冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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大抗争

 長い夜が明け、約束の日が訪れる。

 今頃敵拠点の近くでは、突入前の最後の準備が行われていることだろう。

 そしてこの場所。俺がフィンより預かった中央広場(セントラルパーク)含むバベル周辺も、同じように最後の準備に勤しんでいた。

 

「おい、お主の指示通り、前衛に火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を配布させたぞ。この残りを後衛組に配るって事でいいんじゃな?」

「ああ。それで、防護壁(バリケード)の方はどうだ」

「今のところは問題なさそうじゃのう。急拵えも急拵えじゃが……」

 

 隣に立つエルマーの視線を追い、北に伸びるメインストリートの方を見やる。

 するとそこでは、今まさにまるで鉄棒を滅茶苦茶に折り曲げたような、歪で、しかし刺々しい障害物が設置されようとしている最中だった。

 

「……ほんの少しでも、侵入に手間取ってくれると信じたいのう」

「何にせよ、ただの気休めだ。Lv2どころかLv1後半でもあの程度なら無視できる」

 

 火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)の配布と、防護壁(バリケード)の設置、そしてバベルの武装化は、全て俺の策だ。

 この三日間の猶予の間で【へファイストス・ファミリア】と協議し、用意した。

 

 なぜこのようなものを用意したのかといえば、それは敵の大規模侵攻が予想されたからだ。

 前提としてまず俺は、あの拠点が絶対に罠であると確信している。

 理由はその数と配置だ。

 まず現在のオラリオのランクS探索系派閥は三つ。そして拠点の数も三つ。そして拠点の配置はオラリオ外周部付近に、ほぼ等間隔に配置されていると来た。

 

 これら全てが偶然の産物であるはずがない。

 確実に敵はこちらの戦力分散を狙っていると言っていいだろう。

 拠点の数が一つであるのならば、オッタル一人……と言うより、【フレイヤ・ファミリア】一つ突っ込ませればそれで事足りてしまう。

 しかし拠点の数が三つならばどれが本命か分からなくなり、そのいずれにも強者の存在が想定される以上、それぞれに一定以上の戦力を用意する必要が出てくるのだ。

 

 拠点の数と配置、構成員に装備された爆弾、得体の知れない強者の存在と、あまりにも状況が整いすぎている。その点から考えて、俺はあの拠点は罠であると断じた。

 そして俺の予想が正しいのなら恐らく、敵の本命はこのバベルだ。

 バベルの落城は、それ即ち冒険都市の陥落と同義。

 バベルに住まう神々が殺されることで冒険者の数は激減し、ダンジョンは奪われ、蓄えられた潤沢な資源はその全てを相手に明け渡すことになる。

 

 だからこそ、それを許すわけにはいかない。

 故に、俺は出来る限りであらゆる策を講じた。

 

 火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)は、敵の爆弾が火炎石を用いた物であると発覚したため、これの被害を少しでも減らすために配布した。

 出来れば全員に配りたかったが、しかし数には限りがある。取り敢えず前衛職には全員。後衛職は自前で持っている者にはその着用を願い、後は残ったものを配布することになった。

 無論、爆弾の本領は起爆時の衝撃であるため、熱を防げたとしても至近距離で爆発されてしまえば死は免れないだろうが、無いよりはマシであることに違いはない。

 

 そして防護壁(バリケード)の設置。

 中央広場(セントラルパーク)から8方向へ放射状に伸びるメインストリートに、鉄製の障害物をそれぞれ三重に、隙間なく用意した。

 これに関して【へファイストス・ファミリア】の力をフルに借りさせてもらった。

 かかった費用はまぁまぁだったが……ギルド持ちなので俺には関係ない。

 ちなみに押し寄せてくるだろう住民や神の避難に関しては、ある程度までは冒険者が運び、大規模な避難が予測されるようならばすぐさま破壊して道を作るように言い含めている。

 防護壁(バリケード)の形状があのようなのも、鍛冶師達が手元の槌ですぐに破壊できるようにするためだ。

 

 最後にバベルの武装化。これは読んで字の如くである。

 俺は最終防衛ラインをバベルの内側に用意した。

 1階から3階までの間に計12個の防護壁(バリケード)を設置し、槍を主武器とする低級冒険者達を敷き詰めたのだ。

 神々が利用する関係上、流石に大掛かりな罠などを用意することはできなかったが、侵入経路が極端に限られるバベル内部ならば、あまり位階の高くない冒険者達でもある程度は足止めが利くはずである。

 

 ……贅沢を言うのであれば第一級冒険者が数人ほど欲しかったが、フィンの判断により、今は都市全域に散らばっている。

 この場における戦力は、俺と【へファイストス・ファミリア】、【ロキ・ファミリア】二軍、【フレイヤ・ファミリア】フレイヤ護衛隊、その他大勢。

 戦闘力別に見れば最強戦力にして指揮官が俺。次点が椿・コルブランド。その他Lv4五名、Lv3十二名、Lv2五十数名、その他Lv1多数名。

 それと追加で神ロキを始めとした、都市最重要派閥の神数名による指揮補佐、と言ったところか。

 

「……作戦開始が近い。急いで準備を終わらせなければ」

「わかっとるわい……それと、【勇者(ブレイバー)】のクソガキから伝言じゃ。『例の強者が出現次第、出撃を許可する』との事らしいが……お主のことをよくわかっとるようじゃのう?」

「………………ハァ…………つまりそう言う事らしい。神々の……いや、神ロキにそれは伝えておいてくれ。俺が居なくなった後は彼女に指揮を仰ぐように頼む」

「ったく……わかったわかった。伝えておくわい」

 

 そう言って、エルマーは足早に去ってゆく。

 

「………………」

 

 刻限までは後数分もない。

 懐中時計を握る手に汗が滲み、ドクンと心臓が高鳴る。

 ……どうやら、柄にもなく緊張しているようだ。

 

「おうおう、ビビってやがんのか? あァ?」

「……テスカトリポカ」

「オマエも一丁前に緊張なんざすんだなァ。オレぁもっとクソずぶといモンだと思ってたが、まァ戦いの前にゃある程度は緊張してんのが丁度良かったりするモンだからなァ? えぇ?」

 

 ガバリと。後ろから強引に肩を組まれる。

 ニヤリと歯を剥き出しにして笑うテスカトリポカは、恐ろしいほどにいつも通りだった。

 

「……ああ、そうだな」

「へッ。んじゃあとは勝手に頑張れや。オレぁしっかりと見物させてもらうぜ」

「そうしていろ」

 

 そう言うとテスカトリポカは踵を返し、バベルの方へと戻ってゆく。

 ……なんだか少し、元気が出た気がした。

 

 

 ■

 

 

 そしてついに、刻限を迎えた。

 その直後。ほぼ全く同時に三方向から爆音が上がり、魔力の残滓を伴った煙が湧く。

 

「……始まったみたいですね」

「ああ。そうらしい」

 

 戦火を眺めつつ、周囲の警戒は怠らない。

 敵の本命がバベルだとすれば、どこに伏兵が潜んでいるとも分からない以上、急襲には最大限の警戒を払わねばならない。

 やろうと思えば、そこらの民家にも数十人単位で人は押し込めるのだ。

 防護壁(バリケード)で防御できていない民家の壁を突き破って来る可能性だって、十分にある。

 

 避難民を装ってこの場で自爆、と言う可能性だってなくはない。

 いつも以上に疑い深く。それこそ疑心暗鬼にでもなるつもりでいなければ。

 

 と、そうして敵の動向を探りながら数分が経過した、その時。

 ()()()()()()()()()()が、拠点の一つから轟いた。

 

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 

 その場にいた全員の視線が、そちらを向く。

 

「来るぞッ!! 総員! 警戒態勢ッ!!!」

 

 真っ先に気づいた俺が、声を大きく張り上げた、その直後。

 

「「「「──────────────────ッッッ!!!?」」」」

 

 爆発、爆発、爆発、爆発!!

 都市の至る所から爆炎が吹き上がり、轟音が大気を揺るがす!!

 その数はもはや10や100などと言う次元ではない!

 

「クソ、想定が外れたか……!?」

 

 都市の至る所で轟音が響き、悲鳴が割れ、断末魔が上がる。

 地面までもがビリビリと揺れ、街はあっという間に燃え上がり、空は赤く染まる。

 都市は、一瞬にして地獄に変貌した。

 歴戦の冒険者達ですら、あまりにも酷い光景に絶句を禁じ得ない。

 

「……ッ、慌てるな! 決して慌てるなよ冒険者! 想定していた事だろう! 起こると分かっていた事だろう! ならば狼狽える必要は無いはずだ! 各員、武器を構えろ! 敵はすぐにでもここに迫って来る! 己の為すべき事を為せ!」

「「「ッッ……おッ、オぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」」」

 

 俺の声に反応し、呆然としていた冒険者達が戦意を取り戻す。

 

 ……だが、これはただの空元気に過ぎない。

 こんなものは想定外だ。否、想定以上と言うべきか。

 自爆装置に関しては完璧に合っていた。捕縛済みの構成員全員が自爆装置を装着している事は、予め想定していた。拠点が罠だと言うことも完全に正解だった。だからこそ俺たちは、闇派閥(イヴィルス)構成員の収容所を出来る限り一カ所にまとめるなど、被害を減らす努力はしていたはずだった。

 

 ……だが。だが!

 よもや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは!!

 

 パッと確認しただけですら、想定していた数……予め闇派閥(イヴィルス)の構成員の収容房の数の、数倍以上もの火柱が上っている。

 これは即ち、予め冒険者を巻き込むでもなく、ただ自爆するためだけの『自爆要員』がそこに配置されていたという事実に他ならない。

 

 何のためか?

 民衆を恐怖と混乱のドン底に叩き込むためだ!

 

 耳をつんざくような爆発音、断続的に続く地面の振動、燃え上がる火の手、満ちる悲鳴。

 それが増えれば増えるだけ、長く続けば続くだけ、民衆の恐怖は加速度的に増し、恐慌状態に陥った人間の増加は大混乱を招く!

 

 そうなれば一番割を食うのは俺たち冒険者に他ならない!

 連中は『民衆』という枷で以て、俺達を溺死させるつもりなのだ!

 

「……ぬぅ……ッ」

 

 自らの思慮の不足に怒りすら湧いて来る。

 よくよく考えずともわかる事だったはずだ。

 守るものは多ければ多いほど不利であるなど、それこそ子供でもわかる!

 民衆の暮らす都市の内部で戦闘が起こる事を想定していたのならば、利用する他に手はないなど、誰が見ても明らかだっただろうに!

 

「……ッ!」

 

 自責の念に駆られていた己の頭を殴りつける。

 今は悔しがっている時間でも、悠長に反省している時間でも無いのだ。

 

「【敏捷】に自信ある者に避難の誘導をさせろ。Lvはこの際関係ない。行く意思のある人間に行かせろ。……ただ魔剣は絶対に一つ持たせておけ。炎系のだ。火炎石に引火させれば一網打尽にできる」

「了解した、すぐに呼びかける!」

防護壁(バリケード)の両端を破壊させろ。最低限の壁としての役割を保たせつつ、道を確保するんだ。数分もせずに避難民が押し寄せるぞ。……そして集めた民間人は、絶対にその場から動かすな。固めて待機させろ。間違ってもバベルには入れるな」

「……えっ、りょっ、了解!」

「【蒼き猛火(アズール)】! ギルド本部より、この場に居る者から警邏に当たっていた冒険者の救援へ向かって欲しいと要請が……!」

「そうか……ならば三人一組(スリーマンセル)をそれぞれ2組ずつ作り、街の警邏に当たっていた冒険者と合流しながら移動させろ。そして各組には魔剣持ち、または魔導士を絶対に一人は入れろ。火炎石に引火させれば一網打尽にできる。あと避難の呼びかけも並行して行わせてくれ」

「わかった!」

中央広場(セントラルパーク)に敵が迫って来たぞ!」

「火矢、魔剣、魔法を最大限用いて戦え! とにかく火炎石の誘爆を狙って攻撃しろ! それらの手段を持たないものはひたすらに足元を狙え! 進ませるな!」

 

 次々と飛んで来る報告を捌きつつ、俺も魔法を発動させ、炎の矢で以て敵兵達を吹き飛ばす。

 

「恐れるな! これもやはり想定済みである事に変わりはない! 手数と攻撃の質ならばこちらの方が圧倒的に上! 魔剣も撃ち放題だ! 負ける理由はない!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」」」

 

 大声で陣営を鼓舞しながら、とにかく敵を吹き飛ばす。

 そうして敵を殺して殺して殺しまくっているうちに理解したのは、明らかに『敵の数が多い』事だ。

 想定の倍どころの騒ぎではない。下手をすれば5倍、10倍をも上回る可能性もある。

 明らかに人間を消費する速度が尋常ではない。

 

「カイッ!!」

「っ、フィン!!」

 

 歓声にも似たざわめきと共に、フィンがこちらへと駆けて来た。

 

「他の団員は?」

「ガレスとリヴェリアは部隊の半分を預け、南の救援に向かわせた。避難民はどうしている?」

「既に外へ何人かが迎えに行き、ここに集めて固めているが……」

 

 避難民に装った闇派閥(イヴィルス)間諜(スパイ)が怖い、と。言外に伝える。

 

「……【フレイヤ・ファミリア】に任せよう。彼らは女神のためならばとことん冷徹になれる。神ですらフレイヤに仇なす邪神と分かれば、問答無用で対処してくれるだろう」

「わかった……オイ、そこの【フレイヤ・ファミリア】! 聞いていたな!?」

「チッ……我が女神の為ならば」

 

 女神への忠誠の下、【フレイヤ・ファミリア】の団員が動く。

 

「……フィン。この場は……」

「うん。僕が持つ。君の魔法こそこの戦場では最適解だ」

「頼んだ」

「こちらこそ」

 

 抜き身の剣のまま、地面を蹴って跳躍し、西のメインストリートの方へ降り立つ。

 その際に落下しながら炎をばら撒くことで、敵兵達を吹き飛ばす。

 

「この場は【蒼き猛火(アズール)】より僕が預かった!! 今から僕がこの場の指揮を取る!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」」」」

 

 フィンの宣言と、俺の声に反応したそれよりも圧倒的に大きな歓声に頼もしさを覚えつつ、炎を蒼く猛らせながらメインストリートを駆け抜ける。

 

 ……さて、ここからが本番だ。




Topic:闇派閥対策会議の時にフィンがこれでもかと友人ムーブを決めた結果、大体の冒険者は『【蒼き猛火(アズール)】=フィンの友人=えげつない小人族(パルゥム)』という等式を頭の中で完成させている。カイが冒険者の不満なく指揮を取れるのはこのため。フィンとカイの狙い通り。
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