冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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蒼き猛火(えいゆうこうほ)】 VS【静寂(けいけんち)

 遂に始まるのは、待ちに待ち侘びた決戦。

 経験値(ザルド)との戦いに2度も横槍を刺した、忌々しい経験値(アルフィア)

 それを討ち滅ぼす時が、今、訪れるのだ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 剣を構え、地面を蹴り、突貫する。

 Lv5の膂力に【英雄願望(ジークフリート)】のステイタス上昇の効果が合わさったそれは地面を粉砕し、蒼炎(ほのお)を使っていないにも関わらず驚くべき速度を生み出した。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 迎撃するのは相変わらずの一言(ワン・ワード)

 しかし先ほど実演して見せたように、それは既に対策済みである。

 身を襲う凄まじいまでの衝撃波に対抗して魔力を放出し、蒼炎(ほのお)を噴かせ、アルフィアへと肉薄し……

 

「────【炸響(ルギオ)】」

「ッ……うぐおっ!?」

 

 体がちぎれそうになるような負荷のかかる中、遂に剣を振り下ろそうとしたその瞬間。

 背後から鐘の音が響き、俺は前方へと吹き飛ばされる。

 ただでさえ強い前方への慣性が働いていた俺は、咄嗟に反応こそ出来たもののしかしその勢いを殺し切ることができず、アルフィアを飛び越えてしまう。

 

「ぐ……相手の背後から発動する……と言うわけでもなさそうだな。魔力の残滓からもう一度魔法を放つ技か」

 

 地面を転がりつつ、蒼炎(ほのお)を噴かし、再びアルフィアの近くへ。

 

「ああ、その通りだ。それで?」

「特に何もないが。ただ確認しただけに他ならん」

 

 ドン、ドン、と。炎の矢────改め、蒼炎矢(ファイアボルト)を放つ。

 前までは遠距離技一つ出すにも剣の一振りを必要としていたが、しかし蒼炎(ほのお)の扱いを覚えた今、ある程度の指向性……それこそ指を差す、剣先を向けるなど、それだけで蒼炎(ほのお)を飛ばす事を俺は覚えていた。

 

「【魂の平穏(アタラクシア)】」

 

 それに対し、アルフィアが唱えるのはやはり相変わらずの一言(ワン・ワード)

 瞬間。蒼炎矢(ファイアボルト)が掻き消えた。

 

「……それで、それが魔法無効化、と」

「ああ、そうだな」

「ふむ……よし。大体理解した」

 

 悠長に考えている暇はない。

 戦いが長引けば長引くだけ、この戦いの意味が無くなる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「【福音(ゴスペル)】」

 

 再び、突貫。

 そしてそれを迎撃するのも、同じ一言(ワン・ワード)

 俺は再び炎を噴かせることでそれに対抗し、それと同時に────

 

「【爆ぜよ】!」

「!」

 

 蒼き炎を爆裂させる。

【解放式】に関する研究は、ほんの少しではあるが進んでいた。

 詳しいことはまだわかっていないが、とにかく【解放式】を唱えた場合、蒼炎(ほのお)は指向性を保ったまま爆発するらしい。

 更には爆発させる蒼炎(ほのお)の位置も、自由自在に決められるようだ。

 つまり以前までの俺が使っていた爆発としての【解放式】は、つまるところ指向性のない蒼炎(ほのお)を爆発させていただけであり、同様に炎の砲弾は指向性の持った炎の矢を爆発させる事によって威力を増大させていたと言うことだ。

 

 そして今回、俺が唱えた【解放式】によって爆破させたのは、指向性を持たない蒼炎(ほのお)と、そして真下から真上に噴いていた蒼炎(ほのお)

 つまるところ爆炎で以て視界を防ぎつつ、直上へと跳躍したのである。

 そして、そのまま────

 

「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 今度は真上に向けて蒼炎(ほのお)を噴かし、アルフィア目掛け急降下する。

 

「ッ────【炸響(ルギオ)】!」

 

 アルフィアは魔力の残滓から再び魔法を発動させる。

 だが、その衝撃が来るのはあくまでも真下からのみ。

 空間に漂う音の残響が再び襲いかかって来るのならば、間合いの中であればそれが何処からでも襲い掛かって来ると言うのならば!

 何処からどの方向への攻撃であるかを限定すれば、一切の問題は無い!

 

 衝撃波を乗り越え、俺は今度こそアルフィアに剣を振り下ろす!!

 

「くッ!!」

 

 ガキンと、咄嗟にアルフィアが両手で掲げた剣が、俺の剣と交差する。

 Lv7の膂力を持つアルフィアであるが、しかしその【力】はLv5の剣士であり、更には【英雄願望(スキル)】の効果により更に上乗せされ、その上で重力と慣性を味方につけた俺には敵わない。

 

「ぐっ……!」

 

 辛うじて受け流す事に成功されるものの、しかし受け流し切る事はできなかった。

 俺の剣()()を受け、彼女の腕が切り裂かれる。

 

「ッ!」

「【福音(ゴスペル)】────【サタナス・ヴェーリオン】ッ!」

「ぐっ……ごはぁッ!?」

 

 俺はそれに耐えて追撃を敢行しようとするが、しかし明らかに威力が数倍以上に膨れ上がったその魔法に吹き飛ばされ、何本もの木を薙ぎ倒しつつ、岩肌に叩きつけられる。

 鎧越しにも伝わるあまりの衝撃に内臓がやられたのか、口から鮮血が飛び散った。

 

「…………考えたな。手傷を負ったのは、それこそ9年振りだろうか」

「……俺としちゃあ短期決戦っつったのに余力を残そうとしていたお前に驚きだがな」

 

 用意していた万能薬(エリクサー)を飲み込み、アルフィアに剣先を向ける。

 周囲の木も、岩も、地面すらも吹き飛ばし、クレーターとなったその場に、血を流しながら佇む経験値(アルフィア)に。

 

「お前の魔法無効化、付与魔法(エンチャント)だろう。お前の腕を裂く瞬間、俺の剣の蒼炎(ほのお)が消えた。お前が何も唱えていないにも関わらずだ。故にお前の魔法無効化はそう言う効果を持った単発の砲撃、ないし障壁ではなく、身に纏う鎧」

 

 俺が目を向けるのは、ポタポタと滴り落ちる彼女の鮮血。

 

「お前の腕に火傷がなく、そして今も血が流れ出ているのがその証拠だ」

 

 普通、蒼炎(ほのお)を纏った俺の剣で切り裂かれれば、血は出ない。

 何故なら傷口が切られた側から焼き焦がされ、血液は即座に蒸発し、血管は潰れるからだ。

 俺が蒼炎(ほのお)で敵を焼かないようにしていたのならばまた話は別であるが、しかし今回はそうでは無い。

 であるのなら、それは俺の蒼炎(ほのお)が彼女に届いていないことの証左になる。

 

「そしてその魔法はお前自身の魔法にも作用する。お前は俺の追撃を確実に回避するため、咄嗟にその付与魔法(エンチャント)を解除し、そして俺を吹き飛ばした。違うか?」

「いいや、合っている。私の【静寂の園(シレンティウム・エデン)】は付与魔法(エンチャント)で、これは私の魔法の威力すら削ぐ」

 

 蒼炎(ほのお)を噴かし、再びアルフィアの近くへ。

 

「ただ、一つだけ間違いがあるな。【静寂の園(シレンティウム・エデン)】は鎧などでは無い。封印だ」

「ほう?」

「私はな。この鐘の音が嫌いなのだ」

 

 彼女の言葉に、俺は得心する。

 

「……成程。それが雑音の正体か」

「お前は本当に可愛げが一切ないな。……しかし、ああ、その通りだ。その通りだとも。これが産声を上げる前から犯した私の原罪の証だ」

「原罪?」

 

 初めて聞く事だ。

 一体それが何を差すのであろうか、と俺が考えていれば、彼女は唇を開き、語り始める。

 

「私には妹がいた。たった一人の────」

 

 と、そこまで聞いて俺はある事を察した。

 

「待て」

「……何だ」

「その話は長くなりそうだから無しだ」

「………………………………はぁ……………………」

 

 剣を構える俺を見て、アルフィアは呆れたように深く、深く溜め息を吐く。

 

「全く、お前は本当に可愛げが無いな。本当に傲慢で、あの女の面影をよく残していて……だが、まぁ、そうだな」

 

 アルフィアが微笑む。

 今までの彼女の印象からは考えられないような、柔和な笑みであった。

 

「確かに、お前のような奴が英雄になるのだろうよ」

「……当然だな。俺が英雄になるのだから」

「ああ。そうだろう。だが、まだ足りん」

 

 しかし、それも一瞬。

 アルフィアの表情は再び険しいものに変わる。

 

「貴様はあの災厄の真の恐ろしさを知らん! 貴様はあの絶望を、欠片ほども味わった事が無い! あの【女帝】すら悲鳴を上げて逃げ出し、あの理不尽の化身、貴様の母である【天姫(てんき)】すら宙を舞う蝿を叩き潰すかの如く殺した時の、あの絶望を!」

「!」

 

 ────そうか。母は叩き潰されて死んだのか。

 まぁ、だから何だという話ではあるが。

 

「それを殺すだと? 大言壮語も甚だしい! ああ、忌々しい! 貴様のそれは、かつての私たちを見ているようだ! 私たちなら殺せる! 私たちならば為せる! そう信じて疑わなかった私たちそのものだ!」

「一者にするな老兵が! 俺はお前たちとは違う! 俺は母親とは違う! 俺が空を制し、竜を殺す! 絶対にだ!」

「そうか、なれば証明して見せろ! この私の、私自身への、この『神時代』への失望を打ち砕いて見せろ! 『英雄』となって見せろ!」

 

 ごう、と。彼女を中心として魔力が吹き荒れる。

 呼応するように、俺も蒼炎(ほのお)を滾らせる。

 

「さぁ、来い! 『英雄の作法』を教えてやろう!」

「貴様に教わるまでも無い!! 黙って死ね! 経験値(アルフィア)ァ!!」

 

 突貫。

 

「【福音(ゴスペル)】!」

「っぐ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 封印を脱ぎ捨てた女の魔法が、俺の肉体を軋ませる。

 しかし俺は止まらない。

 蒼炎(ほのお)を噴かせ、蒼銀の残光を振り撒きながら、前へ、前へ、前へ!

 直上への移動はもう見せた! 二度と通用しない! 

 経験値(アルフィア)目掛け、ただひたすらに、前へ、前へ!!

 

「【炸響(ルギオ)】!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 凄まじいまでの衝撃が、俺の体を引きちぎらんとする!

 過剰なまでの暴力が、俺の体を滅多打ちにする!!

 だが、この程度では()()()()()()

 

「くっ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!」

「ふっ!」

 

 哄笑を上げながら、アルフィアに切り掛かる!

 剣戟! 剣戟! 剣戟! 銀と蒼の光が舞う!

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い。半身喰らいし我が原罪───】」

「!!」

 

 剣を振るいながらアルフィアが唱えるのは、第三の魔法!

 超長文詠唱。かの海の覇王(リヴァイアサン)を仕留めたと言う、最悪の魔法!

 その伝説が真実である事を示すが如く、尋常でない魔力が吹き荒れる!

 

「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪────】」

 

 口角が上がる。

 興奮を抑えきれない。

 今から放たれようとしているこの一撃こそ、アルフィアの、Lv7の最高潮!!

 

「【神々の喇叭(ラッパ)、精霊の竪琴、光の旋律、すなわち罪禍の烙印────】」

 

 俺は剣戟を止め、後ろへと跳び、蒼炎(ほのお)を最高に滾らせながら、地面に足を突っ込んだ。

 

「さあ来い! 撃ってこい! お前の最高を俺が受け止めてやる! 完膚なきまでに叩き潰してやる! さぁ、さぁ、さぁ!」

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ────砕け散れ。私はお前を憎んでいる】!」

 

 魔力が高まる。魔力が高まる。魔力が高まる!

 組み上げられる魔法円(マジックサークル)は尋常のそれではなく、魔法の放つ光は太陽のそれすら遥かに凌駕する!

 

「【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】」

 

 彼女が天を指差す。

 灰色の光に象られたその輪郭は、正しく巨大な鐘。

 

「【哭け、聖鐘楼】!!」

 

 鐘が鳴る。神秘的で、破滅的で、万物の崩壊を予告する、魔力の臨界が起こる。

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

 鐘が罅割れ、放たれる。

 滅界の咆哮が、破轟の極致が、解き放たれる。

 純然たる破壊の波が、ただ俺を殺すためだけに放たれる。

 それに対して、俺が放つのは───────

 

「【爆ぜよ】ッ────【砕け散れ(バルムンク)】ぅウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!!」

 

【解放式】────そして、【爆散鍵(スペルキー)】。

 俺の母には無い。俺が作った、俺だけの『必殺技』。

 剣の一振りと共に繰り出される極蒼の火砲(ブルー・バン)

 

 今の俺の放てる最強の一撃が、破壊の波と接触し─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 

 未だに【激戦熱闘(グランド・バトル)】の発動しない身体が限界を訴える。

 ぐらりと視界が歪み、地面に膝をつく。

 だが、しかし。

 

「……乗り越えた……乗り越えたぞ! 【静寂】のアルフィアァアアアアアアアアアア!!!」

「…………………そうらしい」

 

 俺は生きている! こうして、原型を残している!

 俺はLv7を確かに、確実に討ち破ったのだ!

 

「お前の……負けだ!」

「カハっ、ゲフっ……ああ、私の負けだ」

 

 アルフィアの口から、止めどなく血が溢れる。

 あの魔法は、【ジェノス・アンジェラス】は、彼女の命を著しく削る。

 もはや彼女は、立っているのもやっとだろう。

 

「流石だよ……流石はあの女の子だ……いや、そう言われるのは嫌いなのだったか?」

「そうでは、ない……ただ、血が繋がっているだけ、の、他人の、話を散々されるのが、面倒だっただけだ」

 

 重い体を引きずり、アルフィアのもとまで歩いてゆく。

 そして、その首に『宵』の刀身を当てた。

 

「最後に、言い残すことは?」

「……そうだな。まず、私の体は灰に帰せ。お前の蒼炎(ほのお)ならばできるだろう」

「……ああ」

「それと、そうだな……いや、あまり言葉は遺すものでは無い、これで最後だ──────」

 

 アルフィアの手が、俺の頬に添えられる。

 

「お前が『英雄』になれ」

「……安心しろ。元よりそのつもりだ」

「そうか。ならば……安心して、妹のもとに逝ける」

「………………眠れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────斯くして、俺は【静寂】を討ち破った。

 




Topic:バルムンク、もとい極蒼の火砲(ブルー・バン)の元ネタはFate。
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