冒険します。冒険者なので。   作:POTROT

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義肢&神会

 さて、そんなこんな色々あって我ら新生【テスカトリポカ・ファミリア】は行動を開始する事になり、様々な課題に取り組んで行く事になったわけであるが、何はともあれまずは迷宮探索である。

 今までは迷宮探索と言えば俺の単独(ソロ)での経験値稼ぎ(レベリング)であったが、今後はアーディと、そして増えていくであろう仲間達と共にパーティを組んでの金稼ぎという面も大きくなってくる。

 今はまだ二人だけだが、今後の事を考えるのなら早急に慣れておくべきだろう。

 

 そんなわけで、俺達は迷宮に潜るべくバベルに……行く前に、なんかもう出来たらしいアーディに義手と義足を装着すべく、【ディアンケヒト・ファミリア】の本拠地(ホーム)兼薬舗に訪れていた。

 制作速度が速すぎる気がしないでもないが、まぁどうせ義手義足の本体制作担当であろうエルマーの仕業に違いあるまい。

 

「……で、実際のところどうだ。動けそうか」

「うん、すっごく動かしやすい! 感覚もちゃんとあるし……ちょっとだけ重い気がしなくもないのと、くっついてる所が痒いくらいかな!」

 

 そう言って飛び跳ねたり走り回ったり、剣を振り回すアーディは、確かに一般的なLv3冒険者のそれと比べても大差ない。

 その顔に浮かんだ笑みからは、確かな満足感がこちらにまで伝わって来るようだった。

 

「……義肢って感覚まで通せるものなのか?」

「通せるぞ」

「通せますよ」

「……そうなのか」

 

 俺の質問にほぼ同じタイミングで即答するのは、制作担当のエルマーと、駆け出しの頃から何かと世話になっている聖女こと調整、細工担当のアミッドである。

 どうやら義肢に感覚が通せることは俺が知らないだけで、義肢界隈では常識のことだったらしい。

 

「だが、相当難しいのではないか?」

「いや? まぁ今回のは魔力式じゃからのう。儂の方はだいぶ楽じゃったわい。何なら主の蒼流星(ブルーミーティア)の方が手こずったのう」

「ええ。魔力式ですので。我が派閥で一般に販売している魔石式の銀の腕(アガートラム)などと比べれば、私の方も圧倒的に楽でしたね」

「これが魔石式じゃったら儂も三日はかかっとったわ。しかも不壊属性(デュランダル)も付けれんし、特殊武具(スペリオルズ)なんて到底無理じゃ」

「こちらとしても魔石式は少々複雑すぎて……完成まで時間がかかり過ぎますし。何よりお金と材料が……」

 

 ……うーん、よく分からんが、取り敢えず魔石式とやらじゃなくて魔力式とやらであるからここまで上手く出来ていると言うことは理解できた。

 

「一応聞いておくが、あれで迷宮探索はして良いんだよな?」

「当然じゃ。何のための不壊属性(デュランダル)じゃと思うておる。まぁ、ステイタスが反映されぬのが痛い所じゃが……」

「二の腕の中程から吹き飛んだ利き腕はともかく、利き足の膝より上が残ったのは不幸中の幸いでしたね。あれならば【力】と【敏捷】は問題なく発揮されるでしょう」

「そうか」

 

 それは大きいな。実に大きい。

 いざと言うときに逃げられるのは、本当に大きい。

 それならば深層についてきても、義肢のせいで思い通りに動けなくて死にました、なんて事にはならないだろう。

 

「……じゃあ、俺達はそろそろ迷宮に向かうとしよう。今回もまた迷惑をかけたな。助かった。特にアミッドはまだ忙しいだろうに」

「その……色々事情がありまして……ただ、それを抜きにしても、いつもの事ですので」

「儂としてもいつもの事じゃのう」

「…………………いや、本当にありがとう。感謝している」

 

 本当に二人には頭が上がりそうにない。

 彼らの協力無くして今の【テスカトリポカ・ファミリア】は……今の俺は無いだろう。

 この辺の礼もいつかはきっちり返さなくては。

 

「ではまた。……アーディ! 行くぞ!」

「はーい! わかったよー!」

「おう、またの」

「あまり無茶はなさらないように」

 

 アーディを連れて【ディアンケヒト・ファミリア】の薬舗を離れ、迷宮へ……とは言っても、まだ幾つか買い物は残っているのだが。

 ……テスカトリポカは今頃臨時神会(デナトゥス)が始まったくらいだろうか。

 臨時とは言え称号決定もきちんと行われるそうなので……迷宮から帰ってきた頃には俺にも再び新しい称号が与えられるだろうが……どうだろう。

 まだ期間が短すぎるとか言われて【蒼き猛火(アズール)】のままとかであればまだ良いが……テスカトリポカがトンチキな名前で押し切ったりしないだろうか、それだけが心配だ。

 まぁ……流石に酷すぎるようであれば他の神が止めてくれると信じるしかないか……

 

 

 ■

 

 

 バベル30階には、既に100を超える神々が一堂に介していた。

 もはや据えられた円卓は埋まり切り、立っている神々すらも見受けられる。

 しかしそれだけの数の神々が揃っていながら、フロアを包む空気は酷く暗い。

 

 普通、神々など5柱も集まればその時点で喧しい事この上ない。

 それが10、20にもなれば、もうある種のお祭りのような空気にさえなる。

 50柱も集まって、このような通夜のような空気になるなど、それこそ天界中の趣味神(陰キャ)をかき集めでもしなければあり得ないはずなのだ。

 

 それ程までに、今回の件は神々をも疲弊させ、苦しめ……そして、悲しませた。

 故にこその、この沈痛だ。

 

 まぁ約一名そんな雰囲気知ったこっちゃねぇと言わんばかりにウキウキな自由神(テスカトリポカ)が居るが……その理由は神々ならば誰しもが察しのつくものであったので、誰もテスカトリポカを諌める事はしなかった。

 

「さて、今日は忙しい中集まってくれて感謝する。今回の臨時神会(デナトゥス)の司会を務めさせてもらうヘルメスだ」

 

 椅子を引き、立ち上がるのは羽付き帽子を被った優男。

 男は集まった神々を見渡し、大袈裟な身振り手振りをつけながら話し始める。

 

「この臨時神会(デナトゥス)が開かれた理由だが……今更説明するまでもないだろう。先日の『大抗争』……そう、あの長い長い、七日間についてだ」

 

 そう。本当の本当に、長かった。

 永遠を生きる神にとっても。既に何十万年を生きた神々にとっても。

 先の七日間は、あまりに長過ぎた。

 

「あまりにも多くの眷属(こども)達が失われた。あまりにも多くの命が失われてしまった。そして、10柱もの友が天へと還ってしまった」

 

 ヘルメスが徐に帽子を取り、胸の前へ。

 

「オレ達にとって意味のない事だと、勿論わかってはいるが……この場にて、失われた命に弔意を表し、黙祷を捧げたいと思う。協力してくれ」

 

 文句を言う神など、一柱も居ない。いるわけがない。

 テスカトリポカとて、闇派閥(イヴィルス)に与し自爆を敢行した者共はともかく、戦いの最中で失われた戦士の命には最大限の敬意を表するのだ。

 文句など、あろうはずがない。

 

「ありがとう。……では、黙祷」

 

 一堂に会した神々が、静かな祈りを示す。

 そして充分な時間が経過した後、ヘルメスがゆっくりと口を開いた。

 

「……有難う、諸君。さて、それでは改めて臨時神会(デナトゥス)を始めさせていただくとしよう。いきなり辛気臭い話になってすまないが、まずはウチの派閥から今回の件におけるオラリオの被害を報告させてもらうよ」

 

 ヘルメスを皮切りとして、神々から幾つもの報告が上がる。

 そうして報告が積み重なっていく度、今回の事件で起きた被害がいかに甚大であり、そしてこれからの復興がいかに大変であるかが明確になってゆく。

 

 民間人の死者は最低でも2万5千人。これから増えるであろう分と数えきれていない分も考慮に入れるのなら3万人以上。

 怪我人なら重軽傷あわせて8万人以上。

 

 冒険者の死者も一万人近く、そのうち第一級冒険者が7人。第二級冒険者が51人。第三級冒険者が1532人。それ以外が下級冒険者。

 怪我人は現在都市にいる殆どの冒険者……と言うか、無事な冒険者の方が数えられる程度しかいない。

 

 その対処に追われ、もはや治療師(ヒーラー)は過労状態。

 何だってアミッドはそんな中で義肢製作に時間を取れたのか非常に謎であるが、まぁ彼女が優秀であるからであろう。

 決してディアンケヒトが5億ヴァリスとか言うとんでもない商談に目が眩み、他の患者の治療は後回しでいいから義肢の製作を済ませろと言ったわけではない。

 はずである。

 

 そんな事はさておくとして、人間以外へのダメージも著しい。

 

 民家や各種施設のような建造物の崩壊は元より、上水道、下水道といったライフラインへの深刻なダメージ、道の崩落など。

 都市で生活する上でそれらの復旧は一刻も早く行われるべきであるが、しかし復旧を行うことが出来る作業員のかなり多くが負傷、ないし死亡し、復旧が思う通りに行われておらず、現在は避難所での生活が続けられているが民衆のストレスは高まるばかり。

 

 更にはオラリオの主な財源である交易品の大半が消し飛んだ事でしばらく都市の収入はほぼ0。

 冒険者達に魔石や戦利品(ドロップアイテム)の確保が求められるが、しかし当の冒険者達にも怪我人や死傷者があまりに多く、それらを集めたところで加工する工場が甚大な被害を被っており、貿易の再開がいつになるのかは極めて不明瞭。

 

 このように、ただでさえ被害が大きいと言うのに、それを何とかするための手段が悉く麻痺していると言う状態のものが数多く存在するのが現状だ。

 そして、憂慮すべきはそれだけではない。

 

 第一に、闇派閥(イヴィルス)残党による工作、ないし特攻の可能性。

 いくら弱体化したとは言えど、完全に消え去ったわけでもない。ライフラインの復旧を遅らせるための嫌がらせをして来る可能性や、市井に紛れ、上級冒険者や主神などを巻き込んでの自爆を狙ってくる可能性も、完全には捨てきれないのだ。

 

 そして第二に────王国(ラキア)のオラリオ侵攻である。

 

「……まぁ、あの馬鹿(アレス)がこんな好機を狙わないわけがないわな」

 

 誰かのぼやきに、何柱もの神が相槌を打つ。

 と言うのも、ラキア王国を統べる軍神アレスは、今までにもオラリオ転覆を狙い、ラキア王国軍全軍を以て幾度と無く軍事侵攻を試みているのだ。

 

 しかしラキア王国軍を構成する兵士たちはLv1、それも低ステイタスのみ。

 将軍達の中にLv2がちらほら見受けられるものの、オラリオの冒険者達からすれば烏合の衆。

 しかもアレスは学習しないので、戦法は毎回全軍総攻撃。

 自決装置を持っているわけでもなく、Lv5か6の一人でも出撃すれば一瞬で壊滅する。

 

 百回やっても百回オラリオの完勝である事は目に見えている事であるが、しかしやはりアレスは学習しないのでまた攻めて来る。

 もはやラキアによるオラリオ侵攻は恒例行事と化していた。

 むしろラキア軍に水薬(ポーション)や武器類を高く売りつけられるので、稼ぎ時だと認識されてすらいた。

 

 しかし今回は時期が悪ければ神々の虫の居所も悪い。

 と言うか時期に関しては完全に狙ってやっている事が透けて見える分。余計に神々の虫の居所は悪くなる。

 そして元々アレスの心象は最悪に近かっただけあり……

 

「……いい加減アイツも送還させるか?」

 

 と言う意見すら出てきた。

 それに関しては流石に却下されたが。

 

「新たに生まれたLv7の初お披露目、くらいにすればいいんじゃないかな? フレイヤ様?」

「あら、あなたなら彼の方を推すと思ったのだけれど」

「勿論そっちでもいいんだけどね。彼にそんな弱いものいじめのような真似をさせてもいいのかい?」

「…………いいわ。乗せられてあげる」

「感謝する。……と言うわけで、ラキアの対処はオッタル君一人に任せよう」

 

 反対はない。

 テスカトリポカからもだ。

 

「よし! じゃあ話す事はこれぐらいかな。と言うわけで早速命名式に移ろうか! ……と言うか、ここからが本番だ。アスフィ、資料を!」

 

 扉が開き、【ヘルメス・ファミリア】の眷属達が入って来る。

 ……目の下にとんでもない濃さの隈を携え、山積みになった資料をリアカーの上に乗せて。

 

「……うわぁ」

「えぇ……?」

「ブラック企業……」

「えー……今回のランクアップした冒険者の数なんだが……報告があるだけでざっと二千件近くある。休憩は勿論入れるが……まぁ、うん。サクサク行こう。サクサク。終わらないから」

 

 普段は命名式を何よりも楽しみにしている神々であるが、しかしこれだけの数となると流石に戦慄を覚えずにはいられない。

 終わらない神々の戦いが、今ここに始まろうとしていた……




Topic:魔石式義肢と魔力式義肢は本作オリジナル設定。

魔石式義肢→大体現実にあるバッテリー式義肢と同じ。魔力量の低い冒険者、または一般人に向けて販売されるもの。構造が複雑かつパーツが小さ過ぎてオプションが付けにくいし高いしバッテリー(魔石)交換がいるし整備もいるし……と、色々不便。

魔力式義肢→読んで字の如くのマジカル義肢。魔力量が一定量以上ある冒険者に向けて販売される。本人の魔力と直接繋げてほぼ完全に体の一部にするので肉体との同期が死ぬほど簡単だし、関節のパーツさえ用意すればほぼ自由に動かせるのでオプションは付け放題だし、バッテリー交換は完全に要らないし整備もほとんどいらない。最初のうちは魔力が流れ出る感覚が嫌かもだが、体が慣れて腕だと認識すればきちんと魔力が循環するようになる。あと素材がほぼ自由なので安くしようと思えばめちゃくちゃ安くなる。
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