遂に始まるのは、待ちに待ち侘びた決戦。
それを討ち滅ぼす時が、今、訪れるのだ。
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
剣を構え、地面を蹴り、突貫する。
Lv5の膂力に【
「【
迎撃するのは相変わらずの
しかし先ほど実演して見せたように、それは既に対策済みである。
身を襲う凄まじいまでの衝撃波に対抗して魔力を放出し、
「────【
「ッ……うぐおっ!?」
体がちぎれそうになるような負荷のかかる中、遂に剣を振り下ろそうとしたその瞬間。
背後から鐘の音が響き、俺は前方へと吹き飛ばされる。
ただでさえ強い前方への慣性が働いていた俺は、咄嗟に反応こそ出来たもののしかしその勢いを殺し切ることができず、アルフィアを飛び越えてしまう。
「ぐ……相手の背後から発動する……と言うわけでもなさそうだな。魔力の残滓からもう一度魔法を放つ技か」
地面を転がりつつ、
「ああ、その通りだ。それで?」
「特に何もないが。ただ確認しただけに他ならん」
ドン、ドン、と。炎の矢────改め、
前までは遠距離技一つ出すにも剣の一振りを必要としていたが、しかし
「【
それに対し、アルフィアが唱えるのはやはり相変わらずの
瞬間。
「……それで、それが魔法無効化、と」
「ああ、そうだな」
「ふむ……よし。大体理解した」
悠長に考えている暇はない。
戦いが長引けば長引くだけ、この戦いの意味が無くなる。
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「【
再び、突貫。
そしてそれを迎撃するのも、同じ
俺は再び炎を噴かせることでそれに対抗し、それと同時に────
「【爆ぜよ】!」
「!」
蒼き炎を爆裂させる。
【解放式】に関する研究は、ほんの少しではあるが進んでいた。
詳しいことはまだわかっていないが、とにかく【解放式】を唱えた場合、
更には爆発させる
つまり以前までの俺が使っていた爆発としての【解放式】は、つまるところ指向性のない
そして今回、俺が唱えた【解放式】によって爆破させたのは、指向性を持たない
つまるところ爆炎で以て視界を防ぎつつ、直上へと跳躍したのである。
そして、そのまま────
「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
今度は真上に向けて
「ッ────【
アルフィアは魔力の残滓から再び魔法を発動させる。
だが、その衝撃が来るのはあくまでも真下からのみ。
空間に漂う音の残響が再び襲いかかって来るのならば、間合いの中であればそれが何処からでも襲い掛かって来ると言うのならば!
何処からどの方向への攻撃であるかを限定すれば、一切の問題は無い!
衝撃波を乗り越え、俺は今度こそアルフィアに剣を振り下ろす!!
「くッ!!」
ガキンと、咄嗟にアルフィアが両手で掲げた剣が、俺の剣と交差する。
Lv7の膂力を持つアルフィアであるが、しかしその【力】はLv5の剣士であり、更には【
「ぐっ……!」
辛うじて受け流す事に成功されるものの、しかし受け流し切る事はできなかった。
俺の剣
「ッ!」
「【
「ぐっ……ごはぁッ!?」
俺はそれに耐えて追撃を敢行しようとするが、しかし明らかに威力が数倍以上に膨れ上がったその魔法に吹き飛ばされ、何本もの木を薙ぎ倒しつつ、岩肌に叩きつけられる。
鎧越しにも伝わるあまりの衝撃に内臓がやられたのか、口から鮮血が飛び散った。
「…………考えたな。手傷を負ったのは、それこそ9年振りだろうか」
「……俺としちゃあ短期決戦っつったのに余力を残そうとしていたお前に驚きだがな」
用意していた
周囲の木も、岩も、地面すらも吹き飛ばし、クレーターとなったその場に、血を流しながら佇む
「お前の魔法無効化、
俺が目を向けるのは、ポタポタと滴り落ちる彼女の鮮血。
「お前の腕に火傷がなく、そして今も血が流れ出ているのがその証拠だ」
普通、
何故なら傷口が切られた側から焼き焦がされ、血液は即座に蒸発し、血管は潰れるからだ。
俺が
であるのなら、それは俺の
「そしてその魔法はお前自身の魔法にも作用する。お前は俺の追撃を確実に回避するため、咄嗟にその
「いいや、合っている。私の【
「ただ、一つだけ間違いがあるな。【
「ほう?」
「私はな。この鐘の音が嫌いなのだ」
彼女の言葉に、俺は得心する。
「……成程。それが雑音の正体か」
「お前は本当に可愛げが一切ないな。……しかし、ああ、その通りだ。その通りだとも。これが産声を上げる前から犯した私の原罪の証だ」
「原罪?」
初めて聞く事だ。
一体それが何を差すのであろうか、と俺が考えていれば、彼女は唇を開き、語り始める。
「私には妹がいた。たった一人の────」
と、そこまで聞いて俺はある事を察した。
「待て」
「……何だ」
「その話は長くなりそうだから無しだ」
「………………………………はぁ……………………」
剣を構える俺を見て、アルフィアは呆れたように深く、深く溜め息を吐く。
「全く、お前は本当に可愛げが無いな。本当に傲慢で、あの女の面影をよく残していて……だが、まぁ、そうだな」
アルフィアが微笑む。
今までの彼女の印象からは考えられないような、柔和な笑みであった。
「確かに、お前のような奴が英雄になるのだろうよ」
「……当然だな。俺が英雄になるのだから」
「ああ。そうだろう。だが、まだ足りん」
しかし、それも一瞬。
アルフィアの表情は再び険しいものに変わる。
「貴様はあの災厄の真の恐ろしさを知らん! 貴様はあの絶望を、欠片ほども味わった事が無い! あの【女帝】すら悲鳴を上げて逃げ出し、あの理不尽の化身、貴様の母である【
「!」
────そうか。母は叩き潰されて死んだのか。
まぁ、だから何だという話ではあるが。
「それを殺すだと? 大言壮語も甚だしい! ああ、忌々しい! 貴様のそれは、かつての私たちを見ているようだ! 私たちなら殺せる! 私たちならば為せる! そう信じて疑わなかった私たちそのものだ!」
「一者にするな老兵が! 俺はお前たちとは違う! 俺は母親とは違う! 俺が空を制し、竜を殺す! 絶対にだ!」
「そうか、なれば証明して見せろ! この私の、私自身への、この『神時代』への失望を打ち砕いて見せろ! 『英雄』となって見せろ!」
ごう、と。彼女を中心として魔力が吹き荒れる。
呼応するように、俺も
「さぁ、来い! 『英雄の作法』を教えてやろう!」
「貴様に教わるまでも無い!! 黙って死ね!
突貫。
「【
「っぐ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
封印を脱ぎ捨てた女の魔法が、俺の肉体を軋ませる。
しかし俺は止まらない。
直上への移動はもう見せた! 二度と通用しない!
「【
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
凄まじいまでの衝撃が、俺の体を引きちぎらんとする!
過剰なまでの暴力が、俺の体を滅多打ちにする!!
だが、この程度では
「くっ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!」
「ふっ!」
哄笑を上げながら、アルフィアに切り掛かる!
剣戟! 剣戟! 剣戟! 銀と蒼の光が舞う!
「【祝福の禍根、生誕の呪い。半身喰らいし我が原罪───】」
「!!」
剣を振るいながらアルフィアが唱えるのは、第三の魔法!
超長文詠唱。かの
その伝説が真実である事を示すが如く、尋常でない魔力が吹き荒れる!
「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪────】」
口角が上がる。
興奮を抑えきれない。
今から放たれようとしているこの一撃こそ、アルフィアの、Lv7の最高潮!!
「【神々の
俺は剣戟を止め、後ろへと跳び、
「さあ来い! 撃ってこい! お前の最高を俺が受け止めてやる! 完膚なきまでに叩き潰してやる! さぁ、さぁ、さぁ!」
「【箱庭に愛されし我が
魔力が高まる。魔力が高まる。魔力が高まる!
組み上げられる
「【代償はここに。罪の証をもって
彼女が天を指差す。
灰色の光に象られたその輪郭は、正しく巨大な鐘。
「【哭け、聖鐘楼】!!」
鐘が鳴る。神秘的で、破滅的で、万物の崩壊を予告する、魔力の臨界が起こる。
「【ジェノス・アンジェラス】」
鐘が罅割れ、放たれる。
滅界の咆哮が、破轟の極致が、解き放たれる。
純然たる破壊の波が、ただ俺を殺すためだけに放たれる。
それに対して、俺が放つのは───────
「【爆ぜよ】ッ────【
【解放式】────そして、【
俺の母には無い。俺が作った、俺だけの『必殺技』。
剣の一振りと共に繰り出される
今の俺の放てる最強の一撃が、破壊の波と接触し─────
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
未だに【
ぐらりと視界が歪み、地面に膝をつく。
だが、しかし。
「……乗り越えた……乗り越えたぞ! 【静寂】のアルフィアァアアアアアアアアアア!!!」
「…………………そうらしい」
俺は生きている! こうして、原型を残している!
俺はLv7を確かに、確実に討ち破ったのだ!
「お前の……負けだ!」
「カハっ、ゲフっ……ああ、私の負けだ」
アルフィアの口から、止めどなく血が溢れる。
あの魔法は、【ジェノス・アンジェラス】は、彼女の命を著しく削る。
もはや彼女は、立っているのもやっとだろう。
「流石だよ……流石はあの女の子だ……いや、そう言われるのは嫌いなのだったか?」
「そうでは、ない……ただ、血が繋がっているだけ、の、他人の、話を散々されるのが、面倒だっただけだ」
重い体を引きずり、アルフィアのもとまで歩いてゆく。
そして、その首に『宵』の刀身を当てた。
「最後に、言い残すことは?」
「……そうだな。まず、私の体は灰に帰せ。お前の
「……ああ」
「それと、そうだな……いや、あまり言葉は遺すものでは無い、これで最後だ──────」
アルフィアの手が、俺の頬に添えられる。
「お前が『英雄』になれ」
「……安心しろ。元よりそのつもりだ」
「そうか。ならば……安心して、妹のもとに逝ける」
「………………眠れ」
─────斯くして、俺は【静寂】を討ち破った。
Topic:バルムンク、もとい