冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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『空襲』

 アーディ・ヴァルマは、その生存を秘匿した上で正体を隠し、臨時の治癒師(ヒーラー)として活動する。

 それが、神ガネーシャと話し合って出した結論らしい。

 

 まだ彼女の姉や彼女の知人とは会えそうにないが、しかしそうであるからと言って閉じ籠り、何もしないわけにはいかない。

 都市がこんな状況で、せっかく回復魔法があるのだから、最低限出来ることはやりたい、と。そういうことになった。

 

 俺としては彼女の精神力に驚くばかりである。

 身体的にも精神的にも相当辛いだろうに、それでも人のために動こうとするとは。

 まさしく生粋の善人であるのだろう。

 

 ……とは言え、義手も義足も無いのだから、いきなり一人で動けるわけもない。

 なので一人、彼女の介助をする人材が必要であるのだが、しかしガネーシャ神はあまりにも忙しく、【ガネーシャ・ファミリア】の面々に頼むわけにもいかない。

 かと言って俺がどうにかしようにも、主要戦力の一人である俺にそんな事をしている暇は無い。

 昨日はまだ飛行の練習という名目があったから良かったが、今日はもう無理である。

 

 さて、それではどうするかと三人で顔を合わせて頭を悩ませ続けた結果、俺は一人、現状でとても暇してそうな人物……否、神物(じんぶつ)の存在を思い出した。

 

「……で、オレにこのガキの面倒を見ろってか? あ?」

「そうだ。どうせ暇だろう」

「お? 不敬か? 神を働かせるとか言語道断だが?」

「だが実際暇だろう」

「……………………………………」

 

 そう、テスカトリポカだ。

 普段テスカトリポカは【デメテル・ファミリア】の農場を借り、割と大規模なトウモロコシ畑を運営しているのだが、しかし今【デメテル・ファミリア】の農場に赴く事はできない。

 つまりテスカトリポカは手持ち無沙汰な状態のはずなのである。

 

 そして都市の緊急事態たる今、働けるはずなのに何も仕事をしていない人物など、それが神であろうと許されるか? いいや、許されない。

 あの女神フレイヤですらバベル頂上から見える俯瞰的な景色を利用して指揮を執っているのだ。

 その中でテスカトリポカだけが何もしないなど、例えその他大勢が許そうとも俺が許さない。

 

「……チッ。やってやるよ。やりゃあいいんだろうが」

「ああ。それでいい」

 

 そんな風に俺が圧をかけまくれば、最終的に渋々といった具合でテスカトリポカは承諾した。

 

「ありがとう、テスカトリポカ様! よろしくね!」

「まさかあのテスカトリポカをこうも容易く……イッツアメェイジィーングッッ!! 感動エレファント級!! (スーパー)エクセレントガネーシャだぁああああああああ!!」

「黙りやがれ変態」

 

 ガネーシャ神が何を言っているのかは意味がわからないのでさておくとして、一先ずはこれで一件落着か。

 まぁ、彼女自身の問題は何一つとして解決していないし、その辺は時間をかけてゆっくりと解決しなければならないだろうが、しかし今はまだその事について考えるべき時ではない。

 

「えーと、でも」

「ん?」

 

 俺がそんな風に考えていると、アーディが心配そうにこちらを見ていた。

 

「大丈夫なのかな? 私、見ての通り動けないけど……」

「……ああ、成程」

 

 つまるところ、身体能力の低い神が自分のような足手纏いと居て危険ではないか、という話だろう。

 

「そういう事なら問題ない。我が主神はLv5に囲まれても勝てる」

「そうなの!?」

 

『煙を吐く鏡』たるテスカトリポカの神性は幅広い。

 テスカトリポカは美の神であり、闇の神であり、魔術の神であり、そして奴隷の守護神であり、戦の神でもある。

 故に技術に依る超強力な戦闘能力を持っているだけでなく、美の神としての魅了の権能、魔術の神としての対抗魔法(カウンターマジック)、闇の神としての目眩しなどなど……その手数の多種多様さは冒険者のそれさえも凌駕する。

 今の俺ですら戦って勝てないレベルであり、その気になればオッタルさえ下せるだろう。

 下手な冒険者を護衛につけるよりも安心できる。

 

「テスカトリポカならば超安心! ガネーシャお墨付きだゾウ! 見ろ! この通りぐわああああああああああああああああああああ!?」

 

 ガネーシャがテスカトリポカに襲いかかり、1秒かからずに地面に叩きつけられた。

 

「……と言うわけだ」

「あ、うん」

 

 アーディは真顔で頷いた。

 

 

 ■

 

 

 迷宮都市の現状は、まさしく最悪である。

 市壁を完全に占領され、冒険者や民衆は完全な包囲下にあり、物資の補給は完全に絶たれ、外部からの支援は絶望的。

 怪我人は多数であり、まともに動ける人間は実に少ない。

 

 その上で闇派閥(イヴィルス)の小隊による『嫌がらせ』が頻発し、負担(ストレス)は溜まる一方。

 ろくに休憩もできない冒険者は消耗するばかりで、安全を失い限界状態に立った民衆は、いつまで経ってもよくならないどころか悪化する状況に爆発寸前。

 内部崩壊が秒読みに入っている段階である。

 

 さて、そんな状況で俺がすべきは何か?

 Lv4の実力を持ち、そして昨日の練習により安定した飛行が可能になった俺がすべきは、何か?

 その答えは簡単である。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!?」

「な、なんだアレは!? なんなのだアレは!? どうすればよいのだ!?」

「無理だ! どうしようもない! 逃げろ! 逃げろぉおおおおおおおお!!」

 

 理不尽かつ、徹底的な『空襲』だ。

 魔法によって空中に陣取り、そしてこちらを見上げる闇派閥(イヴィルス)共に、ひたすら蒼炎の弾丸を撃ち下ろす。

 敵は火炎石による自決装置を身につけているため、直撃(クリーンヒット)せずとも誘爆によって殺すことができるし、その火炎石の爆発が更に周囲の敵に伝播、連鎖的な誘爆を引き起こすことで、小隊程度ならば一瞬で全滅させることが可能だ。

 

「逃げるなぁ!? 矢だ! 矢を射かけろ!! 魔法を撃て! 叩き落とせぇぇえええええ!?」

「無理です!? 当たりません!?」

 

 当然、向こうも抵抗を試みるが、しかし無駄である。

 空中を縦横無尽にかける俺に矢はまず当たらないし、仮に当たる軌道だったとしていくらでも弾ける。

 魔法や魔剣も、撃たれる前に殺せばいいし、撃たれたとして回避は容易。

 

「クソックソッ……降りてこい! 巫山戯るなぁ! 卑怯者めがぁあああああああああああ!?」

「どっちがだよ」

 

 炎の矢で以て、喚く闇派閥(イヴィルス)を消し飛ばす。

 こちらは一方的に攻撃が可能で、向こうはただ甘んじて受け入れるしかない。

 闇派閥(イヴィルス)にとって、今の俺はまさしく『天敵』なのである。

 そして、連中にとっての天敵とは即ち────

 

「す、すげぇ! あのクソ野郎共を一瞬で蹴散らした!」

「えげつねぇ……えげつねぇぞ【蒼き猛火(アズール)】! これならなんとかなるんじゃないか!?」

 

『こちら側にとってこれ以上無く心強い味方』に他ならない。

 俺が空を駆け、蒼い光を撒き散らしながら敵を殲滅するだけで、民衆は希望を持ってくれる。

 これほど楽な作業も無い。

 ただ惜しむらくはこちらに【力】と【耐久】の経験値(エクセリア)が入らないことと……

 

「それができるんなら、もっと早く助けろよ!」

「アンタがもっと早く来てくれたら、夫は助かったのよ!?」

「お前が、お前が来なかったせいで! お前のせいで! 娘が死んだ! どうしてくれるんだ!」

 

 ちょっと五月蝿い、と言う事くらいか。

 まぁ、仕方あるまい。彼らも精神的な限界を迎えつつあって、当たり散らかす相手が欲しいのだろうし、何よりもっと早く助けられなかったのも、出来たはずなのにやらなかった事も事実ではある。

 そこは俺も甘んじて受け入れ、反省しなくてはならない。

 

「おい!? なんとか言ったらどうなんだ!?」

「……すまなかった。俺が産んだ犠牲は確と俺の胸に留め、そして二度とそのような悲劇が起こらないように最善を尽くす事を誓おう。娘の名前はなんと言う」

「ッ……だ、誰がお前なんかに……」

「そうか。ならばそれでいい。俺はただその事実だけを刻むことにする」

 

 蒼炎(ほのお)を噴かし、空中を駆け、次の標的を探す。

 市街を見下ろし、隠れ潜む敵を見落とさないよう細心の注意を払いながら上空を飛行していると……

 

「……ん?」

 

 野生の美の女神が現れた。

 地味なケープに身を包み、せっせと甲斐甲斐しく配給を……いや、ん?

 ……いや違うな。うん。アレは違う。

 何だか雰囲気が似ているように感じたが、普通の町娘だった。

 ただの人違い────

 

「……じゃ、ないな」

 

 娘が顔を上げ、こちらと目を合わせると、にこりと微笑んだ。

 何度も見たことがある、悍ましささえ感じるような美神の笑みだ。

 アレができると言う事は、やはりアレはフレイヤ神なのだろう。

 

 町娘のフリをして一体何を企んでいるのかは知らんが、どうせ碌でもないことに違いあるまい。

 関わりたくない。その一心で蒼炎(ほのお)を噴かし、加速してその場を通り過ぎた。

 

 

 ■

 

 

「……凄まじいな」

 

 ギルド本部、作戦室。

 冒険者達から上がった報告書を片手に、フィンは嘯く。

 

「上空からの一方的な空襲。敵は逃走も反撃も許されん……まんま【天姫(てんき)】やなぁ。【天姫(てんき)】の子ってか。あー恐ろし恐ろし」

「だが、味方になった今は頼もしい事この上ない。彼の暴威が、確実に味方の余裕を作っている」

 

 報告書に記されているのは、【蒼き猛火(アズール)】が敵の部隊を殲滅した場所とその数。

 多少の偏りこそ見られるものの、都市全域において満遍なく敵部隊を確実に撃滅しており、活動を開始してからそろそろ8時間が経過しようとする今、既に壊滅させた敵部隊の数は50の大台に乗ろうとしていた。

 

「彼が空を飛び始めてから、出現する敵小隊の数も明らかに減っている」

「ま、当然やろなぁ。やっとるのが人間である以上、体力切れにせよ精神疲弊(マインドダウン)にせよいつかはガス欠する。下手に攻めて大きな被害を受けるより、勝手に自分から地面に降りてくれるのを待っとったほうが何倍もええ」

「普通は、ね」

「……って事はなんかあるんか」

 

 フィンが乾いた笑いを漏らす。

 

「彼、戦闘中は疲れない上に最近になって【精癒】まで獲得したらしくてね。小出しであっても敵が部隊を出し続ける限り、彼はきっと飛び続けるよ」

「まんま【天姫(てんき)】やんけ……マジで敵やのうて良かったわ」

 

 身震いしながら、噛み締めるようにロキは呟く。

 

「ただ何にせよ、敵にとってはとことん目障りなことに変わりはない」

「何とかしようとしてくるやろなぁ。無難なのは待ち伏せからの一斉攻撃やけど……そうはしてこんやろな」

「逆に何もしてこないことも考えられる。敵は周到だ。いくら彼が脅威であるからと言って、わざわざ彼一人のためだけに戦力を放出するような真似はしないだろう」

 

 確かに【天姫(てんき)】のようであるが、しかし実際はそうではない。

天姫(てんき)】にしては明らかに遅く、そして明らかに弱い。

 あまりにも無法すぎるせいで『冒険』が出来なくなり、Lv8になれなかったとすら言われる彼女とは違い、彼はまだ常識の範疇に居る。

 であるのならば、アルフィアやザルドが出張れば十分に対処できるレベルだ。

 

 だが、彼一人のためだけに敵が用意しているであろう計画を崩すわけにもいくまい。

 であるのならばここで静観を決め込み、計画の次段階に至るまで兵力を温存してくる事も十分考えられる。

 

「……とにかく、今は暴れられるだけ暴れてもらおう」

「そっちの方が都合がええ、か」

「ああ。そうなる」

 

 

 

 

 下水道などの設備が整えられた、都市の地下空間。

 その表層近く、地上の景色が見える辺りに、闇派閥(イヴィルス)の幹部達が集まっていた。

 

「……チッ。うざってぇ」 

 

 そう吐き捨てる【殺帝(アラクニア)】ヴァレッタ・グレーデの視界の先に煌々と輝くのは、実に忌々しい蒼色の炎。

 ただでさえあの蒼炎(ほのお)には嫌な思い出があると言うのに、それにこうも好き勝手されてしまえば、どこまで行っても自分本位であるヴァレッタには苛立ちが抑えられない。

 

「神エレボスよ。早急にヤツを地へと引き摺り下ろし、殺すべきだ。アレは我らにとって不都合でしかあるまい」

 

 そして同様に苛立ちを抑えられないのは【白髪鬼(ヴァンデッタ)】オリヴァス・アクト。

 名前の通りの白い髪を揺らし、大仰な仕草でもって、彼は後方に控える邪神に進言する。

 

「ええ、まぁ。はい。私もそうは思いますが……いかがでしょう」

 

 同調するのは『顔無し』ことヴィトー。

 邪神の側近たるその男は振り返り、背後に控える邪神に意見を求める。

 そして、二人の幹部からの意見を求められた邪神、エレボスはその閉じられた瞳をゆっくりと開き、宣言した。

 

「……『放置』だ」

「……は?」

 

 ドスの利いた声で、オリヴァスは邪神に詰め寄る。

 

「何故だ! あの忌々しい蒼い炎が、我々の大きな障害となる事は必然! であるならば多少の犠牲は出そうとも早急にアレを片付け、今後の手立てをより円滑に進められるよう努めるべきではないのか!!」

 

 わんわんと、地下空間に声が反響する。

 エレボスはそれに対して実にうるさそうに顔を顰め、そしてオリヴァスを宥めるように説明を始める。

 

「正直、アレの存在は俺も想定外だ。まぁアルフィアかザルド辺りがどうかしたんだろうが、完全にあんなのの対処は俺の計画に盛り込まれていない」

「……ならばあの二人に責任を取らせろ! 自分の蒔いた種は自分で摘めと!」

「問題ない。『何も変わらない』のさ」

 

 変わらぬ口調でエレボスは続ける。

 

「計画に盛り込まれていないからどうした。ここは迷宮都市だぞ。異常事態(イレギュラー)なんていくらでも起こる。それにいちいち対処してたらキリがない」

「……つまり」

「対処が用意されていないんじゃない。対処する必要がないのさ」

 

 戯けるように、邪神は言った。

 

「ヒュウ! 最高だぜ、やっぱアンタは! ……まぁ、うざったいことに変わりはねぇが、最終的に全部死ぬんならいいぜ、私はよぉ!」

「我が主神ながら相変わらずえげつない。ええ、そうでしょうとも。この身の浅慮故の度を越した発言、どうかお許しください」

「気にするな」

 

 それだけ言って邪神はくるりと踵を返し、地下深くへと潜ってゆく。

 それに追従し、ヴィトーもヴァレッタも、深淵の闇に飲まれてゆく。

 

「……っ、クックック、ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 取り残された鬼は狂ったように、そして心底愉快そうに嗤った。




Topic:神の力を封印した時の純粋な戦闘能力は
タケミカヅチ>>>>武神の壁>>>>テスカトリポカ>>>>>アストレア
くらいを想定している。

美の権能とか何でもアリの勝負なら
テスカトリポカ>>>>>>>フレイヤ>>イシュタル>>>権能の壁>>>タケミカヅチ
やっぱ美の権能は強い。
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