袈裟、逆袈裟、横薙ぎ、振り下ろし。
鉄塊のような大剣を信じられないような速度で振り回してザルドは攻撃を放つ。
嵐にように吹き荒れる剣戟は、しかしその全てが一撃必殺の威力を備えていた。
「フーッ……!」
一撃一撃を丁寧に受ける。
受け流しはせず確と受け止め、そして確実に打ち返す。
全ての攻撃を全身全霊で防御し、全ての好機に全身全霊で攻撃を打ち込む。
地に足を突き、じりと踏ん張り、
「ハァ……ッ!」
「……………おい」
剣戟の最中。鍔迫り合いを演じながら、ザルドが苛立った口調で俺を呼ぶ。
「何だ」
「それはこちらの台詞だ。確かにお前は見違えた。その
ザルドが兜越しにチラリと見やるのは、俺の剣から吹き出す
いくらスキルの補正があるとは言え、当然ながらLv4の膂力がLv7の暴力に勝てるわけがない。
なのでこうした
「……で? 何が問題なんだ?」
「わからんか? その戦い方だ! その戦い方は何だ! 貴様の親父の剣技はどうした!!」
俺の質問にザルドは吠える。
確かに、俺が今とっている戦法は、父親から教わったそれではない。
相手の攻撃に合わせ、ひたすら受けて弾き、隙を窺う。
自らの
「……別に俺がどの戦い方を取ろうが勝手ではないのか」
「貴様……ッ!」
ギィンと剣が弾かれ、再び激突。
先程とは違い、顔を突き合わせるような形で鍔迫り合いになる。
「……俺に勝つ気が無いのか? 俺に勝ち、更なる高みを目指すのではないのか?」
「…………まぁ、お前を使って高みを目指すのはそうだが……」
「このまま続けてみろ。お前は俺の剣に食い潰されて死ぬぞ」
「このまま続ければ、そうなるだろうな」
「ならばさっさと戦い方を切り替えろ。出来るだろう、お前にならば」
「そりゃあ、出来るが……」
会話に違和感を感じる。
何故、ザルドはこんなにも焦っているのだ?
普通この状況ならば、焦るのは足止めされている立場にある俺だろうに。
となると……
「お前、俺を殺したくないのか?」
「……世迷言をほざくな、糞餓鬼」
「……いや、違うな。父親の剣技で殺されたいのか」
「世迷言をほざくなと言っているッ!!」
瞬間、俺はザルドの心中が透けて見えた。
そして同時に、今まで疑問に思っていた事に深く得心した。
「お前は俺に……【
「ッ……!」
俺の言葉に、ザルドの表情が兜越しにも分かるほど歪む。
「当たりのようだな」
コイツは。ザルドは。
黒龍との戦いで生き残ってしまった、前時代の老兵は。
きっと自らの死に場所を探してここまで来たのだ。
「冒険者に討ち倒されるため、次世代の糧となるため、オラリオに来た。それ故に
「……いいや、違うな。俺たちは本気でこのオラリオを潰すつもりだ」
「それを阻止してくれる事を期待して、か?」
「ああ……そうだ!」
ザルドが後ろへ飛び退き、突進。
再び嵐の如き剣戟が繰り広げられる。
「この際開き直ってハッキリと言ってしまうがな、俺はお前にこそ期待している! アイツの剣と! 【
剣戟が激しさを増す。
まるで俺を急かすように。俺に何かを促すように。
「俺を倒せ! 俺を喰らえ!」
「ぬぅッ……!!」
ガキンと、
鎧が蒼銀の光を撒き散らし、蒼い炎の中に溶けて消えた。
「カイ・グレイル! お前がアイツのガキだと言うのなら、俺を討ち倒し、喰らって見せろ!! お前の父親がそうしたように!!」
ザルドの強烈な踏み込みが石畳を踏み砕く。
「俺の剣の悉くを、容易く受け流して見せろ!」
「ぐおっ……!」
全力で振り下ろされた一撃が、俺の足を石畳に埋める。
「俺の剣の悉くを、流水の如く躱して見せろ!」
「がぁ……ッ!!」
再び放たれた
「そして俺の首に、その剣を突き立てて見せろ!」
「くっ……!」
絶対必殺の一撃を、
瞬間、先程まで民家だった建物が、轟音を立てて弾け飛んだ。
ギロリ、と。ザルドの目が兜越しに俺を射抜く。
「お前の親父の剣技で来い、カイ・グレイル! そうでなければ、俺には届かんぞ!!」
ビシリと指を差し、ザルドは俺に宣告する。
それに対して、俺は────
「────何だ、お前……」
割と本気でイラついていた。
当然、普段ならばいかに罵倒されようが挑発されようが戦闘中に苛立ったりなどしない。
怒りによって増大する
意味がない。無駄でしかない。だから怒らない。
「……どうした。カイ・グレイル。ウルヴァンの子よ!」
だが。
そうわかっていて尚、コイツには苛立ちを覚えずにはいられない。
言っていることが矛盾しているからだろうか?
父親に関して知った口を利いているのが気に食わないからだろうか?
言っていることが見当違いだからか?
いや、違う。きっと俺は────
「来ないのならばこちらから行くぞ! これ以上俺を失望させるな、カイ・グレイ────」
「─────良い加減黙りやがれ!!」
「ッ!?」
「さっきから聞いてりゃあ全部親父の話じゃねぇか! 良い加減夢見るのはやめて現実見やがれ耄碌ジジイ!」
ザルドに剣の切先を向け、叫ぶ。
「俺は【
「いいか!? 俺の知る父親は母親狂いの狂人だ! 愛に狂った異常者だ! お前の言う剣の達人なんかじゃない! 断じてない!」
「それを知ったような口でベラベラベラベラと! 昔話なんざどうでもいい!」
「お前と【
「倒して欲しいんなら【
「それをお前、父親の剣技で戦え!? そうでなきゃ勝てない!? ンなこたァわかっているわ脳筋が!」
「いいか!? 俺はこの戦いに勝つつもりは全くない! こちとら
「俺を喰らえだぁ!? やっているだろうが! やってないわけがないだろうが阿呆! 料理の仕方と食い方くらい自分で選ばせろ糞爺! 丸齧りしか知らん原始人が!!」
「って言うか何でこんな戦い方してるかって事くらい理解しろ冒険者だろうが! 言わなければわからんのかわからんのだろうな脳筋原始人!!」
「………は……な……」
半ば呆然としているザルドに、今度は俺が指を差して宣告してやる。
「有効活用して欲しいんなら黙って【力】と【耐久】の
────きっと俺は、
「………………………………………………クッ」
ザルドが兜に手をやる。
「ハハ…………ハハハハハ……ハッハッハッハッハ……」
そのまま、ガランと兜を投げ捨てた。
臙脂色の髪と、傷だらけの顔が顕になる。
「ハッハッハッハッハ! ハーッハッハッハッハッハッハッハ!!」
呵呵大笑。
剣も下ろし、腹も捩れんばかりにザルドは笑い狂う。
そして─────
「ハッハッハ………………………………よしわかった、
「やるんなら早くしろ!
互いに突撃する。
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアッ!!」
激突、からの剣戟、剣戟、剣戟!
より激しく、より厳しく、より
「さぁたんと食え小童ァ!! 感謝を込めて完食しろォ!!」
「何を当たり前の事を!! お前こそ食ってもらえる事に感謝しろォ!!」
一撃剣同士が交差する度に、上質な
「「クッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」
互いに笑いながら、ひたすらに剣を振るう。
【
【魔力】は捨て、純粋な【力】と【耐久】の
「ハハハハハハハハハハハ!! どうだ! Lv5には上がれそうか!!」
「もう上がれるわ! お前で【力】と【耐久】を貯めてLv5!
「ああ完璧な計画だな! 不可能という点を除けばなァ!」
「言ってやがれクソ
楽しい、楽しい、楽しい、楽しい! 最高だ!
常に命のヒリつくこの感覚! 確実に
この戦いで、俺は更に上のステージへとのし上がれる!
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」」
さぁ、もっとだ! もっと寄越せ!
まだだ、まだ終わらない! この
「──────【
「「ぐわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」」
瞬間、横合いから飛んできた衝撃波によって俺はザルド共々吹き飛ばされた。
「おいアルフィア! 何故水を差す!」
「黙れ肉達磨。雑音を超えて騒音だ愚物。とっとと引き上げるぞ脳筋」
「テメッ……一度ならず、二度までも横から……ッ!!」
「貴様も貴様だ。少しはマシになったかと思えば何だそれは」
「
「……付き合っていられん」
そう言って、
「……仕方あるまい。俺も帰るとするか」
ガシャリ、と。
鎧を鳴らして瓦礫の中からザルドが立ち上がる。
……なんか俺も冷静になってきた。
「…………はぁ……まぁ、精々首を洗っておけと伝えておいてくれ」
「そうしよう」
そう言って跳躍し、建物の向こう側へと消えていく。
「……さて、俺は当初の目的に立ち返るとするか」
まぁ、
Topic:『蒼流星』は第一等武装。制作費用は3億ヴァリス。並の第二級冒険者では傷一つさえつけられない。