないかと言ったタイミングで、アリーゼが名乗り上げた。

 

「……まだ僕は何も言っていないよ?」

「本拠地に突入するファミリアを募るんでしょ? 【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が散らばるのは当然として、残りは一つ余る。なら私達が受け持つわ! 機動力なら負けはしないもの!」

 

 ……何とまぁ、豪胆な事である。

 しかしまぁ、うん。確かに【アストレア・ファミリア】ならば出来るだろう。

 彼女らの実力は、俺もよく知っているところだ。

 

「……フィン。我々も【アストレア・ファミリア】と連携する。それなら頭数も十分だ」

 

 観念したようにそう進言するのは、【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティ。

 

「わかった。なら予定通り、残り二つを僕と……」

「……ああ。俺たちが行こう」

 

 今まで沈黙を貫いていたオッタルが、重々しく頷く。

 

「罠の可能性は?」

「考慮した上で叩く」

 

 フィンが円卓の皆を見回す。

 言葉には出していないが、例の爆弾について、わかっているな? という確認だ。

 それに対し、皆が皆、フィンに向けて目で合図する。

 

「突入に十分な戦力を投入するのは元より、他の区域にも目を光らせる。へファイストス、デュオニュソス、イシュタル……全ての有力派閥に協力を要請する。ロイマン、頼めるね」

「……仕方あるまい、都市に平和をもたらすためだ」

「【ヘルメス・ファミリア】は都市全域の警戒と、有事の際の迅速な情報伝達を頼む」

「了解しました。派閥の者に徹底させます」

「そしてカイ。君に頼むのはバベルの警護だ。【へファイストス・ファミリア】と協力して事態に当たり、例の謎の強者が現れた場合は僕たちが帰還するまでの時間稼ぎを頼む」

「了解した」

 

 うん、実に妥当な判断だ。

 俺という戦力の使い方は、現状はそれが一番と言える。

 

「……さて、察しの通り、これは大規模な『掃討作戦』になる。敵の拠点が発覚した以上、放置しておく選択肢はない。こちらから打って出る」

 

 フィンの瞳が、再び円卓に集う冒険者達をゆっくり見回す。

 

「作戦の開始は……3日後」

 

 議場の空気が、さらにもう一段緊張したのが感じ取れた。

 

「敵に気取られないよう、準備には細心の注意を払ってくれ。……ここで戦局を決定付ける」

「任せてちょうだい! やってやるわ!」

「……クハッ」

 

 本当に物怖じしないアリーゼに、思わず笑いが漏れる。

 おかげで、張り詰めすぎていた緊張が、少し緩んだ。

 

「それでは、解散」




Topic:イシュタルは一度カイに目を付け、迷宮内にてフリュネらに襲わせたことがあるが、普通に負けた。というか勝負にさえならず、モンスターのついでに焼かれた。ちなみにカイはそのことを全く覚えていないし、筆者は本格的にアーディをどうしようか迷っている。
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