こうして『大抗争』は終結した。
長い長い七日間の戦争は、天に立ち昇る光の柱で以てその幕を閉じたのだった。
このたった七日間に、あまりにも多くのものが失われた。
あまりにも多すぎる人々が犠牲になった。
しかし、その中にも残ったものはあった。
そして遺されたものは、数えきれないほど沢山あった。
それは武器であり、業であり、道具であり、知恵であり、思い出であり……
『カイ・グレイル
Lv5
力:I0→I23
耐久:I0→I31
器用:H103→H127
敏捷:I92→H108
魔力:H192→G214
【狩人】:G
【耐異常】:E
【精癒】:F
【機動】:I
魔法
【ブラウフラムダス・トゥーダス】
・
・炎属性
・詠唱式【燃え立つ意志よ、湧き上がる闘志よ、我が大願を今、ここに】
・解放式【爆ぜよ】
スキル
【
・格上との戦闘時、全
【
・戦闘時間が長引くほど全
・戦闘開始から一定時間で【再生】【連戦】を一時発現。
【
・
・前回攻撃時から一定時間内に攻撃が命中した時、
・効果継続中、装備武器に
【
・
・
・竜種との戦闘時における、全
「……これまた、随分なモンを遺して逝きやがったな……」
否。この場合は遺されたと言うより、俺が受け継いだと言った方が正しいか。
「英雄になれって言われたんだよね? あの二人に」
「ああ。二人共々全く同じ事を言いやがった。元よりそのつもりだってのにな」
しかしまぁ、うん。
その二人の頼みに対し、その想いを引き継ぐと返事を返したのは他ならない俺自身だ。
こんな物まで貰ってしまったのなら、いよいよ俺が英雄になる他にあるまいよ。
「………………で、コイツいつになったら落ち着くんだ?」
「さぁ……」
テスカトリポカはずっと挙動不審であった。
俺のステイタスを更新していた時も興奮冷めやらぬようであったし。
ステイタス更新が終わった後も、簡易テントの中をグルグルと歩き回ったり「っしゃあ!」とガッツポーズをしたり、天に向けて中指を突き立てたり……
喜んでくれるのは嬉しいものの、些か喜びすぎでは? と言った具合であった。
「一体何がそんな気に入ったんだ。テスカトリポカ」
「あァ!? わかんねェのかオマエ! 太陽だぞ太陽! オマエは太陽になッたんだぞォ!?」
「「?」」
アーディと二人して疑問符を頭に浮かべる。
いやまぁ確かに最後のあれは太陽のように見えたかもしれんが……
だがまぁ、大体の事情は今の反応で察することができる。
「多分だが天界の話だろう、それ。すまんが俺たちには一切わからんぞ」
「うるせェ! こちとら数万年来の因縁があンだよ! ちょっとくらい喜ばせやがれェ!」
そう言うとテスカトリポカはテントの外に飛び出し、「見てるかクソ野郎共ー! オレの眷属が太陽になったぞー!」とか「ヒャッホーウ!」とか騒ぎながら遠くへと走って行ってしまった。
「…………………………………放っておくか」
今の時間帯は昼だし、周囲もまぁだいぶお祭りムード……と言うには些か疲れすぎているが、騒いでもそこまで問題にはなるまい。
騒いでいるのが神だと分かれば「ああ、またか……」となってくれるはずだ。
「まぁ、うん。神様だしね」
この通り、アーディですら匙を投げざるを得ない。
オラリオの民衆は神々の奇行に振り回されすぎて、もうすっかり慣れてしまったのである。
何なら今回の『大抗争』だって神々の奇行の一つと数えられるものだ。
今更この程度、どう思うことも無いだろう。
「……で、お前はどうする」
「あ、私?」
コクリ、と。頷く。
少し忘れかけていたが、アーディはあくまで【ガネーシャ・ファミリア】の団員であり、この場所に────【テスカトリポカ・ファミリア】臨時
『大抗争』が終結した今、彼女は【ガネーシャ・ファミリア】に戻るべきだと俺は思う。
彼女は彼女自身の生存を、一刻も早く彼女の姉に伝えるべきなのだ。
「……うん。そうだね。お姉ちゃんの所には行かなくちゃだし、リオン達にも謝らなくちゃ」
彼女は静かに頷き、決意を露わにした。
「ならば、行くとしよう。俺が背負って行く。まずは……」
「リオン達の所……【アストレア・ファミリア】かな」
「わかった」
アーディを背負い、テントを出る。
眩しい日光に目を細めながら大通りへと出れば、目に映るのは慌ただしく動く人と物資の数々で、耳に聞こえるのは雑多な喧騒。
『大抗争』終結の翌日。街は、すでに復興が始まっていた。
「……すごい」
「逞しいことだ」
無論、皆の疲労はまだ癒えておらず、負傷者の数は未だ多い。
しかし頭に巻いた包帯に血を滲ませた者すら、その顔一杯に笑みを浮かべて木材を担いでいる。
この光景を形容するのならば、希望に満ちている、と言った具合だろうか。
「おっ!? 【
「英雄様じゃねーか! おらお前ら道開けろ! 英雄様のお通りだぞ!」
誰か一人が俺の存在に気付き、声を上げる。
その瞬間、ざわりと人々に波が立った。
道を歩いていた者は足を止め、作業をしていた者も手を止めて俺の方を向く。
そして、俺を認識するとまた口々に騒ぎ立てた。
ほんの数秒もせず、俺の周囲はお祭りのような騒ぎと化した。
しかしその中でも、道の真ん中が俺の通り道を用意するべく、何の仕切りも無いのにぽっかりと空いていた。
「……すっごい」
「俺も驚いている」
いや本当に。
「さぁ英雄様、どーぞどーぞ!」「俺、アンタのおかげで助かったんだ!」「抱いて!」「その背負ってる女の子誰!? まさかガールフレンド!?」「ちくわ大明神」「よっ、太陽の男!」「最強を超えた最強!」「まて誰ださっきの」
もう滅茶苦茶である。収拾がつきそうに無い。
この中を通って行くとか無理だろ。絶対に面倒臭いことになる。と言うか今の時点で面倒臭い。
仕方がないので、ここはあの手で行くとしよう。
「あー……コホン!」
「「「「「!」」」」」
俺が咳払いを一つ吐いた瞬間、冷や水を浴びせかけられたが如く民衆が静まり返る。
……些か効きすぎな気もするが、まぁいい。
「君たちの感謝と厚意はよく伝わった。ありがとう。だが道を作ってもらったところ申し訳ないが────」
待機させていた
「この通り、俺に道は必要無いのでな。それじゃあ復興作業、頑張ってくれ」
空を蹴り、集まった民衆から離れる。
少し間を置いて、ドッと大歓声が民衆から沸いたのが感じ取れた。
「……英雄をするのも大変なのだな」
「ね。でも、あれくらいの人の心を集める力があれば、出来ることは沢山あると思うよ」
「だといいんだがな」
空を飛び、時折下から聞こえてくる歓声に向けて手を振ったりしながら【アストレア・ファミリア】の面々を探す。
「すっごいや……空ってこんな感じなんだぁ……」
「……そう言えば、色々と大丈夫か。人を背中に乗せて飛ぶのは初めてだが」
「うん、全然平気! むしろ気持ちいいよ! ずっとこのままでいたいくらい!」
「ならば良かった」
と、そうしてアーディに大空を満喫させているうちに、【アストレア・ファミリア】の面々を地上に発見した。
「降りるぞ。気をつけろ」
「うん」
最大限アーディに気をつけ、ゆっくりと【アストレア・ファミリア】のもとへ降りる。
「あら? カイじゃない!」
「何!? カイ!?」
真っ先に気付いたアリーゼの声に反応し、皆がこちらを振り向いた。
その目に浮かぶのは……割と強めの怒り。
「ようやく現れたな貴様! 約束通り戦わせろ!」
「お前倒せたんだったら最初っから倒してくれよ! 私たち何のために頑張ったんだよ!」
「詳しく! 事情を! 聞かせて欲しいかな!」
「ちょっと一回ベッド行かない!? たっぷり『分からせ』てあげるから!」
うーん、非難轟々である。
心当たりは無いはずであるが、しかし何だか甘んじて受け止めなければならない気もする。
何故だろうか。一瞬で『大最悪』を倒せたはずなのに敵の首魁とのんびり高みの見物をしていたからだろうか。それでは無いと思うのだが。
「……えと、何かしたの?」
「いや? 心当たりが無いな」
「何を言って……ってあれ、その背負ってる子は?」
「……おい」
「うん」
アーディは自らの火傷傷を隠すように覆っていたフードを取り払う。
「じゃーん! 【アストレア・ファミリア】のお友達、アーディでした!」
死んだと思っていた友人との感動の再会である。
ホラ泣けよ。
「ごめんね! いっぱい心配かけちゃって! ちょっと手と足は無くなっちゃったけど、カイ君のおかげで今はもう元気いっぱいだよ!」
「「「「「……………………………………………………」」」」」
あれなんか思ってた反応と違うな。
思ったよりもだいぶ静か……いや違う。
これアレだ。極東で言うところの『嵐の前の静けさ』ってやつだ。
多分、あともう少しもすれば……
「「「「「ア〜〜ディ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」」」」」
案の定、俺は殺到する乙女達に押し潰された。
■
「酷い目にあった」
「あはは……ごめんね?」
乙女達に踏み潰されそうになったり切り掛かってきた輝夜を沈めたりアーディを掴んで離そうとしないエルフを引き剥がしたり
既に自由に空を飛べるようになったLv5な俺だから容易く逃げられたが、空を飛べないLv4な俺だったら逃げられなかった。
あのままだとテスカトリポカの機嫌が有頂天から急転直下するところだった。
本当に危なかった。
「で? 次はシャクティのところか」
「あ、出来れば【
「わかった」
方向を転換し、彼方に見える胡座をかいたガネーシャ神像へ。
「……なんで周囲の建物は壊されているのにアレだけ無事なんだ?」
「む……コホン、とても頑丈だからかな」
「今、無駄にって言いかけただろう」
「そんなことないよ!」
まぁ、うん。
でも本当に無駄に頑丈なんだろうな、アレ。
多分中に鉄筋とか使われてるだろ。無駄に。
いやランクSファミリアの主神を守る城と考えるならそのくらいの強度があって当然なのだが。
「さて」
トンと門の前に降りる。
「うおっ!? な、なんだ【
「久しぶり!」
「……は!? アーディ!?」
何度も何度も俺の顔とアーディの顔を行ったり来たりする【ガネーシャ・ファミリア】団員。
【アストレア・ファミリア】の面々もこれくらいだったら良かったんだがなぁ……
「その顔……ってか生きて……」
「ごめんね? 生きてたのに出て来れなくて。お姉ちゃんいる?」
「え、あ、ああ、団長ならまだ中にいらっしゃるが……」
「じゃあ、ちょっと連れて行って欲しいな。今ちょっと足が……」
「なっ……アーディ、お前……」
「カイ君、降りるね」
アーディを背中から下ろし、団員に預ける。
「……さて、ではこれで暫らくお別れだな」
これにて、アーディは【ガネーシャ・ファミリア】に帰還する。
義足やら義手やらを用意しなければまともに動くことさえままならないだろうが……【ガネーシャ・ファミリア】の財力ならば楽勝だろう。
彼女はまた、冒険者として、或いは都市の憲兵として、復帰を果たすのだ。
「あ、うん。それはそうなんだけど……ちょっとここで待っててくれる?」
「ん? いやまぁ、別に構わんが……」
「ありがとう。じゃあ、ちょっとお願いしていい?」
「ああ……感謝する、【
「気にするな」
軽く返事を返し、男神を模した像の股間に吸い込まれるように歩いて行く二人の背を見つめる。
本当にあのデザインはどうにかならなかったのだろうか。
いや、どうにもならないんだろうな。可哀想に。
「俺が、ガネーシャだぁああああああああああああああああああああああ!!」
…………………………………………………………可哀想に。
■
────さて。
正直に言ってしまおう。
俺はアーディ・ヴァルマと言う存在を存外に舐めていたらしい。
俺としては彼女に最大限の敬意を払い、そして彼女の秘める強かさを確かに認め、その強かさこそが彼女を彼女たらしめる最大の要因であると理解しているつもりであった。
彼女の事を、俺なりにかなり過大評価しているつもりですらあった。
しかし多少過大である程度が彼女の正当な評価であると信じて疑っていなかった。
だが、甘かった。
俺が過大評価であると思っていたそれは、実際のそれよりも遥かに過小な評価であった。
彼女は俺が思っているよりも遥かに強かであり、俺の想像のそれを遥かに超える行動力の持ち主であった。
まぁ、つまり、どういうことかと言うと……
「【ガネーシャ・ファミリア】から
「イエーイ! Fooooooooooooooooooooooooooooooo↑!!」
こう言うことであった。
「……何が……どうして……何故……」
いつの間にテスカトリポカと話をつけていたのかとか、ガネーシャは何故こんな事を認めたのかとか、シャクティは何を考えているんだとか、そして絶対に後々になって面倒臭くなるエルフとかエルフとかエルフとかエルフとか。
あの辺の事を考えて、頭痛が痛い俺なのであった。
Topic:
※テスカトリポカが喜んでた理由はコメント欄にすごくわかりやすく解説してくれているのがあるぞ! 気になった人は見よう!