結論から言えば、やはりあの『大最悪』は俺の相手には成り得なかったらしい。
どうにも討伐隊の面々は『大最悪』の持つ高い火力と攻撃力、愚鈍とは言え弱くない飛行能力、
攻撃した端から回復する再生力、そして再生した箇所をより強化する自己進化といった能力の数々に苦しめられているようだが……
うん。どれもこれも俺一人で封殺できる。
飛行能力に関しては完全に俺の方が上。再生力とそれに伴う強化も一撃で粉砕すれば一切関係無し……ますます負ける要素が見当たらない。
と言うか本当に負け筋がない。わざわざ負けるように努力してようやく負けられるレベルだ。
アルフィアと戦えたのは本当に幸運だった。
こんなのを一匹倒して『大抗争』終わりだったならば、どれだけ消化不良だっただろう。
「……そう言えば」
と、そんな中で、エレボスが俺に語りかける。
「あの時は聞きそびれてしまったが……今ならば時間もあるだろう。君にとっての正義を聞かせてもらおうか」
「……俺にとっての正義……ねぇ」
ああ、そう言えばそんなことも聞かれていたな。
あの時は確か人命救助が先だ思ったから無視したのだったか。
だがしかし、今そんな事を聞かれたところで……
「考えたことも無かった。故に答えは無い」
「じゃあ、今作ってくれ。どうせまだ暇だろう?」
「はぁ……」
無茶振りだ。
今作れと言われたところで、そんな即興のモノに意味なんて無いだろうに。
それに暇では無い。俺の心は焦っている。
今頃、地上ではこの一秒一秒の間にも幾つもの命が失われているはずなのだ。
神が死ねば迷宮に取り込まれるなどと言う話がなければ、俺はとっくに地上へと駆けている。
……しかしまぁ、そうだな。
正義とは何かと聞かれた時、恐らくこれであろうと思えるモノなら、ないこともない。
「…………皆の幸せ」
「へぇ?」
「皆の幸せを目指す事が俺にとっての正義だ。これでいいだろう」
アーディの受け売りだ。
だがやはり、これが一番『正義』に近いと思う。
「実現は不可能と分かっていて言っているのか?」
「当然だな。できるわけがない。だが、それを目指して行動する事に価値が無いとも言えまい」
無論、アーディの行動に価値が無かったと言う者も居るのだろう。
それこそ
だが彼女に助けられた者は、仮にそうでなくとも俺は、彼女の行動を評価し、称賛し、認める。
少なくとも俺にとって彼女の行動は正しく、そして価値のあるものであり、そうである限り彼女の行動は正義であり、それだけの価値があると言える。
「別にこれは理想を追い求める事と言い換えてしまっても構わん。それが誰かにとって正しく、価値のあるものであるならば、それは正義なのだろうよ」
「それは……」
エレボスが少し驚いたような表情を見せた。
「……誰かの受け売りかな?」
「ああ。半分以上はな」
「へぇ! つまり半分近くは自分で考えたって事かい?」
「……正義であると解釈するにあたって少しこじつけただけだ。
「ハッハッハ! 全くもってその通りだな!」
正義に限らず、明確な答えの無いものは基本こじつけでしか解を出せない。
そんなだから『これこれこういう理由で自分はこれが答えだと思う』なんて風に導き出された答えが無数に存在するし、そうでなければ答えなんて無い。
だから答えを出すには、何であろうと『こじつけ』が必要なのである。
「そう言うアンタはあるのか。答えは」
「ん〜……まぁ、君と大体一緒さ。『理想』だよ、『理想』。正義とは理想さ。まぁ君とはほんの少しだけニュアンスが違うかもしれないがね」
「そうか」
そんなこんなしていると、後ろから誰かがやって来た事に俺は気付く。
足音の具合からして、俺を背後から殺そうとしているらしいが……
「どうやら、交代の時間らしいな」
「ッ!?」
「……やっとか」
吹き飛ばそうと準備していた
振り返ってみれば、そこに居たのは何ともまぁ特徴の無い男であった。
「良かったな。命拾いだ。後は任せるので精々頑張ってくれ」
「ヴィトー。下手な事はするんじゃないぞ」
「ッ……ええ、言われるまでもありませんよ……っ!!」
ヴィトーとやらが吐き捨てる間に俺は上空へ。
『大最悪』と戦っている面々に視線を移すが……まぁ、勝てるだろう。
……いや本当に勝てるだろうか?
普通になんか負けそう……と言うかなんかだいぶ苦戦してるが。
普通ああ言う相手には速攻で決めるのが定石だが……それが出来ていない以上、決め手に欠けているのが現状か。
どうするか。このまま地上に帰ってもいいが、放置した結果全滅してバベル崩壊しましたなんて事になったら面倒だ。
「……おい、リヴェリア!」
「ッ……なんだ!」
「その怪物は俺が倒してもいいが、お前らだけで勝てそうか!?」
「ふざけている場合か!? 回復したのならさっさと参戦しないか!」
成程、つまりそう言う事らしい。
下に居るエレボスを見てみれば、仕方がないと言わんばかりに首をすくめていた。
仕方あるまい。2秒で終わらせる。
すれ違いざまの一刀で以て首の半分を切り裂き、折り返しの一刀で首を両断する。
「「「「『!?』」」」」
しかしそれでも『大最悪』は死なない。
ボコボコと傷口を泡立たせて首を再生させようとする。
「させるかよ」
だが、頭が再生するよりも前にその胸に剣を突き刺し────
「【爆ぜよ】」
身体の内側から破壊された『大最悪』はしめやかに爆発四散。
魔石もろとも粉砕されたので、もはやその体を再生させる事は不可能。
飛び散った肉片と残った下半身は、速やかに灰へと化した。
よし、ちょうど2秒くらいで殺したな。
「……さて、それでは俺は先に地上に戻っているので、後は任せた」
それだけ告げて空を蹴り、俺は地上への帰路に就く。
後ろからなんか色々と騒がれているような気がしないでもないが、まぁどうでも良かろう。
倒すに十分すぎるだけの時間があったにも関わらず倒せなかったアイツらが悪い。
事実として俺はあの怪物を2秒で倒したので、時間が足りないなんて事はないはずなのである。
「さぁ、急げ……!」
それはそれとして、迷宮の中を、地上目指して全速力で駆け抜ける。
余計な時間を食ってしまった。
早めに迷宮に降りたのは、勿論
「っと……」
数分足らずで地上に到着し、オラリオの街へと出る。
すると、
「……!」
そこに立っていたのは、
満身創痍ながらも確と二本の足で立つその姿は、まるで大岩にも感ぜられるほどの逞しさを誇り、その傍に立つのは美の女神。
そして、項垂れて膝を着いていたのは
「勝ったか! オッタル!」
「ッ! カイ……!」
「よくやった、よくやったぞ!」
地上に降り、オッタルの下へと駆け寄って、その勝利を讃える。
「貴方も頑張って来たようね。また少し、いい男になったかしら?」
「ああ。俺も試練を乗り越えて来たところだ。そうであってもらわないと困る」
神フレイヤから送られるのは、彼女にとって最大級の賛辞。
彼女の事はどちらかと言えば嫌いであるが、しかし褒められて嬉しくないと言うわけでもない。
彼女は人を見る目だけはあるのだ。
まぁ本当にそれだけであるのだが。
「……そう、か……」
「「「!」」」
敗れ去ったザルドが、弱々しく声を上げた。
その声に、かつてあった覇気は見る影も無い。
「お前はあの女に勝ち……そこの糞ガキは俺に勝ち……Lv7に上り詰めた……はは、お前の、計画通りになりそうじゃ、ないか……」
「……ああ。そうなってくれるといいんだがな」
「?」
ガハッ、ゴホッ、と。
ザルドが口からドス黒い血の塊を吐き出す。
否、腐臭を放つ、粘着質ですらあるそれは、もはや血と呼べるものですら無かった。
「やはりお前は……英雄の器だ……世界を……黒竜を……お前になら、託せる……」
「あの女にも言ったが、元よりそのつもりだ」
「はは……それは……頼もしい………」
もはや微笑むだけの余力すら、ザルドには残されていない。
「ザルド……」
一人の英雄の末路に、オッタルの鉄仮面が沈痛に歪む。
「憐れむな、糞ガキ……俺は、後悔などしていない……今だって、そうだ…………」
ひどく虚ろなその瞳は、もはやその機能を停止していた。
「俺は……満足している……思い残すことなど……もう……ガハッ、ゴハッ」
「……もう眠りなさい、ザルド。貴方の主神では無いけれど、最期を看取ってあげるわ」
「ははっ……あの糞爺よりは……美神に見届けられる方が……よっぽどいい……」
憎まれ口を叩き、ザルドはようやく笑みと呼べるものを表情に浮かべた。
「オッタル……」
「……なんだ」
「進み続けろ……前へ……お前達は、満足するな……高みへ……更なる高みへ……」
「……言われるまでも無い」
オッタルが、噛み締めるように応える。
「カイ……」
「……まだ言いたいことがあるのか?」
「お前が……『英雄』になれ……」
「お前もあの女と同じ事を言うのか……当然だ」
ザルドの眼差しが遠のく。
遠く、遠く……遥か天の先を見上げ、英雄は死んでゆく。
いよいよ、終わりらしい。
「つよくなれ……ガキども……どいつも、こいつも……だれよりも……つよく……」
そうして、かつて『最強』だった男は死んだ。
英雄の末路に、弔いは無い。
英雄の最期に、捧げられる挽歌は無い。
代わりに響くのは、冒険者達の雄叫び。
「……この瞬間に立ち会えて、幸運だった」
「……そう、ね」
心の底からそう思う。
フレイヤがザルドの瞼を下ろしたのを見届け、俺は天へと駆ける。
停止するのは、バベルの頂上の、そのさらに高く。
オラリオのみならず、世界を一望できるその場所で、俺は剣を掲げ────
■
────晴れた。
誰も彼もがそう錯覚した。
誰も彼もが空を覆う分厚い雲が退き、太陽が顔を覗かせたのだと、そう錯覚した。
しかし、空は依然曇天のまま。
空を覆う雲には未だ一筋の裂け目も無く、光の一筋も差し込んではいない。
だが、『太陽』はあった。
遥かバベルの頂上。その更に遥か上。
そこに、『蒼い太陽』が在った。
誰しもが目を疑った。
誰しもがその存在を幻だと思った。
だが。少なくとも身を焦がすような熱は、確実に虚構では無かった。
「冒険者達よ!」
太陽の中から、声が響いた。
人々はそこで、ようやく蒼い太陽の中心に人が居る事を認めた。
眩い光に包まれながら剣を掲げる、その少年を。
「この【
剣が振り下ろされる。
「打ち砕けェェエエエエエエエエエエエ!!!」
瞬間、撃ち下ろされるのは無数の炎弾。
都市全体に広がるように、無差別に落ちるそれは、味方を焼かず、街を焼かず。
ただ敵だけを、そこにあるべきで無い穢れを浄化するかの如く、焼き尽くしてゆく。
■
「ははっ、相変わらずメチャクチャだなぁ……」
【
「ヤバい」
「エグい」
「なんだアイツ」
「化け物だ」
「「「「あれで11歳とか詐欺だろ」」」」
【
「【
【
「チッ……化け物め」
【
「うわぁ…ぁ…」
【
「これが……人間の為せる業……?」
【
「あんの……クソ野郎……ッ!!」
【
様々な感情を、蒼い太陽は見た者に植え付ける。
それはあまりにも複雑で、ぐちゃぐちゃで……わけもわからず、涙を流す者さえいた。
しかし、その心中に共通するものはただ一つ。
『勝った』
この瞬間。
秩序の下に生きようとする者達は勝利を確信し。
混沌をもたらさんとする者達は敗北を確信した。
決着がつくのに、一時間も掛からなかった。
Topic:補正値は格上補正がLv半分、竜種補正がLv1つ分くらいを想定している。
筆者より:『いいよね◯◯すると強いよね(皮肉)』みたいな事書き込みながら☆0評価を付けられると滅茶苦茶イラつくし萎えるぞ! 批判するなとか低評価つけるなとか言うつもりは毛頭無いが、皮肉っぽくしたりして筆者自身を攻撃するのはやめてくれ! さっきの例文みたいなやつだと『◯◯みたいなのはこの原作に相応しくない。シナリオ設定が甘い』って具合に率直に言ってくれたほうがこちらとしてもいい感じに反省できるぞ!
同様の理由で『不快感しかない』とか『読んでて不愉快』みたいなのもあんまり書かないでくれ!不快、不愉快な理由だけ書いてくれ! (豆腐メンタル並感)