冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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最悪のしくじり

 遺言の通り、アルフィアの遺骸は俺の蒼炎で包んだ。

 燃え盛る蒼炎(ほのお)は、死に絶え恩恵を失った肉体を一瞬で焼き焦がし、灰へと変える。

 かつて彼女だったものはその一掬いのみを袋に納め、残りは風に散らした。

 大罪人とはいえ。たった一掬いとはいえ。たとえそれが意味のない事だとはいえ。

 彼女は、より天に近い場所に葬られるべきだ。

 

「………………よし」

 

 魔法耐性が高すぎるが故に燃えず、残ってしまったドレスを畳み、灰とは別の袋────普段ならば戦利品(ドロップアイテム)などを収納する袋────に何とか収納して、立ち上がる。

 いまだ揺れ続ける地面が、まだ終わっていないと俺に語りかけていた。

 そうして俺が蒼炎(ほのお)を噴かせ、遠くに見える大樹へと駆けようとした、その瞬間。

 

「!!」

 

 階層の中心から、巨大な火柱が立ち上がった。

 まるで溶岩の如き粘着質な炎が吹き上がり、周囲の木々を燃やし、水晶を溶かしてゆく。

 

「あそこか……ッ!」

 

 火柱の上がった位置に急行する。

 その間にも一つ、二つ、三つと火柱は次々と上がり、18階層は一瞬にして地獄へと変貌した。

 元より蒼炎(ほのお)を纏う俺には特に何の障害にもなり得ないにせよ、しかし紅蓮に染まったこの光景は地獄と形容するにふさわしいだろう。

 

「!」

 

 火柱の上がった位置には、丁度人一人が入れそうなだけの穴が空いていた。

 と言っても周囲の地面は溶け、炎が上がっているため、俺のように蒼炎(ほのお)を纏ってでもいなければ突破は難しいだろうが。

 しかしやはり俺にとっては関係のないことである。

 炎を噴かせ、俺はその穴に飛び込んだ。

 

「……これはっ……!」

 

 熱波の先、開けた視界の先にいたのは、正しく化け物と呼ぶに相応しい存在。

 翼を持った蛇というべきか、人と蛇と鳥が融合した合成獣(キメラ)とでも言うべきか……

 紫色の瘴気を全身から放つその漆黒の異形は、醜悪で悍ましい形態を晒しながら、しかし捩れ、湾曲しながらも確かな角と牙を生やしていた。

 つまるところ、それが示す事実は────

 

「……竜?」

「おや?」

「!」

 

 バッと、声のした方向に振り向く。

 するとそこにいたのは、黒き神。

 黒いスーツに身を包み、黒い髪を持った、一柱の神。

 周囲を闇派閥(イヴィルス)の護衛で固めているところからも、間違いなく邪神である事に違いないだろう。

 しかし。しかし俺はその姿に、ひどく見覚えがあった。

 

「……貴様、まさか……ッ」

「ああ、また会ったな。【蒼き猛火(アズール)】」

 

 そう言ってこちらに微笑みかけるその神の前髪は、特徴的な灰色だった。

 その神は確かにあの時、リューが殴り掛かろうとしていた、あの神に他ならず────!

 

「そうか……貴様か……貴様が、エレボスか……!」

「そうだ。俺がエレボスだ。それで? 18階層にはアルフィアが居たはずだが……」

「…………倒した。完膚なきまでに。完璧に」

「ああ、やはりか」

 

 あっけらかんと、エレボスは認めた。

 

「……驚かないのか?」

「さっきの、アルフィアの魔法だろう? あれを使った以上、どちらにせよ彼女の命は長く持たない。そして君がここに来た以上……察しがつく」

 

 言われてみれば、そうだ。

 あれだけの魔法、他階層にまで影響を及ぼさないわけがない。

 それこそ一層違い程度であるのならば、音にせよ揺れにせよ魔力にせよ、相応に大きな影響があったはずだ。

 

「それで……リオンは来ているかな?」

「…………いや、あいつは来ていない。俺が一人で倒した」

「へぇ! それは驚きだ。君、まだLv4だろう?」

「昨日の時点でLv5になった。そして俺には強力な格上補正もある……何より……」

「何より?」

「あれほどの上質な経験値、他に渡すわけがないだろう。独り占めだ」

「……ブフっ、ハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 異形の竜が砲撃を続ける中、闇派閥(イヴィルス)の眷属が必死に神を守護する中。

 神エレボスは愉快でたまらないと言わんばかりに吹き出し、大笑した。

 

「それもそうだ! そうだよな、独り占めできるなら独り占めしたいよな! ……で? どうだ? アルフィアは美味かったか?」

「ああ、極上だったさ」

 

 そう言いながら、俺は『大最悪』に剣を向ける。

 

「そして、これからデザートだ。喰いごたえは……あるかわからんが」

 

『大最悪』……いったいどのような怪物であるのかと密かに楽しみにしていたが────竜であるのならば、幾らでも倒しようがある。

 それ程までに、【英雄願望(ジークフリート)】の竜種補正は凄まじい。

 

「そうか。それじゃあ、俺たちは邪魔だろう……だが、折角だから決戦の舞台は18階層にしたい。それまで少し、俺の護衛でもしながら待っていてくれないか?」

「……待っていたら後続が来てしまう」

「ああ、成程。元々18階層での決戦を想定していたところを先走って、一人で経験値を独占しに来ていたわけだ。一応聞いておくけど、アルフィアの存在は考慮に入れていたのか?」

「いるかも知れないとは聞いていた。いてくれれば嬉しいとも思っていた」

「ハハハハハ! いいね、面白い!」

 

 やはり、神エレボスは笑う。

 地獄のような状況の中、まるで自分には関係が無いと言わんばかりに。

 

「だが申し訳ないな、カイ・グレイル。俺はお前の、この『神獣の触手(デルピュネ)』の経験値を独り占めしたいという望みを認めない事にした」

「……何故だ」

「俺たちが『絶対悪』だからだ」

 

『大最悪』の砲撃が、再び天井に炸裂する。

 

「この『神獣の触手(デルピュネ)』を倒すのは君じゃない。この『神獣の触手(デルピュネ)』を倒すのは正義の徒であればいいと俺は考えていた。そしてその正義の徒達が来ると言うのなら……俺はそうして欲しい」

 

 神エレボスは、そう俺に自ら思い描いていた構想を伝える。

 それに最も大きく反応したのは、周囲にいた闇派閥(イヴィルス)の護衛達だった。

 

「何を言っているのですか、神よ!?」

「この邪竜は、バベルを吹き飛ばし、オラリオを滅ぼすのでは……!」

「……あー……頼む」

「……はぁ」

 

 神エレボスがこちらに向けてそんな事を言ってきたので、仕方なく俺は蒼炎(ほのお)を噴かせ────

 

「ぎゃっ!?」

「ぐああっ!?」

 

 闇派閥(イヴィルス)の護衛二人を、一瞬のうちに殺し尽くした。

 その死骸はアルフィアのそれと同じく一瞬で灰と化し、砲撃の余波に乗って消えてゆく。

 彼女と違うのは、彼らの遺骸は二度と陽の光を浴びることが無い、と言う点だ。

 

「おお、どうやら本当にLv5になったみたいだ」

「五月蝿い。……それで、お前はこれを【アストレア・ファミリア】に……リュー・リオンに倒させたいのか」

 

『大最悪』から神エレボスを守るように立ちながら、俺は問いかける。

 

「ああ。出来る事ならそうしたい。別に君が倒してくれても、君がこれを確かな糧にしてくれるのならいいが……アルフィアに比べると、どうだ?」

「……圧倒的に楽だろうな」

 

 魔法による攻撃が通じる、【英雄願望(ジークフリート)】の最大補正が乗る、持久戦ができる……これだけで、俺にとってはあまりにも有利すぎる。

 それこそいつぞやの双頭竜(アンフィス・バエナ)の如く、やろうと思えば他愛も無く勝ててしまうだろう。

 再三言うが、それだけ【英雄願望(ジークフリート)】の竜種補正は凄まじいのだ。

 

 更には主な攻撃手段が炎の息吹(ブレス)と来た。

 俺との相性はまさに最悪。百回戦ったところで、百回俺が勝つだろう。

 事実として、神エレボスを殺すために撃ち込まれた砲弾は、防御するまでも無く俺の蒼炎(ほのお)の鎧に阻まれ、俺に何の痛痒も与える事なく消えた。

 

「なら、別にいいだろう? 他の連中に経験値(エクセリア)を分けてやってくれないか」

「……はぁ…………」

 

 アルフィアとの戦いの疲労を体が思い出し、俺はその場に座り込む。

 ……さて、どうしたものだろう。

 別に俺としてはこのままあの『大最悪』を単独で打ち倒しても構わない。と言うかむしろ打ち倒していいなら速攻で打ち倒してやりたい。

 幾ら『勝てる』戦いであるからと言って、格上である事に変わりはないのだ。多少の経験値(エクセリア)の足しにはなってくれるだろう。

 

 だが、神エレボスの言う通り、ここで見逃してやってもいい。

 彼らの目的はオラリオの底上げ……であるのならば、俺が経験値(エクセリア)を独占するのも如何なものだろう。

 既に俺は主菜の一つを一人で平らげてしまった。

 そして、それはオッタルも同様だろう。

 ……で、あるのならば、最後の一皿は…………

 

「……わかった。俺はコイツに一切手は出さない。それで良いか?」

「んー、そこまで言ったつもりはなかったんだけどなぁ」

「じゃあどうしろと言うのだ」

 

 まるで意味がわからんぞ。

 

「冗談さ。でも、いいのかい? 俺としては本当に君があれを倒してくれても構わない。それが、確かな経験値(エクセリア)となって君の中に積み重なるのなら」

「……正直に言うと普通に勝てる未来しか浮かばない。双頭竜(アンフィス・バエナ)の時はまだ蒼炎(ほのお)の使い方もわかっていなかった頃だったが、今の俺が戦って、まともに経験値(エクセリア)を得ようとすれば、それは悉くが俺の『手加減』を要する」

 

 つまるところ、コイツとの戦いは俺にとって『冒険』とはなり得ないのだ。

 無論、自らに制約を課す事で無理矢理『冒険』に仕立て上げる事は十分できる。

 それこそ、俺の蒼炎(ほのお)を封印すれば、いい勝負ができる事だろう。

 

 だが、それは違う。絶対に違う。

 確かに俺は英雄を目指す者だ。

 しかしそれと同時に、テスカトリポカの戦士でもあるのだ。

 戦いで手を抜くなどあり得ない。

 

 アルフィアは相手の全力を打ち砕くために、確かに俺はわざと不利な状況で戦った。

 だが、それはそうする事に大きな意味があると考えたからこそそうしたのだ。

 

 しかし、この目の前の竜を相手に手を抜いて戦うことが、俺に何をもたらすだろうか?

 経験値(エクセリア)? それはそうだろう。だが、それは手加減をした先で得られる経験値(エクセリア)だ。

 それで【加減】なんて発展アビリティが出ようものなら憤死する自信がある。

 と言うかテスカトリポカが俺を殺す。

 

「……しくじったな……アルフィアと同時にこれを相手にするべきだったか」

「俺はお前のその発想にドン引きだよ」

 

 余りにもドン引きし過ぎて口調まで変わってしまったエレボスの発言の直後。

 ドカンと派手な音を立て、19階層の天井に穴が空き、18階層への道が開く。

 

「……はぁ……行くか……」

「ん? ああ、俺も連れて行ってくれ。出来れば守りながら」

「あー、わかった」

 

 エレボスを連れ、空いた穴から18階層に出る。

 18階層は先ほどよりもずっと酷い有様になっていた。

 草木は一本残らず燃やし尽くされ、岩場は黒く、または赤く染まり、水晶は天井のそれに至るまで悉くが溶け、炎の赤い光に包まれている。

 

「!?」

「カイ!?」

「何故そこに……何故神エレボスと一緒に居る!?」

「色々とやむにやまれん事情があってな……」

 

 すると大穴より少し離れていた場所にいたのは、俺を除く討伐隊の面々。

 取り敢えず、エレボスを連れて皆のもとへ。

 

「いやすまん。勝手な行動をした」

「本当だ! 何故勝手に行動など……それに何故神エレボスと一緒に居る!」

「まさか、裏切ったと言うのか! カイ・グレイル!!」

 

 謝りながら到着すれば、凄まじい剣幕で俺を睨みつけるのはエルフ二人。

 他の面々も、実に訝しげな目で、警戒しながら俺の事を見ている。

 

「詳しく事情を説明して欲しいもんじゃのう」

「………………………流石の私も、これはちょっと説明が欲しいかしら?」

 

 アリーゼすらも警戒の混じった目で、剣に手をかけている。

 まぁ、うん。敵の首魁を助けるようにして来たらそうなるだろう。

 

「おいおい。酷いじゃあないか君たち。彼は単身ここへ乗り込んで、アルフィアを一人で倒したんだぜ? 本当に一人で、だ」

「「「「「!?」」」」」

 

 意外な事に、俺に助け舟を出したのはエレボスであった。

 ギョッと、討伐隊の面々がこちらを見るので、彼女のドレスと遺灰を見せる。

 

「……いやすまん。どうしても経験値(エクセリア)が欲しくてな」

「「「「「…………」」」」」

 

 全員があんぐりと口を開いて硬直する。

 

「……信じられん」

「よもや、Lv7を一人で……あの『才禍の怪物』を……」

 

 しかし何にせよ、俺にかかっていた嫌疑は一瞬で消え去ったらしい。

 と、次の瞬間。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

 『大最悪』が穴から飛び出て来る。

 

「……まぁ、うん。そう言うわけで俺はもう限界に近い。あとはお前達に任せた」

「…………ま、そう言う事なら仕方がないのう」

 

 ガレスが『大最悪』に向かって駆け出す。

 

「そうね、うん。仕方がないわ。彼女には色々と言いたいこともあったけど……」

 

 アリーゼがチラリとこちらを見る。

 

「彼女、何か言ってた?」

「俺が英雄になれ、と。そう言っていたな。残念ながらお前達への言及はなかった」

「そう。なら、いいわ」

 

 アリーゼが『大最悪』に向かって駆け出す。

 

「……不完全燃焼だ。後でお前と戦わせろ」

「ったく。しょうがねーやつだよ。お前は」

「まぁ、うん。カイらしいっちゃらしいのかなー?」

「『英雄になれ』だって! 羨ましいなー!」

 

 輝夜も、ライラも、【アストレア・ファミリア】の面々が『大最悪』に向けて走ってゆく。

 

「……うう」

「……ん?」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 そしてアイズはなんか良くわからんが狂乱しながら駆けて行った。

 

「いかん、アイズ!」

 

 それを追うように、リヴェリアも駆けて行く。

 

「……さて、君はどうする? 俺としては護衛として残ってくれるとありがたいんだが」

「……心配せずともそうしてやる。ダンジョンは神を取り込むのだろう?」

「よく知ってるな。その通りだ」

「ならば、少なくとも代わりが来るまでは護ってやる。代わりが来たらすぐに交代だ。俺は出来るだけ早く、地上に戻らなければならん」

「ああ、それでいい」

 

 俺は地面に座り、『大最悪』との戦いを観戦し始めた。

 

「……本当に勿体無いことをしたな……しくじった……!」

「マジで残念そうじゃねぇかオイ」




Topic:多分【アストレア・ファミリア】は原作と同じ道を辿るんじゃないかな。(他人事)
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